【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#12 姉妹

 SIDE:来香

 

 高校に入る前の自分が聞いたらびっくりすることだろうけど、今のあたしは結構友達が多い。クラスの皆には信用してもらえてるし、他のクラスはもちろん、上級生や下級生にも知り合いはたくさんいる。入ってるグループラインの数も相当だ。

 

 それもこれもあたしが勇気を出したおかげで、()が背中を押してくれたおかげ。

 今はどっちもあたしだから功績も二倍なんだけどね。

 

 なーんてことを考えていたのは、何人もの友達から似たようなRINEが来ていたせいだ。兄さんとの噂が流れていた頃から似たようなことはあったけど、今回のそれはあたしの意図したものじゃなかったから、余計に驚いた。

 

【ありさ:来香ちゃん、百瀬くんに四股かけられてるって本当?】

【MIZUKI:百瀬くんを綾辻さんたちと取り合ってるんだって?】

 

 などなど。

 細部を確認すると若干知っている噂にも違いがあるようだったけど、その噂が勢いよくあたしと兄さんとの交際疑惑を上塗りしていることだけは分かった。

 ていうかこれ、十中八九、兄さんの仕業でしょ。兄さんはここまで影響力ないだろうし、協力したのは八雲くんと白雪ちゃんかな。

 

「ま、なんでもいいけどねー」

 

 あたしに都合のいい噂を広めて外堀を埋めてやろう、とは思ってない。

 そんなやり方じゃ兄さんの心は掴めないし、心が掴めなきゃ何の意味もないって分かってるからね。あの三人とフェアに戦うって意味では、こーゆう噂で上書きしてくれてよかったのかもしれない。

 

 ――二年A組の百瀬友斗は四股してる

 ――美少女四人が百瀬友斗を取り合っている

 

 兄さんが意図したのがどちらかは分からないけど、誰か特定の相手と付き合っているわけじゃない以上、あたしたちの誰が兄さんに近づいてもヘイトは兄さんだけに向く。

 ちょっと自己犠牲的なやり方なのはいただけないけど……ま、遅かれ早かれ、って感じだ。その辺はラブコメ主人公のお約束ってことで我慢できるだろう。

 

 ともあれ、交友関係が広かったおかげで状況を把握できてよかった。

 よーいどんの合図が出てるのに気付かない、なんて間抜けな真似はしたくない。届いているRINEに適当な返信を済ませ、話しかけてくるクラスの友達を上手いこと躱して教室を出る。

 

 彼女に会いに行くのなら、昼休みがベストだ。放課後は生徒会でなんだかんだ忙しいしね。

 朝のうちに友達から教えてもらったそこへ向かう。

 演劇部に行ってるとは聞いたけど、まさか放課後だけじゃなくて昼休みも、とは思わなかった。ストイックというか変人というか……ギターと歌に夢中になってゴールデンウィーク丸ごと擦っちゃったことがあるせいでシンパシーを感じちゃってむかつく。

 

「マンツーマンで練習って、まるで師弟みたいですねー」

「――っ? ……来香、何しにきたわけ?」

「うわ、いきなりすごい嫌そうな顔しますね。あたしのこと、嫌いだったりします?」

「嫌いっていうか、違和感がすごいだけ。それが本性なんだ?」

「それだと黒~いお腹を隠してたって言われてるみたいで嫌なのでやめてもらってもいいですか? これがあたしの美味しいとこ、です♪」

「ふぅん」

 

 あたしの姿を見るなり、彼女は怪訝な顔をした。

 澪……いや、姉さん? 正直どっちで呼ぶべきか迷う。彼女を友達だって捉えてるあたしも嘘じゃないし、姉だと思っていなくもない。兄さんを『友斗くん』じゃなくて『兄さん』って呼ぶことにしたのは単にあの人が妹属性に弱いって思ったからだし……どーしようか。

 

 考えてるあたしを品定めするような視線が一人分。

 入江恵海先輩。

 直接話したことはないけど、なかなか存在感のある人だ。

 

「綾辻澪。彼女は?」

「だからフルネームで呼ぶの鬱陶しいって何度……ま、いいですけど。それに知ってますよね? 二年の月瀬来香です」

「どーも、入江先輩。二年B組、月瀬来香って言います。ミスコンとミスターコンのときはお世話になりました」

「入江恵海よ。……なるほど。今までずっと頭の中で一致していなかったけれど、ようやく納得できたわ。あなたがあのギターを弾いた子ね?」

 

 その眼は鋭く、まるで全てを白日の下に曝け出そうとしているみたいだった。

 一目でそんな風に言ってくるとは……時雨さんと付き合ってるだけのことはある。

 

「そーです。あたしのファンになっちゃいました?」

「悔しいけれど、ね。まさか生意気な後輩が綾辻澪だけじゃないとは思わなかったわ」

「それは光栄です♪ ま、今日は澪さんに用事があって来たので。お稽古の途中かもですけど、ちょっと失礼しますね」

「……何を話すのか、興味があるわね。盗み聞いてもいいかしら?」

「どーぞどーぞ。あたしたちの話ってことだけ忘れないでくださいね」

「えぇ。口を挟むつもりはないわ」

 

 言って、入江先輩が一歩下がる。入江先輩がここにいるのは分かっていたことだし、話に立ち会おうとするのも想定内だ。別に聞かれて困るような話でもないからね。

 にこっと笑い、あたしは彼女に向き直る。

 

「と、いうわけで。澪さん、お時間いいですか?」

「……別にいいけど。敬意とかないくせに敬語使うのはやめてくれる? 私たち、同学年(タメ)なんだし」

「ふむふむ。そーゆう感じね、りょーかい」

 

 美緒として話したときの名残りで敬語を使ってたけど、澪の言う通り、敬意はさほど抱いていない。もちろん、ある程度のリスペクトはあるけどね。

 姉だと意識したところで二人っきりのときじゃないと呼べないし、『澪』呼びでいっか、と心の中で決める。

 

「実はね、今日は澪にお願いしに来たんだー」

「お願い?」

「そー! スキー合宿、あたしも行くことにしたの」

 

 兄さんから既に聞いていたのかもしれない。澪に驚いた様子はなかった。

 

「それで? スキーを教えて、とでも言うつもり?」

「澪はスパルタだろうし絶対やだー。澪に頼むくらいなら、友斗くんに手取り足取り教えてもらうよ。そーじゃなくて――」

 

 一呼吸置いて、あたしは言う。

 

「――あたしたち四人で班を組まない?」

 

 スキー合宿は、三人~五人の生徒で一部屋を使うことになっている。その班の申請締め切りは明日。この話を持ち掛けるなら今日がリミットだ。

 僅かに遅れて、澪はあたしの言う()()が誰を指しているのか理解したようだった。

 

「私と雫とトラ子と……あと来香、ってこと?」

「そーゆうこと。ちょうどいいじゃん? 友斗くんを取り合ってる美少女同士、積もる話もあるだろうし」

「何か企んでるわけ?」

「ひどいなぁ。あたしなりに仲良くなりたいって思ってるだけだよ?」

 

 それは、包み隠さない本心だ。

 少なくとも、この件で何かを企んでいるわけじゃない。澪や雫ちゃん、入江会長との距離を縮めたいと思っただけだ。

 澪はじっとあたしと見つめ、はぁ、と肩を竦めた。

 

「厄介な女になったね」

「澪にも負けない、最強無敵の女でしょ?」

「ふぅん。――ま、熱くはなれるかもね」

「やった」

 

 ずっと怪訝な顔をしていた澪がふっと破顔する。

 その目には好戦的な光が宿っていた。雷光みたいなその輝きにゾクゾクと血が疼く。

 

「いいよ。雫とトラ子には私から話しといてあげる。寝込みを襲わないように監視しときたいしね」

「ありゃ。警戒されちゃってる?」

「当たり前でしょ。私の下着でシようとした罪は重いから」

「自分がシてもらえないからってヤキモチ?」

「……へぇ、言うじゃん。言っとくけど、私は最後までシたことあるよ」

「他の女の代わりにされても満足なんだ~? NTR性癖もある感じ?」

 

 売り言葉に買い言葉で、あたしも澪も挑発的な口調になる。兄さんと澪がセフレだったことは聞いてたけど、それを引き合いに出されるのは女としてなんだかなぁって感じだ。兄さんの欲の一端を垣間見た今となっては、尚更に。

 

「不毛な口喧嘩をするぐらいなら、月瀬来香にも私が演技を仕込んであげましょうか?」

「「は?」」

「どう? 恋以外でも綾辻澪の鼻っ柱を折りたくないかしら?」

 

 入江先輩が誘うように言ってくる。

 思いもよらぬ提案に戸惑うけど、同じくらい疼いてる自分もいた。

 

「入江先輩、何言ってるんですか」

「あなたにもそろそろライバルが必要でしょう?」

「それは……ま、そうですけど」

「ならいいじゃない。――で、月瀬来香。どうかしら?」

 

 そんなことを突然言われても、というのが正直なところだ。

 演技なんてよく分かんないし。

 だけど、澪と同じ舞台で戦えるのは悪くない。

 

「いーですよっ。体の関係であんまり激しい運動はできないですけど、それでもよければ」

「あのステージを作れるなら問題ないわ。少しずつ体力作りはしてもらうけれどね」

 

 あたしは入江先輩の手を取る。

 言い包められて不服そうな澪に近づき、妹みたいに笑って見せた。

 

「これからは()弟子ってことですね、姉さん♪」

「ったく……口の減らない生意気な妹」

「はいはい、喧嘩しない。早速始めるわよ」

 

 妙なことになったなぁ、と苦笑しつつ。

 こういうよく分からない即興(カオス)もあたし好みかもな、と思った。

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