【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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8章#07 幸せな拷問

 夕食は澪がメイン、大河がサポートする形で作った豪勢なメニューだった。メニュー名や作り方が見当もつかないものばかりだった、とだけ言っておく。

 俺の料理の腕もまだまだだった。というか俺の周りの女子の料理の腕が異常に高すぎる。自立した生活できすぎじゃない? 俺、小学校の頃から出来合いのものを買って済ませてたよ?

 

 で、夕食を終えて。

 流石にケーキは入らないよな、ということで後回しになり。

 そして俺は――手足を縛られていた。

 

「……えっと」

 

 繰り返そう。

 手足を、縛られていた。

 

「どうしてこうなった!?」

 

 堪らず、俺はシャウトする。めっちゃシャウト。叫ばずにやっていられるかこの状況。マジでどうなってんの?

 手を動かそうとすると、かしゃかしゃと頭上から音が鳴る。両手首は百均で売ってるようなおもちゃの手錠で固定されていた。

 では足は、と見てみると、こちらはタオルできつく縛られていた。これはやりようによってはどうにかなる気もするけど、足だけ自由になったところであまり変わらない気がするのでやめておく。

 

「どうしてって……もうお忘れですか、ユウ先輩。夕食が終わったら私たち三人分の罰を引き受けてくださるって言ったじゃないですか」

「あれ真面目なはずの大河がノリノリ!?」

「そーですよ! 友斗先輩はこれから原罪の対価を払うんです」

「その言い回しは宗教的にアレで色々怒られるからマジでやめような!?」

「いいじゃん。美少女に縛られるのは男子的にご褒美でしょ」

「トドメみたいに下ネタ吐いてくるんじゃねぇよ! あとMじゃねぇから! 澪は知ってんだろ!?」

「「ふぅぅぅん」」

「あ、ごめんなさい――って今の俺が悪いか!? どちらかと言うと澪じゃない?」

 

 確かに一部の変態紳士にとっては、縛られるのはご褒美かもしれない。しかし俺はあくまでどこにでもいる男子高校生。性欲は強いかもしれんが働き者の理性くんを雇用しているため、流石にこの状況で興奮したりはしない。

 

 むしろこうして見下ろされていることに若干の恐怖を覚えてすらいた。

 具体的には、この状況で父さんか義母さんが早めに帰ってきたりしたらヤバいよなぁ、とか。

 ……フラグじゃないからな? 絶っ対フラグにしないからな?

 

「あー、えっと。で、罰ってなんなんでしょうか?」

「ふむ。賢明ですね、被告人」

「被告人ってことは、まだ救われる可能性があるのか?」

「もちろんです。大天使・シズクエルは寛大なので慈悲を与えます」

「この状況が既に慈悲がないんだよなぁ」

 

 とはいえ、助かるチャンスがあるなら何としても助かりたい。

 そりゃ俺が悪いけど、なんかこの状況だと何されるか分からなくてマジ怖いしね?

 こほん、と咳払いをした雫――改め、シズクエル――は、厳かに口を開いた。

 

「まず、質問です。私たち三人はそれぞれ秘密を暴露しましたが……あなたには、私たちが話したこと以外に話さなければならないことがありますか?」

「えっと……」

 

 つまり、俺の秘密ってことだよな?

 雫との先日のアレコレや澪との関係は二人が暴露した。大河との過去も、期せずして彼女の口から話された。

 他に……うーん、他に……?

 

「ないとおも――」

「トラ子には言ったの? 男の子的なこと」

「え、なにそういうこと!? 質問ではなくこれも罰の一環なの?」

「質問でもあり、罰の一環でもあるんだよ。ここで嘘をついたという事実は、救われるか救われないかに影響する」

「えげつねぇ」

 

 あれを言えと? 大河の、というかこいつらの前で?

 既に罰ゲームすぎるんだが。救いを求めてウルウルと目を潤ませてみるが、人情は天使たちには届いてくれない。

 俺は観念して、正直に言った。

 

「えー。俺は三人のことをめちゃくちゃ魅力的な女の子だと思ってます。正直男子高校生的な欲求はすげぇ湧くし、性的な目で見ないとか無理だなーって」

「「「…………」」」

「あー、えっと。だから……なんだ。澪とホテル泊まったときも、大河の家で寝たときも、雫に襲われたときも、正直やばかった。据え膳食わぬは何とやらって言葉が頭をちらついてしょうがなかったよ」

 

 三人は未だ何も言わない。もう羞恥で死にたいのだが、ここまで言ったら最後まで言ってしまっても同じなので、思い切って言ってしまうことにする。

 

「でも三人をそもそも食い物みたいに見ること自体間違ってるし、魅力的で大切な存在だからこそ、好きって胸を張れるまでは絶対に性欲に振り回されないって誓う。神様は、まぁ、信用ならねぇから……そうだな。美緒に誓うよ」

 

 これが秘密なのかはもはや分からんが。

 それでも包み隠さない本心だ。

 

「あとは……うん、隠し事はないと思う。そりゃ言ってないことはあるけど、それは別に隠してるってわけじゃないから。気になることがあったら言ってくれ。三人には情けないところばっかり見せてるからな。今更隠したりしない」

 

 言い終えると、三人は何とも言えない表情になった。

 むにゅむにゅと口もとを歪ませ、そしてにんまりと笑みを零す。

 

「あーっ、もう! そこまで恥ずかしいこと言えとは言ってないんですけど!」

「そうそう。性的に見てるっていう暴露で止めるでしょ普通。何その後のかっこつけた台詞」

「う、うぅ……そもそも私はその時点で頭が真っ白になってるんですが」

「えぇ……こんだけ頑張ったのに怒られんの? 天使が理不尽すぎて悪魔界に行きたくなるんですけど」

 

 天使より悪魔の方がかっこいいもんな。もっと言うと堕天使が一番かっこいい。それにしてもダークロー〇パンナちゃんのかっこよさは異常。俺、あのキャラが出るときだけ毎週すげぇ興奮してたもん。美緒は『悪くなるのがいいなんて意味不明』とか言ってたけど。闇堕ちのロマンってあるよな。

 と、在りし日の思い出を振り返っていると、雫がこほんと咳払いをした。

 

「さて、今の質問で量刑が決まりました」

「早ぇ……日本の裁判に見習ってほしい早さだな」

「只今より、死刑を執行します」

「慈悲がねぇ……日本の刑事裁判かよ」

「ユウ先輩。頭よさそうなツッコミをすれば許されるわけじゃないので少し黙っていてください」

「あ、はい」

 

 ツッコミへの審査も慈悲がなかった。

 

「ということで友斗先輩。これから30分間、こちょこちょの刑で笑い死んでもらいます」

「30分は長くね? そんなにくすぐったところで――」

「大丈夫、楽しいから。前に似たようなことやったし」

「やったけども! あれと一緒にすんなよ!」

「……ユウ先輩の変態」

「俺の弁護士はどこ!?」

「「いません」」「いないよ」

 

 三人の声が被った。弁護士も神様もいないらしい。

 

「手足は縛りましたけど、それでも友斗先輩が暴れると怪我しちゃうかもなので大人しくしてくださいね? 私たちを傷物にしたら責任取ってもらいますから」

「俺が傷物になりそうな勢いなんですけど……?」

「そのときは三人で仲良く責任とってあげますね♪」

 

 ぱちん、とウインクをかます雫。

 そして三人は、それぞれ俺の体に触れる。澪と大河は脇腹を、雫は脚の辺りを。

 

「それじゃあ30分間こちょこちょの刑、スタート!」

 

 あえてお決まりなフレーズで締めるとしよう。

 このあと滅茶苦茶こちょこちょされた。

 

 

 ◇

 

 

「つまんないです! どうして友斗先輩はそんなにこちょこちょに強いんですか!?」

「本当にね。そういうところだよ、友達できないの」

「なんで俺、30分の苦行に耐えたのにこんなに責められてんの?」

 

 30分が経って。

 俺――ではなく三人は、へとへとになっていた。別にくすぐり程度ではそれほど体力を使わない気もするのだが、精神的な疲労が大きいらしい。

 俺は手首と足首が自由になったことに感激しつつ、マグカップに口を付ける。む……30分で、かなり冷めてしまったみたいだ。顔をしかめていると、でも、とケーキを取りに行っていた大河が言ってくる。

 

「30分もくすぐられ続けても全然笑わないって、本当に強いんですね。姉もある程度は強かったですけど、それでも30分は耐えられないと思います」

「俺としては入江姉妹がそんな可愛らしいじゃれ合いをしてることの方が驚きなんだが」

「仲が悪いわけではないですから」

 

 まぁ、そうなんだろうけどさ。それでも入江先輩がくすぐられている場面が想像できない。ついでに30分程度で屈するあの人も。

 言いながら、大河はケーキを切り分け、四人分のお皿に乗せてくれる。ちなみにこの役目を大河がやっているのは、雫を除いた三人でじゃんけんをして一人負けしたためである。俺だったら上手く切れなかった気がするのでちょっと助かった。

 

 全員にケーキが行き届くのを待つ間、雫がむぅと頬を膨らませて聞いてくる。

 

「てゆーか、どーしてそんなに強いんですか? 美少女三人にこちょこちょされたら、普通耐えられなくなりません?」

「いや美少女は関係ない気がするけど……まぁ、別にくすぐったくなかったわけじゃないぞ」

 

 当然だ。服越しとはいえ、三人に体のあちこちを触られてたわけだし。途中から躍起になった三人が密着してくるので、色々と危なかった。

 

「でも、昔からくすぐられるのには強かったな。前に美緒と時雨さんとやったときも、俺だけ耐えて美緒がムスってしてた覚えがある」

「霧崎先輩としたことあるんだ?」

「え? そりゃあな。小さい頃からそれなりに仲良くしてたし」

「なるほどね。あの人と……やっぱり……」

「澪?」

 

 ぶつぶつと俺にも聞き取れない声で澪が呟く。

 その横顔は冗談の混じったものではなく、どうにも気にかかる。しかし俺が呼ぶと、澪はふるふると首を横に振った。

 

「別に、隠し事ってわけじゃないよ。少し気がかりなだけ」

「気がかり、か」

「そ。今度話すから」

 

 懺悔をし合って、それでもこう言うのだ。秘密にしたいわけではなく、単にこの場にそぐわないと思っているだけなのだろう。

 それなら、素直に従うことにしようじゃないか。もうケーキも揃ったしな。

 

「わぁ……すごい美味しそう! これ、二人で作ったんだよね?」

「うん、そう。口に合うといいんだけど……」

「きっと合う!」

 

 にかっ、と笑う雫。俺もそう思う。めちゃくちゃ美味そうだしすぐに食べたいところだが……今日は誕生日だ。忘れてはいけないことがある。

 

「えっと、それじゃあ」

「ん」「はい」

 

 澪と大河と顔を見合わせて。

 せーのっ、と言って、始める。

 

「「「ハッピーバースデートゥーユー♪」」」

「っ!」

 

 俺は下手くそだけど、それでも雫は歌ってほしいって言うだろうから。

 上手に歌う澪と大河に合わせて、俺もきちんと心を込めた。ケーキを作るのには携わっていないけれど、せめて最後の隠し味(真心)には関われるように、と思って。

 

「雫、誕生日おめでとう」

 

 

 

 それからは、清く正しいバースデーパーティーだった。

 澪と大河が雫にプレゼントをして、ついでに二人に俺がしたプレゼントがバレてちょっと怒られて。

 それが終わったら、女子三人はお風呂に向かった。大河は制服を持ってきており、明日はうちから登校するつもりらしい。

 

「楽しいな、本当に」

 

 眠る前、ベッドに潜ってもちっとも眠気はやってこなくて。

 俺は一人、しみじみと呟いて。

 そうして聞こえた自分の声に、どうしようもなく照れ臭くなって、布団を被ったのだった。

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