【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#13 望むこと

 SIDE:友斗

 

 生徒会主催のバレンタインイベントの準備は順調に進んでいる。

 といっても、未だにほとんど関与していない俺が知っていることと言えばクッキーを作るってことくらいのものだ。それも仕事を通してではなく雫に付き合って知ったことなので、生徒会庶務としてはマジで何も知らされていない。無知無知の実の能力者になったのかと思うほどだ。

 

 だから実際には順調かどうか判断できないのだが――。

 

「入江会長、こっちのチェックお願い」

「ありがとうございます。立て続けて申し訳ないんですが、私の方で作った資料を詰めてもらってもいいですか?」

「りょーかい。……ふむふむ、もうだいぶ細かいし、さくっと終わりそう」

「月瀬先輩こそ、どれも確認が要らないくらい完璧に仕上げていただいているじゃないですか。流石です」

 

 大河と来香の会話を聞く限り、順調だと判断してよさそうだった。

 いつの間にやら生徒会の重要戦力になりつつある来香には、如月も少し思うところがあるようで、複雑そうな顔で仕事をしている。仲を取り持ちたいとは思うものの、俺も如月についさっき謝って仲直りしたばかりなので、そこまでのことをする余裕はなかった。

 

 ま、その辺りは時間が解決することかもしれないとは思う。

 元はと言えば、悪いのは俺だしな。

 

「ユウ先輩、手が止まっていますよ」「よそ見はダメだよ、友斗くん♪」

「えっ」

「来月の頭には感謝祭について先生方に説明しに行きたいので、資料作成をお願いします」

「そーそー。あたしたちだって頑張ってるんだから、友斗くんもサボってる場合じゃないよ」

「お、おう」

 

 大河と来香に揃って叱られてしまい、何とも言えない気持ちになる。

 二人の間で何かあった……ようには見えないのだが、妙に息がぴったりだ。

 もともと月瀬は学級委員として優秀だったし、美緒は俺を優に超えるスペックの持ち主である。その二人が混ざった今の来香がめちゃくちゃ優秀なのは言うまでもない。仕事って意味では大河と上手くやれるのも当然かもしれない。

 ま、大河も仲が険悪だった頃の俺と上手くやってたしな。

 

「そうは言っても、感謝祭の資料もほとんど作り終わってるんだよなぁ……大河に確認してほしいけど、流石に今はアレだろ?」

「それは……そうですね。家で確認しておくので、後でいただけますか?」

「了解、っと」

「これで友斗くんは役立たずの穀潰しってことだねー」

「なぁその状況確認意味ある!? 一仕事終えた瞬間に失業者扱いするの酷くないですかね」

 

 ま、やることがなくて暇してたのは事実なんだけどな。

 苦笑交じりに返すと、来香がくつくつと楽しそうに笑った。

 

「ユウ先輩。生徒会の貴重な戦力を雑談で邪魔するなら、働いていただけますか? ポスターが出来上がったところなので貼ってきてください」

「今ので俺が邪魔してる判定を受けるのは酷くね?ってツッコミはさておき……了解。どうせ暇だしな。ポスター、これでいいか?」

 

 大河の机に置かれている紙の束を指して言う。職員室で印刷してきたものらしく、結構な枚数が積まれていた。

 こくりと頷く大河。その顔が少し拗ねているように見えて……なるほどな、と納得する。俺と来香が仲良さげに話してるのを見て嫉妬した、ってことか。可愛いなおい。

 

「……ユウ先輩が何か失礼なことを考えてる気がします」

「残念だったな。可愛いって思ってるだけだよ」

「~~っ、急にそういうこと言わないでください! セクハラです!」

 

 ぷいっと顔を逸らす大河。朱色に染まる頬が可愛くてついニヤけそうになるが、焼き直しのようにセクハラ扱いされる気がして、ぐっと堪えた。

 

 まぁ、それはいいとして。

 ポスターを貼りに行くにせよ、一人くらいはついてきてほしいところだ。一人でこの量のポスターを持ち歩くのは骨が折れるし、壁に貼っている間に床に置くわけにもいかない。

 

 さてはて、誰なら手が空いてるだろうか。

 大河と来香は論外として、如月も不可欠な戦力だと思う。一年生ズも如月の下でせこせこ働いているので、俺が連れ回すわけにはいくまい。つーか、晴彦に頼んで流してもらった噂のせいで若干一年生ズに警戒されてる感あるしな。

 となると残るは――

 

「ボクも一緒に行こうか?」

 

 ――時雨さんだけである。

 厳密には時雨さんも暇しているわけじゃないが、なるべくヘルプに徹しようとしていることもあり、一時的に離脱する分には問題がないはずだ。

 大河も異論はないようなので、時雨さんにお供してもらうことにする。

 

「じゃあ、行ってきます」

「行ってくるね」

 

 

 ◇

 

 

 だだっ広い校舎にはポスターを貼る場所がいくつも存在する。その全てに貼る必要はないものの、人気(ひとけ)が多い場所だけをピックアップしてもそれなりの数になっていた。

 

 ノロノロしていると今日中に終わらなそうなので、時雨さんとサクサク進めていく。

 時雨さんと校舎を回りながら、そういえば、と思い出す。

 最近は時雨さんともあまり話していなかった。ともすれば晴彦や如月よりも話していないかもしれない。生徒会室でも時雨さんはずっと一歩引いた場所におり、あまり発言していなかった。

 

 だからというわけではないが、少しだけ気まずく感じる。

 来香曰く、彼女の中の美緒のことは時雨さんにも話しているらしい。この前の帰りの電車で聞いた話なので、今の来香の状況までは知らないはずだけど。

 彼女の話を聞いて、時雨さんはどんなことを考えたのだろう? 時雨さんには最近の俺がどんな風に映っていたのだろう?

 そんなことを考えていると、

 

「ついに四股野郎になっちゃったんだってね。びっくりしちゃったよ」

 

 と時雨さんがくすくす微笑みながら呟く。

 晴彦に頼んで流した噂のことを言っているのだろう。

 

 今朝晴彦が俺に耳打ちをし、俺も事前に考えていた噂――それは『百瀬友斗が四股しているらしい』というものだった。

 着想のきっかけは、春先に流れていた三股疑惑の噂だ。ネタの拡散度は前例によって担保されており、しかも、あの頃より関係者の名前も売れている。既に流れた噂を上書きするにはちょうどいいネタだと考えたわけだ。

 

「分かってると思うけど、嘘だからね?」

「そうなの? てっきりキミが美緒ちゃんもハーレムに加えることにしたのかと」

「真顔で言われると、本気と冗談の区別がつかないな……」

 

 俺が苦笑を浮かべれば、冗談だよ、と時雨さんがはにかむ。

 

「ともあれ、キミが皆と仲直りできたみたいでよかったよ」

「あはは……うん、ごめん。迷惑かけたなって思ってる」

「ううん、ボクは見守っていただけだからね」

 

 と時雨さんはかぶりを振った。

 時雨さんにも十分迷惑をかけたとは思うが、こう言われてしまうとしつこく謝るのも悪い気がしてくる。

 

「それより、聞いてもいいかな?」

「……何を?」

「今のあの子――美緒ちゃん、じゃないよね?」

 

 単刀直入の質問に戸惑い、言葉に詰まってしまう。

 時雨さんはポスターを掲示板に貼りながら、続けて言う。

 

「あの子が美緒ちゃんを名乗ったときは驚いたよ。最初は信じられなかったけど……キミの態度にも合点がいったし、話を聞いたら信じざるを得なかった。困惑したけど、それ以上に嬉しかったよ」

「……そっか」

「だけど、悲しくもあった。美緒ちゃんがキミたちを結ぶために悪役を演じているようにも見えたから。そんな損な役回りを美緒ちゃんがするべきじゃない、美緒ちゃんは幸せになっていいんだ――ってね。この前、二人で話したときに伝えたんだ」

 

 祈りを込めた折り紙みたいな話だった。

 だからこそ、なのかもしれない。美緒が時雨さんになんて返したのか、予想できる気がした。

 

「そうしたら美緒ちゃんに言われたんだ。『じゃあ私を殺してくれる?』って」

 

 ほら、やっぱりだ。

 だって時雨さんにとって大事なのは美緒だけだったから。

 

「ずっとあの言葉の意味が分からなくて考えてた。だけど――今日の彼女を見ていたら、なんとなく分かったよ。彼女は美緒ちゃんじゃない。でも、月瀬ちゃんでもないように見える」

 

 だから俺に聞いてきたわけだ。

 おそらく、俺が彼女を変えたのだと判断して。

 

「そうだよ。時雨さんが言う通り、今の来香は美緒じゃない。正確には美緒でもある、ってことかもしれないけど」

「……一つになった、ってことかな?」

「流石に話が早い、か。まぁ簡単に言うとそういうこと」

 

 とはいえ、簡単に結論だけを伝えるべきことでもないように思う。

 長い話になるよと断ってから、俺は美緒と月瀬と来香のことを話した。

 

「――なるほどね」

 

 話し終える頃には、もうポスターもほとんど貼り終えていた。最後の一枚を玄関口の掲示板に貼ると、時雨さんがこちらを振り向く。

 

「子供の落書きみたいな話だね。……キミらしい、とも言えるのかな」

「無茶苦茶って意味なら、俺より来香に言うべきだと思うんだけど?」

「そうかもしれないね。来香ちゃんのことも好きになれそうだよ」

「ならよかった」

 

 時雨さんの顔を見れば、その言葉が本心から零れたものだと分かった。

 来香が晴彦や如月と険悪になってしまっているのは俺のせいでもある。全ての責任を俺が負おうとするのは彼女に失礼な気がするけれど、来香の魅力を少しでも多くの人に知ってもらえたら、とは思う。

 ま、友達の数や人気で言えば俺と比べ物にならないし、余計なお世話かもしれないけどな。

 

「生徒会室に帰る前に、もう一つ聞いてもいいかな?」

「うん? いいけど、なに?」

「えっとね」

 

 何故だろう、続く質問の輪郭が俺には分かってしまった。

 密やかに、しめやかに、葬送するみたいに時雨さんが聞いてくる。

 

()()ちゃんのこと、好きなの?」

 

 即答できないのは当然だ。そもそも幾度と自問していることであり、その度に手繰り寄せられない答えに焦れているのだから。

 だが、それでも。

 明確に他者から問われて、初めて自分の感情の複雑さを自覚する。

 

 好きではあるはずなのだ。

 だけど、雫や澪、大河へ抱く想いと同じなのかは分からない。

 それどころか、三人へ向けた恋心すら擦り切れるほど検算を重ねている。

 

 すぅと細めた目でこちらを見つめる時雨さん。

 西日に染まるその銀髪を耳にかけ、はふぅ、と吐息を零した。

 

「今すぐ答えてくれる必要はないよ。ただボクは、見守ってる。キミが間違えないように」

 

 そう言い残し、生徒会室へと歩き出す。

 うん、とだけ答えて、その背中を追った。

 

 筆を執るのを止めるなよ、と著者(おれ)が言う。

 どんな理想を紡ぐんだ?と主人公(おれ)が問う。

 俺が希う次の未来(てんかい)は――。

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