【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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9章#10 太陽と月

「やぁ二人とも。お待たせしたね」

「ええ、本当に待ったわよ時雨。今度からはせめて5分前には行動しなさい」

「ボクだってしているつもりだよ。それでも不思議と、時間ぴったりになるんだ」

「世界の修正力かよ……」

 

 時雨さんは案の定、時間ぴったりに現れた。

 入江先輩が眉をひそめて言うが、時雨さんはひらひらと躱す。楽しそうに僅かだけ動く泣きぼくろが可愛らしく、ああ二人は本当に仲がいいんだな、とちょっぴり嬉しくなる。

 それはそれとして、入江家は戦闘民族かなんかなんですかねぇ。大河といい、入江先輩といい、出会って速攻でバトらないでいただきたい。

 

 つーか、入江先輩も時雨さんも目立つんだよな。

 入江先輩の華やかな金髪と、時雨さんの幽玄な銀髪。それだけでも目立つのに、どちらもとびきりの美少女なのだから手が負えない。さっきから通行人がチラチラこっちを見てくるし。

 

「あー、じゃあ二人とも。こんなところで待ってても寒いだけなんで、そろそろ行きましょうか」

「そうね。そんな寒いところで待つはめになったのは時雨のせいだけれど」

「ボクと会うのが楽しみで早めに来ちゃったのが悪いんだよ? 惚れた弱みだね~」

「っ、あなたねぇ……っ!」

「はいはい、言い争わないでください! あんたらに挟まれると後輩の俺の立場がマジでないんで!」

 

 一学期までは、校内の『可愛い女の子ランキング』1位と2位だった二人なのだ。俺的厄介な先輩トップ2でもあるし。

 これ以上話していても居た堪れないので、ひとまずその場を移動することにした。

 

 と言っても、今日はどこかに行こうと決めているわけではない。

 諸々のお礼を兼ねてクリスマスプレゼントを渡そうと連絡したところ、三人でこうして話そうということになったのである。

 特に入江先輩には頭が上がらないため、俺はこうして渋々馳せ参じたわけだ。雫たち三人とあのままずっと家にいるのもヤバかったしな。

 

「ハンバーガーが食べたいな」

 

 時雨さんのそんな思いつきによって、俺たちは近くのハンバーガーショップに向かうことになった。

 昼時ということもあり人もそれなりにいたが、なんとか席を確保する。適当に注文を受け取って席につき、ふぅ、と一息ついた。

 

「男の子って結構食べるのね」

「え? あー、まぁ。でも俺もそこまで大食いな方じゃないですよ。っていうか、入江先輩も結構食べるじゃないですか」

 

 俺はダブルチーズバーガーのセットとハンバーガーの単品を二つ。入江先輩はベーコンレタスバーガーのセットとチーズバーガーの単品、それからサラダだ。入江先輩も人のことは言えないと思う。

 

「まぁね。少しやることがあって朝食を軽めにしたから」

「なるほど」

「というか、一ついいかしら」

「……なんとなく言いたいことは察してますが、どうぞ」

 

 発言権を譲るように手で合図を出して肩を竦めると、入江先輩は視線を時雨さんの方にスライドさせた。

 時雨さんは上機嫌でナゲットとサラダを広げていた。

 その手にハンバーガーはない。

 

「時雨。あなたがハンバーガー食べたいって言ったのよね?」

「うん、そうだね。けどキッズセットのおもちゃが魅力的だったから」

「あのねぇ……!」

 

 苛立ちのこもった溜息と共に、入江先輩はこめかみに手を添える。

 が、やがて時雨さんに何を言っても無駄だろうと悟ると、俺に愚痴るように言った。

 

「ねぇ一瀬くん。時雨、この前の件でようやくちゃんと生きるようになったからって幼児退行しつつあると思わない?」

「否めないですね」

「ちょっと二人とも酷いよ!? 流石のボクもそこまでじゃないって」

「ならただ狂っているだけ……?」

「狂ってもいないと思うけどなぁ」

 

 時雨さんは不服そうに言ったかと思うと、満足げにキッズセットのおまけのおもちゃに目を落とす。

 ゆるいマスコットのグッズらしいそれは、確かに大人でも欲しくなりそうではある。キッズセットと言いつつも大人でも頼むと聞くし、別に特別なわけではないと思う。

 

 ただまぁ、時雨さんが狂ってるのは否定できない。

 欲望に忠実って意味では澪と似ている部分はあるだろうが、澪よりよほどクレイジーだ。いつか見た映画と違い、刹那主義な部分は普通に時雨さんの素なのだ。

 ま、いいや。

 とりあえず、いただきます、と言って食べ始める。

 

 味は……って、食レポすることもないか。チェーン店のハンバーガーだしな。もぐもぐと食い進め、コーラを飲み、ジャンクな時間を過ごす。この前のドライブでもハンバーガーだったよな、と思い出したら、可笑しさがこみあげてきた。

 ファンタジーで現実離れした二人とのファーストフード。まったく、人生は何が起きるのかは分からない。

 

 一通り食べ終えたところで、俺は本題に入ることにした。

 鞄から二人分のプレゼントを取り出す、

 

「入江先輩、これ。いつもお世話になっているお礼を兼ねてってことで、受け取ってもらってもいいですか?」

「あら、ありがとう。開けてもいいかしら?」

「もちろんです。まぁ、大したものではないんですが」

 

 入江先輩は受け取ると、器用にラッピングを剥がして中身を取り出す。何となく視線が爪先に向かい、らしいネイルだな、とちょっと思った。

 

「おお……これはアロマキャンドル?」

「そうですそうです。好みもあると思うんですけど、とりあえず一番人気のものを選んだので」

「なるほどね」

 

 入浴剤とアロマキャンドルは女子へのプレゼントとしては割と安パイなアイテムだろう。ハンドクリームとかも鉄板ではあるが、入江先輩がその辺を欠かすとも思えないしな。御用達のアイテムがありそう。

 入浴剤よりはアロマキャンドルの方が長持ちするだろうってことで、アロマキャンドルを買った。選ぶ時間はなかったのでおすすめの品にしたけどな。

 

「年末年始は何かと気苦労が多いでしょうし、よかったら少しでもリラックスしてください。大河と二人で映画を見ながら使う、とかもありでしょうし」

「なるほど。確かにそういうのもありね。十瀬くんからのプレゼントだって言えばあの子も来るでしょうし」

「いや、大河はそこまでチョロくないんじゃ……」

「そうかしら? あの子はそれくらい、十瀬くんのことが好きだと思うけれど」

「うぐっ」

 

 からかい半分、真面目半分といった感じで言う入江先輩。今はその辺に触れられると弱いので、つい声が詰まってしまう。

 入江先輩は、ニヤリと笑い、頬杖をついて聞いてくる。

 

「一瀬くんは大河のこと、どう思ってるの?」

「……一か十かはっきりしません?」

「誤魔化すとやましいことがあるように聞こえるわよ」

「誤魔化しとかじゃなくて普通に俺の名前は百瀬なんですよねぇ……」

 

 チッ、許してはくれないか。

 女王様の視線を一身に受けた俺は、はぁ、と溜息をつく。

 

「前々から言ってる通りですよ。大切な人で、可愛がっている後輩です」

「恋愛対象としては?」

「っ、み、魅力的な妹さんなんじゃないですかね。一生懸命ですし」

 

 にへらっと笑って誤魔化す。

 好きじゃない、と嘘を言うのは躊躇われてしまうから。

 本当のことを言わないことは嘘ではない。チープな常套句だけれど、決して間違いじゃないはずだ。

 

「昨日のあのステージを見て、何も思わなかったの?」

 

 入江先輩は、試すような口調で言ってくる。

 この人も、あの三人に協力したんだっけか。なら当然、三人が何のためにステージをしたのかも分かっているはずだ。『好き』の矢印の行き先が俺であることは、俺の知り合いなら容易く気付けるのだろうけれど。

 

「…………頑張る女の子は、魅力的ですよね」

 

 頼むから許してくれ、と言外に伝える。

 口にしたら終わりだと思うのだ。好き、と告げてしまえばもう俺は止まれなくなる気がする。

 入江先輩はじっと俺を見つめると、そう、と短く呟いた。

 

「まぁ今はそれでもいいわ。姉が無理に迫ることでもないしね」

 

 ただ、と言って、入江先輩は続ける。

 その表情は、どこか儚げだった。

 チクリと胸が痛む。そんな俺をよそに、入江先輩はバッグから細長い箱を取り出して渡してきた。

 

「これ、受け取っておきなさい」

「いいんですか……?」

「当たり前でしょう? 後輩に貰われっぱなしにしておくほど腐ってないわ。大河も世話になっているみたいだし」

「そうですか……ありがとうございます」

 

 断わりを入れてから開けると、多色ボールペンが出てきた。

 クリスマスのクの字もないような実用感。ま、後輩男子へのプレゼントなら妥当だろう。普通に便利なので嬉しいし。

 

「ちなみに。彼女さん的に、俺が時雨さんにプレゼントを渡すのはOKですか?」

「……私のこと、嫉妬深い女だとでも思っているのかしら?」

「違うんですか?」

「違うわよ! こそこそされる方が浮気みたいで腹立たしいわ。どうせ渡すなら早く渡して」

「ふふっ。やっぱり恵海ちゃん、ヤキモチやきさんだね」

「~~っ! この悪女!」

 

 時雨さんの一言で顔を真っ赤にし、不服そうにむくれる入江先輩。

 うーん、確かに今のは時雨さんが悪女って感じだ。ってか、ミスターコンのときからそんな感じがする。

 って、そーでなくて。

 

「じゃあ、時雨さん。色々お世話になってるお礼も兼ねて、だけど」

「うん……ありがとう」

 

 俺は時雨さんに用意したプレゼントを渡す。

 時雨さんはラッピングされたそれをまじまじと見つめ、開けてもいい?と尋ねてきた。首肯すれば、丁寧にラッピング紙を剥がす。

 

「これは眼鏡、だよね」

「うん、ブルーライトカットのね。俺と雫は持ってるんだけど、割と使い勝手がいいからさ。時雨さんもパソコン使うこと多いだろうし、ちょうどいいかなって」

「ふふ、そうだね。ありがとう」

 

 入江先輩が言っていたことが正しければ、だけれども。

 時雨さんは書くことを楽しんでいる。初めは美緒に物語を捧げたかっただけなのかもしれない。だが、それはあくまできっかけだ。『壬生聖夜』は今や時雨さんにとって大切な“何か”になっている。

 

「お返しは、どうしようか。本当は『三つだけどんな願いでも叶えてあげるよ』とかにしようと思ってたんだけど、それだとボクの隣の可愛い女の子が妬いちゃいそうなんだよね」

「だろうね……」

 

 その人は今、テーブルの下で俺の足を踏んでるよ。

 

「だから、こうしよう。一度だけボクと恵海ちゃんがキミに力を貸してあげる」

「なにそれ。ゲームの助っ人キャラか何か?」

「そんな感じに捉えてくれてもいいよ」

 

 俺があげた眼鏡を掛け、少し大人びた笑みで時雨さんは言う。

 

「キミが本当に欲しいものができたとき――もしもキミの手だけでそれを掴み切れないなら、ボクらがキミに手を貸すよ」

「……そうね。そのときが来たら、時雨に免じて私も力を貸してあげるわ。もちろん、相応の試練は与えるつもりだけれど」

 

 仲良しの月と太陽は、遥か彼方で輝いている。

 空に向かって漕ぐブランコみたいに、いつまで経っても辿り着くことはないんだろうな、と思った、

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