【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#24 計略

 かまくらの中は、思っていたよりも暑かった。

 厚着だし、さっきまで動いていたし、体に熱がこもる条件を満たしまくっているのも理由だろう。しかしそれ以上に、どうしようもなく狭くて雫との距離がほぼゼロなのがよくなかった。

 

 スキーウェア越しだから、肌の柔らかさとかそういうのはちっとも感じない。

 それなのに感覚だけは嫌に鋭敏になって、距離の近さを否応なしに意識してしまいそうになる。

 

「…………」

「………ぁ」

「…ぁ……」

 

 かまくらの中は、音がこもるのだろうか。

 雫の吐息を、身動ぎの音を、一つ一つ拾ってしまう。触れあう箇所は焼けるように熱く、雫の唇や睫毛一本一本に目がいった。

 

「あ、あぁ……これ、小さくないか?」

「ですねぇ。元々、小さい子とお母さんが二人で入ってたので」

「雫が作ったわけじゃないのか」

「そりゃそーですよ。かまくらを10分そこらでは作れません」

 

 ま、そういうものか。

 かまくらとか作ったことないし、どれだけ時間がかかるのかは知らないんだけどさ。

 

「じゃあ譲ってもらったのか」

「ですです。ちょうど一回戻るところみたいだったので」

「ほーん」

「あっ、でも無理やり奪ったわけじゃないですからね? ちゃんとお礼に、ヘアゴムをあげました。切れちゃったみたいで、困ってたので」

 

 別に奪っただなんて思っちゃいない。よしんば奪ったところで、戻るところだったなら躱す手間が省けただけだしな。

 なのに、それだけじゃなくて素敵なことをしているところが、何だかとてもほっこりする。その小さい子にとって、お姉ちゃんにかまくらを貸してあげる代わりにヘアゴムを貰った、って経験は代えがたいものになるに違いない。

 

「雫はほんと、いい子だよなぁ」

「むぅ。それ、ちょっとバカにしてません?」

「してないしてない。本当にいい子だなって思ってるぞ」

 

 ぽんぽん、と雫の頭を撫でる。

 ふんありと破顔した雫は、にまぁとからかうような顔をして言った。

 

「まあ、私だって悪い子になるときもありますけどね?」

「ちょっ――」

「しぃー、ですよ。大声出すと二人に気付かれちゃうかもですから」

 

 雫は、ぎゅっと俺に抱き着いてきた。

 腕をホールド、とかの次元じゃない。

 まるで足りない何かを埋め合うような、そんなハグ。

 

 スキーウェアを着たままでも、決して誤魔化せない女の子的な柔らかさ。

 脆さ、華奢さ、強さ、冷たさ、温かさ――。

 はぁ、とか、ほぅ、とか甘やかな息を雫が漏らす。

 

「ふふっ、友斗先輩ったら顔が真っ赤ですよ」

「っ、うっせぇ。暑いせいだっつの」

「そ、ですか。じゃあ冷やしてあげましょうか?」

「冷やすって?」

「声、出さないでくださいね」

 

 しぃ、と雫が唇に指を添える。

 そして、ぴと、と俺の頬を両手で挟み込んだ。

 

「――っっ」

「ふふー。どーですか?」

「……どうもなにも。冷たいってこと以外に感想があるか?」

「ドキドキするとか、可愛いとか、抱き締めたいとか、最高とか」

「手、関係なくね?」

「さっきから私が当ててる胸のことでも可ですよ」

「…………スキーウェア着てるんだからそんなのノーカンだろ」

 

 どく、どくどく、どくどくどくどく――。

 鼓動がうるさい。

 痛いほどにうるさくて、うるさいほどに痛い。

 ああ、知ってる。俺は綾辻雫という女の子が好きで、こんな風に触れ合っていられる未来が欲しい。

 

 雫の、ビー玉みたいな瞳と向き合う。

 とろんと蕩けた眼のまま、雫はそっと口を動かす。

 

「う・そ・つ・き♡」

「――ッ……!?」

「友斗先輩、めっちゃドキドキしてますよね? さっきからすっご~く視線感じますよ?」

「うっ、それは、だな……」

 

 体が熱い。くらくら。火照る。くら。くる。

 息を止めて、でも、もう限界で。

 ゴリゴリ体力が削られるのが耐えられなくて。

 

「ああっ! もう俺は出――」

「はい、見っけ~。あたしの独り勝ち♪」

「「――は?」」

 

 かまくらを出た瞬間、俺は捕まってしまう。

 誰に? ……来香に。

 全く状況を理解できてない俺と雫の声がかまくらの内と外で重なる。にししと邪悪な笑顔を浮かべた来香は、愉快そうに解説を始めた。

 

「姉さんと時雨さんが勝負をし始めたのを見て、これはあたしが独り勝ちするしかないなーって思ったんだよねっ。とはいえ激しい運動はできない。だったらやれることは一つ。隙を狙うことだけでしょ~?」

「だ、だからって……」

「後は簡単。兄さんが隙を見せるタイミングがあるとすれば、雫ちゃんと入江会長のどっちかといるとき。牢屋じゃなくて二人を見張ってたら、雫ちゃんがかまくらに入ったからね。これは兄さんを連れ込んでイチャつくだろうと思ったんだよ」

「なっ……私の作戦まで!?」

「当たり前じゃん、あたしだよ~? ここであたしと戦うなんて無謀♪」

 

 こんこん、とこめかみと指先でタップする来香。

 俺が掌の上で踊っていたわけだから、来香の計算高さは事実だと言っていい。ここ最近は若干ポンコツ化してたが、考えてみれば美緒(らいか)は時雨さんをも凌ぐ天才なのだ。

 

 これくらい、できて当然なのかもしれない。改めて来香の真の実力を目の当たりにした気がする。

 ……たかが遊びで。

 

「もういいですっ、あたしのことも捕まえればいいじゃないですか!」

「え、嫌に決まってるじゃん♪ これからあたしは兄さんと二人っきりになるんだし♡」

「はっ!? まさかっ、それが目的ですか?」

「もち。まぁ、二人が悔しそうにするのも見たかったけどね~。そんなわけだから邪魔な雫ちゃんは見逃してあ・げ・る♪」

「むぅぅぅっ! 来香先輩、ほんっと性格悪いです!」

 

 心底悔しそうに雫が叫ぶ。

 が、負けは負けとして認めているようで、来香に連行される俺を止めようとしてくれない。

 

「な、なあ来香。来香は看守であって、逮捕権限とかないんじゃ――」

「へぇ~? あたしを仲間外れにするんだ?」

「卑怯な言い方だなぁ!?」

 

 そんな風に言われたら大人しくついていくしかないじゃないか。

 まさに完全敗北。

 予想外の形で俺は投獄されたのだった。

 

 

 ◇

 

 

 来香の知能プレイによって投獄されてから数分。

 俺は未だに服役中だった。俺一人しかいない監獄の中、俺はぼんやりと連行中に遭遇した澪と来香のやり取りを思い出す。

 

『は? なんで来香が友斗といるわけ?』

『え~? そんなの、あたしが二人に勝ったからに決まってるじゃん? 姉さんと時雨さんが一生懸命兄さんの体力を削ってくれたおかげで、無事隙を狙えたよ』

『……ふぅん。警察に泥棒猫が潜んでたわけか』

『いつだって人間は頭で戦うんだよ、姉さん♪ 真っ直ぐなだけじゃ勝てないってまだ分からないかな~?』

『はっ。次は勝つ』

 

 ばちばちと二人の間に火花が飛び交っているのを見て、今朝聞いた『生涯のライバル』という言葉に納得する自分がいた。

 澪も頭はよく回る方だが、直感派の部分がある。特に演技に目覚め、自分の夢を目指して生きる彼女は感性の世界に身を浸していると言えるだろう。

 一方の来香は激情に突き動かされながらも、カオスをもたらすための即興を計算によって練り上げている節がある。

 

 似ているようで、むしろ対極。

 逆さまの彼女たちだからこそ、ライバルになってくれればいいな、と思う。

 

 ちなみに、来香にしてやられた時雨さんはめちゃくちゃ楽しそうに笑っていた。純粋に読み負けたのは久々なんだろうな。昔はチェスで勝ったり負けたり楽しそうにしていた。

 

「まったく……ようやく兄さんと二人っきりになれたね」

「まぁ、そうだな」

「昨日は流れで二人っきりになれるはずだったのにな~。姉さんにすっごく酷い目に遭わされたんだからね?」

「おかげで滑れるようになったんだろ?」

「そーだけど! でも兄さんに手取り足取り教えてもらいたかったもんっ」

 

 ふんす、と腕を組む来香。

 好きな子にここまで言われて、嫌な気がする奴もいないだろう。怒った素振りを見せる彼女に微笑ましさを覚える。

 

「ま、なんにせよ。来香も一緒に楽しめてよかった」

「そーだね。姉さんはともかく、時雨さんに一泡吹かせられたのは結構楽しいかも! こーして兄さんとも話せてるしね~」

「そっか」

 

 やっぱりこれでよかったんだ。

 来香を独りぼっちにするかもしれないから、とスキー合宿の誘いを断った過去の自分を振り返る。あのときの俺はあまりにも視野が狭くなりすぎていた。独りぼっちにしない方法なんて幾らでもあったのに。

 

「あーもうっ! そーゆう顔、なんだかすっごい複雑! あたしが皆と仲良くしてるのがそんなに嬉しいのー?」

「当たり前だろ。来香には、俺の日常にいてほしいからな」

「…………クサい台詞。きも~」

「うっ、容赦ないな!?」

 

 自分でも、キモいしダサいな、とは思う。

 だけど、多分あの頃から同じことを願っていた。

 

 幼稚園で彼女を見かけた、あのときから。

 兄ながら彼女に焦がれた、あのときから。

 

 彼女と一緒にいる時間は楽しいんだぞ、って。

 彼女は本当に凄い奴なんだぞ、って

 たくさん知ってほしかった。

 

「今日の夜に話すのも、そーゆう話?」

「……かもしれない。俺もまだ、はっきりとは分かってないからな」

「へぇ?」

 

 その眼は、からんころんとビー玉みたいに転がる。

 まるで品定めをするように、或いは、真実を映し出すように。

 魔法の鏡みたいに、ビー玉が乱反射する。

 比喩に比喩を重ねて、ようやく言い表せる――そんな不思議な眼。

 なんだかとても、息が止まった。

 

『兄さん、ちゃんとして』

 

 って、言われてるみたいにも思えて。

 言いようのない焦燥に駆られる。

 そのまま来香は何かを言おうとして、

 

「っと、残念。二人っきりの時間は終わっちゃったね」

 

 新しく捕まった泥棒がやってくるのを見て、零れかけたものとは別の言葉を口にする。

 その笑顔の儚さとも強かさとも言えてしまう奇麗さが目に焼き付いて離れなかった。

 

 来香は何を言おうとしていたのだろう?

 答えは見つからなかった。

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