【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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9章#12 ハーレムエンド

 SIDE:友斗

 

 入江先輩と時雨さんにクリスマスプレゼントを渡し終えると、俺は初デートに出かけるらしい二人を見送った。

 特に寄るところもないので帰ろうと思ってRINEをすると、雫から『もうちょっと外で時間潰してきてもらえますか?』というメッセージが届く。最近の三人は、こんな感じのことが多い。冬星祭の有志発表が理由だと思っていたんだが……もしかして、他にもあるのだろうか。

 

 しばらく適当に外で過ごしてから、昼過ぎに家に帰ることにした。

 

【しずく:お昼作ってあるので、食べずに帰ってきてだいじょーぶですよ!】

 

 とのこと。

 クリスマスプレゼント関連での出費がかさみ、なるべく外食は避けたかったため、正直なところ助かる。

 ……とでも言っておかないと、手作り料理を食べられる喜びを噛みしめそうになるからいけない。

 

「ただいま」

「おかえりなさいっ、友斗先輩っ♪」

「お、おかえりなさい」

「おかえり」

 

 家に帰ると、三人が揃って出迎えてくれた。

 しかも、三人とも俺が家を出る前よりも化粧に力が入っている気がする。普段ならくだらないジョークの一つでも飛ばすところなのに、三人の可愛さに目が行って、頭が上手く回らなかった。

 

「ご飯、食べてきてないですよね?」

「まあな。作ってくれてるって言われたし。……食べてきた方がよかったのか?」

「いえいえー! そうじゃなくて……」

「友斗に話したいことがあるの。食べながら、話したくて」

 

 話したいこと。

 そう告げる澪――いや、三人――の表情はとても真剣で、身構えそうになる。

 告白されるのではないか、と。

 ここで一人を決めろと言われるんじゃないか、と。

 仮にそう言われても、俺は何一つ文句が言えない。冬星祭で三人はあれだけのステージを見せて、俺にラブレターを送ってくれたのだから。

 

「…………分かった。食べながらでいいんだよな?」

「ん。大丈夫。っていうか、お腹空いたから先に話すのとか選択肢にないし」

「澪先輩」「お姉ちゃん」

「なあ澪。二人が残念そうにお前を見てるんだけど大丈夫か?」

「……こ、小粋なジョークだし。別にちょっとくらいお腹空いたの我慢できるし」

 

 あ、さしもの澪も雫にまで冷たい視線を向けられるとばつが悪くなるらしい。

 シュンとした表情が愛らしくて、自然と頬が緩む。

 

「まぁ、俺も腹減ってるしな。食べながらでいいなら、食べながらで」

 

 どうか、食べながらで済むような軽い話題であってくれ、と。

 そう願ってしまう俺は、ものすごく卑怯な男なんだと思う。

 

 だってそうだろ?

 三人への想いを抱えているくせに、そのうちのどれかを選ぼうとはしていない。

 選びたくないから、隠そうとしている。

 

 ――どうか、ずっとこのままで。

 

 季節外れの短冊をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てるように、俺は三人に聞こえないように溜息を吐いた。

 

 

 ◇

 

 

 お昼に作ってくれたのは、カツ丼だった。

 一般的にカツ丼と言われて思い浮かぶものは二種類ある。普通にソースカツが乗っているものと、玉子とじされているものだ。

 テーブルに置かれたカツ丼はとろりと甘じょっぱい玉子の毛布を被っている。三人の話とやらを一瞬忘れかけるくらいには、きゅぅぅ、と腹の虫が喜んでいた。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 と四人で口を揃えて、食べ始める。

 玉子でとじたカツ丼のほかに、味噌汁とお浸しが並んでいた。全体的に和のテイストが強いので、澪が主導で作ったのかもしれないな、となんとなく思う。

 

「んー、うま。甘じょっぱいのがいいよな」

「それね。普通のカツもいいけど、こっちの方が豪華な感じするし」

「普通のカツというと……ソースカツ丼みたいなものでしょうか。私、食べたことないかもしれません」

「まあ、ご当地グルメって感じはあるしな」

「作ることは全然できそーですけどね」

 

 小さい頃、母さんがよく、前日の夕食で残ったカツを使って玉子とじを作ってくれた。幼稚園が早帰りのときなんかはお弁当も給食もないから、かなりがつがつ食っていた覚えがある。

 ま、あの頃は体も小さかったし、食べてる量も少なかったんだろうけどな。

 

 肉や衣の硬さもちょうどよく、本当にご飯が進む。

 最近は忙しくて昼食を軽く済ませることも多かったから、がっつり食べられて結構満足だった。

 

「――で、話って?」

 

 このまま楽しい空気で話せるなら、と思って俺は口を開いた。

 すると雫は澪や大河に視線を送り、こく、と小さく頷く。一度箸を器に置くと、あのですね、と慎重なトーンで言ってきた。

 

「私たちのこれからのことをお話したいな、と思いまして」

「ぶふぅっ!?」

 

 撤回。

 全然慎重じゃなかった。豪速ストレートだったわ。前置きのなさにびっくりしてしまい、げふげふっ、と咳き込む。

 

「きゅ、急にどうしたんだよ……?」

「えー、そんなに急です? 昨日あんなことしちゃったじゃないですか」

「……何も変なことはしてないだろ。プレゼントを渡しただけだ」

「ユウ先輩はそうでも、私たちが違いますよ」

「私たちのラブレター。今さら読まなかったことにはできないから」

「――っ」

 

 返す刀で大河と澪に言われ、言葉に詰まってしまう。

 これ以上の遅延行為や寄り道は許さない。そう言われているような気がした。

 

「ねぇ友斗先輩。もう二学期が終わっちゃいましたね」

「そうだな」

「一学期があって、夏休みがあって、その後に二学期がやってきて。すっごく楽しい青春だな、って思いませんか?」

「……思う」

 

 楽しいのと同じくらい、三人を傷つけもした。

 だから手放しに賞賛していいのかは分からないけれど――楽しかったという事実は、否定したくない。

 

「めちゃくちゃ楽しかったよ。文化祭は大変だったけど絶対に忘れない。選挙も大変だったし、その後も大変なことばっかりだったけど……三人がいてくれたから、最高の思い出になった」

 

 10年先、20年先、きっとこの日々を忘れはしない。

 幸せだった。

 澪と大河と雫と――三人と一緒に過ごして。

 三人と向き合う度に惹かれたし、それなのに見つからない答えに焦れったさを覚えもした。そんな平穏のひとときを、人は宝物と呼ぶのだろう。

 

「――だから、私は本当に欲しいものを見つけました」

 

 頭によぎるのは、ある夜雫が口にした言葉。

 

『……特別な“何か”を持っていない私でしたが、実は欲しいものを見つけていました。でも()()は現実的じゃなくて、しかも、『先輩に好かれる私』からすれば惨めに映りました』

 

 俺は()()が何なのか、教えてもらえなかった。

 雫が今話しているのは、あのとき言っていた()()なのだと思う。

 こく、と大河と澪も頷く。

 

「雫ちゃんに言われて、きちんと考えて、話し合って……私も、同じものが欲しいな、と思ってます」

「私も。……聞いてくれるよね?」

 

 続く二人の言葉に、ああそうか、と思った。

 この子たちもまた、進んでしまったのだ。入江先輩や時雨さんがそうであるように。

 否定も肯定もする前に、雫が言う。

 

「私は…私たちは……『ハーレムエンド』がいいです」

「――っ」

 

 刹那、血がワインになったのかと錯覚した。

 そうじゃないと説明できないくらい、世界から現実味が失われる。

 

「四人でいるこの時間が、大好きです。友斗先輩のことも好きだけど……多分、それだけじゃ満足できないんです」

「嫉妬はするかもしれません。けれど、雫ちゃんや澪先輩相手に抱く嫉妬は、多分少し違っていて。仲間でライバルというのはありきたりな言い方ですけど……そんな感じだと思います」

「だから友斗が私たち三人を好きになってくれるなら、一緒に『ハーレムエンド』にゴールしてほしい。四人でいられる一番の幸せに、手を伸ばしてほしい」

 

 色めく彼女らの望みは、まるで虹のようだった。

 なんて俺に都合がいいんだろう。

 三人を好きになって。

 悩んでいたら、ハーレムでいい、なんて言ってもらえて。

 

「俺は――」

「あ、ダメですよ友斗先輩。前も言いましたよね? よーく答えを出してから、選んでください」

 

 答えられるはずもないくせに、『俺は――』なんて当てのない言葉を始めて。

 雫に止められたことに、俺は安堵してしまっていた。

 

「今日はあくまで宣誓しただけですから」

「そ。私たちは友斗が『ハーレムエンド』を目指したくなるように、アタックする。選ばれるのを待つなんて癪だしね」

「だから友斗先輩は、考えてください。それで結論が出たら、告白してほしいです。三人に、最高の告白を」

 

 とくん、と心音が鳴る。

 聞きたくないビートだ。あってはならない雑音だ。なのに甘やかで、煌びやかで、つい手を伸ばしてしまいたくなる。

 

「さ、食べよ。あんまりノロノロしてると冷めちゃうし」

「だねっ」「ですね」

 

 三人は何もなかったように、食事に戻る。

 そんな平和な光景を眺めながら、俺は一層強く、想いを隠さなきゃな、と感じた。

 もし三人のことが好きだと気付かれれば、いよいよハーレムエンドを拒絶できなくなる。それを求めてくれた三人に、全部の荷物を預けることになってしまう。

 

 なのに…なのに……っ。

 四人で恋人になる未来を想像して、俺の心臓はとくとくとスイートビートを奏でていた。

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