【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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10章#15 三学期

 SIDE:友斗

 

『どうしてお前なんだ』

 

 夢の中で俺が言う。正しいことを大好きなそいつは、間違いだらけの俺を睨みつけていた。俺の過ちを決して見逃そうとはせず、(そいつ)は続ける。

 

『どうしてお前が生き残ったんだ? 何も持っていないお前が、美緒や母さんの代わりに生き残ったんだ?』

 

 しつけぇな。

 分かってんだよ、死ぬべきは俺だった、って。

 美緒や母さんの代わりに俺が死ねばよかった。車が突っ込んでくるのが二人じゃなくて俺のいた場所だったらよかった。

 

 そうしたらきっと――みんな幸せだった。

 

『生き残ったのはお前だろ? なら、生き残った価値を示せ』

 

 んなこと言われても、無理だろ。

 俺に価値はない。

 澪も大河も雫も、俺がいなければ悩みもしなかったはずだ。俺の存在が問題を作り、その問題を解決することで自己を承認する。俺がしてきたのはそういうマッチポンプだ。本当は主人公なんかじゃない。

 

 だから――。

 このまま目を覚まさずに済めばよかった。

 偽物の命なんか潰えて、生きるべき奴だけが生きていけばいいんだ。

 

 ……何か大切なことを忘れている気がする。

 たとえばそれは、漂流したボトルメールのようなもの。

 夢の中で手繰ろうとしても見つかりはしない。漂流瓶の栓は開かず、打ち捨てられた海岸線で朽ちていくのかもしれなかった。

 

 ただそれでも、美緒が肯定してくれるなら。

 あの子が傍にいてくれる限りは、ずっと。

 名前のつかない男の子(モブ)として生きていかなきゃいけないんだと思う。

 

 たとえ後悔の引力に後ろ髪を掴まれても。

 

 

 ◇

 

 

「兄さん、おはようっ」

「……おはよう。早かったな、美緒」

「あの頃みたいに兄さんと一緒に登校できるのが嬉しくてね」

 

 1月も第一週を終え、年賀ムードは遠ざかっている。凍えそうな首周りをくたびれたマフラーで包む、三学期初日。俺は昨日のうちに決めていた場所で美緒と待ち合せていた。

 

 ――あの冬休みの日。

 俺は月瀬の中にいた美緒と再会した。美緒が打ち明けてくれた話は俄かには信じがたかったけれど、月瀬がそんなタチの悪い嘘を吐くとは思えない。なにより、話していてすぐに確信できた。

 ……なんて、美緒の面影を色んな人に重ねた俺が言えたことじゃないけどな。

 

 えへへ、と美緒が照れ臭そうにはにかむ。

 それもそのはず。まだ待ち合わせた時刻までは20分以上ある。美緒を寒空の下で待たせたくなかったからだいぶ早めに出てきたのだ。

 

「じゃあ行こっか」

「だな」

 

 コートの袖口から顔を出す美緒の小さな手を握りそうになり、寸でのところで思い止まった。

 どれだけ美緒を妹扱いしようとも、傍から見れば俺たちは赤の他人だ。百瀬友斗と月瀬来香。二人が手を繋いでいたら要らぬ誤解を生んでしまう。

 

「うーんと……うっかり誰かに聞かれても困るし、もう切り替えておこっか」

「切り替えるって――」

「百瀬くんが私に『兄さん』って呼ばせる変態扱いされたいならそれでもいいけどね」

 

 まだ途中の質問に行動で答えを示す美緒。

 それもそうだな、と頷く。友斗と美緒として、まるでチルチルとミチルみたいな時間を過ごすのも魅力的だ。でも学校では友達らしく振る舞う必要がある。

 

「せめて変態じゃなくてシスコンって言ってくれよ、月瀬」

「どっちもどっちじゃない!? シスコンならマシだと思ってる……?」

「変態よりは」

「友達相手にシスコンを発揮するのは変態より酷いからね!?」

 

 ぷくっ、と二人で吹き出してけぽけぽ笑う。

 まるで月瀬と話してるみたいだ。一時期は頻繁に入れ替わっていたとも言っていたし、本当に美緒は月瀬の影響を受けているのだろう。混ざりあってる、という表現が正しいのかもしれない。

 

 だとしたら月瀬はまだ……――。

 

 益体のない考えをスコップで雪かきする。まだ随分と早いけど、いつまでも寒い中で話し込んでるわけにもいかない。家に上がり込んで本来の待ち合わせ時刻まで時間を潰すのも居た堪れないしな。

 

「手、繋いじゃう? 友達でもそれくらいならアリじゃない?」

「普通にアウトでは?」

「夏祭りに二人っきりで行く仲の女友達とならアリだと思うんだよねー」

「あえて意味深な言い方してるよな? なぁ!?」

「えへへ」

「可愛く笑って誤魔化してもダメだからな?」

 

 美緒が伸ばしてきた手をぺちんと叩く。

 やめとけ、と苦笑交じりに言えば、はーい、と無邪気に返ってくる。

 

「手を繋いでなくても、ちょびっとは勘違いされちゃうかな?」

「かもな。何せ俺だし」

「百瀬くんの評判、結構ひどいもんねー」

「うぐっ」

「まぁ、そういうのは裏腹だから。百瀬くんを慕ってる子もたくさんいるよ!」

「そりゃどうも!」

 

 ま、そんなことで凹んだりはしない。自分が良くも悪くも目立ってばかりいることは自覚してるつもりだ。この前のミスターコンだってあったしな。

 ……あ。

 

「特別パフォーマンスのせいで勘違いされる可能性がめっちゃ高くなってね……? どこかの誰かさんたちがマジのカップルになってるせいで余計に」

「え、今まで忘れてたの?」

「忘れてたわけじゃないけどさ……」

「まぁ、だいじょうぶ! つまんない勘違いなんて笑い飛ばしておけばいいんだよ、友達なんだし」

「そういうもんか?」

 

 そういうものだよ、と美緒が笑いながら頷く。

 言われてみればその通りかもしれない。月瀬に特別パフォーマンスの相手を頼んだのも、気の置けない友達だからだった。

 

「んじゃ、行きますか」

「はーい」

 

 言って、俺たちは歩き出した。

 美緒と取り留めのない会話を交わしながら、俺はあの日から今日までのことを思い出す。

 

 美緒の家に泊まった日の翌日。

 俺は一人で家に帰った。三人と話したのは美緒のことだけ。特に大河が詳しく知りたがったのだ。美緒から聞いた話をなるべくそのまま伝えると、三人は美緒が美緒であることを改めて納得してくれた。

 

 ――そうやって言い訳をして、それ以外のことを話す怖さから逃げた。

 

 残りの冬休みはほとんと美緒と過ごしたように思う。RINEや電話で話したり、二人で買い物に出かけたり……。大河も行きたそうにしていたが、少し家の都合で忙しいらしく、俺たち二人で行くことになったのだ。

 

 逃げて、逃げ切って、その言い訳さえ他人に委ねて。

 でもモブキャラなんてこんなもんだろ?

 

「案の定目立ってるね。まだ早いから大丈夫かも、って思ってたんだけど」

 

 美緒の呟きが耳に入り、はっと我に返る。

 気付けばもう校門を通り過ぎていた。おそらく朝練をしているであろう運動部や早く登校してきた生徒の視線がちくちくと俺たちを刺している。

 

 まぁ分かっていたことだ。月瀬は『可愛い子ランキング』上位に入る人気者だし、ミスコンでも健闘していた。ぶっちゃけただ歩いているだけでも目を引く。

 

 が、生徒たちの視線はどちらかと言えば俺に向いている。彼ら彼女らがこそこそと話している内容は……なんとなく察しがつく。

 

 一学期の時点で雫や澪と距離が近いとは思われていたし、実際に雫とは付き合っていた。二学期になってからはより自重せず、三人と一緒に活動していた。

 そして冬星祭のステージ。雫たち三人は同じ相手を好きなのだと明言した。その相手が俺だと思われてもしょうがない。

 だから、彼ら彼女らが話しているのはきっと――。

 

「百瀬くんは何も気にしなくていいからね。周りの人がどんな想像をしてても……百瀬くんには関係ない。嫉妬も期待も妄想も、受け取る必要なんかないよ」

「…………」

「そんなもの全部、私がかき消してあげるから。……行こ、百瀬くん。チャイムが鳴るまでは私のクラスに来てほしいな」

 

 一歩、美緒が俺に近づく。

 きゅいっと目尻を下げて微笑む彼女は、まるで優しいギターの音色みたいだった。

 

『死ぬべきはお前(おれ)だった』

 

 俺を責め立てる声は美緒と交わすなんてことない会話が上書きしてくれた。

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