【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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8章#46 Goodbye Youth

「だぁー! やっぱり負けた! っていうか、特別出場枠が強すぎんだよ!」

「くくくっ。残念だったね~」

「一瀬くんもまだまだってことよ。精進するといいわ」

「あんたらが大人げないだけだよね!?

 

 ミスターコンが終わり、冬星祭は有志発表の時間へと移っていた。

 結果は――入江先輩の優勝。俺も2位をとれたので健闘したとは言えるが、僅差と呼べるほどの差でもなかったため、どうしても完敗という言葉がしっくりきてしまう。

 

「大人げないとは失礼だなぁ。ボクたちだって勇気を出したんだよ?」

「そうよ、十瀬くん。私たちが羨ましいなら、あなただって好きな人とやればよかったわけでしょう? それこそ、うちの妹とか」

「あんたはシスコンなだけっすよね?」

「私の扱いが大概雑よね、あなた……」

 

 苦笑交じりに肩を竦めれば、呆れた溜息が返ってきた。

 入江先輩の言う通りだろう。

 二人がそうしたように、俺も恋を見つけられていたなら……ミスターコンはもっと違う結果になっていたと思う。

 

 だが、俺はそうしなかった。

 理由は明白だ。

 

「まだ胸を張って好きって言えないので。だから――そういう意味でも、今回は入江先輩に完敗ですよ。あの場であれだけ恥ずかしげもなく愛を囁くことなんてなかなかできませんから」

「遠回りに私を恥知らずだと揶揄していないかしら?」

「まさかぁ。尊敬六割、おちょくり三割ってところですかね」

 

 残りの一割は後ろめたさ。

 自分が情けなく感じて、ちょっとだけ目を逸らしたくなった。

 

 結局、偽物では本物に敵わない。

 だからこそ焦がれるほど欲しくなってしまった。

 

 美緒に対して抱いていて、他の誰かには抱けていない本物の恋心。

 

 どうすれば見つかるのかは分からないけれど、俺はそれが欲しい。

 

「ところでキミ。三人はどうしたの?」

「ああ、それは――」

 

 澪、大河、雫。

 あの三人は俺がミスターコンで月瀬と密着してるのを見て、へそを曲げてしまった――とかでは、なくて。

 俺が準優勝だと知ると、

 

『ま、相変わらずのクサさって感じ? 童貞臭くて私は愛してるけど』

『あれでときめくのとか、超限定的な女子だけですからねー? 自覚してくださいよっ?』

『ユウ先輩のかっこつけは、ごく限られた層にきちんと届いていますから。大丈夫ですよ』

 

 と、口々に慰めてるんだか貶してるんだか分からない声をかけてくれた。澪については、最後に『愛してる』ってつけても童貞臭いとかいう悪口がチャラになるわけじゃないと自覚してほしい。

 さて、この後仕事があるわけじゃない俺は、三人と有志発表の時間を過ごすつもりだったのだが……ここで、思わぬことを言われてしまう。

 

「なんか、用事があるんだってさ。舞台を見とけって言われたから……もしかしたらどっかの部活に助っ人を頼まれたのかもしれない」

「……キミってさ、やっぱり変なところで抜けてるよね」

「え、何が?」

「いい感じのことを言っていても、まだ十瀬くんはあの子たちのことを分かっていないってことよ」

 

 ぽん、と背中を押される。

 少しバランスを崩しそうになりながらも数歩前に進むと、ステージ進行を引き受けた如月の声が聞こえた。

 

「続いてお送りしますのは、『スリーサンタガールズ』さんたちによるスペシャルステージです。大切な人に向けた、心からの歌。どうかお楽しみください」

 

 ダサくて、そのまんまな団体名が告げられたかと思うと、ステージの幕が上がった。

 真っ暗な舞台。

 会場中の薄暗がりと馴染んで、彼女たちの姿が現れてしまうよりも先に、月明かりか星の煌めきのようなスポットライトが照らし出した。

 そこに立っていたのは――

 

 雫と澪と大河、だった。

 

 雫は、白いドレスを纏っていた。

 二人よりも母性的なその身体のラインは、ドレスによってありありと浮かび上がっていて。なのにいやらしさは一切なく、むしろクリスマスケーキのホイップクリームのような柔らかな印象を受ける。

 

 大河が着ているのは赤いドレス。

 凛としたその立ち姿も相まって、可憐な薔薇のようにも映る。胸元がやや開いたその恰好は大河らしくないと言えば大河らしくないが、しかし、立ち居振る舞いのおかげでかっこよさと表現するのがふさわしく見えた。

 

 澪は深緑の、透け感のあるドレス。

 長い髪は丁寧に編みこまれ、そのところどころに花で飾られている。艶やかなルージュやきゅっと下がる目尻が、大人っぽくて、色っぽい。妖美という言葉では足りない。魔女の魔力が滲んでいた。

 

「歌う前に、ちょっとだけ」

 

 マイクスタンドに手を触れながら、雫がそう言った。

 

「明日はクリスマスですね。まぁクリスマスと言うと、今日で終わりって空気になっちゃったりもしますけど……それでも! 明日はクリスマスです!」

 

 不器用に、笑って。

 澪と大河は雫を挟んで、優しく背中を押して。

 話は続く。

 

「でも同時に明日は、私たちのライバルの誕生日でもあるんです。どんなライバルだと思います? ――って、聞くまでもないですね。そうです。恋の、ライバルです」

 

 あまりにも直截な一言。

 でも、冬星祭特有の空気ゆえか、そもそもさっきまでも似たような有志発表がちょこちょこあったから、誰も怪訝な顔をしてない――なんて、いうのはあくまで予想で。実際には周りのことなんて気にしてる余裕がないくらい、俺は三人に釘付けになっていた。

 

「そのライバルは、私たちの好きな人の心をぎゅって掴んでて。でも、諦めるつもりはちっともないんです。だから今日のこのステージは、好きな人へのプレゼントであると同時に、そのライバルへの挑戦状だったりもします」

 

 雫は、そして澪と大河は。

 はっきりと俺を見つめて、言った。

 

「心を込めて『好き』を歌います。初恋になんて負けないって……そんな想いを込めて」

 

 音楽が流れ始める。

 照明の色が変わり、魔法がかかったように世界が変わる。

 

「聞いてください」

 

 誰もが知る曲名を口にして。

 三人は、歌い始めた―――。

 

「――っ……っ」

 

 元気のいいソプラノボイスが、キラキラ星みたいに瞬いて。

 楽しげでひと際伸びのいい声が、踊るように夜を紡いで。

 生真面目なアルトが、きちんとペースを守って進む。

 

 楽器を演奏するわけではなくて、たった三人の歌唱で。

 素人の域を特別に出るかと言えば、そこまでではないけれど。

 小さな身振りとか、表情の変化とか、ちょっと古めかしいアイドルみたいなその所作一つ一つが、奇蹟みたいに魅力的で。

 

 ごくごく、自然に。

 唐突さは一切なく、今フラグを立てたんだからいいだろと開き直るように、胸の奥から甘い熱が込み上げてきた。

 嘘だろ……?

 こんな、ありきたりな展開で?

 今まで過ごした幾多の時間も、貰った言葉も、向けてもらった笑顔も、全てがきっかけになりえたのに。現実はそういう日常の蓄積で、ありふれたことから恋が生まれて、育っていくのが当たり前なのに。

 

 こんなにも、はっきりと。

 世界が隠していた“何か”を見つけたみたいに、明確に。

 

「好きだ」

 

 こみ上げた想いを口にすると、まるで呪文のように、熱が形になっていく。

 これまで自覚してなかったわけじゃ、ないはずだ。

 

 なのに――。

 

 曲が終わる。

 拍手喝采が熱病みたいに広がる。

 ドレスを着たままの三人はお辞儀をして、舞台袖に捌けていく。きっともう少し経てば、三人は俺のところにやってくるはずだ。だって、全員と3分の1を結ぶと約束したから。

 でも、

 

「最低だろ、そんなの」

 

 俺はどうしようもなく恋に落ちてしまった。

 しかもその相手は、()()()()()()()()だった。

 

 雫も、澪も、大河も。

 三人への恋心が同時に、形になってしまった。

 

 たくさん傷つけて、長い間待たせて、それでもあの三人は一途に想ってくれた。

 だからこそせめて最後は誠実に在りたいと、一途でありたいと願ったのに。

 

「どうして…俺は――」

 

 欲しかったのは本物の恋心。

 でも、こんな不純で浮気な気持ちじゃない。

 だから誰か、俺の鼓動を掻き消してくれ。

 うるさくてしょうがない恋の音を、壊してくれ。

 

 そう願ったときだった。

 

 ――ギュィィィィィン

 

 聖夜を切り裂くそのノイズが、俺の心臓を突き刺した。

 ギターの音だ、と気が付いたのは顔を上げてから。

 早まっていく鼓動一音一音をちゃんと斬り殺してくれるみたいに、信じられないほどその少女の持つギターは超速でノイズを吐き出していた。

 

 と、思ったのも束の間。

 次の瞬間、今度は無音が世界を暗殺する。

 静寂(ゼロノイズ)を踏みつけるように、彼女の声はいかなるBGMも伴わずに突き抜けた。

 

「――っ」

 

 マイクさえ通さず放たれたソプラノボイス。

 その声がなぞるのは、今しがた三人の歌姫が奏でたばかりのクリスマスソング。

 そう分かっていながら、その魔女はワンコーラス分、きっちりと上書きした。まるで挑戦状を受け取ったと言わんばかりに。

 

「聴いてください――『Goodbye Youth』」

 

 前髪を掻き上げた彼女は、ようやくマイクをオンにして、曲名を告げた。

 今のアカペラは、あくまで注目を集めるためのものだったらしい。

 聴いたことのないメロディーが、砂嵐みたいに聞き手の心を誘拐する。

 

 だからもう、俺は自分の鼓動に耳を傾けずに済んだ。

 

 どうか音が止まっても、この気持ちを隠し通せますように。

 認めてはいけないこの心音を、ノイズの奔流が喰らってくれますように。

 

 強く、強く祈った。

 

 

 

 

 

「――以上。二年C組、月瀬来香でした」

 

 

 ◇

 

 欲しいものが簡単に見つかれば、誰も苦労はしない。

 サンタクロースに頼めばいいのだから。

 もしも貰えないのならそれは、サンタクロースがいないのではない。

 欲しいものを本当に欲しいと望んでいないからなのだ。

 

 けれども――。

 見つかった“それ”を欲しがれば悪い子になってしまうと気付いたとき、人はどうすればいいのだろう。

 

 

 

“Good Youth”End

Next chapter....“Heartbeat Songs”

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