【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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8章#27 冬は

 ミスターコンへの出場が決まった翌日。

 ……つーか、ここ最近毎日のことだけれども。

 俺は今日も今日とて生徒会室で仕事をしていた。申請が来た有志団体のとりまとめをしたり、当日のスケジュールを練ったり、近隣住民への招待状を書いたり、幼稚園に渡す資料を書いたり。我ながらすげぇ働いてるなーって思う。

 

 これだけ働いてるんだからミスターコンの出場は許してもらえないだろうか。

 そう思うが、ぶっちゃけ割とゆっくりやっても許されるほどには時間に余裕があるので、あまり大仰に自分の仕事を主張しにくい。月瀬に特別パフォーマンスの相手役も頼んじゃったしな。それに、悩みの種はどっちかっていうと時雨さんのことだし……。

 

「あの、ユウ先輩」

 

 時雨さんのことを考えてドツボにはまりそうになっていると、肩が揺らされた。

 名前を呼ばれて振り返れば、大河が荷物をまとめている。はて、まだ上がりの時間じゃない気がするのだが……。

 

「どった? 用事で早上がりなのか?」

「違います。幼稚園に渡す資料って、もう完成してますよね?」

 

 幼稚園に渡すなら……うん、昨日のうちに完成済みだ。

 

「出来てるな。印刷もしてあるけど。持ってくのって今日だっけ?」

「はい。アポイントメントは取ってあるので、今から行ってこようと思いまして」

「そうかそうか。気張れよ」

 

 印刷済みの資料の山から該当のものを三部とり、大河に渡す。

 ありがとうございます、と言って大河はそれをファイルに入れてからバッグにしまった。紺色のコートを着こんでいるのを見るに、すぐに出かけるのだろう。いつもなら授業が終わる時間帯だしな。

 

「ねぇキミ。今やらなくちゃいけない仕事ってどれくらいある?」

 

 大河と話していると、時雨さんが尋ねてきた。

 俺のパソコンを覗きながら言うので、俺はマウスでファイルを指さしながら答える。

 

「とりあえず今日マストっていうのはなくて、やりたいと思ってたのはこれとこれかな。今週中に仕上げないとだから」

「ふむふむ。じゃあさ、それはボクがやっておくから、キミは大河ちゃんについていってあげてくれないかな?」

「「えっ」」

 

 時雨さんの思わぬ提案に俺と大河の声が被った。他のメンバーが不思議そうに見てくるので、首を横に振って気にするなと伝える。

 で、時雨さんは一体何を考えているのか。

 

「ついていくって……幼稚園に、ってことだよね?」

「うんうん。大河ちゃんが外部の人と話すのってこれが初めてでしょ? だったら一人より誰かが一緒の方がいいと思うんだ」

「それなら時雨さんが行けばいいのでは? 経験豊富なんだし、幼稚園の人とも知り合いでしょ」

 

 去年までは時雨さんが行っていたのだから、俺より時雨さんが適任のはずだ。

 そう思ったのだが、時雨さんはうーんと思案するような顔を見せる。

 

「ボクが行っちゃうのはどうなのかなーって。大河ちゃんのスタイルにならないと思わない?」

「それは……」

「キミと大河ちゃんで行くのがいいと思うけどなぁ」

 

 ぐぬぬ……否定できない。

 いや否定するほどでもないんだけど。ただなんというか、時雨さんの思惑にそのまんま乗っている感じがあって腑に落ちないんだよな。

 と思っていると、大河が申し訳なさそうに言った。

 

「あ、あの。私は一人でも大丈夫なので、ユウ先輩は仕事していても大丈夫です。何か分からないことがあれば電話しますし」

 

 大河の瞳には、僅かだけ不安が垣間見える。一人でも大丈夫、というのは嘘ではないだろう。例年のことだからそれほど難易度は高くない。資料だってあるのだ。それを見れば分からないこともすぐに分かる。

 

 だが、そうだよな。難易度が低くたって、初めてのことは不安になる。それを支えてやるのも庶務の役目だ。

 

 ――と、いうかっこいい理由はさておいて。

 ひとまず俺は、もっと即物的な理由を挙げることにした。

 

「いや、行くわ。ずっと座りっぱなしで作業してるから疲れたし。気分転換したいから」

「ユウ先輩……! そうですよね。気分転換は必要ですし」

「そうそう――ってことで、時雨さんよろしく」

「うん、いってらっしゃい」

 

 仕事の気分転換に仕事をするって、アクティブレスト感やばいな。マッチョになっちゃうかもしれん。

 そんなことを思いつつ、俺も荷物をまとめた。

 

 

 ◇

 

 

「だいぶ寒くなってきたな」

 

 ほぅ、と吐いた息は薄らと白んでいた。

 今週からは俺もブレザーの上にコートを着込むようになったし、気温も二桁ギリギリまで下がっている。あと二週間もすればクリスマスなのだ、と思うと、つくづく時の流れの速さを実感する。

 

「そうですね。来週からはもっと寒くなると天気予報でも言ってました」

「マジかぁ……」

「冬はお嫌いですか?」

 

 白いマフラーを首元に巻いて、大河は身を竦めている。

 ショートカットは一層寒く見え、耳や頬のあたりが仄かに赤い。ネックウォーマーなりイヤーマフを付ければとも思うのだが、シンプルなマフラーだけなのも大河らしく思えた。

 冬なぁ……と俺はしみじみと呟く。

 

「寒いのはまだいいんだけどな。屋内の暖房がきついから冬はあんまり好きじゃない」

「なるほど……確かに、分からなくはないかもしれません」

「だろ?」

 

 と言ってから、まあ他にも理由はあるんだけどな、と付け足した。

 え?と首を傾げる大河。

 俺は自分の弱さに苦笑しつつ続ける。

 

「クリスマスが美緒の誕生日なんだよ」

「そう、なんですか」

 

 顔に浮かぶ笑みの苦さが、口の中へと還元される。

 去年までのこの時期を思い出しながら、俺は思い出すように告げた。

 

「去年までは美緒が死んだことを受け入れられなくて、クリスマスが来るたびに美緒がいないせいで苦しくなって、なのにクリスマスだーって騒いでる奴らが苦手だったんだよ」

 

 折角の気分転換なのに、どうしてこんなことを口にしているのだろう。

 ふとそう考えて、行く先が幼稚園だからだ、と気付く。

 

 在りし日の思い出が頭をよぎるから。

 美緒がいて、俺がいて、時雨さんもたまに一緒で。

 あの宝物だった日々を思い出しているのだ。

 

「じゃあ……クリスマスも、お嫌いですか? 本当は冬星祭みたいなこと、したくなかったりしますか?」

「いいや、それはないな」

 

 俺はすぐにかぶりを振った。

 それはない、と言い切れる。

 

「美緒が死んで、冬は嫌いだったけど。でもクリスマスは昔から嫌いじゃなかった」

 

 去年も、その前も、クリスマスには悪い記憶がない。

 それまで騒いでいる奴らには大っ嫌いだって思ってたくせに、クリスマスのCMも早めのイルミネーションも憎らしく思っていたくせに。

 それでもクリスマスを嫌いにならずに済んだのは――。

 

「一昨年も去年もイブには澪が傍にいて、当日には雫とプレゼントを交換してた。今年は大河とこうしてクリスマスを楽しくするために働いてる。だからだろうな。クリスマスは嫌いじゃない。単純だろ?」

「……単純、ですけど。でも素敵だと思います」

「そっか。だといいんだけどな」

 

『12月。それは神様が生まれた月らしい』

 

 ふと、頭にその一文がよぎった。

 時雨さんは……時雨さんは、どうしているのだろうか?

 そういえば俺は、あの人がクリスマスを楽しみにしているところを見たことがない。あれだけポエミーで夢見がちな人なのだから、サンタだなんだとはしゃぎそうなのに。

 

 あの人ほど雪のような、冬そのものみたいな人はいないのに。

 どうしようもないもどかしさが胸の奥で蹲る。ひゅぅぅと胸元に吹き込んだ風に顔をしかめ、俺は開けていたコートのボタンをしめた。

 

「あの、ユウ先輩。今も――冬は、お嫌いなままなんですか?」

 

 大河がこちらに手を差し出して、優しく聞いてくる。

 その真っ直ぐな瞳はとても綺麗で。

 俺はそっとその手を握った。

 

「あっ」

「こういうことじゃないのか?」

「……文脈を読みすぎるのは、よくないと思います」

「察しが悪かったらそれはそれでムッとするくせに」

 

 大河の手は、思いのほか温かい。

 かっぽん、とっこん、かっぽん。

 少しだけ、歩く速度が落ちる。

 

「冬も……嫌いじゃ、なくなったよ。暖房だけはまだ嫌いだけど」

「そうですか」

「ああ、そうだ」

「つまり女性の温もりのおかげで嫌いではなくなった、と。爛れてますね」

「そうは言ってないからね? そういうことはもう少し分かりやすく手を繋ぐアピールをしてから言ってくれ」

「しょうがないじゃないですか。不慣れなんです、ユウ先輩と違って」

「っ、俺だって……慣れてはねぇよ」

 

 慣れたらもっと上手くやれる。

 不安な大河の気分を沈めるような話じゃなくて、背中を押すような楽しい話をしてやれるはずで。

 だから俺はミスターコンに出るような格じゃないんだ、と心から思った。

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