【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#42 〈水の家〉会議(2)

「今日話したいのはそういう制度のことじゃない。実際にどんな関係になっていきたいかってところを擦り合わせたい」

 

 俺は昨日、四人と離れたくない、と伝えた。

 だがそれは、俺たちの関係を定義するには足りない。行き着いた『ハーレムラブコメ』という言葉も結局は結果論であり、十分とは言えないだろう。

 俺が、そして彼女たちが、『俺たち』をどう捉えているのかを知りたいと思った。

 たとえば、とあえて少し迂遠な話をする。

 

「複数人での恋ってのは、概念としてはあるんだ。ポリアモリーって言うんだけど、四人は聞いたことあるか?」

「私、聞いたことあるかもです。漫画に出てきたような……?」

「確かにそういう作品もあるのかもな」

 

 ポリアモリーとは、少し前から一般にも知られ始めている言葉で、複数人での恋愛を指す。ちなみに一人と恋愛関係を結ぶことをモノアモリーと言ったり、色々と複雑なのだが、この辺の細かい定義はどうでもいい。俺も詳しくはないしな。

 

「重要なのは、その概念がどうこうって話じゃない。ぶっちゃけそんなのはどうでもいい。型にはまらないやり方をしてるくせに、今更はまる型を探すのも馬鹿馬鹿しいしな」

 

 同性愛にも色々あるし、複数愛も多種多様だ。

 もちろん自分がどんな属性なのかを知ることで見えることもあるだろう。しかし俺たちは、そういうのとは少し違う。

 

「だからまず確認。俺は四人のことが好きだ。誰か一人を選ぼうって思ったこともあったけど、無理だって思った。一人だけを選んで諦められるような、生易しい気持ちじゃなかったんだ」

「別に私は何とも思わないけど、一般的にはだいぶクズいこと言ってるよね」

「クズじゃなきゃ友斗先輩じゃない、みたいなところあるしねっ」

「私がユウ先輩と再会したときも大概だったかも……」

「あたしを呼んだ理由も、改めて考えるとアレだよね~」

「四人揃って俺のクズさを詳らかにしなくていいんだよ! クズい人間でごめんね?」

 

 考えてみれば、四人との関係はほとんど俺のクズさによって始まったと言ってもいい。我ながらだいぶ酷いな。なんでこいつら、今も俺を好きなの?

 ……ま、まあ? そこは追及すると非常に居た堪れないのでやめておこう。

 

「ともあれ、だ。俺は四人が好きだから全員と一緒にいたい。ただ昨日来香に言われたように、四人を平等に扱うってのは違うと思ってる」

 

 彼女たちの想いには誠実に応えたい。だからこそ心変わりはするし、誰か一人のことを特別に感じる瞬間があるかもしれない。

 たとえば、一人とキスをしているとき。

 その瞬間、口付けている相手を一番に想うはずだ。

 

「……ただ、これはあくまで俺の話。できたら四人の気持ちも聞きたい」

 

 俺だけが想われているわけじゃないことは知っている。澪と大河はお互いに想い合っているはずだ。

 

『ユウ先輩のことも澪先輩のことも、私は大好きです。雫ちゃんだって、友達として大好き。その気持ちに優劣なんかありません。私は皆の特別になりたいです』

 

 って。

 だからこそ、俺だけじゃなくて彼女たちの気持ちも知っておきたい。

 

「えっと、じゃあ私からでいいです?」

 

 と手を挙げたのは雫だった。

 首肯を返せば、雫は胸の辺りで手をぎゅっと握りしめ、祈るように言う。

 

「私は友斗先輩のことが大好きです。小学校の頃から、ずーっと好きでした。友斗先輩への気持ちが一番特別だって思います」

「……お、おう」

「でも、それとは別に、お姉ちゃんのことも好きです。お姉ちゃんらしく私を守ろうとしてくれたり、お姉ちゃんなのにわがままだったり、そーゆうとこが好きです」

「雫、ありがと」

「大河ちゃんは一番の親友だと思ってます。同じ人のことを好きになれた……大親友。可愛くて、真っ直ぐで、一緒に友斗先輩のことを好きでい続けられたらなーって」

「し、雫ちゃん……」

 

 それから、と雫が来香を見据える。

 一瞬迷った様子を見せながらも、彼女ははっきりと告げた。

 

「来香先輩のことは分かんないです。めっちゃ趣味が合うし、おしゃれとかコスメのことは話したいなって思いますけど……でも、友斗先輩やお姉ちゃんのことを盗られちゃうって思うとムカムカします。微妙にキャラ被りしてる気もしますし」

「……ふーん」

「だけど、嫌いじゃないです。むしろ望むところっていうか……初めてなんです、こーゆう気持ち。ただ、とにかく負けたくなくて……一番の恋のライバルだと思ってます」

 

 ゆっくりと紡ぎ上げてくれた言葉は、とても奇麗だと思った。

 大河はふっと雫に微笑みかけ、言葉を継いだ。

 

「私は、雫ちゃんとは少し違います。ユウ先輩のことを好きなのは同じで……同じ、なんて一言で言ってしまいたくないくらいに好きです」

「……さんきゅ」

「だけど、私が好きなのはユウ先輩だけではなくて。……澪先輩にも恋してます」

 

 と言う大河は、俺への想いを口にしたときよりも恥ずかしそうだった。頬を赤らめた様子を見て、澪が勝ち誇った笑みを見せてくる。うるせいやい、別に俺が負けたわけじゃないっつーの。

 

「雫ちゃんは一番の大親友です。最初は迷ったこともあったけど……今は、同じ人を好きになれてよかったと思ってます」

「えへへっ、私もだよっ! 大河ちゃん大好きーっ!」

「わっ」

 

 人懐っこい子犬みたいに雫が大河に抱き着いた。

 澪がめちゃくちゃ満悦そうに二人を見ている。俺からしても、雫と大河が仲良さそうにしてるのは目の保養になるんだよなぁ……。ちょっと戸惑いながらも満更じゃなさそうな大河が大変可愛らしい。

 ひとしきりじゃれて満足した雫が離れると、大河は話を続けた。

 

「え、えと。月瀬先輩のことは尊敬できる人だと思ってます。美緒さんとはずっと会いたかったですし……ユウ先輩のことを真っ直ぐに想ってる姿もかっこいいな、って」

「…………」

「だからこそ、今は月瀬先輩のことを知りたいって気持ちが強いです」

「……知りたい、か」

 

 ぼそっとアンニュイな表情で来香が呟く。

 その声にどんな気持ちが乗っているのかは分からなかった。ただ、拒絶しているわけでもないのだろう、と思う。

 

「じゃ、次は私」

 

 と口を開くのは澪だ。

 雫や大河とは違い、だいぶ気楽なトーンで続ける。

 

「私はそもそも、女の子もいけるクチなんだよね。だから恋とそれ以外の比率が割とバラバラってだけで、雫とトラ子のことも割と恋愛的な意味で好き。……来香も、まぁ、悪くはないよね。めんどくさい部分もあるけど張り合いがあるし、何より顔もいい。トラ子とは別の生意気さも、一周回って可愛いまである」

「は、はあ……?」

 

 こいつ、マジでぶっちゃけるな?

 大河への気持ちを知っていれば、澪が女子もウェルカムなタイプだとは察しがつく。だが、まさかそこまでオープンだとは思っていなかった。

 自分の名前を出されたことが想定外だったのだろう。来香も「ふぇ?」と素っ頓狂な声を漏らしていた。

 

「そういう意味では、私が一番友斗に似てるかもね。だから五人で()るのが楽しみなんだよねぇ。絶対気持ちいいし、可愛いじゃん? 雫が可愛いところは見たいし、トラ子をぐちゃぐちゃにしたいし、ポンコツになった来香を苛めたいし――」

「澪先輩、それ以上はセクハラだと思います」

「この時点でセクハラだろ……」

「三人で話してて、大河ちゃんもちょっと慣れてきちゃってるんですよ」

 

 俺の呟きに、雫がぼそぼそと答えた。

 そうか…慣れてるんだ……。こいつら、仲良すぎだろ。

 

「だいたい、澪先輩はすぐに下ネタに走るのをやめるべきです」

「別に下ネタじゃないし。恋人同士ならそういうことだって考えるべきでしょ?」

「そっ、それはそうかもしれないですけど……」

「こういうことをきちんと話さず、なあなあで過ごしていくのを避けるためにこうやって話し合ってるんだよ」

「なぁ澪。それ今理論武装してるだけで、さっきのは割と遊んでたよな?」

「え、そうだけど?」

「澪先輩!? これだからあなたという人は……!」

 

 怒る大河を見て、澪がくつくつと楽しそうに肩を竦める。

 それからこちらを見て、悪魔じみたウインクをしてきた。可愛い。

 

「あー、もう、はいはい。ケンカは終わり! 話進めよ?」

「う、うぅ……だって澪先輩が!」

「そだねそだね、お姉ちゃんが爛れてるね。いい子いい子」

 

 雫が大河を抱きしめ、よしよし、と頭を撫でる。

 どいつもこいつも可愛すぎるだろ。頬が緩むのを感じつつ、会話に入ってこない来香の様子を確認する。下ネタが苦手ってことはないと思うんだが……。

 彼女の頬には、仄かに朱が差していた。何か考えこむように口元に手を添えると、投げっぱなしになった会話を引き取って話し始めた。

 

「……あたしは、三人のことは別に好きじゃないよ。仲良しな空気を壊すみたいになっちゃうけど、好きなのは兄さんだけ」

 

 と、それだけで終わっても当然だと思っていた。

 けれど、来香の言葉はそこで終わらない。

 

「けどまぁ、嫌いでもない……かも」

 

 と口にする来香は、自分でも気持ちを整理しているように見えた。

 迷子みたいな呟きが、ゆら、ゆらり、と虚空に揺れている。

 

「雫ちゃんは絵に描いたヒロインって感じがするよね。からかい甲斐があるな~って思ってる。まぁ、あたしとキャラ被りしてる感あるのはフフクだけど」

「酷くないです!? てゆーか、二番煎じはそっちですし!」

「入江会長はすごく真面目で、昔のあたしを見てる気分。『知りたい』なんて直球に言われるとは思わなかったしね。……まぁ、そーゆうのも嫌ではないかな」

「月瀬先輩……!」

「姉さんはめっちゃ敵だよね~。恋でもそれ以外でも、絶対に負けたくない。……ううん、絶対に負かしたい」

「あっそ。私も負ける気とかないけどね」

 

 順々に言葉を紡ぐ来香。

 一度話を区切ると、「まぁそんなわけだから」と総括するように続けた。

 

「三人のことは同じ人を好きになった義妹くらいには見れるかなぁ~」

「「は?」」

「妹、ですか……?」

「そーだよ。だってあたしは兄さんと結婚するでしょ。で、その義妹の姉さんが入江会長と結婚する。そしたら三人ともあたしの義理の妹じゃん?」

「な、なるほど」

「トラ子は簡単に納得しないで。……来香が私の義姉とかありえないから。どう考えても私の方がお姉さんでしょ」

「そーですっ! ちっちゃいくせにお姉ちゃんぶらないでください!」

「うっ」

「雫ちゃん、澪先輩が流れ弾でダメージ受けてるから!」

「あっ、ごめんねお姉ちゃん! お姉ちゃんはいいんだよっ! ちっちゃくてもお姉ちゃんだもん」

「ちっちゃい言うな!」

「そーだそーだ! 年下のくせにちょっと大きいからって生意気だぞ、二人とも」

「私まで!?」

「私のダメージを解説してる時点でトラ子のくせに生意気だしね」

「四人で喋ると乱戦具合がすごいなッ!? ツッコむ暇がないんだがっ?」

 

 そして四人の中で巨乳と貧乳の心の分断がデカすぎる。いや、澪も来香も慎ましやかってだけでちゃんと柔らかいし、魅力的だと思うよ……?

 って、そーでなくて。

 

「とりあえず四人の気持ちは分かった。俺一人が想われてるわけじゃないってこともな」

 

 少なくとも『俺と彼女たち』ではなく、『俺たち』になれているとは思う。

 色んな感情をごった煮にした、ぐちゃぐちゃな関係だ。

 

「その辺を踏まえて聞きたいんだけ、俺たちは『付き合ってる』ってことでいいんだよな……?」

「「「「――は?」」」」

「えっ、すまん。違ったか?」

 

 おずおずと四人の方を見遣れば、やれやれと呆れたような反応を返される。……四人全員から。

 

「あのさ。友斗って馬鹿なの? 『付き合ってる』以外にあるわけなくない?」

「あたしの場合は『婚約してる』とかでもいいけどね~」

「来香先輩、さっきから正妻面がしつこいですよっ! ……まぁ、お姉ちゃんが言ってるとーりだと思います!」

「というか、てっきり私はもう付き合っているのかと思っていました」

「うっ、そ、そうだよな……」

 

 ま、まぁ、俺もそうだろうなとは思っていたのだ。

 

『雫、澪、大河、来香。世界で一番、四人のことが大好きだ』

『大大大大大好きですよ、友斗先輩♡』

『ん。私も…………好き』

『私も、好きです。大好きです』

『だーいすきだよっ、兄さん♪』

 

 あんな恥ずかしい告白紛いのことをしておいて、付き合ってないわけがない。ただ四人に確認を取っていなかった以上、胸を張って言えなかっただけで。

 ……こいつらが俺の彼女かぁ。

 やばい、改めて意識すると頬が――

 

「友斗先輩ってすっごい顔に出ますよね。特にデレるとき」

「しょ、しょうがないだろ。幸せすぎるのが悪い」

 

 だらしない顔を見られるのは流石に恥ずかしいので、四人から顔を逸らす。

 げふんこふんと咳払い、ともあれ、と話をまとめた。

 

「俺たちは五人で恋人ってことで。――改めてよろしくな」

 

 恋人と定義してしまえば、何かが零れてしまうのだとも思う。

 けれど、俺たちの関係が色んな気持ちをぐちゃぐちゃに混ぜたことは分かっていて。

 その上であえて、恋人っていうありふれた言葉を使いたいような気がした。

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