【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#15 スキー合宿

 スキー場近くの宿泊施設は、新しくも古くもない。

 小学生で言えば2分の1成人式を受ける頃、中学生で言えば三年生0学期と呼ばれる頃のような感覚だ。

 

「友斗先輩、なんかアホっぽいこと考えてません?」

 

 バスから降りると、外に広がるのは一面の雪景色。

 てっきり雪が降っているのはスキー場だけかと思っていたが、今日はそもそもこの辺り一帯で雪が降っているらしかった。

 おかげで空気が冷え冷えしていて、体がキンキンに凍えている。

 

 ただでさえ寒いというのに、隣に立つ雫は何とも冷たい視線をプレゼントしてくれていた。

 

「アホっぽいって……別にそんなこと考えてないぞ?」

「ほんとですか~? 友斗先輩って、しょうもないこと考えてるときにしょうもないことを考えてる目をしてるので分かるんですよ?」

「しょうもないことを考えてる目ってどんなのだよ」

「鏡見ます?」

 

 はい、と雫がポシェットから手鏡を取り出した。

 そこに映っているのは、普通に俺である。

 バスの中で入江先輩と話したおかげだろうか。少しいつもより冴えた顔をしている気が……って、なんかナルシストっぽいな。

 

「はいはい、鏡はもういいからしまえ」

「むぅ、なんかあしらい方が釈然としません。そこは『ふっ、やっぱり今日も俺はかっこいいな』とか言うべきじゃないですかねぇ」

「言わねぇよ! 雫の中で俺、ナルシストすぎるだろ!」

 

 そりゃ、最近は容姿に気を遣ってるし、鏡と向き合う時間も多くなったけどさぁ……。

 自己陶酔に浸っていてもしょうがないし、自己嫌悪に酔い痴れていてもいけない。入江先輩が言っていたように、理想の幸せに見合う自分で在りたいものだ。

 などと、結局ややナルシストっぽいことを考えていると、

 

「雫ちゃん、とりあえず部屋行こう。ここで話してると迷惑になっちゃうから」

 

 と、大河が雫を呼びに来た。

 見れば、そこには彼女たちが一緒に過ごす部屋のメンツが集まっていた。

 雫たちの班は四人。雫、大河、澪に来香が加わった形だ。この四人が班を組むと聞いたときはちょっと変な声が出た。ま、来香が三人と仲良くなってくれればな、とは思う。

 

 女性陣はもう一班だけ。入江先輩を中心に、時雨さん、如月、生徒会の一年生ズを加えた五人班となっている。ちなみに伊藤はクラスの友達と組んでおり、こっちに顔を出すかは未定、とのことだった。俺や晴彦はともかく、他のメンツとはろくに面識ないしな。無理しなくてもいいとは伝えている。

 

「あっ、じゃあ私は行きますね」

「おう。とりあえず、部屋で荷物片付けて少ししたら集合な」

「りょーかいですっ!」

 

 言って、雫はびしっと敬礼した。

 他の班メンバーにも適当に挨拶をし、彼女たちと別れる。俺は別にサボって無駄話をしていたわけではない。先んじてルームキーを取りに行った晴彦と荷物を受け取るのに時間がかかっている後輩くんを待っているのだ。

 にしても、晴彦が会わせたい後輩って誰なんだろうな。何せいい先輩を目の当たりにしたばかりなので、俺の中の先輩欲も高まっている。ぜひとも後輩を可愛がってやりたいんだが。

 

「友斗、ルームキー貰えたぜ~」

「お疲れさん。あとは後輩くんだな」

「ん? いや、俺が言ってた後輩ならすぐそこにいるけどな」

「えっ」

 

 しれっと晴彦に言われ、おずおずと横を向く。そこには、丸坊主の少年がいた。いや、彼がいること自体はさっきから気付いていたのだ。なんでずっと無言で立ち尽くしてるんだろうなぁ、修行でもしてんのかなぁ、とぼんやり思っていたのである。

 

「お久しぶりっす、百瀬先輩! 杉山大志っす」

「お、おう……は? すぎ、やま?」

「そうっす。杉山大志っす」

「そいつが紹介したかった後輩だよ。サッカー部の後輩でさ。ミスターコンのとき、友斗に突っかかったのを後悔してるんだと」

「なる、ほど……?」

 

 杉山クン、またの名を噛ませ犬クンである。

 いや、後者に関しては彼が悪いわけではない。乱入した入江先輩&時雨さんの大人げない先輩コンビが悪いのだ。……この言い方だと、まるで杉山クンであることまで悪いかのように聞こえるな。そういうわけじゃないよ?

 

「いやいや、冗談だろう? 俺の記憶では杉山クンは生意気な噛ませ犬ってこと以外に何のキャラ属性も持たないモブキャラだったはずだ。『っすよ』なんて特徴的な語尾に男の子じゃないはず……」

「俺の扱いが最低すぎるんすけどっ!? っていうか俺、尊敬してる相手にはこういう喋り方なんで!」

「それはそれでどうなんだよっ!?」

 

 ツッコミにツッコミが被さり、ボケとボケがとめどなく続く。

 アンリミテッドコミュニケーションが始まろうとしていた。

 マジで? と晴彦に視線で尋ねると、晴彦はこくこく頷く。

 

「こいつ、喋り方自体はこんな感じだぞ。体育会系を変な方向に勘違いしてる奴だから」

「なんとまぁ、エキセントリックな……」

 

 ま、それが個性ならばそこは認めるとしよう。ムカつくから直せ、なんて言い出したら悪い先輩になってしまう。

 

「でも、こんな丸坊主じゃなかったよな? どうしたんだよ頭」

「この髪は、昨日剃ったんすよ。ほら約束したじゃないですか」

「は? 剃った? 約束?」

「そうっす! ミスターコンで負けた方が坊主、って」

 

 坊主が目をキラキラと輝かせて言ってくる。

 はて、そんな約束をしただろうか……あっ。したわ、めっちゃしたわ。あの後入江先輩&時雨さんが出てきたし、それ以降も色々とあったから忘れてたけど、言われてみたらめっちゃ約束したわ。

 

「あぁ、思い出した! って、だからってマジで坊主にするか?」

「するっすよ! 男に二言はないっす! 俺、百瀬先輩のことはマジで尊敬してるんすから」

「あっ、そう……」

 

 なるほど、確かに体育会系を変な方向に勘違いしている。

 なんだか大型犬に懐かれた気分だ。

 ……後輩に懐かれるのは気分がいいし、別にいっか。こいつの心境の変化がどこから来たのかは後で聞くことにする。外寒いし。

 

「よし分かった。じゃあこれからお前のことは大志と呼ぼう。行くぞ、大志」

「うっす! 部屋行きましょう!」

「うわぁ……友斗の目が引くほど活き活きしてる」

「晴彦うるさいぞ」「ハル先輩、うるさいっすよ」

「一年間サッカー部で面倒を見てやった恩が一瞬で負けた!?」

 

 晴彦が叫び、三人でぷっと吹き出す。

 けらけら笑いながら、俺たちは部屋に向かった。

 

 

 ◇

 

 

 当然だが、申請しておいた部屋の人数に応じて割り当てられる部屋のサイズも変わる。

 俺、晴彦、大志の三人で申請したので結構小さな部屋かと思っていたのだが、訪れた部屋は意外と大きかった。

 シングルベッド二つとエクストラベッド一つの他、テレビや戸棚などが置いてある。それでもそれなりにスペースに余裕があるってことを考えると、結構贅沢な気がする。

 

「あー、普通のホテルって感じなんだな」

「だなぁ。ベッド、どうする?」

「あっ、じゃあ俺がちっちゃいベッド行くっすよ」

「お、悪いな。じゃあ俺こっちで」

「りょーかい。明日はテキトーに交代しよーぜ」

「うい」

 

 三人でべちゃくちゃ喋りながら、今日眠るベッドが決まる。

 先輩風を吹かしたみたいで申し訳ないが、大志から言い出したことだしな。明日は変わってやればいいだろうってことで、適当に荷物を置く。

 

「いやっほー♪」

 

 荷物を片すと、我慢しきれなかったとばかりに晴彦がベッドに飛び込んだ。

 くふぁっと枕に顔を埋め、ごろんごろんと転がる。

 

「ハル先輩って、アホなんすか?」

「お前にだけは絶対言われたくねぇわ!」

 

 それな。

 3人中2人がちょっとバカっぽいし、このままでは俺までバカな可能性が出てくる。類は友を呼ぶ。割とこの一年で実感し続けた言葉が頭をよぎるので、隅っこに追いやっておく。

 

「あの。百瀬先輩」

 

 一息つくと、丸坊主の大志が何やら真剣な顔で呼びかけてきた。

 急なシリアスムードに戸惑いつつも居住まいを正すと、大志は続けて言う。

 

「まず――ミスターコンの件、マジですんませんでした」

「お、おう……いや、あれに関してはこっちこそすまん。名指ししてもらってたのに気付いてなかったし、勝負するとか言っておいて大志をそっち抜けにしちゃったし」

「いや、それはいいんすよ。完全に俺のひとり相撲だったんで。あのときの俺は百瀬先輩のことを何にも知らなかったっすから」

 

 冬星祭については本当に謝罪される筋合いはないと思っている。陰湿な作戦を仕掛けるでもなく、普通に挑んできただけだしな。その前に雫に絡んでいた件は思うところがあるが、それを責めるのも違うだろう。

 だが、それはそれとして。

 彼の潔い態度にはものすごく好感を持てた。

 

「そんで、俺マジで尊敬したっす。あの三人のクリスマスライブを見て、本気で凄ぇな、って」

「それ、凄いのは俺じゃなくないか?」

「それはまぁ、そうなんすけど。でもあのライブって百瀬先輩のためだったわけじゃないっすか! ってことは、百瀬先輩も凄いんだな、って思えたんすよ」

 

 その賞賛になんと返せばいいのか、俺にはまだ分からなかった。

 だから照れ隠しみたいに俺は返す。

 

「今じゃ四股野郎だけどな?」

「もう俺は噂だけで判断したりしないっすよ。ハル先輩から色々聞いてますし……もし噂が本当でも、ぶっちゃけ納得できちゃうっす。教室で楽しそうにしてる綾辻さんと入江さんを見たら、百瀬先輩が悪い人だなんて思えないっすから」

「――っ」

 

 良い奴だな、と心から思う。

 その信頼を眩しくも感じるけれど、だからこそ、応えなければとも思える。

 

「ま、そーゆうことなんで! この合宿で仲良くしてもらえたら嬉しいっす」

「おう、よろしくな大志」

 

 このスキー合宿で見つけよう。

 俺が求める、最幸の光景を。これからの生き様を象る死に様を。

 密やかに決意を固結びしながら、俺はにかっと笑った。

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