【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#11 仲直り

 長い休日が終わり、とうとう学校が再開する。一日のサボりと数日間の休みによって結果的にかなり長めになってしまったせいだろう。起きたばかりの体は実に気怠く、いっそ今日もサボろうかなぁ、みたいな思考に陥りかけた。

 ……きっと不登校ってこんな感じで泥沼にはまっていくんだろうなぁ。

 などと多方面に失礼なことを考えながら制服に袖を通し、朝食を済ませて家を出た。いつまでもうだうだと立ち止まっているわけにはいかないのだ。

 

「こーやって友斗先輩と一緒に登校するのも久しぶりですねっ」

「そうかもな。……色々と悪かった」

「あー、はいはい、そーゆう湿っぽいのはノーセンキューです! 私を慰めたいなら手の一つでも繋いだらいいんじゃないですかねー?」

「付き合ってもないのに手を繋いだら色々とアウトなんだよなぁ」

「美緒さんとはあくまで兄妹だったはずなのに手を繋いでた人がなんか言ってる」

「うぐっ」

 

 雫が冷たい声でぼそっと言った。

 それを言われると弱る。昨日感じたばかりの温もりが掌で蘇った気がして、余計に言葉に詰まった。雫は俺の動揺を見逃さず、むぅっ、と頬を膨らませる。

 

「昨日も絶対来香先輩と会ってましたよねー」

「な、なんでそう思う?」

「だって帰ってきたとき、女の子がつけてそうな香水の匂いがしましたもん! あれは絶対に来香先輩ですね。……バイト先も来香先輩のお祖父さんの喫茶店なわけですし」

 

 別に隠していたわけじゃないし、疚しいこともなかった。

 でもこんな風に言われると不貞を見抜かれた浮気夫みたいな気分になる。つーか、雫の目が怖ぇよ。あと帰ってきた後の匂いを把握してるのも地味に怖い。

 

「まぁ、いいですけどねー。いま友斗先輩と手を繋いでるところを見られちゃうと、私的にもあんまりよろしくないですし」

「……? そうなのか?」

「そうなのか、じゃないですよ! それも友斗先輩たちがばら蒔いた火種のせいですからね!?」

 

 何のことを言われているのか分からず首を傾げると、「ダメだこの人」と心底呆れられてしまった。

 これ見よがしに溜息を吐いた後、人差し指をふりふりしながら雫が言う。

 

「友斗先輩と来香先輩が付き合ってるって噂、色々と便利だと思って放置してますよね?」

「あっ」

「忘れてたとかマジかこの人。……この前友斗先輩と来香先輩が二人揃って休んだせいで、下火になってた噂がめっちゃ再燃してるんですからね? 休みの間に消えてればいいですけど……ネタがネタなので、むしろもっと手がつけられないことになってるまであるかもしれません」

「あ、そ、そうだよなぁ……」

 

 やっべぇ、完全に忘れてた。

 いや、でも待ってほしい。ここ数日の密度を考えたら忘れてしまっていても当然なんじゃないだろうか。実際、最近は噂も消えつつあったわけだしな。

 

「ゆ・う・と・せ・ん・ぱ・い?」

「……わ、悪かったって!」

 

 割と本気めに雫が怒っているのを察し、素直に謝る。よく考えなくとも忘れてていい話じゃなかったし、来香と二人でサボることが与える影響もちゃんと考えておくべきだった。我ながら勢いだけで生き過ぎでは?

 

 やれやれと肩を竦めた雫は、腰に手を当てて俺を叱る。

 

「もう、ちゃんとしてくださいよ! 噂が消えるまではおちおちアプローチもできないんですから! ……まぁ、お姉ちゃんと大河ちゃんは噂なんか無視しそうですけど。その方がヤバいのは友斗先輩も分かりますよねっ?」

「……だな。百々理解してる」

「ふざけないでもらっていいですか?」

「はいすみません」

 

 あっさりと嵩増し話法が却下されてしまった。ぐすん。大河が最近使わないからせめて俺が使おうって思ったのに。

 が、それはそれとして。

 雫の言っていることは理解できる。特に怖いのは澪だ。今のあいつは風評など全く気にせず、我が道を行きかねない。大河もアクセルの踏み方を間違えてるところはあるしな。

 

「私だって友斗先輩にいっぱいアプローチしたいです! ……ので、答えを出せとは言わないのでこの噂をなんとかしてほしいです」

「それは、うん、分かった。絶対なんとかする」

「ほんとに分かってます?」

 

 ぐいっと雫が俺のマフラーを引っ張った。つんのめってしまうと、すぐそこに雫の顔が来る。その眼はとても真剣だった。

 訴えかけられている不満と、その裏にあるもう一つのメッセージ。どちらもちゃんと分かっているつもりだ。

 

「噂については忘れてたし、再燃する可能性なんて頭の片隅にもなかった。でも大丈夫だ。俺のやることは変わらないからな」

 

 そう、何一つ変わりはしない。

 だってこの噂を打破するにはあいつの力が必要なのだから。

 

「ならオッケーですっ♪ お願いしますね、友斗先輩♡」

「おう、任せとけ」

 

 

 ◇

 

 

「というわけで、俺を助けてくれ晴彦」

「いきなり土下座されるとただでさえどういうわけか説明されてなくて混乱してんのに、余計に意味分からなくなるんだけど!? つか、久々の会話がこれで本当にあってんのか!?」

 

 そんなこんなで、教室。

 俺はサッカー部の朝練から帰ってきた隣の席の親友、晴彦に土下座をしていた。朝練が終わる時間っていうと始業10分前とかなので、教室には他のクラスメイトもたくさん登校してきてる。当然、ほぼ全員の視線が俺に注がれていた。

 

 ……唯一興味がなさそうなのは澪だな。タオルで汗を拭きながらめっちゃ食ってる。入江先輩に稽古をつけてもらってたのだろうか。

 

「と、とりあえず土下座はやめろって!」

「よし、俺の頼みを聞いてくれるモードに入ったな」

「一生土下座してろ!」

「冗談だよ!」

 

 ついつい反射でふざけちゃうのはよくないな、と反省。

 とはいえいつまでも土下座をしていると話が進まないうえに悪目立ちするので、とりあえず起き上がる。もう十分注目されてるから晴彦に逃げられる心配もないしな。晴彦は俺と違って逃げないのでは?ってツッコミをしてはいけない。俺が情けなくなるだろ。

 

「……で、いきなり何なんだよ?」

 

 晴彦が眼鏡の位置を直しながらおずおずと聞いてくる。

 その口調や表情には俺と咎める色がない。つくづく良い奴なんだよな、と笑いそうになるのを何とか堪え、質問に答える。

 

「最近のこと、全部すまん。友達として酷いことばっかりしたって自覚してる」

「……そうだな。すっげー冷たくあしらわれまくったし、正直絶交したもんだと思ってたぜ」

「悪かった。だけど、俺はまだ終わらせたくない」

 

 眼鏡の奥で晴彦が目を見開く。

 その瞳を逃さすまいと俺は続けた。

 

「だから頼む、仲直りしてくれ」

「――っ」

「てか、晴彦は基本的に良い奴なんだから俺みたいな最低な親友を作って中和させた方がいい。性格も顔もよくて彼女もいるとか、嫉妬の対象だしな。その点、俺がいれば『あんな奴が友達なんて可哀そう』ってなるぞ」

 

 友達がいなかった俺は、仲直りの仕方だって知らない。

 口にできるのはせいぜい本音とくだらないジョークだけだった。

 だけど晴彦は、

 

「なんだそれ! 仲直りしようってときに脅す奴がいるか!」

「残念だったな、ここにいる。つまり俺はレアキャラだ。ゲットしとかないと友達コレクションが埋まらないぞ?」

「コレクションしてねぇし! ……ったく、友斗はしょうがねーな」

 

 ふっと口の端で笑ってくれた。

 楽しそうに肩を震わせると、晴彦はこちらに手を差し出す。胡散臭くなりそうだと苦笑しつつも、俺はその手を握り返――痛っ!?

 

「ちょ、いたっ……スポーツマンがそれやったらインドア派は即死だろうが!」

「いや友斗は結構鍛えてるし大丈夫だろ……。これくらいやっとかないと、友斗は調子に乗りそうだしな」

 

 握り潰さん勢いで力を込めてくる晴彦。サッカー部でも握力はちゃんと強いらしい。部屋で筋トレをしてる程度のもやしっ子には到底やり返す余裕がなかった。

 

「で? さっき助けてくれって言ってたよな?」

 

 ニッと頼もしく晴彦が笑いかけてくる。

 俺が何を頼もうとしてるかは分かっているみたいだった。

 

「今流れてる俺と来香の噂を上手いこと消してほしいんだが……できるか?」

「ハッ、もちろん! って言いたいところだけど、簡単には無理だな」

 

 そりゃそうだ。

 晴彦の交友関係の広さは噂を鎮める上で役に立つものの、決定打ではない。インフルエンサーの言動がむしろ噂を広げることも珍しくはなかろう。

 

「だけど、もっと面白い噂を流すことはできるぜ。たとえば――」

 

 と晴彦が俺に耳打ちする。

 聞いた瞬間、思わず吹き出しそうになった。全く同じ噂を晴彦に流してもらおうかと思っていたからだ。

 

 現状を打破し、かつ、二学期の頃みたいに戻るための一手。

 今流れている噂に負けないくらい刺激的で分かりやすい噂。

 

「最高に頭の悪い名案だ。頼めるか?」

「――いいんだな?」

「おう。実際、間違ってはないことだしな」

「うわ、それめっちゃ気になるんだけど?」

 

 前のめりになって晴彦が聞いてくる。

 うん、まぁそうだろうな。俺も晴彦には話すつもりだった。

 

「その辺の話は、また今度。そうだな……合宿の夜なんか気が利いてて話すのにぴったりだと思わないか?」

「っ!? スキー合宿に行くのか!?」

「晴彦の班が決まってなければ、だけどな」

「決まってねぇよ! つーか、決まってても調整するし!」

「んだよ、俺のこと好きすぎるだろ」

「当たり前だろ、親友なんだから」

 

 俺も晴彦も、青臭く笑う。

 流石にこっぱずかしくなって、俺はぷいっと顔を逸らした。

 

「あっ。友斗に会いたがってる後輩がいるんだけど、そいつと三人で相部屋申請しちゃってもいいか? 二人だと無理っぽいし」

「紹介したい後輩?」

「サッカー部の後輩でな。悪い奴じゃないと思うぜ」

 

 スキー合宿は三人~五人で相部屋を申請することになっている。俺と晴彦だけだと他のグループと組まなきゃいけなってしまう。それなら晴彦の知り合いに入ってもらった方がいいだろう。

 ……俺に会いたがってる後輩ってのも悪くない響きだしな。

 

「じゃあそれで頼めるか?」

「おう、噂の件も合宿の件も任せとけ! 上手いことやっといてやるよ!」

 

 どんと胸を叩き、歯を見せて笑う。

 そんな晴彦はどこまでも眩しくて。

 だけどその眩しさから目を逸らそうとは思わなかった。ちょっとだけ照れ臭かったけどな。

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