【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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9章#09 幸せな拷問

 父さんが仕事に行ってから、約三時間が経った朝9時。

 テレビでは、学校がある日には見ることのできない時間帯のニュース番組をやっている。クリスマスの話が三割、年末の話が二割ってところなのが25日らしいと言えよう。

 最高気温はギリギリ二桁。暖房をつけた部屋はほかほかと温かく、外に出るのが億劫に思える。

 

 そんな今日、俺は――正座していた。

 より正しく言えば、正座させられていた。

 誰に?

 あえて言おう。好きな子たちに、と。

 

「さて。これから裁判を始めようと思います。それではまず、検察側。被告人の罪状を述べてください」

 

 クソ真面目に茶番を進行するのは大河。

 雫に渡されたブルーライトカットの眼鏡をつけているせいか、いつも以上に真面目っぽさが滲み出ている。どうやら裁判官のつもりらしい。

 それにしても、何故この茶番を大河が……? と思っていると、雫が立ちあがり、畏まった口調で話し始めた。

 

「はい、裁判官。被告人の犯行は12月25日未明。私とお姉ちゃんの部屋に忍び込み、とあるものを置いていきました」

「とあるものとは何でしょうか」

「これです」

 

 雫は、三人分のマスコットを取り出した。キーホルダー型になっているそれは、ぐらんぐらんと宙を揺れる。

 ダサくてしょうがないその人形を見ていると、父さんが残していきやがった恥ずか死さがふつふつと蘇ってきた。裁判じゃなくて拷問だぞこれ。

 

「このダサ可愛いトナカイの人形が私とお姉ちゃん、そして大河ちゃんの枕元に置いてありました。ラッピングには、『サンタより』と」

「なるほど。つまり被告人こそがそのキーホルダーを置いていったサンタクロースである、というわけですね」

「その通りです♪」

 

 ぐぬぅ……消えてぇ、消えてぇ……!

 っていうかこれ裁判なんだよな? もしかして弁護人は澪なのか……? 不安要素すぎるんだけど。

 と思っていると、

 

「弁護人……は、いないようなので証人喚問に移ります」

「検察の横暴だぁ!?」

「……ユウ先輩がどうしてもと言うのでしたら、澪先輩に弁護人を任せても構いませんが」

「…………なしでお願いします」

 

 澪に弁護人をやられる方が無理だ。俺は項垂れるように頷いた。

 では、と大河は話を進める。進めなくてもいいけど進める。

 

「証人喚問に移ります。証人、前へ」

「了解」

「澪が証人なのかよっ!」

「ま、ね」

 

 不安要素しかなかった。裁判擬きは進んでいく。

 

「検察側からの証人喚問を始めてください」

「はいっ! それでは証人にお聞きしたいと思います。証人は本日未明、部屋に入ってくる誰かを見た。これは間違いありませんか?」

「うん、間違いないよ」

「その人物の背恰好について、分かることをお願いします」

「身長は170cm前後かな。それなりに体格はよかったと思う。成人男性かそれに近い人だろうね」

「なるほど。つまり、被告人だと考えて間違いありませんね?」

「間違いないと思うよ」

「っ、ま、待て! それには異議があるぞ」

 

 びしっと手を挙げると、大河がこちらを見遣った。

 

「異議ですか?」

「ああ。父さんも、二人の部屋に入ったはずだ。父さんと義母さんからのプレゼントを部屋に置いたらしいからな」

「語るに落ちたね」「語るに落ちましたね」「瞬殺でした」

「えっ何を――ああ~!!」

 

 やべぇ、当然のように『父さん()』とか言ってしまった。雫の言う通り、瞬殺すぎる。ここまで簡単にゲロる犯人もなかなかいないだろう。

 ぐぬぬ……。

 

「ああそうだよ! 部屋に忍び込んだのは俺です悪かったな! でも誓って、変なことはしてない。だから許せ!」

 

 いやね、俺も女子の部屋に入るのはどうかなぁって思ったんだよ? でもマフラーを貰ったわけだし、折角買っちゃったしで、引くに引けなかったのだ。

 それに、多分普段の俺ならそういうクサいことをやっていたと思う。三人にこの気持ちを隠すのなら、なるべくこれまで通りに振る舞うべきだろう。だから……以前から考えていたサンタ作戦を決行するに至った。

 俺が開き直って言うと、はぁ、と雫が溜息をついた。

 

「あのですね友斗先輩! 私たちが言ってるのはそこじゃないんですよ!」

「そこじゃない……?」

「そうですよ。ユウ先輩が寝込みを襲うなんて思ってません。もしそうなら、そもそも一つ屋根の下で眠らないです」

「あっ、そ、そうか」

 

 その信頼は、それはそれで胸を抉るんですけど。

 でも、じゃあ俺は何故にこんな風に言われてるんだ?

 首を傾げると、あのね、と澪が呆れたような声で言う。

 

「私たちが稼いだポイントを、たった一晩で取り返すのやめてくれない?」

「は?」

「だ・か・ら! プレゼントくれた後にサンタのフリしてサプライズとか卑怯だから! 不意打ち食らって今日ランニング行くのが遅れたんだけど?」

「っっ、んなこと言われてもな」

 

 ポイントって、つまりなんだ。

 三人は喜んでくれてるってことでいいのか?

 

「こほん……それでは判決を下します」

「あ、まだ裁判の体続けるんだ」

「当然です。ということで被告人を……えっと、雫ちゃん、なんだっけ?」

「『三人でありがとうの刑』だよ!」

「それ、刑なのか……?」

 

 ただのありがとうだよなそれ。

 そんな俺の言葉をスルーし、三人はこちらを向いて言ってくる。

 

「友斗先輩、ありがとうございますっ! そーゆうとこも大好きです」

「ありがとうございました、ユウ先輩。ありきたりな言い方ですけど……とてもときめきました」

「友斗、ありがとね。やってることは割と痛いけど、大好き」

「~~~~っ!?」

 

 ……十二分に刑になった。

 

 

 ◇

 

 

「――ってことくらいですかね」

 

 同日、昼。俺は入江先輩に今朝の一連のことを話していた。もちろん俺の胸の内や最後の三人のお礼については言っていない。恥ずかしくて言えない。

 まぁ本当のところは全部恥ずかしいから言いたくなかったのだが……入江先輩に睨まれてしまうと、話さないわけにはいかなかった。

 

 雑踏の中、トレンチコートとハットでめちゃくちゃエレガントに決めた入江先輩は、俺の話を聞き終えるとはっきりと言った。

 

「羨ましいからWEB小説投稿サイトでスコップしても一生当たりを引けない呪いにかかりなさい」

「地味にオタク的に痛い呪いやめてもらっていいですか?」

 

 あと、そのエレガントさでWEB小説投稿サイトとか言うのもやめてほしい。あそこはもっと日陰者が使うところだから(ド偏見)。

 だいたい、話せって言ったのはそっちだろうに……。

 俺がジト目を向けると、入江先輩は肩を竦めた。

 

「あなたね。私は時雨と同居していなければ、デートにだってまだ行ったことがないのよ? 呪いをかけるくらい許されて然るべきじゃないかしら?」

「いや、入江先輩たちは昨日全校生徒の前でキスしてたじゃないですか」

「あれはあれ、これはこれ、よ。……というか、そのニヤニヤした顔は何かしら? 私のこと、からかっているつもり?」

「つもりっていうか、実際からかえてます――痛っ!?」

 

 ぐりり、とつま先を踏みつけられる俺。

 入江先輩の眼力がガチなのと踏みつける力が強いのとで、じんわり涙が出てくる。これ、俺が泣いたら『泣ーかせた泣かせたっ』って言えませんかね? 言えない? あっ、そう……。

 

「調子に乗るんじゃないわよ。言っておくけれど、私はまだあなたを義弟にすると認めたわけじゃないんだから」

「……さいですか」

 

 ずんと気持ちが沈んだのは、そうしなければ浮ついた恋心を隠せないと思ったからだ。

 入江先輩は苦笑交じりの相槌に怪訝な顔をする。

 彼女に気取られぬよう、俺はへらっと笑って続けた。

 

「ま、遠い親戚になることは間違いないですけどね。戸籍上はともかく、実際の関係的には」

「~~っ、だからっ! その程度、か、からかいになんてならないんだからねっ!」

「急にツンデレ風味を出さないでもらっていいですか!?」

 

 この先輩、実は時雨さんにデレデレなポンコツ美少女では?

 堪えきれずに吹き出してしまうと、入江先輩はぷいっとそっぽを向いてしまった。

 

「別にまだ決まったわけじゃないもの。十瀬君も知っているでしょう? うちは少し面倒な家でね。同性愛なんて認められるかどうか」

「それは……認められなくてもいいのでは?」

「そんなわけないでしょう? 面倒でも、家族は家族。きちんと祝福してほしいもの」

「…………なるほど」

 

 確かにそうだな、と思った。

 もちろん、恋なんて当事者が納得できていればそれでいい。けれど周囲に祝福してほしいから、結婚の報告に行ったり、式を開いたりするんじゃないだろうか。

 鋳型に嵌った幸せでなければ、祝福してもらえない可能性もあって。

 それでも挑もうとする入江先輩は眩しい。

 

「じゃあ、年末年始に報告するわけですか」

「えぇ、まあね。といっても年始早々は流石に忙しいから、日程を調整中なのだけれど」

 

 だから、と入江先輩が続ける。

 

「あなたもせいぜい精進しなさい。リベンジならいつでも受けて立つわ」

「ヤですよ、絶対」

 

 リベンジなんてしたいと思わないくらい、遠い背中になってしまった。

 空の月に手を伸ばしはしても、そこに辿り着こうとする者はごく限られている。俺は限られた側ではなく、ただ手を伸ばして満足するだけの奴だった。

 多分、そういうことなのだと思う。

 

「……で、いつまで私たちはこうして話して待っていなければいけないのかしら?」

「あー。あの人、早くも遅くもなくジャストで時間厳守な人なので。ぴったりになるまでは来ないですよ」

「あっ、そう……時雨のそのこだわりは何なのかしらね、一体」

「それ、割と長い付き合いの俺でも分かってないです。付き合うなら覚悟しておいた方がいいですよ」

「その元カレ面、心底腹立つわね」

「してないからねっ!?」

 

 ……こんな風に、恋心を包み隠さずいられたらよかった。

 浅ましい気持ちを抱きながら、俺は早め早めに行動するタイプの入江先輩と共に時雨さんを待っていたのだった。

 待ち合わせ時刻まであと10分。

 時間ぴったりにくれば、こんな思いをせずに済んだのだろうか。

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