【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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8章#28 幼稚園

 学校から暫く歩いて、幼稚園に到着した。ここはうちの学校と昔から関係が深い幼稚園らしい。今でこそ諸事情によりやっていないが、以前はうちの高校から幼稚園の手伝いにいったりもしていたそうだ。

 

 とはいえ最近は地域の行事と冬星祭くらいでしか交流はなく、それゆえに俺もここに来るのは初めてだった。

 

 俺が通っていた幼稚園はもうちょい家が近く、しかし県境の向こう側にあった。あの頃はあそこと家とが狭い世界の大半で、休みに行く色んな場所はボーナスステージのように思っていたのに、今では『近い』と形容しているのだから凄いものだ。

 

 きっと成長するに従って大きくなるものは、体だけではないのだろう。

 心もそうだし、世界も大きくなっていく。

 もちろん状況によってその変化はバラバラなのだろうけれど。

 

「意外と子供はいないんだな」

「保育園なら分かりませんが……幼稚園だと、大抵は決まった時間に帰りますから」

「ああ、そっか」

 

 そういえば、いつも決まった時間に母さんが迎えに来てたっけ。一気に集まると大変だから三グループくらいに別れて、日ごとに順番がランダムに決められてたんだよな。

 なんて、意外とするする記憶が蘇るのだから不思議なものだ。

 

 そんなことを思いながら職員の人を呼び、中に通してもらう。

 園内には五、六人ほど子供がいるだけで、むしろ職員の人数の方が多いくらいだった。世界が縮小されたような部屋のサイズ感に、ほーん、とか、へー、とか思いながら歩き、やがて職員室に到着した。

 

「ごめんなさい。少し待っていてもらえますか?」

「もちろんです。幾らでも時間はあるのでお気になさらないでください」

 

 お茶を出してくれた職員の人に、大河がするっと応対する。

 おお、ちゃんとできるじゃん。

 少しぬるめのお茶をありがたく啜っていると、職員室の外から楽しそうなメロディーと可愛らしい歌が聞こえた。

 

 ふと、幼い頃の記憶が蘇る。

 同じ組だった女の子がいて、よく二人で遊んでたんだよな。体が弱くて走り回るのはキツイらしく、おままごとや積み木みたいな室内でできる遊びばっかりをしていた覚えがある。

 ま、年長になってからはその子が幼稚園になかなか来なくなったり、美緒が入園してきたりして遊ぶ機会がかなり減ったけど……。

 

「歌か。いいな、こういうの」

「……ユウ先輩が幼稚園でそういうこと言うと、あまりいい目で見られないと思いますよ」

「それは暗に犯罪者だと揶揄してるのか?」

「と思われてしまう可能性もありますよ、と言っているんです」

「そんなに俺って犯罪者っぽい顔してるか……?」

 

 職員の人には不審がられなかったと思うんだけど。もしかして今の人が待つように言ったのって、俺を警戒してのことだったりする? だとしたら泣くよ?

 心配になっている俺に、大河は苦笑交じりで告げた。

 

「違いますよ。ですが、人は見かけによらないですし、むしろ分かりやすく怪しい恰好じゃない人の方が怪しまれるものです。ユウ先輩は……か、かっこいいので……」

「お、おう」

 

 どうしてそういうことを照れながら言うかね。

 不意打ちの発言に気まずくなった俺は、いつぞやの大河の言葉を思い出しながら、返す。

 

「俺は『冴えない……けど、もしかしたらほんの少しかっこいい……? 可能性を秘めているかもしれなさそう』らしいけどな」

「……っ、そうやって過去のことを掘り返すのはどうかと思います。それに、かっこいい可能性を秘めている、と言ったじゃないですか」

「さいですか」

「何ですか、その顔。何か不服なことでも?」

「別に」

 

 可愛いって思っただけ、と言うのはそれこそ手慣れた犯罪者っぽい気がするから。

 俺は首をふるふると振って、注いでもらったお茶に再び口を付けた。

 

 

 ◇

 

 

「今日はありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ。とっても分かりやすかったわ。頑張ってね」

「そう言っていただけると幸いです。また本番が近づいてきたら伺いますので、そのときはよろしくお願いします」

 

 あれから30分ほどが経って。

 幼稚園への説明は恙なく終わった。大河は危なっかしいところ一つなく見事に説明したため、むしろ職員の人から『あなたはどうしてここにいるの……?』みたいな目を向けられたほどだ。

 

 せめて去り際くらいはと思い、全力で愛想よく挨拶をして、幼稚園を後にする。

 建物を出ると一気に世界が元の大きさに戻った感じがして、まるで魔法みたいだな、と思った。体が小さくなったり大きくなったりするのは『不思議の国のアリス』だったか。だとすれば今も、元の大きさに戻っているのは俺たちの方なのかもしれない。

 そんなことを思っていると、

 

 ――とぅるるるるっ

 

 と着信音が鳴った。

 

「悪ぃ、音切り忘れてた」

「いえ、それは構いませんが……どなたからですか?」

「今確認して――って、時雨さんだ。出ていいか?」

 

 あの人の場合は急用でなくとも電話をかけてくるから、電話だからと神経質になる必要はない。ただ何か用事があるのは間違いないので出ておきたかった。

 大河がこくりと首肯したのを見て、俺は電話に出る。

 

「もしもし?」

『もしも~し。キミ?』

「そのキミキミ詐欺みたいな言い方やめてよ。電話口なんだから」

『それ、今更じゃない?』

「……まあそうだけど」

 

 時雨さんが俺のことを『キミ』と呼ぶのは今に始まったことではない。昔からずっと俺のことは『キミ』だった。美緒も、その他の相手も、ちゃんと名前で呼ぶのにな。

 そう考えると、急に何故なのか気になってくる。だが、流石に今それを聞くのはおかしな話なので、話を進める。

 

「それで、電話してきてどうしたの?」

『ああ、そうそう。そのことなんだけどね。ボクの分の仕事も、他の子たちの分も、今日できそうなことは終わったからさ。少し早いけど今日はお開きにしようか、って話になったんだよ』

「あー、そういうことか」

 

 言われて、なるほど、と納得する。

 テスト返却日は午前中で終わるから休みだったり早めに上がりにしたりすることが多い。冬星祭に終われているとはいえ、今日ぶっ続けでやったおかげで現時点でやれることはかなり減っているはずだ。

 ちょっと待って、とだけ時雨さんに告げてから大河に状況を説明すると、大河もこくこくと頷いてくれた。

 

「じゃあ俺たちもこのまま直帰する。大河も俺も、荷物全部持って出てるし」

『うん、そう言うと思った。ならデータ保存して、パソコンの電源だけ落としておくね』

「了解」

 

 短く告げると、そうそう、と時雨さんがからかうような口調で言ってきた。

 

『仕事中に二人で抜け出して、ちょっとは進展あったかな?』

「ぶふぅぅぅぅ」

 

 噴いた。

 大河が怪訝そうにこちらを見つめるが、ちょっと対応していられない。時雨さんの質問があまりにも直球過ぎてやばい。

 

「唐突にどうした? 時雨さんらしくないよ?」

『そうかな。キミと大河ちゃんを二人っきりにしてあげたのはボクなんだし、気になるのは当然じゃない?』

「行き帰りはいつも一緒だけど」

『行き帰りとはシチュエーションが違うでしょ? 手くらい繋いだのかな?』

「盗撮でもしてるのかなっ!?」

 

 そんな風に見透かせます?

 時雨さん、怖いんですけど。

 

『おや、当たりだった?』

「どうだろうね。ご想像にお任せするよ」

『Aまで行った、と』

「ご想像が頑張りすぎてるねっ!?」

 

 ……大河とはしてねーよ。

 いい加減キリがないので、ごほん、と咳払いをして話を終わらせに行く。

 

「じゃあ切るから」

『つれないなぁ……でも、ちゃんと送って行ってあげるんだよ?』

「言われなくても分かってる」

 

 言って、ぷつ、と通話を切断する。

 スマホをしまいながら深く溜息をつくと、大河が枯れた笑みを漏らした。

 

「お疲れ様です」

「ああ、本当に疲れた。とりあえず帰るか」

「ですね――あ、すみません。今日、買い出しに付き合っていただいてもいいですか? 食材とかを買っておきたくて」

 

 大河が遠慮がちにそう聞いてきた。

 その言葉に、少し嬉しくなる。以前なら、買い物に行くので送らなくていいです、とでも言われていただろう。

 

「もちろん。荷物なら幾らでも持てるから好きなだけこき使ってくれ」

「頼りがいがあって助かります。じゃあ行きましょうか」

「おう」

 

 歩き始めてながら、ふと気付く。

 今日は雫も先に帰ってるし、こうやって二人で帰るのは久々だ。

 三人が嫌なわけでも、二人の方がいいわけでもないけど。

 たまには、こういうのも悪くないと思った。

 

 

 ――ちなみに。

 何故か大河はのど飴を買いこんでいて、喉の調子でも悪いのかと心配したらすごい慌てられた。

 無理してる……わけじゃないよな?

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