【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。 作:黒い床
バレンタインデーでも、当然だが授業は行われる。
そも、近年のバレンタインデーは好きな人にチョコを渡すイベントという以上に、友チョコを楽しむような意味合いが強くなっているように思う。休み時間にチョコ菓子を食べたり、昼食にチョコ味の焼きそばを食べたり、何だかんだ遊びのニュアンスが強くなっていると言えよう。
しかし、恋の色が薄まっているかと言えば、そういうわけでもなくて。
大河たちが考えたバレンタインイベントによって本命チョコを渡しやすい空気ができたらしく、校内では割と頻繁にそういったやり取りが見受けられた。特に二年生は修学旅行や先日の合宿で成立したカップルが多いため、鬱陶しいことこの上ない。
ちなみに、隣の席の眼鏡イケメン野郎は忠告したにもかかわらず、きちんとチョコのやり取りをしていた。昼休み、いつもとは違うしおらしい雰囲気を出してるときは茶々を入れてやろうかと本気で迷ったものである。
一方で、バレンタインとは違うトピックもそれなりに話題になっていた。
それは、ずばり感謝祭だ。
昨日新聞部経由で告知を行った、新しい学校行事。このイベントは俺と大河が死に物狂いで準備したものになる。
もともと冬星祭をベースにし、プロムナード仕立てにすることは決まっていた。ここ数日で俺と大河がやったのは、既に決まったことに現実味を持たせる作業だった。結果としてこまごまとした調整が無茶苦茶大変で、だいぶ疲労が溜まってるんだけどな。
「さて皆さん。昨日まではバレンタインイベント、お疲れさまでした。参加者の方からもご好評いただき、いいイベントにできたと思います」
「なあ大河」
「とはいえ、まだ一息つくことはできません。今日からはバレンタインイベントの事後処理をしつつ、感謝祭の準備を進めていきます」
「なあ大河」
「基本的な仕事は有志発表の募集と調整、機材やセットの準備、レンタルドレス周りの調整と告知になっていくと思います。どれも時間的余裕はあまりないですが、よろしくお願いします」
「なあ!? いい加減、俺も椅子に座っていいか!?」
「大丈夫です。そのまま正座していてください」
「そーそー! 友斗くんはそのまま反省してた方がいいと思うよ~」
「来香まで!? いや冷静になれって。この状況、異質すぎるでしょ……」
大河が真面目に生徒会長をやっている傍ら、俺は床に正座をさせられていた。今日生徒会室に入った瞬間、何故か「正座して聞いててください」って言われたんだよな。来香にも椅子を強奪されたし。
しかしこうしていると、流石に目のやり場に困ってしまう。視線が低くなると一気にスカートが気になって……げふんげふん。
「ユ・ウ・せ・ん・ぱ・い?」
「友斗く~ん? どーこ見てるのかなー?」
「うっ」
「……ユウ先輩、どこを見てたんですか?」
「見るならあたしの方を見てほしいなぁ。ほら、あたしもス――」
「あーあー、聞こえない!」
しれっとバラそうとしないでほしい。
堪え切れなくなった俺はその場で立ち上がる。何に堪え切れなくなったのかは秘密だ。
って、そーでなくて。
「大河も来香も、いったいどうしたんだよ。叱られる覚えがないんだが?」
「それは……デレデレしてるユウ先輩が悪いんです」
「……デレデレ?」
「本命チョコ、貰ったんでしょ~?」
「え゛」
……何故それを知ってる?
頬が引き攣らせながら二人の顔を見遣ると、ちょっと恐々した声が返ってきた。
「澪先輩から聞きました」「姉さんが言ってた」
「澪かよ!?」
まぁ、チョコの件を知ってるのは澪と晴彦しかいないけども。
……ちなみに下駄箱に入っていた二つのほかにも、休み時間に廊下を歩いていたら見ず知らずの女子から一個だけ貰っていたりする。帰ったら話そうと思っていたが、この調子だと内緒にしておいた方がいいかもしれない。
「ってことで、友斗くんは今日一日椅子なしで過ごしてね♪ どーしてもって言うなら、あたしの椅子に座ってもいいけどー。その場合、あたしは膝の上に座るからねっ! あ、その方が友斗くん的にポイント高――」
「月瀬先輩、ハレンチです! 生徒会室では節度を守ってください。澪先輩じゃないんですから」
「……それを大河ちゃんが言うのね」
「私たちからすれば、三人ともイチャイチャしすぎだと思いますけど」
「何を見せられてるんだろうって感じですよね」
「ま、尊いからよしとしましょうか」
「ですね。入江さんも楽しそうですし」
「うんうん。……私も頑張らないと」
「そこの女子三人、話は全部聞こえてるからな」
俺が指摘すると、如月、花崎、土井の三名は仲良さげに音の鳴らない口笛を吹いた。
知らないところで生徒会メンバーが仲良くなりすぎて辛い。俺も花崎や土井と仲良くしたいんですけど? 頼れる先輩したいんですけど?
さて、それはそれとして、流石に話を進めるとしようか。椅子は返してもらえなさそうなので、俺はホワイトボードの前に向かう。
「おふざけはこれくらいにして、感謝祭の話に移るぞ」
言いながら、部屋をぐるりと見渡す。今日はどうやら用事があるらしく、時雨さんは生徒会室に来ていない。
そもそも、既に三年生は自由登校状態になっている。どの三年生も後輩に頼まれて部活に顔を出している程度だ。入江先輩や時雨さんのようにほぼ毎日登校している三年生はなかなかいない。
「基本的にはさっき大河が話してくれた通りだ。既に先生からは許可も取ってるし、これまでの行事と同じように進めていく。告知面ではいつもより力を入れるけどな」
ただ、と俺は小さく話を区切る。
「今回は時雨さんに一切頼らず、俺たちだけで進めていきたいと思ってる」
これは予め大河と相談し、決めていたことだった。
もうすぐ春がやってくる。時雨さんたち三年生も卒業だ。いつまでもOGに頼っているわけにもいかない。
「これまでも任せる仕事は誰でもできる雑務中心にしてたし、量も徐々に減らしてきた。だから今回は俺たちだけでも十分やれると思ってる」
それに――感謝祭は毎年行っていた謝恩会の延長線上にあるイベントだ。三送会とは異なり、三年生だけが主役のイベントというわけではないものの、卒業生を送り出すような意図もある。
そういう意味でも、時雨さんには一人の生徒として参加してほしい。
俺たち後輩からの手向けとして。
「ふむふむふーむ。つまり友斗くんは時雨さんに『自分たちはできるぞー』ってところを見せたいんだ?」
「うっ……ま、まあ、そうだけど」
「そーゆうとこ、可愛いよね。大好き」
「~~っ、不意打ちはズルいだろ」
「思ったことを言っただけだもーん。……ま、友斗くんの意見には賛成かな。三年生を気持ちよく送り出す感謝祭にしたいもんね」
にししと笑いながらも、来香は割かし真剣なトーンで言った。
他の生徒会メンバーも異論はないらしい。いつだったか、時雨さんが言っていたことを思い出す。
『キミと大河ちゃんがこれから頑張ってくれるんだなって思うと、少しだけ誇らしいかもね』
あれは、生徒会選挙が終わった頃だっただろうか。
時雨さんが感じた誇らしさに見合う頑張りを示したいところだ
「じゃあ、そんな感じで。そしたら、より具体的な話になるが――」
言って、俺は感謝祭に向けたスケジュールを話し始める。
感謝祭の責任者は俺だ。もちろん最終的には大河に全体を見て適宜指示をしてもらうつもりだが、任せきりというわけにはいかない事情がある。
――対バンライブ
それを感謝祭の目玉の一つとした以上、なるべく大河がそっちに集中できるようにしたい。これは来香にも言えることだ。
感謝祭と対バンライブ。
俺が、俺たちが、果たさなければいけないことは他にも山ほどある。
だから俺は俺にできることを全力でやらなきゃいけない。
……違うな。
全力でやりたいんだ、何もかも。
――感謝祭
絶対成功させてやる、と強く思った。