【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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SS#05 恋バナ

 SIDE:澪

 

「うん、じゃあね。明日帰ったらたくさん雫成分摂取するから」

『……お姉ちゃん。ちょっとシスコンすぎない?』

「ホームシックってやつかな。雫が足りないんだよね」

『本気っぽい声で何言ってるの????』

 

 修学旅行2日目。

 夜に部屋を抜け出した私は、ホテルのロビーで雫と電話をしていた。30分ほどの長電話(いや、短くない?)を終えて、そろそろ切ろうか、という話になる。

 

「だって雫と二日間も会えてないんだよ? 明日も夕方まで会えないんだよ?」

『そうかもだけど! ……お姉ちゃん末期だよぉ』

「体はほんとに大丈夫なの? 実は辛かったりしない?」

『しないってば! 昨日だって友斗先輩とゲームできちゃうくらい元気だったし』

「は?」

 

 友斗と雫がゲーム?

 ……お兄ちゃん、なにやってんの?

 

『そういうことだから! お姉ちゃんはちゃーんと修学旅行を楽しんでくること! 友斗先輩へのお説教は私が済ませておいたから!』

「ふふっ、了解。おやすみ、雫」

『うん、おやすみっ。大好きだよ、お姉ちゃん』

 

 つーつー、と電話が切れた音がする。

 通話終了を報せるスマホの画面を一瞥し、ほっと胸を撫で下ろす。

 雫が元気そうでよかった。ここ最近の雫は何かに悩んでいるように見えたけど、具体的に何に悩んでいてどう解決してあげればいいのかが分からなかったから、歯痒かったのだ。でも……友斗が駆け付けて、前に進めたみたいだ。

 

 雫の光になったのが私じゃなくて友斗なのには、ちょっとムカつける。あと、せっかくの修学旅行をすっぽかしたのも。

 けど、そういうところ含めて、あの人のことが好きなのだった。

 友斗ともお兄ちゃんとも呼べてしまう、あの男が。

 

「さて、と。そろそろ部屋に戻りますか」

 

 同室の相手と仲がいいわけじゃないから急ぐ必要はない。だからといっていつまでもこんなところにいる意味もないだろう。

 そうしてベンチから立ち上がったとき、

 

「――急に呼び出してごめん。来てくれすっげぇ嬉しい」

 

 と、どこからか男子の声が聞こえた。

 しまった、と思う。雫とのやり取りを聞かれたくなくて、人気(ひとけ)のない隅っこまで避難していたのが裏目に出た。

 あんまり聞きたくないんだけどなぁ、自分以外のこういうの。慣れてる分、気持ちが分かっちゃうし。

 

 そうはいっても今から出ていって空気を壊すわけにもいかないので、声を殺して終わるのを待つ。

 

「ううん、大丈夫だよ。せっかくの修学旅行だしね」

「ありがとう、月瀬。で、来てもらった理由なんだけど――」

 

 話す男子の声には聞き覚えがある。

 どこで聞いたんだっけと考えて、学級委員会だと思い出す。どこのクラスかは記憶にないけど、月瀬さんと同じB組だろう。

 

「一年生の頃から好きだった。俺と付き合ってほしい」

「…………」

 

 僅かな沈黙。

 その後、しんと静かな声が聞こえた。

 

「ごめん。田山くんとは付き合えない」

「っ、どうしてか聞いても……いいか?」

「――ずっと好きな人がいるの」

 

 綺麗な声だな、と思った。

 はっと息を呑んでいるのが聞こえる。

 

「そっか。それってもしかして……いや、なんでもない。教えてくれてありがとう。俺、もう行くよ」

「うん。好きになってくれてありがとう。それは本当に、光栄で嬉しかった」

「……そっか」

 

 とっとっ、と足音が遠ざかっていく。

 月瀬さんが去るのを待っていると、

 

「綾辻さん。そこ、いるよね?」

 

 と声を掛けられた。

 気付かれてたらしい。告白し慣れてる女子だな、って思いながら、私はおずおずと出ていく。

 

「バレてたんだ。ごめん、盗み聞きしちゃって」

「ううん。先にいたのは綾辻さんだもん。むしろごめんね? 気まずくさせちゃった」

「ま、ね。流石に同室の相手の告白現場に居合わせるのは気まずい」

「あははー。お互い、運がなかったねぇ」

 

 たははと笑う彼女はいつものお団子をほどき、髪を下ろしている。

 普段は明るい女の子って感じだったけれど、こうして見ると色っぽさとか儚さみたいなものを感じる。綺麗な子だ。

 彼女――月瀬さんと私は、この修学旅行で同じ部屋に泊まっている。A組とB組の女子は奇数人しかいないので、学級委員の私たちが余ったのだ。二人部屋だし、外れくじを引くのはしょうがないけどね。

 運が悪かったのは、そんな彼女が告白されているのを目撃してしまったこと。おかげで気まずいったらない。

 

「あっ、じゃあお詫びに……アイス奢るよ」

「えっ」

「ほら、そこに売店あるし。綾辻さんとは仲良くなりたいなーって思ってたからさ。どう?」

 

 月瀬さんが指さす方向にはホテルの売店がある。ビジネスホテル寄りなので、お土産ショップっていうよりはコンビニって感じのお店だ。

 暖房が効いた部屋で食べるアイスかぁ……断然あり。

 

「おっけ。じゃあアイス一個でさっきのことは忘れたげる」

「うん。あ、でも忘れなくてもいいよ。その代わり、あたしとちょっとお喋りしてほしいな」

 

 お喋り、か。

 月瀬さんとはあまり話したことがないけれど、付き合い自体は割と長い方だ。何せ同中だしね。

 友斗とも最近は仲がいいみたいだし、生徒会にも入ったらしいし……ちょっと話してみてもいいかもしれない。

 こくと頷き、私は月瀬さんと売店に向かった。

 

 

 ◇

 

 

 部屋に帰ると、私たちはそれぞれにアイスの封を開けた。

 私はアイス最中で、月瀬さんは雪見大福。

 二人揃って和っぽいな、とぼんやり思った。

 

「お喋りって言っても、何を話すの? 私、あんまり話題振るのとか得意じゃないんだけど」

「ズバッとそれを言えちゃう辺り、綾辻さんって流石だよね。かっこいいなぁ」

「……ま、誰かさんのおかげだけどね」

 

 最中を齧りながら、私はぼそっと呟く。

 今みたいに自分を曝け出せるのは友斗のおかげだ。

 誰に聞かせるつもりでもない呟きを、しかし、月瀬さんは拾ってしまっていた。

 

「綾辻さんって、百瀬くんのこと好きだよね」

「へ?」

「あれ、違った?」

「ん、いや、違くはないけど……」

 

 別に友斗への気持ちを隠してるわけじゃない。鈴ちゃんは知ってるし、クラスの皆も薄々気付いてるんじゃないかと思う。

 素直に肯定すると、月瀬さんは雪見大福の端っこを食べてから言った。

 

「いいねぇ。やっぱり修学旅行と言ったら恋バナだよねぇー」

「あー。言われてみれば、自然に恋バナになってる」

「あたしが告白されてるところから始まったわけだしね」

 

 月瀬さんと恋バナするほどの関係なのかは疑問だけど、確かに修学旅行といえば恋バナってイメージがある。

 非日常の夜が纏う魔力は、綿飴みたいにふわふわしている。シンデレラにネグリジェを着せるような緩やかな魔法が心地いい。

 

「綾辻さんたち四人って、すっごく仲良しだよねぇー。見てて羨ましくなっちゃう」

「四人って、どの四人?」

 

 私、友斗、八雲くん、如月さん。

 ――いつも教室でお昼を食べてる四人のことか。

 

 私、友斗、雫、トラ子。

 ――〈水の家〉の四人のことか。

 

 果たして、

 

「雫ちゃんとか入江会長とかを入れた四人だよ」

 

 と月瀬さんは答えた。

 

「……私たちって、そんなに仲良く見える?」

「うん、見える見える。四人でいるとこは学校だとあんまり見ないけど……二人とか三人でいるときも、その場にいない誰かのことを考えてるんだな、って分かる感じ」

「そか」

 

 月瀬さんの言うことにはさほど驚かない。

 そうだな、って私も思う。

 私たち四人は繋がってる。色んなことがあって、繋がった。雫はもちろんだけど、トラ子のことも、不服ながら特別な存在だと感じてる。

 

 でも、月瀬さんがそれに気付いたのが意外だった。もちろん、近くにいれば何となく分かるだろうけど……月瀬さんはそうでもないから。

 

 ――よく見てるんだね。

 

 そう言ってしまえば責めていると受け取られかねない気がして、質問を変える。

 

「月瀬さんは? さっき『ずっと好きな人がいる』って言ってたでしょ?」

「そっかぁ……あれ、聞いてたんだよね」

「うん。ま、月瀬さんが言いたくなかったら無理には聞かないんだけど」

 

 聞いてみたくなったのは、何故だか月瀬さんを近くに感じたから。

 話した回数はあまり多くないはずなのに、彼女が傍にいることに違和感がない。

 私が言うと、月瀬さんは溶けてきた雪見大福を一つ食べ終えて、ごくんと呑み込んだ。もう一つの方をピンクのフォークみたいなやつでツンツン突いている。

 

「百瀬くん、だったりして?」

「えっ」

「同中だし、意外とモテてるみたいだし? 結構かっこいいところもあるし……どう? それっぽくない?」

「え? ん、まぁ、それっぽいというか、納得できるけど……」

 

 私や雫、トラ子から好かれているのだ。友斗が他の女子に恋されていてもおかしくはない。むしろ自然だろう。

 はっとして月瀬さんの表情を見つめる。

 すると、くすくすっ、と悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

「冗談だよ、冗談! さっきのはあくまで方便! ずっと好きな人をいるって答えたら納得してもらえるだろうなーって思ったの。綾辻さんもこういうの、慣れてるでしょ?」

「ああ、そゆことか」

「うんうん」

 

 確かに私も、告白されたときにはよくそんな風に答えていた。

 今となっては嘘にならないけど……友斗への気持ちを自覚していなかった頃は、上手く躱すための処世術くらいに考えていた。

 

「だから綾辻さんが恋してるのとかいいなーって思うんだよねっ。そういうドキドキ、経験してみたくて」

 

 言いながら、月瀬さんは髪に耳をかけた。

 きゅいっと目尻を下げて微笑むと、彼女は雪見大福をぱくっと食べる。

 

「んー? 綾辻さん、あたしの顔見てどうかした? クリームついちゃってる?」

「ううん、何でもない。あと……澪でいいよ。私も来香って呼ぶし」

「ほんとっ!? 嬉しいな。あたしも綾辻さん――澪の友達になりたかったから」

 

 私たちはそれから、修学旅行の夜らしく語らった。

 途中で告白サポート大作戦が終わった鈴ちゃんや、八雲くんとの密会から帰ってきた如月さんがやってきて、いつの間にやら女子会が始まる。

 

 友斗と一緒には来れなかったけど、この時間と引き換えなら満足できるかもな、と思った。

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