【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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10章#17 生徒会

 昼食を食べ終えて生徒会室に行くと、時雨さんと大河、如月がいた。如月も来てるんだな、と思ってしまうのは教室での晴彦とのやり取りを思い出したからだろう。

 二学期までは当たり前にあった、四人で過ごすランチタイム。

 陽だまりみたいなあの時間をぶち壊したのは俺だ。

 

「やあキミ。それに……月瀬さんも」

「霧崎先輩、お久しぶりです! 入江会長もね」

「…っ? は、はい」

 

 三者が緩やかに会話を交わす。

 大河は一瞬動揺を見せた。美緒ではなく月瀬として話しかけられたからだろう。もっとも、大河にも美緒のスタンスは伝えている。月瀬先輩、と気を取り直すように大河が呟いた。

 

 来香に続いて俺も三人に挨拶をし、いつもの席につく。

 パソコンを開いて起動しながら、二人分の視線を感じる。時雨さんと如月がこちらをじーっと見つめていた。如月のレンズの奥の瞳が映し出しているものを確かめるのが怖くて、かといって時雨さんの宝石みたいな瞳を直視する気にもなれなくて、彷徨う視線を大河へと逃がしてしまう。

 

 ほっ、と少し安堵する。

 大河の関心は今のところ俺よりも美緒にあるらしかった。例の噂が耳に入っていないわけじゃないだろうが、相手が月瀬ではなく美緒だと知っている以上、動揺するほどではないと感じているのかもしれない。

 

 俺なんかとの色恋に悩むよりも美緒との再会を喜んでくれればいい。

 そうして俺への恋心をどこかに置き忘れてくれたらな、と卑怯なことを考える。

 

 やがてパソコンが起動した。

 冬星祭の事後処理は残っている。なるべく三学期に持ち込まないように事前にできるものは片付けておいたが、どうしても終わってからじゃないとできないことがあったのだ。会議が始まるまでの間、そいつらをやっつけてしまうことにする。仕事に集中していれば、余計なことを考えずに済むから。

 

「百瀬くんって、相変わらずね」

「……仕事熱心な社畜だからな」

 

 如月の言葉の棘がちくちくと胸に刺さる。

 相変わらず、か。まったくそうだと思う。俺はいつだって見たくないものから目を背け、色んな言い訳をして生きている。……やっぱりモブキャラだな、俺は。

 

「百瀬くんを責めようって思ってるわけじゃない。きっと何か考えがあるのでしょう?」

「…………」

「私はちゃんと理解したいし、晴彦とも仲直りしてほしい。力になれることがあるならなりたい。それが友達だと思うから」

 

 不意に、如月とぶつかりあった秋のことを思い出す。

 話そうとしないからすれ違って、けど、ちゃんと話せば分かり合えて――今もあんな風にできるだろうか。

 もしできるのだとしても、話す気にはなれない。だってあまりにも惨めすぎるから。

 

「ねぇ百瀬くん、あなたは――」

「百瀬くん、ちょっと分からないところがあるんだけど。聞いてもいい?」

 

 如月に被さるのは美緒の声。正面の席に座る美緒は俺と同様にパソコンを開いていた。冬星祭の事後処理は俺だけに任された仕事ではないので、美緒がやるのは何らおかしなことではない……という体で庇ってくれている。

 

「それならボクが教えるよ」

「えー、いいですよ! 霧崎先輩のお手を煩わせるなんて申し訳ないですし。ね、百瀬くん?」

「今のボクは役職もないただのOG。むしろ後輩に教えるのが仕事だから、迷惑とか気にする必要ないよ」

「それはそうかもしれないですけど。んー、ここは霧崎先輩にも空気を読んでほしいんですよねー」

「……空気?」

「このままじゃお通夜みたいな空気になりそうじゃないですかっ。新学期早々そんな感じだったら一年生の子たち、入りにくくなっちゃいますよね? だから百瀬くんと白雪ちゃんの間に割って入ったわけで」

「「…………」」

 

 明け透けな美緒の物言いは、しかし、間違いではなかった。時雨さんが目をすぅっと細める。如月は、ばん、と机を叩いて立ち上がる。

 

「いい加減にして! 晴彦から話は聞いたわ。……ねぇ何が目的なの? 百瀬くんたちをどうす――」

「やめろ、如月」「如月先輩、そこまでです」

「――っ!?」

 

 過剰反応な自動人形が立ちはだかるみたいに、俺と大河が如月を制止した。

 如月が、どうして、と俺たち二人を見遣る。

 ふるふると首を横に振り、大河は言った。

 

「月瀬先輩の仰る通りだと思います。今日から新しいイベントに向けて生徒会の皆で頑張っていきたいんです」

「それはっ、そうかもしれないけれど! 大河ちゃんはいいの!?」

「いいって、何がですか? 月瀬先輩は大切な生徒会の一員です。……もちろん、如月先輩も。お二人に言い争いされる方が嫌です」

 

 はっきりとした大河の答えがこのやり取りの終着点を示す。

 そう、と口惜しそうにしたかと思うと、如月はそのまま椅子に座り直した。レンズの奥を見ようとするのが怖くて、目を背けた。

 

「あ」

「「あっ」」

 

 前者は俺、後者は花崎と土井の声だった。

 どうやらもう来ていたらしい。めっちゃ気まずそうに様子を伺っている。遅れて他の面々も一年生ズの到着に気が付き、それぞれ慌てて居住まいを正した。

 

「ご、ごめんなさいね、二人とも!」

「ごめんね! 全然入ってきて大丈夫だよ!」

「あー。二人ともマジすまん」

 

 おずおずと生徒会室に入る二人。

 生徒会を大切にしているのは俺だけじゃない。花崎や土井も色々と考えて生徒会に入ったはずなのだ。俺なんかの事情でここを荒らしてはいけないな、と強く思う。

 ――そもそも俺は、庶務なんて不確かな役職なのだから。

 

 

 ◇

 

 

「今日の議題ですが、私の公約にあった『冬の文化イベント』についてです。……ユウ先輩、書記をお願いできますか?」

「うい」

 

 始まった話し合い。

 俺は大河に言われるままホワイトボードの前に立った。花崎(書記)には議事録をとるっていう仕事があるからな。こういう隙間仕事こそ庶務の役目って感じがする。

 

 ――仮称『冬の文化イベント』

 

 そう水性ペンで大きく書いてから大河を見遣れば、彼女は会長らしく話を進める。

 

「これはあくまで私の考えですが……卒業式の後に感謝祭という形で行うのがいいんじゃないかな、と思っています」

「んっと……つまり、三送会的な感じ?」

 

 真っ先に尋ねたのは来香だ。

 一瞬大河の動きが止まったように見えたが、すぐにかぶりを振り、彼女は答えを返す。

 

「いいえ。もちろん三年生向けに発表をしてもらってもいいですが、それだけには留めないつもりです。一年間共に過ごしたクラスメイトだったり、いつもお世話になっている人だったり……色んな人への『感謝』という形にできればな、と」

「なるほどなるほど」

 

 こくこく頷く来香。なるほどな、と俺も納得させられた。

 卒業生をターゲットにしてしまえば、どうしても参加者も限られる。しかし『感謝』を軸に間口を広げれば、その問題点は解消されるだろう。

 きゅきゅ、と水性ペンが短く鳴いた。

 話を聞いていた時雨さんが、それなら、と口を開く。

 

「基本的な型は冬星祭を転用しちゃってもいいかもね」

「はい、私もそう思います。とはいえ丸々同じだとインパクトが薄いので……」

 

 もっともな意見だ。

 文化系部活の発表の場としての色を濃くするなら、冬星祭の型は使い勝手がいい。三大祭の中でも、なんだかんだ人気があるイベントだしな。

 

 問題は同じことをやってもしょうがない、という点。

 もちろんタイミングが違うだけで意味合いも大きく変わるし、似たようなことをしてもうちの学校なら盛り上がるとは思う。だが、やるからには一捻り加えたいところだ。

 

「それならプロムっぽくするのはどうだ?」

 

 と、俺は気付くと口を開いていた。

 皆の視線がこちらに集まる。流石に考えなしで声を上げたわけではないが、まだ思いつきレベルのアイディアなのでこの場で提案するつもりはなかった。

 じゃあどうして俺は……と苦笑する。

 

「プロムって、プロムナードのことですか?」

「ああ。といっても、そんなに本格的なものじゃない。発表の合間に軽いチークタイムを設けて、ケータリングを用意する。何となくそれっぽい雰囲気を作ってやれば、冬星祭と差別化が図れるんじゃないか?」

 

 必要なのは大きな変化ではなく、飽きさせないアクセントだ。だったら軽いテコ入れで十二分に意味はある。むしろ変えすぎた方が期待外れなものになってしまう可能性があるだろう。

 

「なるほど……そうなると、新入生歓迎会に近くなるかもしれませんね」

「その辺は演出から変えていくしかないな。後は、レンタルドレスの業者を紹介するとか。卒業式とセットのイベントにすれば、意外とドレスを借りるってやつは多いと思う」

 

 何せこの学校はお祭り学校だからな。打てば響くのは企画側としてはやりやすい。

 

「えっと、どうだ?」

 

 反応がないのが焦れったくて、おずおずと様子を窺う。

 提案してみたはいいものの、自信があるわけではない。完全な思いつきに突貫工事で理論をくっつけてるだけだ。却下されるならそれでいいと思ってるのだが……。

 

「私はいいと思う! そういうパーティーみたいなの、やっぱり憧れるもん」

「そ、そうか……?」

「ボクもいいと思うな。送られる側のボクが言うのも変かもしれないけどね」

 

 美緒と時雨さんの好意的な反応にほっと胸を撫でおろす。他のメンツも概ねポジティブに考えているようで、否やの声は上がらない。

 

「私もいいと思います。ただ……少し負担は大きくなるかもしれませんね。2月には毎年恒例のバレンタインイベントもありますから」

「あー。お料理教室だっけか」

「ボクが一昨年ノリで始めたんだよね~、懐かしいな」

 

 ひらひらと気まぐれな蝶みたいに独り言ちる時雨さん。

 この人の言う通り、うちの高校では一昨年からバレンタインデー前に生徒会主催のお料理教室を開催している。特に女子には好評な企画で、今年も開催が決まっているのだ。

 

「となると、こっちにずっとかかりっきりになれる人がいた方がいいかもね。感謝祭のことに集中できる人がいると、いろいろと上手く回るんじゃないかな」

「確かにそうかもしれません。となると、その担当は……」

 

 言葉尻を濁しつつも、大河ははっきりこちらを見ていた。おのずと全員の視線が俺に集まる。まぁそうだろうな、と苦笑した。

 

「俺がやるよ。バレンタインイベントがひと段落するまではこっちで進めさせてもらう。ぶっちゃけバレンタインの方は参加しにくいしな」

「それもそうですね。じゃあユウ先輩、お願いします」

「百瀬くんがプロムの指揮って、なんかちょっとキャラ合わないよねー」

「ちょっと思ってたことを言うのはやめような!?」

 

 ハリボテなオチがつき、この件はひとまずまとまった。

 くすくすと本当に楽しそうに笑う大河を見て、はぁ、と誰かが溜息を漏らす。その溜息の冷たさが耳の奥でざらついて、どうにも落ち着かなかった。

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