【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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9章#23 主人公

「友斗、とりあえずそこに正座」

「……うす」

 

 三人で風呂に入り、ついでにお腹のフェチズムについてひとしきり語った後。

 昼食を軽めに摂った俺は、澪の部屋に呼び出されていた。

 言われるがままに正座をすると、何だかめちゃくちゃ居た堪れない気持ちになる。持て余した視線をあちらこちらに向け、そういえば、と気付く。

 

「澪の部屋に入るの、何気にこれが初めてだよな」

「ん? あ、そだっけ」

「そのはず。クリスマスの日には入ったけど、真っ暗だったからろくに見えなかったし」

「ふぅん」

 

 嘘ではない。

 クリスマスの夜、サンタぶってプレゼントを枕元に入った俺だが、もし懐中電灯でも点けて澪の目が覚めてしまったら……と不安になり、月明かりだけを頼りに枕元を探ったのだ。まぁあと、澪の寝顔を見るのもアレだったし。

 

 だからこうして澪の部屋に入るのは初めてになる。

 澪の部屋は、俺の部屋と似ていた。もちろん家具やインテリアには女の子らしいものもあるし、ぬいぐるみも幾つかあって可愛らしい。だが部屋のかなりの割合を占める本たちは、俺の部屋のそれを彷彿とさせる。

 ハンガーに大切そうにかけてある狐のお面を見つけて、こそばゆい気持ちになった。大切にしてくれてるんだな……。

 

「女子の部屋に入ってキョロキョロするって、結構NGな行動だって気付いてる?」

「……すまん。でも今更じゃないか? さっき三人で風呂に入ったんだし」

「ま、そうなんだけどね」

「そうなのかよ……」

「ん。だって友斗だし」

 

 その『だって』がどういう意味なのか、考えようとしてやめた。藪蛇だ。

 

「で、俺は何をすればいいんだ? なんか手伝うんだよな?」

「あ、うん。何だかんだ色々忙しかったから部屋の整理ができてなくて。どうせだし、友斗にも手伝ってもらおうかな、って」

「あー。まぁ、それくらいならやるけどさ。俺の部屋はそこまで片付けることないし」

 

 自分の部屋の中を思い出しつつ、そう肯う。

 これでもそれなりに部屋は片付けている方だ。そもそも荷物が少ないし、一度買った本は捨てない主義なので、片付けるべきものが服ぐらいしかないからなんだけど。

 

「ん……でも、その前に。私から質問」

「質問?」

「そ。正直に答えて」

 

 正座したままの俺に、澪が近寄ってくる。

 目と鼻の先に顔を近づけると、少し恥ずかしそうに目を逸らした。

 こほん、と咳払いをしてから尋ねてくる。

 

「さっきのアレ、嫌だった?」

「……?」

「お風呂での、ああいうの。誘惑するようなのとか……もっと言うと、昨日のゲームとかさ。ああいうアプローチ、今されたくなかったりする?」

「えっ」

 

 澪の目は真剣だった。

 だからこそ、その眼差しの意図を測りかねて苦笑う。

 

「どういうことだ?」

「私たちは『ハーレムエンド』を目指したい。だから友斗のことを誘惑するし、誘惑とか関係なしにたくさん近づきたい。だって好きだから」

「……っ」

「でも、本気で嫌だったり、我慢が辛かったりするならやめる。その線引きが知りたいの」

 

 言われて、息を呑んだ。

 そんな風に考えてくれてることが嬉しいし、そのせいで申し訳なくもなる。澪たちにそんな心配をさせてしまうべきじゃないのに。

 ふるふる、と俺は首を横に振った。

 

「嫌ではない。つーか、美少女にあんなことされて嫌なわけないだろ」

「…………本当に?」

「本当に。そりゃ男子高校生的な欲がヤバくないかって言ったら嘘になる。でも気持ちに応えられない分の責任はちゃんと取るよ」

 

 堪えるべきは俺であって、三人じゃない。

 恋の終わりを自分以外が決めるようなことがあってはいけない。相手を傷つけてしまう例外を除けば、ではあるけれども。

 例外との境界線を引くのは法であり、道徳であり、倫理だ。

 たとえ『ハーレムエンド』を望んでいたとしても、三人の恋はそれらに反していない。なら、我慢すべきは俺のはずだ。

 

「ふぅん……なら、続けるからね。友斗から『大好き』を貰えるまで、アプローチするから」

「…………あぁ」

「ん。じゃ、作業始めよっか」

「うい」

 

 時間を区切るように、澪の空気ががらりと変わる。

 気を遣わせてしまっているのだろうか。

 そう思うと、胸がチクチク痛む。

 

 けれど――自覚してしまう。

 理屈をこねくり回して、結局は拒絶するのが嫌なだけだ、ってことに。

 クズで屑な自分が、どうしようもなく嫌になった。

 

 

 ◇

 

 

 澪の部屋の整理は、それなりに順調に進んだ。

 下着やらアダルトグッズやらで勝手に俺がドギマギしたものの、それ以上のことはなかった。俺の手が借りたかったのは本当なのだろう。

 

「ねぇ友斗。懐かしいの出てきた」

「そうやって漁りだすと進まなくなるぞ」

「ま、そうなんだけど。でも本当に懐かしいやつだよ」

 

 言われて澪の方を向くと、その手には俺も見覚えのある冊子があった。

 薄い本と呼ぶには分厚く、ついでに真面目腐っているそれは、いわゆる卒業文集である。俺と澪が通っていた中学校の卒業文集だ。

 

「確かに懐かしいな。俺も多分、部屋で迷子になってるわ」

「でしょ。アルバムならまだしも、文集だしね。読み返すのも怠いし使わない」

「それなぁ……書くときにはやたらと再提出くらって時間かかったし、編集にも手間がかかったのに……やってらねぇよ」

 

 当時のことを思い出し、くつくつ笑う。

 澪の隣に腰を下ろすと、澪は俺にも見えるようにして目次のページを開いた。

 

「友斗、これの編集やってたの?」

「クラスのと、あと学年全体のページをな。あと後輩からの寄稿とか、色んな企画も担当してた」

「うわ、めんどくさそう」

「面倒だったよ、実際」

 

 流石の俺も、中学校では今ほどバリバリ働いていなかった。

 しかしそれでも、卒業文集だけは先生やクラスメイトに頼まれて色々と頑張ったのだ。今と比べれば稚拙で杜撰なやり方だったけどな。

 

「そういえばあの頃、軽くレスってたよね」

「……セフレだった頃のそれをレスとか言うな」

「ちぇっ。ドキっとした?」

「…………してない」

「間が長いね」

「ラグだ、気にすんな」

「ふぅん」

 

 ぺらり、ぺらり、澪が卒業文集をめくっていく。

 やがて俺たちのクラスのところにたどり着いた。

 

「あ、最初は私か」

「出席番号順だしな」

「まぁ大したこと書いてないけどね。どうでもよかったし」

「だろうな」

 

 知っている。

 でも……新鮮だった。あの頃の澪を、俺はきちんと見ていなかったから。おあつらえ向きに仕立てた文章だったしても、そこに僅かな澪らしさを感じて、いいな、と思う。

 

「じゃ、次。友斗のページね」

「え、読むのか?」

「ダメなの?」

「ダメなわけじゃないけど」

 

 そこまでまずいことを書いた覚えもない。

 大人しく俺が書いたページに行くと、澪はじっと読み始めた。

 

「…………」

「…………」

「……ああ、そういうことか」

「え、なに。どういうこと?」

「ん? いや、臭いことしてるなぁって思って」

 

 読み終えたらしい澪が、そう呟く。

 はてと首を傾げると、澪はとんとんと紙面を指さした。

 

「これ。最後のまとめみたいなとこ、行頭で文字揃えてるじゃん」

「えっ……あ、ああ! そういやそんなことやったわ」

 

 指摘されて、ようやく思い出した。

 せめてもの遊び心に、と割とありきたりなネタを仕込んだのだ。

 隠したメッセージは、

 

『三年間楽しかった またいつか会えますように』

 

 だったはずだ。

 

「ふふっ、こういうところだよね、友斗って」

「別にいいだろ。卒業のムードに中てられたんだよ」

 

 別に、中学時代に親しい奴がいたわけではない。

 だから本当に、空気に中てられただけだ。別れを惜しんでいる同級生を見て、俺もそんな風に惜しむことができたらいいのに、と羨望を抱いた。

 澪は優しく笑み、好きだなぁ、と呟く。

 そういう不意打ちは、ずるいと思った。

 

「中学校と言えばさ。友斗って、来香と仲良いの?」

「――え?」

 

 想定していなかったことを聞かれ、変な声が出た。

 

「この前の冬星祭の発表、覚えてる?」

「月瀬の、だよな?」

「そ。あれが、ほんっとに痺れて。正直……今でも、舞台袖で見てたあの来香が忘れらんないの」

 

 きらきらと飽くなき星空みたいに瞳が輝く。

 その横顔にズキンと胸が痛んだ。

 

「で、どうなの? 特別パフォーマンスの相手役に選んだってことは、仲良いの?」

「えっ、あ、あー……どうだろうな。なんだかんだ、仲は良い方なのかもしれない。学級委員とか生徒会で面識があるし……。あとはあれだな。文化祭の前の日に澪を探してたとき、駅で見かけたって教えてくれたのも月瀬だった」

「へぇ。なにそれ、隠しヒロインみたいじゃん」

「言い方最悪だな……」

 

 月瀬が隠しヒロインなら、想い人は俺ってことになる。

 俺が苦笑していると、澪はパラパラとアルバムをめくりながら言った。

 

「私、声優になりたいんだよね」

「……声優?」

「そ。まだ漠然としてるんだけど。演技好きだし、歌うのも好きだし、アニメとかゲームも好きだし。入江先輩が演技してるのとか見て、私は声で戦いたいって思ってきてる」

 

 それは唐突な告白だった。

 が、もう俺たちは高校三年生になろうとしているのだ。将来の夢の一つや二つ、抱いていてもおかしくない。声優とかアイドルみたいなでかい目標は夢物語にカテゴライズされそうだが、澪なら現実的に思える。

 

「だから来香のことが気になるの。私も歌には自信があったけど……来香には、まだ届いてない気がする。届いてないから、戦って喰らいたい」

「…………急にスポコンみたいな世界観になったな。或いは、クリエイターもの」

「ふっ、かもね。そういう物語の主人公の座も、悪くない」

 

 話しているうちに、自分のいる場所がグラグラと崩れていくような気がしてしまう。

 どんどん追い越されていく。

 恋心を向き合って、自分の望みと向き合って。

 

 だったら、どうして――。

 

「ま、今は誰かさんのヒロインになるのが先決だけどね」

「っ、そうかよ」

「『ハーレムエンド』、本気だから。覚悟しといてね」

「――っ」

 

 その言葉をどう咀嚼すればいいのか分からなくて、俺は拳を握った。

 きつく、きつく、きつく。

 生きていることを実感できるように、強く。

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