【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#20 恋バナ(2)

 SIDE:大河

 

 夕食を食べ終えてお風呂から上がった私たちは、脱衣場で髪を乾かして簡単なヘアケアを済ませてから部屋に戻ってきていた。

 四人一部屋の、それなりに大きい和室。

 部屋に到着すると、誰とも言わず、それぞれ髪と肌のケアを丹念にし始める。

 

「大河ちゃん、これ使うね」

「うん。私こっち」

「あ、トラ子。それさっき私が使って空になりそうだったから、こっち使いな」

「そうなんですか?」

「ん。髪長いと、どうしてもね」

「なるほど」

 

 私たち三人は、普段から化粧道具をシェアし合うことが多い。

 雫ちゃんの持ち物が多かったりもするのだけど、この辺は三人で使うことも多く、共同で一気に買っていたりする。

 ケアの仕方は、私も澪先輩も雫ちゃんに教わった。

 その前からやってはいたのだけれど、雫ちゃんに教えてもらった今となっては、あんなのを『やっていた』と言っていいのかすら分からなくなってくる。

 

 そんな感じであれこれとやっていると、

 

「三人って、仲良し姉妹って感じがするよね~。同じ部屋のはずのあたしの疎外感ヤバくない?」

 

 と月瀬先輩が微笑交じりに呟く。

 大浴場に行った私たちと違って、月瀬先輩は部屋のお風呂で済ませていた。心臓移植の跡が薄っすらと残っており、事情を知っている私たち以外に気を遣わせるのは嫌なのだと言っていた。

 私の知っている美緒さんらしい優しさとかつての月瀬先輩らしい周囲への気遣いを感じて、今の月瀬先輩を更に好きになれそうだった。

 

「当たり前ですっ。お姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、大河ちゃんは私の大河ちゃんなので。来香先輩には渡しませんから。べーっ!」

「アハッ、敵対心ばちばちぃ。盗られちゃうのが怖いんだ~?」

「むぅ。そこで余裕ぶるの、ほんっとやめてもらっていいですかね……!」

 

 雫ちゃんは、月瀬先輩から私と澪先輩を守るようにぱっと手を広げる。

 別に、心から心配になっているわけじゃないのだとは顔を見れば分かる。月瀬先輩に敵対心を剥き出しにするのは、私と澪先輩の言い争いみたいなものだ。

 ……それよりはちょっとキツめだけど。

 

「それにしてもさぁ。三人で道具をシェアとか、妬けちゃうよ? あたしだってそーゆうのは詳しいし、仲間に入れてほしいなぁ。……ほら、こんなのも持ってるし」

「なっ、それ……めっちゃ限定のやつじゃないですか! どうして持ってるんです!?」

「去年から予約してからね♪ どやぁ」

「ぐぬぬ」

 

 月瀬先輩がドヤ顔で掲げるのは、おしゃれな雰囲気のボディークリームだった。雫ちゃんの反応から察するに、限定のレア物なのだろう。最近覚え始めた私にはよく分からないけど……。

 

「どうどう、使いたい?」

「つ、使いたくなんて……」

「いい匂いだよ? ネットでの評判もいいし、激レアなんだけどな~」

「…………使いたいです」

 

 雫ちゃんが悔しそうに白旗を上げる。

 そんな二人のやり取りを見て、私は澪先輩と微笑み合う。こんな雫ちゃんを見ることができるのは、間違いなく月瀬先輩のおかげだ。月瀬先輩が来てくれてよかったな、と思う。

 

 コスメ談義を始める二人をよそに、私も澪先輩と他愛もない話をする。

 そんな風に暫く過ごしていると、

 

「入っていいかしら?」

 

 と扉の向こうから声がした。

 姉さんだった。四人で顔を見合わせ、いいですよ、と澪先輩が返した。姉さんだけじゃなく、如月先輩や霧崎先輩、花崎さんや土井さんも入ってくる。今日は顔を合わせる機会がなかった伊藤先輩の姿もあった。

 

 ぞろぞろと六人が入ってくると、広かった部屋も一気に窮屈に感じる。

 けれど、その窮屈さも合宿らしいな、と思った。文化祭の夜を思い出して、少し懐かしくなる。

 

「何しに来たんですか?」

「ふふっ、そんなの決まっているでしょう? 合宿の夜と言えば――」

「恋バナだよね。ボク、こういうの一度やってみたかったんだ」

「っ、どうして美味しいところだけ言うのかしらねっ!?」

「ボクだからね、しょうがないよ。はいはい、恵海ちゃん可愛い」

「~~っ」

 

 霧崎先輩に頭を撫でられると、姉さんが呆気なく口を噤んだ。こういうのを俗に『チョロイン』と呼ぶのだと、雫ちゃんから教わったことがある。

 ……実の姉がチョロインなの、すごく嫌だなぁ。こっちまで恥ずかしくなる。三年生カップルの様子に苦笑した如月先輩は、こほんと咳払いして会話を引き取った。

 

「というわけで、恋バナをしにきたの! せっかくだし、澪ちゃんたちの話も聞きたくてね」

「恋人持ちが言い出す恋バナって、その時点でアレだけどね」

「澪ちゃん辛辣!」

 

 六人中三人に恋人がいるわけだし、澪先輩の言うことも分かる。

 だけど、恋バナに惹かれるのは事実だ。雫ちゃんや澪先輩とお泊まりしたときはユウ先輩の話もするけれど、それ以外の人と恋の話をすることはあまりない。

 雫ちゃんと初めて恋バナをした、勉強合宿のことを思い出す。

 あの夜みたいに、この夜も特別になればいい。

 

「まぁまぁ、いいじゃん? あたしもどーせ三人と恋バナするつもりだったしね~」

「来香先輩に賛成するのはムカムカしますけど……私も恋バナ大好きなので! いっぱいお話聞きたいです!」

 

 当然私も反対じゃない。

 皆が乗り気ということで、十人の大所帯での恋バナが始まった。

 

「といっても、どんな風に話を進めるんでしょう? 私、あまり恋バナってしたことなくて」

 

 もちろん、雫ちゃんや澪先輩とは話したことがある。

 でもそれは同じ人を好きになった者同士の話であって、普通の恋バナとは少し違うように思う。

 私が言うと、そうねぇ、と如月先輩は首を捻った。

 

「テーマを決めて順番に言っていくのはどう?」

「テーマ……」

「たとえば、好きな人との出会いとか、第一印象とか」

「なるほど」

 

 それなら話しやすいかもしれない。ふと花崎さんと土井さんのことが気にかかったけれど、二人とも問題はないようだ。

 

「ならそういうことで。最初のテーマはその人を好きになったきっかけね」

 

 じゃあ私から、と言って口を開く如月先輩。

 その瞳はとても綺麗で、大切な宝箱を開けるような慈しみと優しさに満ちた表情のまま、話してくれた。

 

「好きな人というか、彼氏の晴彦なんだけど……彼とは、小学校から一緒だったのよね。一年生のときに同じクラスで」

「おお~! つまり幼馴染ってことですね!」

「そうなるわねぇ。だから幼馴染ヒロインは応援したくなっちゃうの」

「分かります!」「わっかる~!」

 

 来香先輩と声が重なると、雫ちゃんが少し複雑そうな顔をする。

 考えてみれば、二人のユウ先輩との関係は幼馴染と呼んで相違ない。一緒にいる長さの尊さは、二人がよく知っているはずだ。

 如月先輩は微笑を浮かべながら続けて言った。

 

「一番最初に話した日は今でも覚えてるわ。体育の授業のとき、マラソンをやらなきゃいけなくてね。私、その頃は今より体力がなくて倒れそうになったのよ」

「それを助けてくれたのが?」

「そう、晴彦なの。倒れる前に駆けつけてくれてね。まぁ小学一年生の子供にできることなんて支えてくれることくらいだったのだけれど……それが、凄く嬉しかったの。誰かに頼っていいんだな、って子供ながらに思ったのよね」

 

 何となくその気持ちは想像できる。

 うっとりするような声色で語られた素敵な出会いのお話に、自然と頬が緩んだ。

 

「次は私、ですかね……?」

 

 甘い空気の中で口を開いたのは、如月先輩の隣にいる少女――花崎さんだった。

 いったい花崎さんは誰が好きなんだろう? 私の知っている人か、それとも知らない人か。どちらの可能性もあるけれど――と考えて、ふと今日見た花崎さんの笑顔を思い出す。

 花崎さんが好きな人って、もしかして……。

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