【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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8章#12 年上の共闘

 入江先輩が去って。

 お昼時を過ぎた喫茶店で、俺と澪は入江先輩に奢ってもらったものにそれぞれ口をつけていた。グラスが空になった頃、澪が声をかけてくる。

 

「ねぇ友斗」

「ん、どうした?」

「霧崎先輩のこと。私も、気がかりなことがあるんだよね」

 

 澪は二つある小倉サンドのうちの、残っているもう一つに口をつける。

 三角は不恰好な台形になり、端っこからクリームが僅かにはみ出る。ぺろりとクリームを舐めると、澪はよほどお気に召したのか目を細めた。

 それから、こほん、と話を元に戻す。

 

「4月のさ、私が友斗を襲った日、あったでしょ」

「言い方はあれだが……あったな」

「あの日のお昼、私は霧崎先輩のところに行ったんだよ。そこで、美緒ちゃんのことを聞いた」

「ああ」

 

 そういえば、そんなことを言っていた。後日時雨さんも言っていたので、疑う余地はないだろう。

 それで? と話の先を促すと、澪はそっと囁くように言った。

 

「あのとき、言われたんだよね」

 

 んんっ、と喉の調子を整えるようにしてから、

 

「『彼は恋人ではなく、妹の代わりを求めている。だから彼の恋人になろうとしている澪ちゃんの妹ではなく、澪ちゃんなら、彼に寄り添って救ってあげられるのかも』」

 

 ああ、時雨さんはまさにこう言ったんだろうな。

 そう思える声のトーンと口ぶりで告げた。

 嘘だろ、と思う。

 だって、それってつまり――

 

「澪があの話を持ち掛けてきたのは、時雨さんの提案だったってことか?」

 

 全てを、覆すことになりうるじゃないか。

 雫は、曖昧に頷く。

 

「私も美緒の話を聞いて、似たようなことは考えたと思う。美緒として扱ってほしいって思ったし」

「そうか」

「だからあのときは、おかしいとは思わなかった。欲しいものが手に入った、くらいにしか思ってなかったし」

「でも今となっては気にかかる。そういうことか」

「そ。私のことだけなら気にしなかったかもしれないけど。この前トラ子が言ってたことを考慮すると、どうしてもね」

「大河が?」

 

 ええっと、なんて言ったっけか。

 思い出そうとするより早く、澪がコピーをして言う。

 

「『夏休みに入る前に、霧崎先輩に相談に乗ってもらったんです。そのときに、もしかしたら私もユウ先輩の隣にいられるのかもしれない、って思ったのも事実で。あわよくば、って少し思ってしまったんです』って」

「……ちょっと真似の仕方に悪意ないか?」

「愛情と言ってほしいね」

 

 まぁ、それはいいとして。

 確かに大河は、そう言っていた。

 

「そのときのこと、覚えてる?」

「だいたいは」

 

 今更隠すことでもないだろう。というか、隠し事はなしだと決めた。使い道がなくなったストローを手で弄びながら、あの頃のことを話す。

 

「あの頃の俺は雫のことも澪のことも、美緒の代わり扱いしてたよな」

「ん」

「で、俺は大河に、浮気してるって話はしてた。半同意状態で、みたいな」

「うん」

「それで、七夕フェスの前に風邪を引いた大河を看病しにいったときに……いったい誰のことを見てるんだ、って聞かれた。二人を誰かの代わりにしてるんじゃないか、ってな」

「相変わらず癪に障る奴め……で?」

 

 時系列からすれば、大河と時雨さんが話したのはそれより暫く後のことになる。

 

「それから大河とギクシャクして、俺が一方的に避けてたんだよ。それで終業式の日、大河と一緒にいるのが嫌で無理やり先に帰った」

「ああ、私が告白されてるのを覗いたときか」

「よく覚えてるな……そうだよ」

 

 ぱくぱくと澪が食べ進めた小倉サンドは、気付けば不恰好で小さい三角になっていた。

 一度お皿に置くと、澪は耳たぶを摘まみ、瞑目する。

 

「その日、トラ子は霧崎先輩に相談をして、背中を押された。そういうことだよね?」

「ってことになるな」

「その後、トラ子となんかあった?」

「後日、二人でプール掃除をしたな。そこで色々と話をした」

 

 と、考えて。

 その前に時雨さんと話したよな、とも思い出す。二人で大学を見学して、昼食を摂りながら美緒と大河のことを話したのだった。

 その旨も改めて話すと、なるほどね、と澪は頷いた。

 

「これは俺の意見っていうか、完全なる主観なんだけど」

「うん」

「正直、時雨さんの思考は読めない。それは今に始まったことじゃないし、そういう読めなさで言えば、時雨さんの行動は妥当なのかもしれない。少なくとも時雨さんの論理の上では」

「奇人の奇行は平常ってことね」

「天才の考えは理解不能、と言ってもいいかもしれないけど」

 

 あの人の行動は、天気雨のようなものだ。

 事実、現状ではただ俺やその周りのことをよく見て、アドバイスしてくれているだけだと捉えるのが妥当だ。選挙のときですら、あの人はヒントを出してくれていた。

 

「でも、違和感はある。時雨さんはここまで積極的にアクションを起こすことはなかった。俺を気にかけてくれてはいたけど、あくまで従姉の範疇を出てなかった」

「今は……ま、明らかに逸脱してるか」

「と、思う。澪は?」

 

 ぱくりと半分になった小倉サンドを頬張り、咀嚼する。

 指で口もとについたクリームを拭って口の中のものを飲み込むと、私も、と頷いた。

 

「ひっかかるところはあるんだよ。一番気がかりなのは、球技大会のとき」

「球技大会?」

「そ。写真撮ったじゃん」

「ああ」

「あのとき、霧崎先輩は写真に写りたがらなかった。用事があるって言ってたけど――」

「考えてみればおかしい、か」

「うん。実はあのときさ、私がもう一着分の学ラン着用者に雫を推薦する前、あの人はトラ子がいいって話してたんだよ」

「大河に……?」

 

 それは変じゃないか、と思う。

 生徒会に内緒で色々と策を打っていたくせに、大河に着せようとしていた。それは流石に、矛盾しているような気がする。

 

「一つ一つは大したことがないけど、こうしてかき集めると怪しい。どう怪しいのか、分からないけれど。それは友斗も同じ考え?」

「そうだな。異論はない」

「じゃあ、ここからは提案」

 

 ぬるくなったホットココアに口をつけ、澪は言う。

 

「共闘しよう。あの子たちを守るために」

「…………」

 

 澪の意図を測りかねて、こきゅ、と息を呑む。

 真っ直ぐに澪を見つめると、真剣な顔で続ける。

 

「あの人が一番動いたのは選挙のとき。結果論としてトラ子は会長になったけど、それって友斗がぎりぎりであの人の意図を汲んだからでしょ」

「意図を汲んだっていうか……見つけ出した答えが、あの人の意図通りだったんだと思う」

「でもあのときトラ子も友斗も、傷ついた。そんな愛の鞭、これ以上は要らない。私は雫が傷つくところを見たくないし、友斗だってそう。トラ子も……あの子が傷つくのだって、気持ちよくはない」

「だから共闘、か」

「私と友斗で、霧崎先輩の意図を汲み取る。それが年上の私たちの役目じゃない?」

 

 言いたいことは、よく分かった。

 時雨さんを心から恨んでいるかと言えば、そんなことはない。世の中は全て結果論だ。選挙の結果として大河が前に進めたのなら、あの人の意図がどうであれ、恨みはしないだろう。

 

 しかし――今後がどうかは、分からない。

 俺も、澪と同じ考えだった。三人に傷ついてほしくない。俺が傷つけてきたからこそ、守りたい。

 

「分かった。俺に何ができるのかは分からないが、探ってみる」

「うん。私も、できることは少ないだろうから」

 

 こつん、とテーブルの上で拳を合わせる。

 

「じゃあ出よっか」

「だな。帰り、どっか寄るか?」

「ん、適当にぶらつく。この前はトラ子がいたしね」

「今さっき大河のことも守るとか言った口で俺を言われ――ってテーブルの下で蹴らないで!?」

 

 あっかんべーをしてくる澪は、とても可愛らしくて。

 頭を撫でたい衝動を隠すのが、少し大変だった。

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