【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#44 対バンライブ

 夕食を終えて。

 俺たちはリビングでまったりしながら会議を再開していた。現在の議題は対バンライブのことである。

 感謝祭自体も目下の悩みではあるが、その目玉として打ち出した対バンライブのことを考えると感謝祭と比にならないレベルで頭が痛くなる。何せやるってことだけが決まっていて、その他のことは何一つ決まっていないのだから。

 

「というかさ。どうしていきなり対バンライブをやる、なんて言い出したの? 私たちと話すためだったなら、流石に誤情報ってことにした方がいいんじゃない? 友斗、今めちゃくちゃ忙しいでしょ」

「確かに……。生徒会のお仕事をして、更に挨拶の日程調整もするんですもんねー。友斗先輩、無理してません?」

「いや、そこまで無理してるつもりはないぞ? 感謝祭もやることは決まってるからな。そこまで仕事は多くないし」

「……ユウ先輩、嘘はよくないですよ。さっき生徒会室で未消化タスクを整理して、二人で頭を抱えたじゃないですか」

「あ~やってたねぇ。時雨さんに頼らない分、結構仕事量増えちゃってるし。無理して対バンライブやらなくてもいいんじゃない? 感謝祭はそれがなくても盛り上がるだろうしさ」

「うっ……」

 

 ド正論を突き付けられ、ばつが悪くなる。

 全くもって四人の言う通りだ。抱えているタスクの量を鑑みれば、対バンライブをやるべきではないだろう。

 そもそも、これは俺だけの問題じゃない。対バンライブのプロデュースが俺だとしても、実際に舞台に上がるのは彼女たちだ。生徒会の仕事と並行してライブの練習をするのはかなりハードだろう。

 

 澪が言うように、対バンライブは彼女たちと話すための口実として企画した。

 少なくとも大河にはそう伝えているし、それが偽の目的というわけでもない。

 けれど、それだけが理由じゃなくて――。

 

「それとも、どーしてもやりたい理由があるんですか?」

 

 と雫が掬い取るように聞いてきた。

 できれば言わずに済ませたかったのだが、そうはいかないらしい。

 堂々と口にするような大した理由じゃない。ひどく幼稚で、理屈なんか少しも通ってなくて、死ぬほどこっぱずかしい。

 それでも八つの瞳は、俺が逃げることを許さない。

 許さないでくれるから、ちゃんと話そうって思えた。

 

「――から」

「え、なんて?」

「……四人のステージをもう一回見たいからだよ! 俺は冬星祭のあのライブを見て、初めて三人に恋してるって自覚したし、その後の来香のライブにもすっげぇ救われた。そんぐらいあのライブが衝撃的で忘れられねぇんだよ!」

 

 あーくそ、ほんっと恥ずかしい。いっぺんくたばった方がいいんじゃないだろうか。

 でも――あの日見た輝きが網膜に焼き付いている。

 三人のお姫様も、一人の魔女も。

 息が止まるほど魅力的だった。だから今度は、四人のライブを見たい。ぶつかり合う彼女たちの、堪らなく眩しいライブを。

 

「…………だから、このことは正当な理由が一切ない俺のわがままだ。無茶苦茶なことを言ってる自覚はある。四人にはやらなきゃいけないこともやりたいこともあるはずだし、断ってくれてもいい。四人が断っても何とかなるような策は考えてる」

 

 感謝祭までは一か月しかない。そもそも無理のある企画なのだ。俺のわがままのためにハードな選択を取る必要はない。

 

 だけど、

 

「やだ、絶対やる」

「へ?」

「もちろんだよね、お姉ちゃん♪」

「私は忙しくなりますけど……ユウ先輩にそう言ってもらえるなら絶対にやりたいです」

「っ、さ、三人とも……」

「もち、あたしもやるよ♡ ぶっちゃけ、三人よりもこーゆうのは慣れてるしねっ」

「……来香」

 

 四人はちっとも断る気がないようだった。

 俺がぽかーんとしていると、来香が不敵に笑う。

 

「あっ、でもただ演るのはもったいないよね~。せっかくだし、勝負しようよ! どっちのライブがよかったか、兄さんが決めて!」

「えっ」

「それ、いいですねっ! 来香先輩のことは一回ちゃんとコテンパンにしたいですし!」

「賛成。そういう方が性に合うし」

「さ、三人がそう言うなら……私も望むところです」

「三人まで……」

 

 乗り気な四人の反応に思わず苦笑した。

 まぁ、彼女たちらしいと言えるのかもしれない。

 俺自身、四人揃ったライブよりも対バンライブの方が彼女たちに合っていると思ったからこそ、後者を選んだ。

 

『絶対にあたしたちを平等には扱わないで。答えじゃなくてもいいから、そのときの一番をいつも決め続けるって約束して』

 

 来香と交わした約束ではないけれど、ちゃんと勝ち負けを決めよう。

 そういうことの繰り返しが彼女たちへの誠実さだと思うから。

 

「分かった、じゃあ勝負ってことにしよう。でも、三対一でどっちのライブがよかったのかを決めるのはフェアじゃない。だから俺が決めるのは一人だけ――ライブ全体を通して一番輝いてた奴だ」

「いいですね! 来香先輩だけじゃなくて、お姉ちゃんや大河ちゃんも恋のライバルには変わりないですし!

「……う、うん。負けないよ、雫ちゃん!」

 

 雫と大河の一年生コンビが頷き合う。ライバルという言葉とは裏腹にそのやり取りは柔らかく、仲睦まじい姉妹みたいに見えた。

 一方の澪と来香は、さっきよりもメラメラと目が燃えている。

 

「面白いじゃん。それなら来香が負けたとき、人数を言い訳にできないし」

「そんな言い訳するはずないじゃん。姉さんこそ、あたしに勝てるって本気で思ってるの~? 演技はともかく、音楽で勝負するんだよ?」

「言ってれば? 私だって音楽(そこ)でも負けてるつもりないから」

「ふぅ~ん? まぁ頑張って! あたしがぶっちぎりで勝っちゃうだろうけどっ」

 

 二人は音楽やパフォーマンスが主戦場だし、やる気になるのも当然かもしれない。こっちはこっちで、血気盛んな姉妹のようだ。

 やや疎外感を覚えつつ、改めて勝負の条件を整理する。

 

 勝利条件は、ライブ全体を通して一番輝くこと。

 とはいえ当日のライブだけで決めるのはフェアじゃない。澪や来香が歌唱力に秀でているように、雫や大河にも武器はある。ならばその武器も合わせて勝ち負けを決めたい。

 ライブの準備も含めた全ての中でどれだけ輝いていたか――それが勝敗を決する条件になった。

 

「勝負の内容はそれでいいんだけど……歌う曲とかって決めてるの?」

 

 勝負の条件を整理し終えると、澪がそう尋ねてきた。

 もっともな疑問だ。あー、と考えながら声を漏らす。

 

「歌う曲か。考えてなかったな。前に歌ったのは……流石に無理か」

「だと思います。あの曲はクリスマスの印象が強いですし」

「私も友達に『今度は何歌うの?』って聞かれちゃいましたからね~。みんな新しい曲を歌うだろう、って思ってるみたいですよ」

「そうなのか……」

 

 それを言ったら『スリーサンタガールズ』ってユニット名もクリスマスの印象が強く気がするんだが、それはそれ、これはこれってことだろう。ユニット名は変えたっていいしな。

 

「あたしの方は別にクリスマスソングってわけじゃないけど……そっちが変えるなら、あたしも変えたいよね~」

「まぁ、そうだよな」

「うんうん♪ 曲は何回か聴けば弾けるようになるし、負担とかは考えなくてオッケーだよっ!」

「お、おう……」

 

 しれっと異常なことを言ってないか? 音楽に詳しいわけじゃないが、何回か聴いただけで弾けるようになるのは凄まじいことだと思うんだが。

 ま、その辺は今考えてもしょうがないか。

 

「んー。そーゆうことなら、とりあえず鈴先輩に相談してみるのはどうです?」

「伊藤か。そういや、伊藤に色々と手を借りたって言ってたな」

「ですです。歌った曲も鈴先輩が提案してくれましたし、音響とか当日のことを考えても一回相談しておいた方がいい気がするんですよねー」

「なるほどなぁ」

 

 確かに、文化祭のときにも伊藤が演出全般を監督してくれた。前のライブで手を借りたのなら、今回も頼りたいところではある。

 だが――

 

「鈴ちゃん、今ってサークルで忙しいんじゃなかったっけ?」

「そこなんだよな」

 

 伊藤は同人サークルに所属しているらしい。この前のスキー合宿もだいぶ無理をして参加したようで、最近は授業中もぐーすか寝ている。期末テストが近いのでそっちの面でも不安が残るし、あまり負担をかけたくないのが本音だ。

 

「ん~。けど、鈴先輩はやりたいって言う気がします。私たちのこと、けっこー気にしてくれてましたし。このタイミングで声を掛けなかったら絶交されちゃうかもですよ。友斗先輩が」

「……まぁ、分からんでもないな」

 

 無理はさせたくない。

 が、無理をしたがるだけの情熱を伊藤は持っている。作曲、或いはもっと大きく音楽と括ってもいいかもしれない。伊藤がそれらに対して抱く情熱の熱さはたかが文化祭のミュージカルにさえ、発揮されていた。

 

「ま、一度連絡してみたら? 無理なら無理って言うでしょ。鈴ちゃん、そこで嘘つく人じゃないし」

「それもそっか。じゃあそうする」

 

 スマホを取り出し、ぽちぽちとRINEで連絡する。

 前にRINEで話したのは文化祭のときだ。トーク画面を見れば、締切催促のメッセージが並んでいる。

 ふと俺が書いた詞のことを思い出し、ふっ、と笑みが零れた。

 懐かしいなと思いながらメッセージを送ると、すぐに既読がついた。

 

【ベル:ちょうどよかった!】

【ベル:そのことで話したかったんだよね!】

【ベル:明日話そ!!!】

 

 ……即答なのが怖い。そして伊藤も話したがってたみたいだし。

 まぁ、ありがたいことだと思っておくか。

 

「伊藤とは明日話してみることになった」

「お~! じゃあ後は衣装ですね!」

「衣装? ……あ~、そういえばそれもあったか」

「ユウ先輩ってやっぱり変なところで抜けてますよね」

「うっせ、いいんだよ。そのときは大河が埋めてくれるんだから」

「っ、そ、そうですか……」

 

 大河が毛先をくるくると弄り、ふにゃりと笑った。実に可愛らしい。冷静になると、弟子に頼り切りな師匠ってヤバくね、って感じだけどね。

 ――青は藍より出でて藍より青し。

 よく聞くことわざが身に染みるぜ。

 

「で、前は衣装ってどうしたんだ?」

「姉伝手で演劇部からお借りしました。今回も連絡してみましょうか?」

「いや、そういうことなら俺が明日いっぺんに話すわ。借りられないようならレンタルを検討するか……あえての制服でもありだな」

「うわっ、性癖」

「性癖とか言わないでねっ!?」

「妹と制服フェチって、かなり変態だよね~」

「違うからなっ!?」

 

 性癖とかではなく、感謝祭の雰囲気には会うかもねって話だからね? 制服が嫌いかと聞かれれば、普通に大好きだと答えるけど。

 話がまとまりかけたところで、雫が何やら考え込んでいることに気が付く。

 どうかしたか?と尋ねれば、わずかに不安の色を帯びた目で雫が言う。

 

「衣装のことなんですけど。入江先輩との相談、私がしちゃダメですか? 話は友斗先輩に通してもらおうと思うんですけど……具体的にどんな衣装にするのかは私がプロデュースしたいなーって思いまして」

「プロデュース?」

「ですです。そーゆうのも勝負の一環ですよねー?」

「……ま、そういうことになるな」

 

 問題は他の三人が了承するかだが……。

 

「私は雫に任せてもいいよ。そういうのは雫が詳しいだろうし」

「私も。もし困ったら相談してね」

「うんっ、ありがと! ……来香先輩はどうです?」 

「んー。あたしの要望も聞いてくれるならオッケー。対バンライブだからって三人とコンセプトが違ったら、いいライブにはならないだろうしね~」

 

 ということらしい。

 三人とも異存がないのであれば、雫に任せてしまってもいいだろう。こうして言い出したってことは、何かしら考えているものがあるはずだし。

 

「分かった。じゃあ明日、入江先輩には軽く話を通しておく。もし協力してくれそうなら雫に言うから、上手くやってくれ」

「りょーかいですっ! 最っ高に可愛くていい感じの衣装にしてみせますから、楽しみにしててくださいね!」

「おう」

 

 キラキラと星屑みたいに笑う雫。

 いったいどんな衣装にするつもりなんだろうな……今から楽しみだ。

 そんなこんなで、無事に話もまとまった。とりあえず今日のうちに話しておくべきことはない気がする。

 

「他になんか決めることあるか?」

「えっと……今のところは、特には思いつきませんね」

「ん」

「あたしも思いつかないかなー」

「私も……あっ! でも一つ、友斗先輩が決めなきゃいけないことはありますよ!」

「俺が?」

 

 聞き返すと、うんうん、と雫が悪戯っぽく笑って言った。

 うんっと、急に嫌な予感がしますね?

 雫は蕩けるように甘ったるい声で、ニヤぁっと笑って、答えを口にした。

 

「誰のチョコが一番美味しいか、ですよ♪」

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