【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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10章#20 美緒とのデート

 SIDE:友斗

 

 三学期が始まってから数日が経った。俺と│美緒《月瀬》が付き合っている、という噂は今もなお、ジューシーなゴシップとして至るところで話題にあげられている。新学期を景気よく盛り上げるのに一役買ってしまっているのは不快だが、火消しに走ることはしていない。

 

 理由は二つ。

 まず、この手の噂はどれだけ頑張ってもすぐには消えないからだ。もちろん晴彦や如月、伊藤といったコミュ力や影響力がある奴に頼ればいいのかもしれない。でも今の俺には晴彦たちに頼ることなんかできない。それに、仮に晴彦たちの力を借りても簡単には解消できないだろう。噂なんてそんなものだ。

 

 第二に、この噂が奇しくも今の俺に都合がよかった。美緒と一緒にいる時間が長くても不思議がられないし、澪や雫、大河とも自然に距離を置くことができる。晴彦との一件もあり、教室で腫れ物扱いされているのも大きかった。

 

 我ながら最低だな、とは思う。

 だけど美緒も噂をそのままにすることに同意してくれたから、ずるずると甘えてしまっている。

 

 そんなこんなで、土曜日。

 今日は美緒……というか月瀬の祖父が経営している喫茶店に行くことになっている。旅行から帰ってきたそうで、早速面接したい、とのことらしい。俺としても家にいなくて済むのは助かるので、なるべく早くバイトをしたい。そんな事情があって、美緒と待ち合わせをしているのだった。

 

 待ち合わせ場所は美緒の家の最寄り駅前。家の場所は知っているのでこちらが行ってもよかったのだが、

 

『せっかくだし、兄さんと遊んでからいきたいな』

 

 と言われ、駅前で少しぶらついてから向かうことになった。

 20分ほど待ったところで、美緒がやってくる。ダメージジーンズとフード付きのパーカーと、ボーイッシュな可愛さがある。大きなギターケースを背負っていたら様になりそうなものだが、流石に今日は持ってきていなかった。

 

 美緒の好みなのか、月瀬の持っていた服にそういう傾向があったのかは分からないが、冬休みに会ったときもキュートよりクール寄りの格好だった。澪もボーイッシュな恰好をすることが多いんだよな……と思いかけて、口の中が苦くなる。

 

「おはよ、兄さん。……もしかして結構待った?」

「いや……そんなに待ってないから大丈夫だ。ちょっと早く出ただけだから」

「ふぅん? えいっ」

 

 不意に美緒が俺の手を掴んだ。

 目的を察したときにはもう遅い。冷え切った俺の手は美緒の温もりに包まれる。ギターを弾いている影響か指はちょっぴりゴツゴツしていた。

 って、そーでなくて。

 

「やっぱり冷たい。かなり待ったでしょ?」

「……ほんの20分な」

「私が時間通りに来たら、一時間超えてたってことだよね」

「うぐっ」

 

 約束していた時間は10時。今は9時なので、本当ならあと一時間は待つ予定だった。

 ばつが悪くなってそっぽを向こうとすると、ぺし、と両頬が手で挟まれる。美緒がむすっとした顔でこちらを見ていた。

 

「家にいるのが嫌だったの?」

「……澪も大河もいなくて、雫と二人っきりだったんだよ」

「なるほどね。だから早く出てきたんだ。……それは、うん、いいよ。気まずいのは分かる。だけどさ」

 

 むぎゅぅ、と俺を不細工に潰しながら続ける。

 

「早く出たなら、そう言ってほしいな。私はどこへだって駆けつけるから」

「駆けつけるって言ったって……準備とかあるだろ?」

「あるけど、それって兄さんに可愛く見てほしいからすることだもん。兄さんを凍えさせないことの方がずっと大事。……来香の顔は可愛いから、すっぴんを見られても恥ずかしくないしね」

「……そっか」

「うん、そう」

 

 コーンポタージュみたいな優しさが心に沁みる。同時に傷口(弱さ)にも沁みたけど、痛くないフリをした。

 

「まぁ、今回は私の計算ミスのせいでもあるけどね。待ち合わせをもっと早くすればよかった。遊びたいって言ったのは私なんだし」

「いや、美緒は悪くないって」

「いいんだよ。弱さを見せてくれないことが悪い、なんて言いたくないもん。兄さんに言われなくても気付いてあげたい。そうしたい私のために反省してるの」

 

 ここまで言わせて、俺が反省しないわけにはいかない。

 ごめんな、となるべく重くならないように気を付けて言う。

 

「今後は美緒に早く会いたいって言うよ。なんなら支度中に電話繋いでくれって頼む」

「化粧とか着替え中に電話しようとするのはちょっとなぁ……」

「えぇ……我ながらいい妥協案だと思ったのに」

「まだまだだね、兄さんも」

 

 ぷくっ、と二人で吹き出す。

 ひとしきり笑ってから俺たちは仕切り直した。

 

「お昼過ぎにお祖父ちゃんのところに行くとして……それまで、どこ行く?」

「なんだ、行きたい場所があるとかじゃないのか?」

「そもそもこの辺ってあんまり遊ぶ場所ないんだよね」

「身も蓋もないことを言うな!?」

「だって事実だし」

 

 いや、まぁそうなんだけども。

 一つ隣の蒲田まで行けば色々とお店があるけど、この駅周辺となると話は変わってくる。探せば穴場スポットはあるかもしれないが……高校生が行って楽しめるかは別問題だろう。

 

「蒲田まで行くか?」

「それがいいかなぁ。ごめんね、二度手間で」

「いや。現地集合ってのは寂しいし、一緒に行けた方が嬉しい」

「…っ、えへへ。私もだよ」

 

 きゅいっと目尻を下げて微笑み、美緒は改札に入る。

 ふっと笑いながら俺もついていった。

 

 

 ◇

 

 

「で、来るのがゲームセンターか」

「……嫌だった?」

「嫌っていうか、意外だったな」

 

 蒲田駅にはゲームセンターがいくつかある。美緒が行きたがったのはそのうちの一つ、以前雫と一緒に来たことのある場所だった。がやがやと騒がしい店内を見渡しながら俺が言うと、美緒が唇を尖らせる。

 

「いいでしょ。私、ゲームが好きなの」

「それこそ意外だが……」

 

 と言いつつ、かつて美緒がゲームのネタだと誤魔化した言葉を思い出す。あのゲームをやっていた身としては結構印象的な台詞だったが、ネットミーム化しているわけじゃない。それを引き出せているってことはかなりやっているのだろう。

 

「音楽は来香で、ゲームは私って感じで二つの趣味を分担したんじゃないかなって思うときもあるんだよね」

「なるほど……? じゃあ、音楽はあんまり好きじゃないのか?」

「好きは好きだよ。でも、来香ほどじゃないかな」

「ほーん」

 

 美緒の趣味が月瀬に影響したのか、月瀬の一部を美緒が取り込んだのか。

 その辺りは判然としないところだろう。卵が先か鶏が先か、って議論するようなものだ。

 

「ま、美緒が楽しめるならいいけどさ。ゲーセンで何をやるんだ?」

「うーん、あんまり来ないから特に決まってるわけじゃないけど……とりあえず地下かな」

「地下か」

 

 階段横にあるフロアガイドを確認する。地下にあるゲームっていうと……格ゲーと音ゲーか。

 

「なかなかガチだな」

「だからそう言ってるじゃん! ほら、行こ」

「はいはいっと」

 

 美緒に手を引かれて階段を下りながら、俺は密かに自嘲した。

 俺は今の美緒のこと、全然知らないんだな。

 この感情は、美緒が心臓移植していたと知ったときとよく似ている。これだけ自分の中で大きな存在なのに、知らないことが多い。考えてみれば当たり前なのに、無性に寂しくなる。

 

 地下には学生と思しき男子の姿がちらほらあった。俺は中学時代にろくに友達がいなかったので分からないが、健全な中学生はこういうところに来たりするんだろうか? 或いは、晴彦とも帰りに――いや、考えてもしょうがないことだな。

 

「まずは音ゲーで遊びたいんだけど……兄さんもやる?」

「いや、実はあんまりやったことがなくてさ。見ててもいいか? お手並み拝見ってことで」

「そんなに上手なわけじゃないよ? 私が普段やってるのってRPGが多いし」

 

 と言いながらも、美緒はやる気を見せてくれる。

 おー、とわざとらしくぱちぱち拍手をしたらムスっとされた。からかったわけじゃないんだけどな。

 

「本気出すから。兄さん、そこで見ててね」

「お、おう?」

 

 あれ、思いのほかガチ……?

 美緒の真剣な目に苦笑するのも束の間、美緒は楽曲を選択する。俺も一度は聞いたことがある、超ハイテンポのボカロだ。三段階の難易度――から選ぶかと思いきや、なんか隠しコマンド的なものを入力し始めた。明らかにめっちゃ高い難易度を選んでいるのが分かる。

 

 そして――美緒はその楽曲をフルコンボでクリアし、ハイスコアを大きく塗り替えたのだった。

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