【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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1章#26 ようやく分かったよ

 三役が決まると、今日のうちにすべきことはほとんどなくなった。

 最後に生徒会が作った今後の予定を確認し、無事に学級委員会は終わる。完璧な司会だったぜ。ひな壇芸人との格の違いを見せてしまったな。

 ……とか言って気を紛らわそうとしていた俺に現実を突きつけるように、時雨さんが声をかけてきた。

 

「キミと、それから綾辻さんたちも。少し話したいんだけど、いいかな?」

 

 やっぱり逃げられないらしい。

 こうなる可能性は十二分にあったのに綾辻と雫が学級委員になるのを防がなかったことを後悔する。

 どちらにせよ、いずれはこうなっていた。そう自分を納得させて、綾辻と雫に目を遣る。

 頷く二人を代表して俺が答えた。

 

「あまり長くならないようなら。けど、まだ三役の仕事って残ってたっけ?」

「ううん、そういうわけじゃないよ。ただそこの二人に興味があってね」

「出会い目的はお断りしています」

「それってキミのこと? 彼女ができなくてもそういうのは使わないことをおすすめするよ。サクラも多いって聞くから」

「真面目なトーンでアドバイスするのやめて?!」

 

 心配されなくとも出会い系のサイトを使うつもりはない。それくらいなら一生独身を貫いてやろう。独身貴族、舐めるなよ。

 時雨さんは、くすくすと笑ってから生徒会のメンツと話し始めた。この部屋の鍵を受け取ったところを見るに、先に帰っていいとでも伝えているのだろう。

 

 俺たち三人は手頃な席に座り、時雨さんが終わるのを待つ。

 その間、まず口を開いたのは雫だった。

 

「先輩、あんな綺麗な人とお知り合いだったんですね」

「ん……まぁな」

「お知り合いっていうか、結構仲がよかったじゃん。可愛い弟子、とか言われてたし」

「あ、あぁ……あれはあの人のノリだけどな。時雨さん繋がりで生徒会を手伝ってたから、そのことを言ってるんだと思うぞ」

「ふぅん」

「へー」

「君たち反応がいつもと違くないッ⁉」

 

 俺がツッコむと、二人は堪えきれなくなったとばかりに笑いだした。

 けらけら笑いながら冗談だと告げてくる二人を見て、俺はちょっぴり呆れる。そういう冗談は胃に悪いのでやめていただきたい。

 

「まぁ、結構びっくりしたのは本当ですよ。本当にすっごく綺麗な人だったじゃないですか。モテない先輩にはエベレストの山だなーって」

「そうだね……それに、霧崎会長って本当に凄い人だって聞いたことがあるし。百瀬と縁があるようには思えない」

「時雨さんのことを持ち上げるがあまりに俺のことを貶めすぎだからね、君たち」

 

 とはいえ、二人の言うことは間違いではない。

 俺は色々と活動的な部分はあるが、人間関係をまともに維持できないぼっちだ。当然告白されたこともない。

 基礎スペックはそれなりに高いと自負しているけど、やっぱり時雨さんと比べれば見劣りしてしまうだろう。

 

 俺が時雨さんと関われている理由はただ一つ。

 俺たちがいとこだから。

 血が繋がっている家族だから、余計な理由をつけずに関わることができる。

 

「そんな二人にボクからクイズを出そうかな」

 

 生徒会のメンツとの話が終わったらしい。

 俺たちの会話に入ってきた時雨さんは、いきなりそんなことを言った。

 

「クイズ、ですか?」

「そう、クイズ。ボクと彼の関係を当てられたら、ご褒美として何でも一つ、質問に答えてあげる。さあ、レッツシンキングタイム」

「えっ。えー……」

 

 相変わらずのマイペースさに、さしもの雫も困り顔だ。

 案外、綾辻の方が時雨さんと相性がいいかもしれない。現に綾辻は戸惑うことなく答えを考え始めている。雫も慌てて綾辻に倣った。

 

 ちくちくたっくん。

 30秒ほど考えて、まずは雫が手を挙げた。

 

「雫ちゃん、だよね。どうぞ」

「はいっ! えっと……あ、ありえないとは思うんですけど。こ、こい、恋人同士とか」

 

 きゅーっと顔を赤く染め、しょぼしょぼと呟く。

 時雨さんは、優しいお月様みたいに微笑んだ。

 

「違うよ。少なくともボクはそのつもりだけど……もしかして、キミはお姉さんに惚れちゃったりしてるのかな?」

「しねぇよ。っていうか、仮にしてたとしてもこの場で告白とかするわけないからね」

「ふふっ、そうだね。というわけで雫ちゃんは不正解」

 

 時雨さんは、指で小さなばってんを作った。

 残る回答者は綾辻だ。

 考え終えた様子の綾辻は、顎に添えていた手を慎ましく挙げる。

 

「お姉さんの方だね。答えは何かな?」

「いとこじゃないでしょうか」

「へぇ?」

 

 かひゅっ、と喉から息が漏れそうになった。

 時雨さんは、綾辻を試すように見つめる。

 

「どうしてそう思ったのか聞いてもいいかな」

「そうやって聞いてくる時点で答えだと言ってるようなものですけど。百瀬が霧崎先輩みたいな人と関われるとしたら、それは親戚くらいかな、と思ったんです。あとは、純粋に私たちと話したいと仰っていたので、そこもヒントになりました」

「なるほどね。他には?」

「他には……勘です」

 

 複雑そうな顔をしながら、綾辻はぽろりと零した。

 勘と言われると笑ってしまうが、その前の推理については至極真っ当だった。セフレなりに俺のことを理解してくれているのだろう。

 そう考えたら、自然と笑みに苦みが混じった。

 

「良い推理だね。ミステリー小説を書くことをおすすめするよ」

「時雨さん、それ犯人だって自白してるようなものだから」

「ふふっ、そうだったね。というわけで……正解だよ」

 

 時雨さんはパチパチと小さな拍手をする。

 その反応に驚いたのは雫だ。

 

「えーっ! 本当にお二人はいとこなんですかっ? 髪とか、顔とか、色々違いません?」

「ボクのお母さんはロシア人と日本人のハーフなんだよ。そっちの遺伝の方が強いからあんまり似てないのかな」

「なるほど……」

 

 雫が納得したところで、こほん、と時雨さんが咳払いをした。

 

「そういうわけで、二人はボクにとっても一応親戚ってことになるんだよ。だから話したいと思ってたんだ」

「そうなんですねっ! なんか、ちょっと嬉しいです。よろしくお願いします!」

「うん、よろしくね」

 

 雫がほどけるように笑った。

 綾辻と言い俺と言い、雫は年上と絡むのが結構好きらしい。人懐っこいチワワみたいに、きゃふきゃふと楽しそうだ。

 

 そんな雫とは対照的に、綾辻は難しい顔をしている。

 眉間に皴を寄せ、耳たぶをちょこんと摘まむ。

 

「綾辻、大丈夫か?」

「ん……なにが?」

「さっきからやたらと浮かない顔してるだろ。体調悪いのか?」

「別に。気にしなくていいから」

 

 ふるふると首を横に振られてしまう。

 聞かせてくれるつもりはないらしい。無理に聞き出すほどのことなのかも分からないので、ここは大人しく引いておくことにした。

 それからほんの少しだけ同居生活の話なんかをして、やがて下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。

 

「さて、と。今日はそろそろお開きにしよっか。ボクは生徒会室にいるから、何か用事があればいつでも来ていいよ。歓迎するから」

 

 時雨さんの一言を機に、今日はお開きとなる。

 とはいえ、流石に三人で帰るのはまずい。どうしたものか、と思っていると、俺だけが時雨さんに引き止められる。

 何となく用件は分かったので、先に二人に帰ってもらった。

 

「変なことしちゃダメですからね、先輩」

「分かってるっつの。いいから帰れ」

 

 シッシッと手で追い払うような仕草をすると、少しだけ不服そうにしながら雫は帰っていった。

 綾辻と雫の姿が見えなくなったのを確認してから、時雨さんは俺に言う。

 

「キミが言えない理由、ようやく分かったよ」

 

 ああやっぱりな。

 時雨さんの瞳に同情がこもっているのを見て、そっと安堵する。

 

「こんな言い方はよくないけどさ。一瞬、美緒ちゃんが生き返ったのかとさえ思ったよ」

「っ」

「二人の『みお』ちゃん、か。数奇な運命だね」

 

 きゅぅ、と胸が締め付けられたように痛む。

 俺は苦虫ガムを噛むように顔をしかめて、言った。

 

「あなたと同じ名前の妹がいて、その子の死をまだ引きずってます……なんて、言えるわけがないでしょ? 気色が悪い」

「そうかもしれない。でも、ずっと秘密にしておけることでもないでしょ?」

「……そうでもないよ、きっと」

 

 だって、美緒は過去だ。

 俺が勝手に囚われているだけで、前に進んでさえしまえば何一つ問題はない。

 あの二人に言わずに、空っぽ(いま)を生きていける。

 

「俺もそろそろ行くよ。ちょっと寄り道していけばちょうどいいし」

「そっか」

 

 また今度、と時雨さんが言ってくる。

 俺は小さく頷いて、その場を後にする。

 

 窓の外では、夕日が沈み始めていた。空が真っ赤に焼けて、何かが終わってしまうみたいに眩しい。

 

 美緒が死んだのも、こんな夕暮れだった。

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