【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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10章#21 役

「まさかここまでとは……音ゲーに格ゲー、レースにシューティング。まさか全部めちゃくちゃ上手いとはな」

「ちょっとだけね。音ゲーでも激しい運動が必要なのは無理だし」

「ちょっととかの次元じゃなかったよな? ちらっと見た店の人がめっちゃ驚いてたぞ」

「えへへ」

 

 あれから約二時間。

 俺たちはゲームセンターで色んなゲームを堪能した。といっても、俺は途中までずっと美緒のスーパープレイを見ていただけである。ノベルゲームくらいしか普段はプレイせず、アクションが激しくなってきた昨今のRPGに苦戦しまくる程度にはゲームが得意ではない俺からすれば、美緒のプレイングはプロのように思えた。

 

 つーか、プロはまだしも動画投稿サイト程度なら凄腕認定を容易く受けられそうなレベルだ。我が妹ながら天才すぎる。

 

「ほんと、誰も彼も当然のように凄いんだよなぁ」

「ん? 兄さん、何か言った?」

「いんや。美緒のことを知れてよかった、って思っただけだよ」

 

 それに比べて俺は、と唇を噛む。

 俺には取り柄も確固たる望みも持ち合わせてはいない。そのくせ、薄汚れているから透明にもなりきれていなくて――ああ、かっこ悪い。

 

「少し早いけど、そろそろ行こっか。お昼はお祖父ちゃんが軽く作ってくれるってさ」

「そっか。じゃあ、行きますかね。その前に――」

「手土産は要らないからね?」

「えぇ……」

「当たり前でしょ? まったく、兄さんはほんと学ばないんだから」

 

 下手すれば月瀬の両親以上にお世話になるかもしれないし、ちゃんと挨拶しておきたかったのだが……仕方ない。そもそもお金に困ってるからバイト探してるわけだし、程々にしておこう。

 

 美緒に宥められながら電車に乗って一駅。

 数時間前に待ち合わせた場所を通り過ぎ、月瀬家のほうへと向かっていく。分かってはいたことだが、喫茶店は家の近くにあるらしい。

 

「ちなみに、今日ってどういう形で会うことになってるんだ?」

「気になってる男の子がいるから彼氏に向いてるか見極めてって言ってあるよ」

「なんでそうなる!?」

 

 堪らず大きな声で反応すると、くすくすと美緒が可笑しそうに笑った。その笑みにはどことなく月瀬らしさが残っている。いや、顔は月瀬なのだから当たり前か。

 

「冗談だよ、分かるでしょ? それとも『結婚を前提にお付き合いしてます』って紹介してほしかった?」

「……そういうからかわれ方は対応に困るんですけど?」

「うん、知ってる! 兄さんを困らせたかったから!」

「素直だなぁ!?」

 

 素直ならいいわけじゃないけど、と思いつつ。

 美緒にからかわれるのは心地がよくて、つい頬が緩む。けらけらと笑いながら歩いていると、髪に耳をかけながら美緒は続けた。

 

「もともとお祖父ちゃんに話してたのは来香なんだけど……そのときは普通に『友達がバイトを探してるから紹介したい』って言ったみたい」

「ほーん」

「冬星祭の頃にはもう旅行に出かけてたから、私はお祖父ちゃんとほとんど話してないんだよね。初めて話したのは今日の日程を決めたときかな」

 

 なるほどな、と納得する。

 

「だから兄さんが無事働かせてもらえるかまでは保証できないよ。お祖父ちゃん、結構癖のある人だから頑張って?」

「はぁ……ま、そうだよな」

 

 そりゃ、面接なしで働かせてもらえるはずがない。月瀬のお母さんがいい人だったことを考えると、なおさら『癖のある』って部分が心配ではあるが……頑張ってみるしかあるまい。

 

「お願いだよ、兄さん。来香の気持ちを無駄にしないでね」

「もちろん。来香とした約束なんだ、ちゃんと期待に沿えるよう頑張るよ」

「うん、ありがとね」

 

 冬の風が俺たちの間に吹く。

 東京の冬は特別に寒いわけでも、温かいわけでもなく、ただ無機質に冷たい。だからだろうか。美緒の儚い呟きは風に掻き消されることはなく、ざらざらと耳に届いた。

 

「私は来香の代わりだから」

 

 ふっと見遣った横顔が痛いぐらいに大人びていたから、俺はその言葉の意味に触れようと手を伸ばすことすらできなかった。

 

 

 ◇

 

 

 月瀬家を通り過ぎて約1分。

 本当にすぐ近くの場所にその喫茶店はあった。店名は『喫茶フィンブル』。レトロな雰囲気の漂う外観が洒落ていて、少し近寄りがたい。まぁ、喫茶店に入ったことがないのでそう感じるのは当たり前かもしれないが。

 

 からんからんと鈴が鳴り、店に入る。店内には客の姿がなかった。OPENの札がかかっていたから開店はしているはずだが……。

 

「ようこそ、喫茶フィンブルへ。歓迎しようじゃないか」

「あ、お祖父ちゃん。もう入って大丈夫だったよね?」

「もちろんだとも。友人というのは、その隣の彼でいいのかな?」

 

 現れたのは、背の高い男性だった。綺麗なシルバーヘアーからは確かに年齢を感じるのに、老いは少しも見られない。俺の祖父ちゃんや入江家で会った大河たちの祖父と通ずる部分がある。だがこの人の場合はあの二人よりも若々しい印象を受けた。

 エプロンを着けた姿は正しく喫茶店のマスターらしい。

 一瞥を受け、俺はおずおずと頭を下げた。

 

「初めまして。月瀬…来香さんと仲良くさせてもらってる百瀬友斗って言います。今日はお時間を作ってくださってありがとうございます」

「感謝されるほどのことではないさ。私自身、君には興味があったものでね」

「興味、ですか」

 

 興味を持たれるようなことをした覚えはないが……まぁ、深く捉える必要はないか。社交辞令みたいなものだ。

 

「私は月瀬冬夜(とうや)だ。冬の夜と書いて、冬夜。いい名前だろう?」

「ですね。ここの名前が『フィンブル』なのも、名前に冬が入るからですか?」

 

 フィンブルの冬――北欧神話における世界の終焉、ラグナロクの前兆となる出来事だ。夏が挟まれずに三度の冬が訪れ、その間に数え切れない戦乱が続いたとされる。

 俺が言うと、冬夜さんは上機嫌に笑った。

 

「おや、北欧神話を知っているのかい?」

「少し齧っただけのにわか知識です。小説とかを読んでいると出てくるので、興味があって調べたことがあったんです」

「なるほど、素晴らしい」

 

 ま、実際には小説よりもアニメやゲームの影響が強いけどな。冬夜さんがその手のものに対してどんな印象を抱いているかは分からないので黙っておく。むやみに地雷を踏むリスクを負う必要はない。

 

「私の名前もそうだけれど……店名にはさほど関わっていないよ。くたばるまでの余生は、ラグナロクの前の大いなる冬に似ている気がしてね。だからフィンブルと名付けた。大仰だろう?」

「あはは……確かに、ちょっとだけ」

「ふふ、いいさ、私も大仰だと思っている。だが大仰なくらいがちょうどいいんだ。人生は舞台だ、とよく言うだろう? 私はくたばるまで舞台俳優でいたいものでね」

 

 気の利いた言い回しに、かっこいいな、と素直に思った。

 どこか入江先輩に似ているような気もする。冬夜さんの口から語られる『くたばる』は死のことに違いないのに、少しもネガティブな印象を受けない。

 

「っと、話すのは後にしよう。友斗くんはコーヒーと紅茶、どちらが好きだい? いい豆と茶葉がある。昼食と一緒にご馳走するよ」

「あ、ありがとうございます。じゃあ……紅茶をもらっていいですか?」

「承った。来香と好きなところに座っているといい。すぐに準備する」

「お祖父ちゃん、ありがと!」

 

 月瀬らしく美緒が言うと、冬夜さんカウンターの方へ向かった。俺と美緒はカウンターから近い席に腰かける。

 店内には音楽の授業で聞いた覚えのあるクラシックが流れていた。曲の名前は思い出せないが、なんだかそれっぽい空気だ。まるで物語のプロローグみたいだな、と思う。こんな気の利いた喫茶店から始まるボーイミーツガール。

 

『この世は舞台、人はみな役者』

 

 かの有名なシェイクスピアはそんなセリフを残したらしい。だが、古人に言われるまでもなく、生きていれば誰だって自分が物語の登場人物だと感じるだろう。

 

 俺は主人公になれなかった。

 モブになると決めたから、美緒とありふれた兄妹でいることを選んだから、今がある。なのにどうしてこんなにも落ち着かないんだろう。

 

 もしもこの瞬間すら舞台の一幕なら、俺はモブをちゃんと演じることができているか。

 それすら上手くこなせていないんじゃないか。

 

 そんな考えが、頭によぎった。

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