【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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9章#21 お掃除大作戦(1)

 晴彦と如月が家に来た日の翌日。

 いよいよ番組も年末特番だったり、それに向けたドラマの再放送だったりが始まる28日。俺と雫と澪はリビングに集まっていた。

 大河は朝のうちに帰り、今日は三人っきり。だが別に遊ぼうというわけではない。

 

「それでは三人とも。今からお掃除大作戦を始めます」

 

 ソファーの上に立つ雫が、真剣なトーンで言う。

 その服装は、いつもとは少し様子が違う。ちょっとくたびれたロングTシャツと絵の具が飛び散ったようなカーゴパンツは、いわゆる『汚れてもいい服装』だった。可愛さMAXな普段とのギャップが、逆によかったりするけどそれはどうでもいい。

 

「うん……分担、どうしよっか」

 

 一方の澪も、その表情は真剣そのものだ。時雨さんとバトったときのような殺伐とした雰囲気に、流石だな、と思わざるをえない。

 ちなみに澪の恰好も雫と似たような服装だ。てっきり俺のおさがりのパーカーでも着るのかと思っていたが、別のを着ている。

 

「なぁ二人とも。聞いていいか?」

「なんですか、友斗先輩」「なに?」

「……たかが大掃除に真剣すぎない?」

 

 恐る恐る尋ねる俺も、一応は二人に言われた通り汚れていい服に着替えてはいる。しかしながら、俺はイマイチ二人の熱量についていけずにいた。

 はぁぁ、と二人は深い溜息をつく。

 

「あのね、友斗。大掃除がどれだけ大切で大変なのか分かってる?」

「わ、分かってるつもりだぞ。俺だって日頃から掃除はしてるし、今までも大掃除は軽くしてきたし」

「だとしたら友斗はまだ何も分かってないよ。今まで友斗がしてきたのは小掃除、よくて中掃除だね」

「は、はあ……?」

 

 俺が今まで怠っていたのは炊事で、流石に掃除は一人暮らし気味のときにでもやっていたつもりだ。

 が、どうやら二人と俺では大掃除に対する見解に相違があるらしい。久々だな、こんな風に生活ギャップを感じるの。

 

「って、わけで。こんな友斗に任せても不安だし、できそうなところをやってもらうことにしよっか」

「だね、お姉ちゃん。じゃあ――」

 

 ごにょごにょ、ごにょごにょ。

 二人は仲良く作戦会議を始める。なんだか疎外感が凄いけれど、戦力外なのは事実なのでしょうがない。

 暫く待ち、やがて二人の話がまとまった。

 

「よし決めましたよ、友斗先輩。友斗先輩にはお風呂掃除をお任せしたいと思います」

「風呂掃除か。まぁそれならいつも通りに――」

「――もちろん、いつも通りじゃダメですからね。浴槽の中だけじゃなくて、蛇口とか鏡とか天井を洗ってください」

「なるほど……」

 

 天井なぁ……なるほど、なるほど。

 言われてみれば、我が家の風呂はそこまで綺麗ではない。使っていて気になるほどではないが、年末に掃除をすべきなのかもしれん。

 

「道具はここにあるから。使い方、分かる?」

「まあ、なんとなくなら。分からなきゃ調べるよ」

「ん。どうしてもダメだったら私か雫に聞いて。私はキッチン周り、雫は窓ガラスとかを掃除してるから」

「お、おう」

「友斗隊員、返事は『はい』と元気よく」

「はい――じゃねぇ! 茶番を始めるな雫」

「てへっ」

 

 確かにちょっぴりそれっぽいな、とは思ったけども。

 ともあれ、二人が真剣なのだ。俺もしっかり掃除をしよう。

 

「じゃあ、ある程度片がついたらまた集合ってことで。部屋の掃除とかは午後に各自やる感じで」

「うん!」「おう」

 

 って、わけで。

 大掃除大作戦、スタートである。

 ……大が大きいな。

 

 

 ◇

 

 

 ごしゅごしゅ、きゅっきゅっ。

 いざ風呂掃除を始めると、結構没頭できた。

 そもそも、俺は掃除が苦手なわけではない。むしろこうして無心になって行える掃除は割と好きな部類だったりする。

 調べた通りに道具を使い、洗剤がしみ込むまでの時間に別の作業なんかをしていると、あっという間に掃除は終わった。

 

「とりあえず、こんなもんかな」

 

 ぼそり、独り言ちる。

 かなり綺麗になったんじゃないだろうか。そんなことを思っていると、とてとてと足音が聞こえた。

 

「友斗先輩、今どんな感じですか~?」

 

 浴室の扉から雫が覗き込んでくる。

 俺は、にっ、と笑ってサムズアップして見せた。

 

「おお、ちょうどいい感じに終わったぞ」

「なんですかそのドヤ顔……そこまで言うなら、確かめてあげましょう。姑みたいに」

「姑みたいに、っているか?」

「もちです。それはもうねちっこく、綺麗だって思っても認めてあげないつもりですから」

「陰湿! つーか、姑感が歪みすぎてるだろ……」

 

 あはは、と雫が苦笑しながら浴室に入ってくる。

 きょろきょろと見渡すと、浴室内を見渡し、むむーっと目を細めた。

 

「んー、困りました。全然ダメなところが見つからないです」

「何も困らないよねそれ?」

「たまには友斗先輩を叱りたいんですよ。こーいう生活的なところで」

「なんだその欲求……」

 

 割と色んなところで叱られてるんだし、許してほしいものだ。

 くくくと笑っていると、んー、と頬に指を当てて何かを考えた雫が、俺に言ってくる。

 

「ねぇ友斗先輩。折角だし、ぴかぴかになったお風呂であったまっちゃいましょうか」

「ん……入りたいのか?」

「入りたいっていうか、あったまりたいなー、みたいな。私、窓際で作業してたので結構冷えてるんです。ほら」

 

 雫が手を差し出してくる。

 触ってみろ、ということらしい。躊躇いつつも触れると、確かに随分と冷え切っていた。まぁ冬だもんな。

 

「じゃあ後で、澪が終わったら誘ってみろよ。いつもよか少し早いけど、一仕事終えた後だしちょうどいいだろ」

「むぅ……その提案も魅力的なんですけど。でも今は不正解です」

「このやり取りに正解とかあんの?」

「ありますよ? さっきのはグッドコミュニケーションです。パーフェクトコミュニケーションを目指してください」

「んな、育成ゲームみたいなことを」

 

 えっへん、と胸を張ってこちらを見つめる雫。

 答えを出せ、と。面倒だが、こういうところも好きだなぁと思えてしまうのが憎い。

 

「分からん」

「ヒント、今の私は汚れてもOKな恰好です」

「……分からん」

「ヒント2、お風呂の外に着替えは用意済みです」

「…………分かりたくない」

「むぅ。友斗先輩のけちんぼ」

「っ」

 

 分からない、わけじゃない。

 汚れてもOKな服で、ついでに着替えが用意済み。

 言いたいことは、流石に分かる。

 

「服着たまま、入るつもりか……?」

「はい、正解です」

 

 両手で丸を作り、にこっと笑う雫。

 悪戯っぽいその笑みを正視していられなくなり、俺はぷいっと顔を逸らす。

 

「そんなこと、できるわけないだろ。風邪引く」

「着替えは用意してるって言ったじゃないですか」

「それでも、だ。それに汚れてもいい服で入ったら洗った風呂がまた汚れるだろ」

 

 言葉を尽くして説得しようとするが、雫にちょこんと袖を摘ままれう。

 ガラス玉みたいな瞳に吸い込まれて、すぐにでも頷いてしまいそうだった。

 

「いつもの恒例なんです。大掃除頑張って、いい子になって、その後に服を着たままお風呂に入って悪い子するの」

「……いつも、やってんのか?」

「ですです。友斗先輩がいるからとかじゃなくて、いっつもやってることです。その『いつも』を友斗先輩と共有出来たら素敵だなーって」

「それは――」

 

 ああ、確かに素敵だな、と思った。

 服を着たまま風呂に入る。それってすっごく非日常だ。でも日常の範囲を出ない非日常。ありふれた日々の延長線上のスリリングで悪い子なイベントで、そういうのを共有できることはとても素敵なことだと思う。

 人はそれを家族と呼ぶのかもしれない。

 

「――いいな。たまには悪いことするか」

「はいっ! まぁ友斗先輩は割といつも最悪ですけどね」

「うん自覚はありまくるから毒吐かないでね?」

 

 もしも家族になれるのだとしたら。

 この時間を手放すことなく、この想いを隠すことなく、家族になれるのなら。

 

 やっぱりそんな未来(もしも)に辿り着いてはいけないから、ジリジリと夏の残り火で焼いて捨てた。

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