【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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9章#08 父親

 SIDE:友斗

 

 人生二度目の恋に落ちて、初めての朝がやってきた。

 12月25日。

 恋をすれば世界が変わる。蓋し至言だと思わずにはいられない。絶対に認めてはいけないし、バレてもいけないが、俺は雫と澪と大河の三人に恋をした。そうして目を覚ますと、なんだか一つ屋根の下で眠っていることが途端にイケナイことのように思えてしまう。

 

 イケナイこととか言い始めたら、もっとダメなときはあったはずだ。

 それこそセフレと後輩との三人暮らしの方が酷い。間違いの一つや二つ起きてもおかしくないし、むしろ起きない方が間違いな気がするし。

 

 それに比べれば、今はどうだ。

 クラスメイトと後輩二人と俺。計四人で一晩を共にしているだけで、しかも部屋は同じではない。別にちっとも問題なんて――

 

「――ないって思う時点でズレてるんだよなぁ、俺」

 

 部屋に置いた鏡を見ながら、ぼんやりと呟く。

 男1・女3で一つ屋根の下とか、問題大ありである。

 俺たちはもう子供じゃないのだ。澪とは何度もシた。雫と大河も、おそらくその手の知識はそれなりに持っているはずだ。日本の性教育が遅れているとはよく言われるが、それでも最低限のことは教わるはずだし。

 

 俺たちは、できてしまうのだ。

 シようと思えば、できる。昨晩だってちょとヤバかったし。

 ならばこそ、自制心を強く持たなければならない。好きだから()る、では猿と変わらないのだから。

 

「よし、こんなもんでいいか」

 

 ということで、朝5時。

 昨日寝るのが遅くなってしまった割に、今日はびっくりするほど目が冴えている。寝ぐせがついたままあの三人と会ったら……と自意識過剰になって、ひとまず鏡で直していた。

 まぁどうせ、シャワーは浴びるんだけどさ。

 澪は早起きしてランニングに行くかもしれないし、念のため、な。

 

 そうして準備を終えてリビングに向かうと、確かにそこには人影があった。

 但し、澪ではない。雫でも大河でもなくて。

 今の俺にとって、唯一肉親と呼べる相手だった。

 

「父さん……おはよう」

「あっ、友斗か。おはよう」

 

 父さんは仏壇の前に座したまま、こちらを振り返る。アンニュイなその表情を見て、何をしていたのかを察した。

 

「美緒と話してたんだ?」

「まぁな。誕生日くらい、きちんと話したくて」

「そっか」

 

 12月25日は神様が生まれた日、らしい。

 でもそんな伝聞で知った神様の誕生日より、美緒の誕生日の方が俺にとっては大切だ。忘れているわけがない。

 

「友斗は……もう、話したみたいだな」

「日が代わってすぐに。あの子のサンタは俺がやりたかったから」

 

 日が替わってすぐ、俺は仏壇に美緒への誕生日プレゼント兼クリスマスプレゼントを置いた。せめてそれくらいはしたかったから。

 そっか、と言うと、父さんは仏壇に置かれたマスコットを見遣る。ダサくてトナカイのぬいぐるみだ。父さんの頬が緩む。

 

 俺は軽くぱしゃぱしゃと顔を洗ってから、父さんの隣に座った。

 仏壇の前に、二人で並ぶ。

 線香に火をつけ、線香立てに差す。かーんと音を鳴らしてから、手を合わせた。もう毎日のようにやっていることだから慣れたし、慣れすぎてちょっと雑になっている部分もある気がする。でもこれくらいは大目に見てくれるだろう。

 

 美緒に話しかけたりはしない。

 だってもう、美緒はここにいない。サンクスレターの送り主の中で生きて、生き抜くのだと思う。

 

 だからその代わりに、そのサンクスレターの送り主に想いを馳せた。

 好きな人がいる、と言っていたのは二通目の手紙だっただろうか。あれからずっと、手紙にはその想い人のことが書かれていた。今年の4月にも同じ人を想っていたようだから、かなり長い片思いになるはずだ。

 

『私が好きな人の隣には、別の素敵な女の子がいます』

 

 そう綴られていたのは、3年ほど前のサンクスレターだ。

 

『私なんかでは敵わないって思います、それでも、この一瞬を大切に。片思いできるだけでも幸せだと知っているから、私は頑張ります』

 

 実を言えば、冬星祭の脚本は彼女からの手紙を参考にしている。

 全身全霊で片思いを続ける彼女に報われてほしくて、せめて俺の脚本では、と思ったのだ。まぁキャラクターの設定はだいぶ妄想が入っているので、彼女と男のこの距離があんな感じなのかは分からないが。

 

 なあ、顔も知らない手紙の送り主さん。

 君はどうやって、その気持ちを隠し続けてるんだ?

 君はどうしてそんな風に片思いを続けられるんだ?

 

 ――なんて、誰かに答えを求めても意味はないのだと分かっている。

 

 これは俺の人生で欲望で、業で恋だ。

 だから向き合うも向き合わないも、俺が責任を負わなければいけない。この荷物を誰かに任せることなんて、あっちゃいけないんだ。

 

「ふぅ……父さん、まだ時間ある?」

「ん……そう、だな」

 

 目を開け、隣で微笑んでいた父さんに声をかける。

 時計を見てから父さんは頷いてくれた。

 

「じゃあ朝食だけでも、食ってけよ。朝からチキンとか食うのもキツイだろ」

「そうだな……頼むよ」

 

 たまには、こういうのだっていいはずだ。

 俺はキッチンに向かった。

 

 

 ◇

 

 

「料理、上手くなったんだなぁ……」

 

 俺が作った朝食を見て、父さんは開口一番にそう言った。

 

「上手くって……大したもん作ってないだろ」

 

 焼き鮭と味噌汁と出汁巻き玉子。鮭に関しては微妙に余った分を使ったから量としては物足りないし、出汁巻き玉子だって澪が作るのとは比べるべくもない。

 苦笑しながら席につくと、ふるふると父さんは首を横に振った。

 

「でも、父さんと二人だった頃は作れなかったもんだろ?」

「まぁ……それはそうだな。料理、教わったから」

「そりゃ羨ましい。美少女のお料理レッスンか」

「義父の立場でそれ言うのは割かし微妙だからやめような」

 

 いただきます、と二人で言って食べ始める。

 ふむ……どれも、それなりによくできたな。あの三人も満足してくれるだろう。鮭は二人分しか焼いてないから二人が起きたら別のものを作らなきゃだけど。

 

「ところで友斗」

「ん?」

 

 味噌汁を飲んでいると、父さんが声をかけてくる。

 父さんはやや気まずそうに言った。

 

「今日って、泊まっていってるんだよな?」

「泊まって……ああ、大河のことか。うん、泊まってるよ」

 

 大河のことは、当然だが父さんや義母さんには伝えている。

 雫の親友であり、俺や澪にとっても可愛い後輩であること。一人暮らししているからたまにうちに泊まっていってもらいたいこと。

 その辺のことを話し、きちんと週一か週二くらいのペースで泊まることの了承を得ている。親に相談せずそんなことを決めていいわけないしな。

 そうか……と呟く父さん。

 何か思うところがあるのだろうか、と訝しむような目を向けると、父さんは小声で答えた。

 

「友斗は……三人のうちの誰かが好きだったりするのか?」

「ぶふぅぅっ」

「あ、も、もちろん好きって言うのは恋愛的な意味なんだが」

「げほっ、分かってる、げほげほっ、から。わざわざ言わなくていい」

 

 唐突なことを言われて、咽てしまう。味噌汁を飲んでも飯を食ってもないんだけどな。けほけほと吐き出すように咳をしてから俺は口を開いた。

 

「つーか、なんでそんなことを?」

「いや……父親として、聞いておくべきかと思って」

「デリケートな思春期相手に口にしていい質問じゃないから、それ」

「ってことは、デリケートな状態なのか?」

「誘導尋問やめい。あくまで一般論だから」

 

 一般論だし、具体論でもある。

 が、三人に言えないことを父さんに言っていいわけもない。父親に「三人のことが好きになっちゃった」なんて相談できるわけないし。

 この話はやめだ、と味噌汁を飲むことで伝えると、父さんは苦笑した。

 

「まぁ、俺に言わなくてもいい。ただ……前に言ったこと、覚えてるか?」

「前に言ったこと?」

「義理の兄妹だからって理由で我慢したりしなくていい。オタク脳で現実的じゃないって思われてしまうかもしれないけど……父さんと義母さんは、オタクなんだ。周りにどう思われようと父さんたちは祝福するし、守るよ」

「…………うん」

 

 ただ、と父さんは告げる。

 

「誰かが独りになってほしくはないんだ。雫ちゃんでも、澪ちゃんでも、他の子でも、それは同じだよ」

 

 その声は、かつて旅行先で聞いたのとは別の響きを伴っていて。

 けれど父さんの意図が変わらないのなら、変わっているのは聞き手の方なのだろう。

 

「分かってるよ。絶対に独りにはさせない」

「ならいいんだ」

 

 話が終わり、父さんも食事を再開する。

 その後は学校の話だったり年末年始の話だったりをした。

 そうして久々の親子水入らずが終わりかけていたところで、ああそれと、と父さんが思い出したように言う。

 

「美緒はまだしも、あの子たちにもああいうことをやるのは気障すぎて痛いと思うぞ」

「………………うっさい。仕事がんば」

 

 まぁそうだよね、父さんと義母さんも澪や雫へのクリスマスプレゼントは用意してるもんね?

 俺は恥ずか死にそうになって、父さんを見送った。

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