【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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10章#33 百瀬友斗の物語(1)

 ――時間はやや遡り、放課後。

 

 SIDE:友斗

 

「ユウ先輩! やっぱり今日から生徒会に来てください!」

「は……?」

 

 午後の授業が終わり、感謝祭用の資料作りのためにPC室へ向かおうとしていた俺は、教室に突如現れた大河にそんなことを言われた。肩で息をしているのを見るに、おそらく帰りのHRが終わってから急いでやってきたのだろう。急がせてしまって申し訳ないな、と思う。

 

 大河と会うのは数日ぶりだ。

 冬星祭の事後処理が終わって以降、一人で感謝祭の準備をするからと生徒会室に行かずに活動する許可を取った。もちろん俺だけ周りと別のことをやるので集中したいっていう実務的な事情もないわけじゃなかったが……本当のところは、ただ生徒会室からいなくなりたかっただけだ。

 俺が生徒会室にいれば、どうしたって空気が悪くなる。あの毒みたいな停滞は居心地が悪くて、沈んだ表情の大河や何か言いたげな如月と顔を合わせたくなくて、俺は逃げた。

 

 なのに今になって、大河が生徒会室に来いと言い出している。

 正直、どうして急に?という思いでいっぱいだった。

 

「急になんなんだよ。トラブルでも起きたのか?」

「いえ。少し忙しくて大変ですが、それ以外は順調に進んでます。遅れは私が取り戻してみせるので、ユウ先輩はこれまで通り仕事をしていただいて大丈夫です」

「だったら俺が行く理由ないだろ」

「あります」

「……なんだよ」

 

 と聞いてから、しまった、と思う。

 俺は見えていなかったのだ。大河の眼に宿る、真っ直ぐな陽光を。曇り始めた空を全部青く染めてしまうくらいの眩しさを。

 

「私が、ユウ先輩と一緒にいたいからです!」

「なっ!?」

 

 瞬間、頭によぎったのは夏のことだった。

 二人っきりの、大河の部屋。風邪で倒れて本当は苦しくて心細いはずなのに、大河は俺のために俺を遠ざけてくれた。

 

『好きだからですよ! 好きだから、無関係でなんていたくないんです! 好きな人が苦しそうな顔をしてるのを、これ以上見たくないんです!』

 

 大切なことを学んで、より強い光を宿して。それでも入江大河の核にあるものは、きっとあの頃から変わってない。

 本当にかっこいヒーローだと思った。

 

「……そんな私情を仕事に挟んでいいわけないだろ。一人の方がやりやすいんだよ」

「嫌です。どうして後輩のお願いを聞いてくれないんですか?」

「なっ、その言い方は卑怯だろ!?」

「卑怯なのはそっちじゃないですか! 憧れの先輩が一人いなくなって、こっちは心細いんですよ!? ちゃんと先輩してください!」

「――っ!?」

 

 無茶苦茶にも程がある理屈だった。でもそんなこんなで言い争っているうちに、俺たちは完全に悪目立ちしてしまう。この状況で大河の申し出を断るのは印象が悪すぎる。鎮まり始めてるくだんの噂が再燃するどころか、よくない広がり方をするような気がした。

 

「……分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」

「やったっ! じゃあ、行きましょう!」

「ちょっ、おい!? テンションがおかしくないか……?」

 

 かくして俺は、半ば拉致られる形で生徒会室へ向かうことになった……のだが。

 嵐のような展開はここで終わりじゃなかった。

 

 生徒会活動中は、本当に感謝祭の準備に集中させられた。まぁバレンタインイベントに口を出せることは一切ないので当たり前だけど。

 一個だけ、美緒が大丈夫?と視線で心配してくれていた。

 

 そうして下校時刻を知らせるチャイムが鳴り、帰ろうとしていたとき。

 こんこんこん、と生徒会室を誰かがノックした。誰も反応しないので渋々俺が応対しようと扉を開けると、

 

「友斗先輩、つーかまえたっ!」

「ッ!?」

 

 何故か雫がタックルを決めてきた。

 バランスを崩しながらも、ここで倒れたら雫も危なかろうとなんとか堪える。結果として抱き着かれる体勢になってしまった。

 

「……雫? ちょ、離せって。こういうのは――」

「離しません! 大河ちゃん、私が捕まえてる間に友斗先輩の荷物をよろしく!」

「任せて!」

「何が!? ちょっと、落ち着けって! これどういう状況だよっ?」

 

 もう訳が分からなかった。いったい、なんでここに雫がいる? そして何故抱き着かれてる? 大河と雫が結託してるのもなんでだ?

 

「あーはいはい、暴れないでくださいね~。今日は大河ちゃんも一緒に帰るので! あんまりじたばたするなら、大河ちゃんと私で両腕ホールドして帰ることになりますよ?」

「はっ? 大河が家に……? いや、だったら俺は――」

「帰らないつもりです? 頼れる友達もいないくせに~? 無理ですって。てか、みっともないですよ。後輩の前でそんな姿見せて、恥ずかしくないんですか?」

「…………」

「そこで黙られるのはちょっと癪なんですけど!?」

「ユウ先輩は花崎さんと土井さんによく見られる方が優先度高いんですね」

「「私たちをこの流れに巻き込まないで!?」」

 

 相手が澪ではないので、無理やり拘束を振り払うことはできる。でも無理を通せば雫が傷つく。この子にケガをさせてしまうのは絶対にNOだ。

 

「雫ちゃん、百瀬くん嫌がってるよ~? そーゆうの、よくないんじゃないかなー」

「え~? 嫌がってるって割に全然押す力強くないですよ? 満更じゃないってことだと思うんですよねー」

「それは雫ちゃんを突き放せない百瀬くんの優しさで――」

「だったら好きな男の子の優しさにつけこんじゃうのは女の子の特権だと思うんですよねっ! 大丈夫です! 友斗先輩のこと、ちゃんと幸せにするので」

「――っっっ」

 

 月瀬として話した美緒が雫の勢いに押されていた。何とかフォローしたい気持ちもある。だけど、雫は別に美緒を傷つけてるわけじゃない。もし今美緒を傷つけてる奴がいるとすれば、それは間違いなく俺だ。

 

「とはいえ、私も百瀬くんを無理やり連れていくのはあんまりいいことだと思わないわね。もし百瀬くんが本気で雫ちゃんや大河ちゃんと一緒にいたくないなら、今ここで言って。そのときは私が晴彦に、一晩泊めてもらえるように頼んであげるから」

「っ、如月……」

 

 眼鏡の位置を正しながら、如月が俺に言う。

 ぎゅっ、と。僅かに雫が縋るように力を強めてくる。俺の荷物を片付ける大河の手が止まていた。

 

 如月のそれが優しさじゃなくて厳しさであることは、痛いほど分かった。

 その厳しさが優しさの裏返しであることも当然分かってる。

 だから、

 

「……嫌じゃ、ない。ちゃんと帰るから離れてくれ。この状態が続く方が困る」

「だそうよ、雫ちゃん」

「しょーがないですね~。友斗先輩が私に密着されてるとドキドキしちゃうっていうなら、大人しく離れてあげますっ!」

 

 まだ前に進めてるわけじゃない。でも、この場で突き放すことが正解のようには思えなかった。

 雫が離れると、大河が俺にバッグを手渡してくる。もう帰り支度は整ったらしい。

 

「では如月先輩。連日申し訳ないですが、戸締りをお願いします」

「うん、任せて~」

「先輩方も、二人も! またね~!」

「う、うん、雫ちゃん。またね」「また明日……」

 

 若干置いてけぼり気味の一年生たちにも忘れず挨拶をして、雫はとたとたと帰っていく。約束を違えて逃げる真似をするつもりはないので、俺も大河と共についていった。

 

「……あの、如月先輩。なんで雫ちゃん、百瀬先輩と同じ家に帰るみたいな口ぶりだったんですか?」

「あ゛」

 

 ……ちょっと後ろで不穏なやり取りが行われてる気がしなくもないが、聞かなかったことにした。

 いや、如月に事前に話を通してたなら花崎と土井にも諸々説明しといてやれよ!

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