【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#17 引き分けツイン

「――ふぅ、どうでしたか?」

「ああ、上出来だ。まさかここまで習得が早いとは」

「ユウ先輩の教え方が上手かったからですよ」

 

 あれから一時間半ほどが経ち、大河はだいぶ滑れるようになっていた。

 まだ自由自在とまではいかないが、ある程度は思いのままにブレーキもかけられるし、斜面でも上手く滑れている。

 二泊三日程度ではそこまで上達しないと思っていたが、やはり体も頭も若い高校生だと習得が早いんだろうな。俺だって前回の合宿と事前に見ていた動画で習得したし。

 

「あの。ユウ先輩」

「ん、どった?」

「あの、そのですね……頭を、撫でてほしいです」

「は?」

 

 俺がおっさんじみた分析をしていると、大河がそうお願いをしてきた

 咄嗟に出してしまった声にびくっと反応し、しかし、堂々と続ける。

 

「ユウ先輩の勝ちに貢献できてると思うんです。ちょっとくらいご褒美はあってもいいんじゃないでしょうか?」

「理詰めでおねだりしてくるよなぁ、大河は」

「お、おねだりじゃないです! 正当な要求です!」

「そうかよ」

 

 そんな風に言ってくる大河がとても可愛らしくて、自然と彼女の頭に手を乗せていた。帽子越しによしよしと撫でると、大河はくすぐったそうな声を漏らす。

 

「……ありがとうございます」

「頼まれたからじゃなくて、頑張ったのが偉いと思ったから撫でたくなっただけだよ。感謝されても困る」

「っ、そういう気障なのはずるいと思います」

「気障って部分以外は俺がそのまんま大河に言ってやりたいことだからな?」

 

 って、なんだこの会話恥ずかしすぎるだろ。

 夜中に思い出して悶えること間違いなしの会話はもうここで切り上げる。代わりにふと思ったことを聞いてみた。

 

「雫はあんな感じで燃えてたけど、大河はそうでもないのか? 澪を盗られたとか思うのかと思ってたんだが」

「……思わないわけじゃないです。ユウ先輩との距離もすごく近かったですし。ヤキモチはやきっぱなしです」

 

 そりゃそうか、と納得する。来香が俺にマンツーマンで教わるって言い出したときも真っ先に反応していた。

 

「でも、嫌ではないんです。ヤキモチも含めて私の恋だと思ってます。そうじゃなきゃ『ハーレムエンド』なんて望まないです」

「……それも、そっか」

「それに、月瀬先輩のことも嫌いじゃないです。あの頃は決して見せてもらえなかった本音を知ることができている気がして――もっと知りたいな、って思います。生徒会でもお世話になってますしね」

 

 大河の声には照れ臭そうな色が滲んでいる。

 しんしんと積もる白雪みたいな気持ちを聞けたことが俺はすごく嬉しかった。

 

「雫ちゃんや澪先輩も同じだと思いますよ。美緒さんは言うまでもなくかけがえのない存在ですし、ずっとユウ先輩の傍にいた月瀬先輩だって十分ライバルです」

「そう、か?」

「だと思います。……雫ちゃんの場合、盗られそうになったのが『好きな人』ではなく『お姉ちゃん』だから、いつもより余裕を失くしてるのかもしれません。ああいう雫ちゃんも可愛いですけどね」

「それはそう――って、結構意地悪なことを言うな?」

「雫ちゃんのああいう顔が見れて嬉しかったので」

 

 くつくつと大河が笑い、俺もそれにつられて破顔した。

 実際、雫の来香へのネガティブな感情もそこまで根深くはないだろう。雫にとって来香の振る舞いが予想外だったからこそ、妹らしいところが出たのだと思う。

 

「だからなのかねぇ。珍しくめちゃくちゃポンコツ化してるのは」

「それ、雫ちゃんに言ったらすごく怒られると思いますよ」

「それなぁ。……大河はちょっと一人で練習しててくれ。残り時間は雫に付くから」

「雫ちゃんをお願いしますね」

 

 大河と一度別れ、すっ転んでる雫のもとへ向かった。

 練習が始まってから約一時間半。大河はだいぶ滑れるようになった――が、逆に雫はあまり上達していなかった。

 まぁ、澪や大河と違って雫はもともと運動が得意ってわけじゃないんだけどさ。

 

「おーい、雫。大丈夫か?」

「むぐぐぐ……こ、これくらいへっちゃらです! 転んでも転んでも次は立ち上がるだけですからねっ!」

「って言いながら、ほぼ進歩がないまま時間が過ぎてるけどな」

「うっ……」

 

 起き上がって胸を張る雫だったが、俺のツッコミで呆気なく肩を落とす。

 うぅ~と凹んでいるのもそれはそれで可愛いな、と思いつつ。

 頭に付いた雪を払ってやるついでに、ぽんぽんと慰めてやる。こんな程度で気が済むとは思ってないけど。

 

「大丈夫だって。来香も澪を実際の姉だとは思ってないだろうし。雫と澪の仲良し姉妹に敵う姉妹なんかいないだろ?」

「わ、分かってますよっ! 本気で心配してるわけじゃないです……けど、ムカムカ~とはしちゃうじゃないですかぁ!」

「あー、どうだろう」

「想像してください! 美緒ちゃんが友斗先輩以外の男の人をお兄ちゃんみたいに扱ったらどう思います!?」

「そいつをぶっ飛ばして格の違いを分からせてやりたくなるな」

「そういうことです!」

「なるほど!」

 

 分かりすぎる話だった。

 もしもの話。美緒が俺をあくまで兄扱いしたまま、事故もなく生きていたとして。

 美緒を妹みたいに扱う男が現れたら、そいつを嫌うかどうかはともかく、兄として威厳を示してやりたくはなる。そいつがどんなポジションを狙っているかはその後で話すことだ。

 

「ほらー! 分からせてやりたいって思いますよねっ? しかもしかも! 来香先輩のメスガキ感も私と微妙に被ってる気がしますし!」

「それは違くないか?」

「めーっちゃ被ってますもん! メスガキと小悪魔なんてほぼほぼ同じですから!」

「それは違くないか!?」

 

 いや、延長線上ではあるかもしれないけども!

 ともかく、言いたいことは分かった。澪の妹ぶってるのが気に食わないうえに若干キャラ被りしてるのもムカつく。だから一回直接対決で負かしたい、と。

 ……最近、どいつもこいつも戦闘民族になりすぎでは?

 ま、それも一人で抱え込まなくなったらこその変化なのだろう。

 

「にしては、やけにポンコツになってないか? 雫らしくないぞ」

「むぅ。……冷静じゃなくなってるのは分かってます。でも、なんか来香先輩にはかき乱されるんです!」

「それな」

「キメ顔で同意しないでくださいっ!」

 

 プレイヤーとキャラクターの視点を持っているらしい雫にとっては、来香は予測不可能なイレギュラーの塊――バグのようにさえ映るのかもしれない。

 

「まったくもう。こんな展開、ちっとも予想できてなかったです」

「俺もだよ。……けど、予想外の展開も楽しいだろ?」

「それは――そーかもですけどっ」

 

 楽しいって思うからこそ、ちょっと悔しい。

 そんな感じの雫を見て、つい頬が緩んだ。

 

「来香を連れてこなきゃ、雫のそんな顔も見れなかったんだよな」

「……顔、ろくに見えてないじゃないですか」

「見えてなくても、見えるから。いつもと違う雫を知れて、もっと好きになれた」

「~~っ」

 

 俺以外の誰かたち繋がりが俺だけでは知ることのできない誰かの魅力を俺に見せてくれたらいい。

 そうやって誰かの、誰かたちのことをもっと知っていけたら。

 そんな風に深く、広く、繋がっていられたらいいのに。

 

「何はともあれ、だ。負けたくないなら練習するぞ。俺も澪に負けたくないしな」

「言うだけ言って先に進むのはずるいんですからねっ! ……頑張ります」

 

 

 ◇

 

 

 残りの30分を使い切り、澪と来香の二人と合流する時間になった。

 ポンコツ化していた雫も最後は集中できたようで、滑れると言ってもいい程度には上達した。上級者コースにさえ行かなければ問題はなかろう。

 

「――ま、トラ子はどうせ滑れるようになるよね。勝負は雫と来香か」

「雫は結構滑れるようになってるぞ。そっちは?」

「来香もそこそこ。運動神経はダメダメだけど、地頭はいいから吸収は早いんだよね」

 

 と、お互いに教え子の状況を報告し合う。

 大河に関しては澪ほどではないものの普通に運動ができる方なので、スキーの女神様からヘイトを買いまくってたりしない限りは滑れるようになるのは想定内だった。

 

「いーですよっ。来香先輩に目にもの見せてあげるんですからねっ!」

「スパルタな二時間を過ごした上に負けるなんてすっごく悔しいし……あたしも負けないよ。――兄さん、勝ったらあたしにもご褒美ちょうだいね」

「敵チームなんだが!?」

「じゃあ罰ゲーム追加ってことで! ジュースを口移しで飲ませるとかどう~?」

「ぶふぅぅぅっ!?」

 

 とんでもないことを言われて、思わず吹き出してしまう。

 大河と雫が揃ってがっと前に出る。

 

「月瀬先輩! そんなはしたない罰ゲーム、絶対ダメです!」

「ですですっ! 誘惑の域を超えてますから!」

「だって誘惑じゃなくて罰だし? てゆーか、雫ちゃんは負けるのが怖いのかな~?」

「なっ、ま、負けるわけじゃないですか! メスガキ先輩なんてこてんぱんにしちゃうんですから!」

「メスガキって酷いなぁ。ま、勝つなら罰ゲーム追加してもいいよね?」

 

 見事に来香の術中にはまる雫。

 にしし、と来香がしたり顔をする。が、次の瞬間にチョップが見舞われた。

 

「私の妹をいじめないでくれる? 勝てる自信がないからってハッタリかまして勝とうとするんじゃないの」

「そういうことかよ!?」

「ちょっ、なんで言っちゃうのさ!」

 

 澪に暴露され、来香が動揺を見せる。来香に視線を遣れば、ばつが悪そうに顔を逸らされた。……まぁ普段から運動を避けてるんだろうし、分かるけどさぁ。

 

「はい、じゃあ問答無用でやるぞー。普通に滑って、明らかにぎこちなかったりしたらその時点でそっちの負けな」

「ん」

「了解です♪」「……ちぇ。分かったよぅ」

 

 雫と来香が構える。構えの拙さが似たり寄ったりだなぁと思うが、ひとまず滑ってもらうことにして、合図を出した。

 

「負けませんっ!」「…………」

 

 やる気満々にスタートする雫。

 何も言わずに滑り始める来香。

 そんな二人を見た残る三人は、

 

「なあ澪」

「中立ってことで、トラ子の口から聞くのが一番じゃない?」

「……それもそうか。大河、どっちが勝ちだと思う?」

「…………どっちも同じくらい下手だと思うんですが」

「だよな」「だよね」

 

 どんぐりの背比べを実感していた。

 雫も来香もちゃんと滑れはするんだが、一目で初心者だって分かる下手っぷり。俺も澪も、自分の教え子の方が上手い、と主張する気にもならなかった。

 

「お姉ちゃん、どっちの勝ち?」

「兄さん、あたしだよねっ?」

 

 判定を求めてくる二人の声に、俺たちは顔を見合わせてから答えた。

 

「「引き分け」」

 

 

 ――その後。

 サドンデスで俺と澪が上手さを競うことになり、呆気なく澪の勝ちが決まったのだった。

 

「というわけで。ジュースごち」

「………………いちごオレ買ってやるからな」

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