【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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9章#25 お掃除大作戦(4)

 SIDE:友斗

 

「あのですね、ユウ先輩。あなたは呼ばれたらそんなほいほいくるんですか? そうやって頼られたらすぐに来てしまうのはユウ先輩の美徳ですが、姉に呼ばれた程度で来てしまうのは不服です」

「お、おう……とりあえずうどんが伸びても困るし、食べてもいいか?」

「どうぞ。辛さは私の舌に合わせてしまっていて申し訳ないですが」

 

 入江先輩に呼ばれて大河宅へ行くと、大河に滔々と説教をされてしまった。叱られても楽しそうにしている入江先輩を軽く睨みつつ、俺はテーブルに用意されたお椀に目を遣る。

 とても食欲が掻き立てられる、いい匂いだ。

 メニューはカレーうどん。一昨日の昼・夜がカレーだったのでまたかと思わなくもないが、それでも食欲が減退することはなかった。そもそもカレーうどんとカレーライスは別物だしな。

 

「ふふっ。言ったでしょう? 三人分作った方がいいって」

「……それは言ってたけど。ユウ先輩が来るならカレーうどんにはしなかった」

「あらどうして? カレーうどんでもいいじゃないの」

「それはそうだけど……もう少し、気の利いたものを」

 

 ぼそぼそと呟きながら大河がこちらをチラチラ見てくる。

 そういうことを言われると弱るんだよなぁ……。

 俺はふるふると首を振って口を挟む。

 

「カレーうどんだって充分気が利いてるだろ。いただきます」

「そう言っていただけると嬉しいですけど……。いただきます」

 

 手を合わせ、うどんを食べ始める。

 ん、ん、ん……うむ、美味い。カレーうどんを食べるのは久々だが、いいな。めっちゃ箸が進む。

 もぎゅもぎゅ、もぎゅもぎゅ。

 黙々と食べていると、二人分の視線が俺を向いていることに気付く。

 

「えっと……なにか?」

「い、いえ。美味しそうに食べてるな、と思いまして」

「うん? まぁ、美味いからな。ってか、それ今更じゃないか?」

「へぇ。今更だって言えるほどに大河の料理を食べているのね?」

「姉さん、話の腰を折らないで。黙って食べて」

「私の扱いが酷い!?」

 

 まぁそれもいいのだけど。

 入江先輩はくすりと笑うと、言われた通り、黙って食べ始めた。

 

「今更かもしれないですが」

 

 俺も食事に戻ろうかと思っていると、大河がそう言った。

 ん?と首を傾げて言葉を待つと、大河は続ける。

 

「ユウ先輩と会えることは、私にとってすごく嬉しいことなんです。そのことは分かってください」

 

 その声は、恋したての少女みたいに浮ついていて。

 俺が目を細めると、大河はくしゃっと笑った。

 

「それより、大掃除を手伝いにきてくださったんですよね。早く食べて作業に移りましょうか」

「そう、だな」

「はい。時間は有限ですし、いちいち茶々を入れてきそうな人もいるので」

「同じシスコンとして不憫になるからもうちょっと優しく扱ってあげてね? 入江先輩にはちょっと頭が上がらないからさ」

 

 考えておきます。

 大河はそんな風に笑って、カレーうどんをすすった。

 

 

 ◇

 

 

「じゃあ私はリビングの掃除をしておいてあげる。大河と十瀬くんは、二人で大河の部屋の掃除をしてらっしゃい」

「待って。どうして姉さんが仕切るの?」

「年上だし、お姉ちゃんだもの。ね、一瀬くん?」

「この流れで俺を巻き込まないでほしいですね、とだけ言っておきます」

 

 やや遅めの昼食を摂り終えると、入江先輩が活き活きと口を開いた。どう考えても仕切るべきは大河なのだが、それ以前に姉妹のやり取りに巻き込んでほしくない。

 俺が肩を竦めて答えると、つまらないわねぇ、と入江先輩が呟いた。

 

「まぁ……姉さんとユウ先輩を二人にするよりはマシだし、姉さんに部屋を漁られたくないし、それでいいよ。ユウ先輩も、構いませんか?」

「おう。大河の指示に従うぞ」

「十瀬くんは大河の従者希望だ、と」

「全然違いますから。どうやったらそう解釈できるんですか?!」

 

 あんたは俺をどう扱いたいんだ……。

 苦笑している俺とてへっと笑う入江先輩の間に立つと、はぁ、と大河は溜息をついた。

 

「もういいです。ユウ先輩、行きましょう」

「ん、そうだな。じゃあ入江先輩、一人で頑張ってください」

「えぇ。そっちこそ、二人っきりだからって変なことしないようにね?」

「ね・え・さ・ん」

「ふふっ、ごめん大河」

 

 大河が頬を赤く染めつつ、ムッとする。

 恥ずかしさ半分、怒り半分ってところか。ったく、そういう意識させるようなことを言わないでほしいものだ。二人っきりになりにくくなるだろ。

 そう思いつつも、俺は大河と共に部屋に向かう。

 そして、

 

「大河……実はかなり片付け苦手だろ」

 

 割と散乱している部屋を見て、堪らずそう呟いた。

 足の踏み場もない、とかならまだジョークになったかもしれない。だがそこまで酷くはなく、探せば足の踏み場は見つかりそうな生活感が余計に笑えなかった。

 

「ちっ、違うんですユウ先輩。一人暮らしだとどうしても気が抜けてしまうと言いますか……誰にも迷惑をかけないと思うと、甘くなってしまって……」

「あー、うん。いや気持ちは分かるけどな? でももうちょっと片付けようぜ」

「……善処します」

 

 ばつが悪そうにぷいっと顔を逸らす大河。

 恥ずかしさと怒りの割合が七:三ぐらいに変わった気がする。あと三割は、入江先輩に向けたものの残りと、だらしない自分に向けたものってところか。

 けどまぁ、こんな風に情けない部分を見せてくれることは素直に嬉しい。

 

「じゃあやっていくか。まずは床に落ちてるのを拾ってくぞ」

「あまり口に出さないでください。情けなくて居た堪れなくなります」

「なれなれ。そんで、きちんと自分を戒めろ。普段は真面目なんだから、こういうのもコツコツやろうぜ」

「……はい」

 

 むすっとする大河を見て、らしくないな、と少し思う。

 大河は基本的にしっかりしているし、クソ真面目だし、特別な理由でもない限りは一人暮らしでも身の回りの整理を恙なくやっているのだと思っていた。前に来たときのアレは、あくまで特例だ、と。

 

 でも――きっと、そうではないのだろう。

 家とは、そういう場所だ。

 根っこが真面目な奴でも気を抜けるし、喋るのが苦手な奴がお喋りになったりすることもある。外とは明確に違う場所なのだ。

 実際、うちで泊まってるときも寝相や寝起きが悪いって雫が言ってたし。

 

 ……それにしても、ちょっとギャップがでかい気がするけど。

 筆記用具、プリント、本、服、雑誌、紙、紙、紙。

 紙多いな、と思って見てみると、どうやらそれは勉強に使っていたものらしい。ルーズリーフに無造作に書きこまれた計算式は、間違えた箇所が赤で書き直されたり、上からグリグリと線を引かれたりしている。

 

「なぁ大河、これって――」

「はい、なんです――きゃっ!?」

 

 捨てていいのか、それともまだ使うのか。

 それを確かめようと身体を捻ると、すぐ近くにいた大河とぶつかりそうになってしまう。なんとか身体を逸らしたが、それがいけなかった。

 床に落ちていた紙を喜劇みたいに踏んでしまい、するっ、と足元が滑る。

 そうなると、どうなるか。

 

「っ……す、まん。大丈夫か?」

「だい、っ、じょうぶです」

 

 俺は、大河ごとベッドの方に倒れてしまっていた。

 奇しくも、俺が大河を押し倒したような姿勢になってしまう。肘ではなく掌をベッドにつけたのが不幸中の幸いであろう。もし肘で着地していたら、事故が起きていてもおかしくない。

 

「…………」

「…………」

 

 冬だから、ベッドにはふかふかの毛布が敷かれていた。

 そのおかげで大河は倒れ込んだ衝撃で苦悶の表情を浮かべずに済んだらしい。そんなことを分析できてしまうほどには、俺と大河の顔は接近していた。

 

「…………あの、ユウ先輩」

「な、なんだ?」

「もし、ユウ先輩が()()()()おつもりなのでしたら、私も頑張ります。興味がない、わけじゃないので」

「っ、何を言って――」

「――興味、ないですか?」

 

 俺の言葉を遮って、大河が聞いてくる。

 潤んだ瞳と長い睫毛。

 頬を赤らめ、けれども覚悟を持ってこちらを見つめてくるその姿は、不器用極まりなかった。だからこそ、とくん、と胸が鳴る。

 

「ごめんなさい。事故なのは分かってるんです。私が片付けていなかったせいだ、って。ユウ先輩がわざとやったわけじゃないのは分かってます」

「……うん」

「けど、ドキッとしてしまって。今……少しだけ、期待しちゃってます。変ですね。私らしくないですよね」

「――ッ……」

 

 ズルいだろ、それ。

 そんな上目遣いで見られたら、否が応でもクラクラする。

 作業していたからだろう。大河の首元にはほんのりと汗が滲んでいて、なのにちっとも嫌なにおいはしない。ぷくりと首筋に浮かぶ汗玉が視界に入り、どくどくと欲が湧く。

 

 大河らしくない、なんて思わない。

 ここは大河の家なのだ。俺たちの家よりも更に気が抜ける場所で、おそらくこのベッドでいつも寝ている。

 そんな場所に異性を招き入れているのだ。たとえうぶで知識不足だとしても、不健全な妄想が頭をよぎることはあるだろう。

 

「正常だよ、大丈夫。それが恋だから――って、俺が言うのは痛いけどな」

 

 ぽんぽん、と頭を軽く撫でて。

 俺は起き上がりながら言う。

 

「そう、なんでしょうか……?」

「好きな相手にこういうことされたら、男でも女でもドキっとする。今のは俺の不注意のせいだし、大河は悪くないよ。だから心配しなくていい」

 

 それよりも、と空気を断ち切るように軽いトーンで言った。

 

「こんな風に倒れたのは紛れもなく大河のせいだから、もう少し気を付けろよ」

 

 言いながら、倒れたままの大河に手を差し伸べる。

 大河はくしゃりと顔をしかめ、はい、と心底反省した風に肯った。

 

「でもユウ先輩の目もいやらしかったです。シチュエーションのせいだけじゃない、とだけは言わせてください」

「ああ、うん、そうだね自分のこと棚に上げてごめんね?!」

 

 皮肉げに返し、大河は俺の手を掴んで立ち上がる。

 俺が苦笑しながら冗談っぽく謝ると、大河は満足そうに笑った。

 

「ユウ先輩は変態。今後の参考にさせていただきます」

「さっきの俺のフォローが完全におじゃんじゃねぇか!」

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