【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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9章#13 つまらない嫉妬

 この冬休みは短くて、それなのに、とても長く感じられた。

 三人に『ハーレムエンド』の話をされて始まった冬休みは、停滞の一言で言い表すことができるものになっていた。

 

 ある意味、夏休みと似た状況だと言えるかもしれない。

 雫とも澪とも大河とも向き合うことを避け、美緒だけを見つめようとしていた夏。自主的に出かけることも億劫だったから、用事がない日はずっと家で過ごしていた記憶がある。

 あの三人への気持ちと向き合うことを避け、にもかかわらず想いは膨らみ、外出する気になれずに部屋で過ごす日々が続いているのだった。

 

 だからこそ、夏休みの焼き直しはしたくない。

 今の俺には友達がいるし、親友もいるのだ。恋だけが青春の全てってわけじゃない。なんとか青春を動かして、この冬休みを『停滞』と呼ばずに済む過ごし方をしたい。 

 

 そんな風に思いながら――12月27日。

 30日から帰省なので明日は大掃除でもしなきゃいけないなぁ、と思っていた頃。俺のスマホが、

 

 ――とぅるるるるっ

 

 と高らかな着信音を鳴らした。

 

「くぁぁぁ……眠ぃ」

 

 時刻は10時。

 時間的には別段早くないのだが、何しろ最近はマジで寒い。なかなか布団から出れない日々が続いており、昨日今日と一気に起きる時間帯が朝から昼に近づいていた。

 欠伸を噛み殺しながら、面倒だなぁと思いつつスマホの画面を確認する。

 電話の相手は……晴彦だ。

 

「なぜに……?」

 

 晴彦から急に電話をかけてくるのは珍しい。それこそ夏休み、俺が原稿ヤバくて頼んだときくらいだろうか。

 怪訝に思いながらも、ぱしんと両頬を叩き、電話に出ることにする。

 

『もしもし、友斗~?』

「んあ、晴彦か。おはよう」

『おう、おはよう――って、声が死んでるぞ。もしかして今起きたのか?』

 

 電話口なのに、晴彦のジト目が脳裏に浮かんだ。

 

「そうだけど……そんなに声死んでるか?」

『ああ、やばい。自覚なし?』

「ないな、めっちゃない。つーか頭が全然回ってない」

『いつもじゃね』

「いつもじゃねぇの期末テストでも世話してやっただろ忘れたのか」

『あ~悪ぅござんしたね。でもマジで覇気がないから顔でも洗って来いよ。どうせこの後外出るんだし』

「んー。そだな」

 

 シャワーを浴びるのは流石に無理だが、顔洗ってうがいしよう。それからじゃないと晴彦との話も頭に入ってこない。

 部屋の外出ると雫と澪がいるんだよな……どうか会いませんようにと願いつつ、洗面台に向かう。

 

「あ、友斗先輩。おはよーです」

「っ、あー。ちょい待て、今電話中。顔洗ってくるから」

「あっ、八雲先輩からですね。案内よろしくです」

「ん」

 

 案の定、雫と遭遇してしまう。

 が、ぼやけまくった思考には羞恥心が入り込む余地はなかった。今日も雫は可愛いなとか思った気もするけど、今は考えない。もっと別の気にするべきこともあった気がするが分からんし。

 なんとか洗面台に辿り着き、顔をばしゃばしゃと洗う。

 冷え切った水道水は、きゅっ、と身体を引き締めた。

 

「うっ……つめたっ」

 

 堪らず、俺は顔をしかめた。

 その冷たさのおかげで目が冷めているのだが、それはそれとして冬のこういうところは好きじゃない。やっぱり夏の方がいいよな。休みも長いし。

 そんなことを考えてブーメランが刺さってくるのを自覚しながら、がぶがぶとうがいをする。歯磨きとかもしてがっつりスッキリしたいが、流石に晴彦を待たせてるからな。ひとまず、今は水道水で我慢する。

 

「ふぅ……っと、悪い悪い。今準備整ったわ」

『ああ、ま、別にいいぜ。今起きたってのは驚きだけど。友斗って朝苦手なのか?』

「どうだろうな。やることさえあれば起きられるし、徹夜もいけるタイプだぞ」

 

 ショートスリーパーとは違うが、ショートスリープな生活に慣れてはいる。ブラックガムは未だに俺の愛用食の一つだ。

 

「今日はやることもないしな。冬の朝だったら、誰でもこんなもんだろ」

『ほーん……でも、今日はやることあるだろ。俺たち家行くんだし』

「ん? いやそっちの予定は知らねぇよ」

 

 家行くって、誰の家だよ。あれか、晴彦が如月家に行くとかそういうことか。幸せそうでいいな、おい。こちとら芽生えた恋心を持て余して悶々としてるっつーのに。

 と、思っていると、晴彦の溜息が聞こえた。

 

『友斗、もしかして忘れたのか?』

「忘れたって、何が?」

『前に約束したじゃん。今度家に呼んでくれたら、諸々秘密にされたことはチャラにする、って』

「ん……? いや、それは憶えてるけど」

 

 何せ、親友との約束だ。情に厚く義理に堅い俺が忘れるはずがない。ってか、そういえばその件も全然話せてなかった。冬休みに声をかけるのも――って、ちょっと待てよ?

 

「なぁ晴彦。質問してもいいか?」

『おういいぜ』

「晴彦が今から行くのは、如月の家じゃなくて俺の家だったりするか?」

『はぁっ!? 白雪の家とか行くわけねぇじゃん! 早ぇよ!』

「いや早くはないだろ……」

 

 お前ら、一年生のときから付き合ってるんだろ……?っと、それはさておき。

 

「俺の家に来るとか聞いてないんですけど?」

『え? でも俺、雫ちゃんと話したぜ。冬星祭のときに』

「え゛」

 

 マジかよ……。

 リビングでくつろいでいる雫にジト目を向けると、てへっ、と舌を出して誤魔化された。くっそ可愛いなおい。

 

『で、今日行くことになってんだけどさ。とりあえず今電車乗るから、あと20分くらいで駅着くってことだけ伝えようと思って。メッセージだと未読のまま気付かないかもしれないし』

「なるほど……」

 

 晴彦の語り口から、何となく事情を察する。

 あとは雫に聞いた方がよかろう。あと20分で着くなら俺も急がなきゃいけないしな。

 分かった、と告げて、俺は通話を切断する。

 そして雫の方を見遣った。

 

「雫、事情を説明してもらおうか」

「ん~? 多分友斗先輩が想像してる通りですよー?」

 

 惚けるような笑みを浮かべながら、雫はぐぐーっと伸びをする。

 こほんと咳払いをしたのち、指をふりふりしながら説明してくれた。

 

「要するに、冬星祭のときに私が如月先輩と話したんですよ。で、年末年始は帰省だったり大掃除だったりで忙しいですし、年明けとなると予定が見えないので、だったら今日にしようって話になりまして」

「む……それは分かるんだが、どうして俺が知らない?」

「冬星祭の日は疲れてましたし、最近の友斗先輩は上の空だったじゃないですか~。で、昨日話そうと思ってたんですけど忘れてました♪」

「忘れるかそれ……」

 

 と、お小言を言いたくもなるが、色々と予定を立ててくれたことには感謝すべきだろう。晴彦との約束を忘れてはいなかったが、いつにしようか、と考えるのはすっかり失念していた。

 ま、今日は暇だし……いっか。

 

「了解。とりあえず、あと20分くらいで駅着くらしいから俺はシャワー浴びて準備してくるわ」

「あ、りょーかいです。でもお姉ちゃんと友斗先輩で二人を案内してきてくださいね?」

「は?」

 

 しれっととんでもないことを言う雫。

 澪と一緒に、二人を迎えに行けだって? いやメンツ的には妥当かもしれんが……え?

 

「ちょっと待て。あと20分だぞ? シャワー浴びて着替えて髪セットして、それで駅まで行くって無茶だろ」

「それは友斗先輩がお寝坊さんなのが行けないんです! 私はもうすぐ来る大河ちゃんと色々用意しなくちゃですし……それに――」

「それに?」

 

 オウム返しをすると、雫はにししと小悪魔な笑みを浮かべた。

 ドキリと胸が、甘く高鳴る。

 

「――来るの八雲先輩と如月先輩なので、見る人によってはお姉ちゃんが八雲先輩の彼女って思われちゃうかもですよ?」

「………………行けばいいんだろ、行けば」

 

 ああ、くっそぅ。

 こんなこと気にする必要はないって分かってるのに。晴彦と如月ならどうせラブラブカップルだから傍から見て分かるし、よしんば外野に何を思われても関係ないのに。

 みっともない嫉妬が、ムクムクと湧いてしまう。

 

「はいっ! 分かったならレッツゴー、ですっ♪ お姉ちゃんも今、準備してるはずなので」

「うい」

 

 雫がそんな風に言うのは、『ハーレムエンド』を求めてるからなのか?

 奥歯に詰まったその問いは、忙しさの免罪符で押し流した。

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