【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#21 恋バナ(3)

「その人への印象は、最初あまりよくなかったんです。最悪と言ってもいいかもしれません」

 

 その言葉には甘やかな懐古が滲んでいた。

 聞いている私たちも、甘い気持ちにさせられる。うん、と誰かが相槌を打つと、花崎さんは話を続けた。

 

「その人は最初、私以外のことが好きだったんですけど……そのときの彼が私には勝手に見えて。だから嫌いだったんです」

「…………」

「でも、その人があるときから真剣に変わろうとしているのに気が付いて……そうしたら、だんだん目が離せなくなっちゃいました」

 

 花崎さんの話に共感を覚える。

 私のときと、少し似ていた。

 好きな人の第一印象が最悪だったことも、最初は自分以外を想っていたことも、変わろうとするその姿に惹かれたことも。

 そのとき不意に、視界の隅で物憂げな表情を浮かべる月瀬先輩に気が付く。

 ――もしかしたら、と。

 花崎さんの話とは離れたところで、ささやかな共感を抱く。

 

 月瀬先輩も私も、その恋の在り様は似ているのかもしれない。

 今の月瀬先輩はあの夏の私だ。

 朔望みたいな兄妹(ふたり)に、或いはかけがえのない大三角(さんにん)に。

 後から入れてもらおうとした、()()夏の私。

 

「なるほどね。それでさっきはいい感じだったのねぇ?」

「っ、い、入江先輩!? 気付いてたんですか……?」

「えぇ、もちろん」

「華ちゃん、分かりやすかったしね……」

「う、うぅぅ~」

「……? 何の話をしてるんです?」

 

 顔を真っ赤にする花崎さんを見て、雫ちゃんが首を傾げる。

 入江先輩が花崎さんに視線を遣ると、観念したように花崎さん自身が口を開いた。

 

「あのね。私の好きな人、杉山くんなの」

「杉山……あっ。あぁ……」

 

 納得すると同時に、雫ちゃんがやや気まずそうな顔をする。それもそのはず。さっき話に出ていた『その人』が好きだったのは雫ちゃんなのだから。

 

「んー? もしかしなくても、しゅら――」

「来香はいちいち煽ろうしないの。……別に気にすることないでしょ。まだ雫に絡んでるようなら私が潰すつもりだったけど、そういうこともないし」

「お姉ちゃんがしれっと怖いってツッコミはさておき……そーだね。冬星祭の後に一回だけすっごく謝られたんだけど、それ以来はほんと普通の友達って感じだよ」

 

 だから可能性はあるよ、と雫ちゃんが言い添える。

 雫ちゃんの立場でそんな風に言うのはとても危うくて、一歩間違えば上から目線に捉えられなくもない。私でさえそう分かるのだから、人付き合いが上手い雫ちゃんにも分かっているだろう。

 分かっていて、それでも友達の背中を押すために言うことを選んだ。

 その優しさがとても素敵だと思う。

 

「さてさて。次は土井ちゃんかしらね」

「は、はい!」

 

 如月先輩に促され、今度は土井さんが話し始める。

 

「ええっと。私は……その、変かもしれないんですけど、三つ年上の従兄のことが好きなんです」

「「…………」」

「初めて会ったのは幼稚園の頃で。そのときはすごく頼もしくて、お兄ちゃんみたいに思ってたんですが……大きくなるにつれて、可愛いなって思うようにもなったんです」

 

 土井さんが恥ずかしそうに身をよじる。

 

「そ、そうしたら、従兄じゃなくて男の子として好きになっちゃって……でも変ですよね。親戚のことを好きになるなんて」

「変なわけないじゃん! 血の繋がった相手を好きになるのはもはや必然! 昔は近親婚だってよくあったんだよー?」

「そゆこと。運命の糸の赤は、繋がってる血の赤だから」

「あなたたち急にどうしたの!?」

 

 勢いよく土井さんを肯定する、月瀬先輩と澪先輩。

 姉さんがツッコミを入れるけど、事情を知っている私と雫ちゃんは二人の言動の理由が分かって、思わず苦笑してしまう。

 それにしたって、二人とも圧が強すぎでは……? 月瀬先輩も澪先輩も、言ってることがだいぶ変な気がするんだけど。

 

「と、とにかく。従兄だからって躊躇う必要はないよ。土井さん、だっけ? ……頑張りな。あなたの恋は誇っていい」

「そーそー! いつでも相談に乗るからね! 小さい頃から傍にいた人を好きにならないわけがないんだからさ!」

「あなたたちのテンションが私には分からないわ……」

 

 やれやれ、と姉さんがこめかみの辺りに手を添える。

 とはいえ二人の言葉は土井さんのためにはなったようだ。

 

「まぁ、それいいとして。……順番的には私たちかしらね?」

「あ、入江先輩はいいです。ミスターコンのときに見せつけられてるので」

「なっ、綾辻澪!?」

「……姉さん、私も澪先輩に同意だよ。これ以上醜態を晒さないで」

「醜態呼ばわりはだいぶ酷くないかしら!?」

 

 それは鏡を見てから言ってほしい。というか、前に姉さんと二人で話したときも長々と惚気を聞かされたし。

 姉さんたちを飛ばすと、次は伊藤先輩の番だった。とはいえ伊藤先輩とはあまり話したことがない。冬星祭のとき、歌の練習で何度か指導を受けたくらいだ。

 どんな話が飛び出すのかと思っていると、

 

「ウチの話はあんまり面白くないし、代わりにみおちーたちに聞いてもいい?」

 

 と軽い口調で伊藤先輩が言った。

 

「私たちに?」

「うん。みおちーとしずちーと、あと会長ちゃん。三人は友斗くんのことが好きで、『ハーレムエンド』を目指してるんだよね?」

 

 この場にはもう、私たちが『ハーレムエンド』を目指していると知らない人はいない。

 生徒会のメンバーにはこの前私が話したし、伊藤先輩や姉さんには冬星祭で協力してもらうときに伝えてある。私たちが頷くと、「じゃあさ」と伊藤先輩が不思議そうに言う。

 

「その『ハーレムエンド』って、来香も込みなの?」

「「「えっ」」」

「来香もいい感じに馴染んでたからさ。もしかしてそんな感じなの?って思って」

 

 それは、もしかしたら誰もが思っていたことなのかもしれない。

 ……他でもない、私たち自身が。

 

 〈水の家〉の四人に月瀬先輩を加えた、いつもと違う五人(私たち)

 ユウ先輩にも話したことだけれど、私は月瀬先輩のことが嫌いじゃない。雫ちゃんも澪先輩も同じだろう。この五人でいられた今日は、すごく楽しかった。

 

 それに、私たちの恋と月瀬先輩の恋はよく似ているとも思う。恋なんて似て当然だと言われればそれまでだけれど、少なくとも私は、月瀬先輩の想いを他人事のようには捉えられない。

 

 じゃあ、私たちが望む『ハーレムエンド』に月瀬先輩はいるのだろうか?

 すぐに答えが出せずにいると、何とも言えない気まずい空気が漂う。

 それを察したのか、伊藤先輩は茶化すように言った。

 

「っと、ちょっぴり地雷な質問だったかな? じゃあもひとつ質問! 『ハーレムエンド』がいいって思っちゃうくらいに百瀬くんを好きな理由ってなに? ウチはすーぐ冷めちゃったから、その辺聞いてみたくって。百瀬くんってそこまでいいとこある?」

 

 それは、この恋バナのもともとのテーマでもあったはずだ。

 ――ユウ先輩を好きな理由。

 そんなの、答えは一つしかない。

 

「好きだから好き。それ以外の理由で好きになれるわけないよね、友斗くんなんか」

 

 私たちの気持ちを代弁したのは月瀬先輩だった。

 ああ、やっぱり同じなんだな、と思う。

 顔が好き、声が好き、頑張ってるところが好き、無茶をしてくれるところが好き。

 そういうのはたくさんあるだろうけど、好きな理由ではなく好きなところでしかない。好きになった瞬間には確かに理由があったのだろう。けれど好きすぎて、理由なんてどうでもよくなってしまった。

 

 ――好きだから好き

 

 今はもう、それだけがこの恋心の理由だった。

 

「来香先輩に答えられるのはなんだかなーって感じですけど、間違いじゃないです。もう好きになった理由は忘れちゃいました」

「ま、友斗とは色々あったしね。嫌いになったり好きになったりしたから、具体的な理由なんて分かんないんだよ」

「だから、『好きだから好き』以外の理由はないです」

 

 月瀬先輩に追従して、私たち三人が答える。

 私たちを見て、伊藤先輩は眩しそうに目を細めたかと思うと、きゅるるんと笑った。

 

「そっかそっか! 皆の恋、すっごく眩しいね。恋してる~ってカンジ!」

 

 強張った空気は弛緩し、他愛もない女子会トークが始まる。

 だけどその間も、伊藤先輩に問われたことが頭から離れなかった。雫ちゃんや澪先輩も、そしてもしかしたら月瀬先輩も、同じことを考えていたかもしれない。

 

 同じ人が好きだからと言って、無際限に繋がれるわけではない。

 雫ちゃんから聞いた。伊藤先輩もユウ先輩のことが好きだったのだ、と。

 伊藤先輩はきっと、私たちの外にいる人だ。じゃあ、月瀬先輩は? もしも答えが変わるなら、そこにはどんな違いがあるんだろう?

 

 それは私たちにも言えることだ。

 私たちと月瀬先輩――在り様の似た恋心の行く先が変わるなら、両者の違いはなんなんだろう?

 

 たとえば、それが()()なんてありきたりな答えなら。

 それはあまりにも、やりきれない。

 

【ゆーと:明日の夜、時間が欲しい】

 

 不意に震えたスマホがユウ先輩からのメッセージを表示する。

 ほとんど同じタイミングでスマホを見ていたから、月瀬先輩にも同じ内容が送られているのだろう。

 

 ユウ先輩、と唱えるように想う。

 あなたはどんな私たちでいたいですか?

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