【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。 作:黒い床
「とゆーわけで! 第一回チョコバトルを始めたいと思います!」
「第一回って、次もあるのかよ……」
「当たり前じゃん! 来年も再来年もずっとずぅっとやるんだよ。あたしたちとずっと一緒にいたいんでしょ~?」
「そーですよっ、友斗先輩! これは私たちの絆の証なんです!」
「すげぇ。くだらないことなのにいいこと言ってる風にまとめやがった」
「くだらないとは何ですか! 大事なことですよ!」
「そーだそーだ!」
「お前ら急に一致団結したなぁ!?」
小悪魔とメスガキが結託すると厄介さが二倍になるらしかった。けたけたと楽しそうな笑い声が聞こえる。ま、二人が仲良くしてくれていること自体はいいのだが……。
今はそれよりも大きな問題を抱えていた。
すなわち――
「つーか、どうして俺はまた縛られてるんだよっ?」
……さて。
紳士淑女の諸君。一年の間に三度も縛られる経験をしたことはあるだろうか? 変態紳士変態淑女の諸君であればあるかもしれないな、うん。俺の問いが間違っていた。ぜひそういう諸君は清く正しく変態ライフをエンジョイしてほしい。
変態ではない諸君に言いたい。
どうして!! 俺は!! 誰かとシてるわけでもないのにこんなに縛られなくちゃいけねぇんだよ??? これプレイじゃないんだよね? いやプレイでも縛られるのは趣味じゃないけども!
と、いうわけで。
俺は当然のように手首足首を縛られていた。今回は割と抵抗したんだが、澪がマジで強くてビビった。本気で暴れて怪我させるのはよくないし……などと躊躇した瞬間にあっさりと捕縛されてしまったのである。
鼻孔をくすぐる甘い匂いと二人の言葉からして、これからチョコを食べるのだ、ということは分かる。めっちゃいい匂いだし、バレンタインを楽しめるのは彼氏の特権だと思うよ?
だが、
「俺を縛る意味とは??」
縛られてバレンタインを過ごす男子高校生がどこにいるというのか。
前と違って床に転がってるんじゃなくて、ソファーに座っている部分は救いがあるのかもしれないけども。
はぁ、と溜息を吐くのは澪だった。
「だって、縛らなきゃ選ばないでしょ?」
「縛ったら選ぶって思われてんの? 俺そんな変態じゃないぞ!?」
「あ、それは知ってる。どっちかって言うと縛る方が好きだもんね」
「じ・ちょ・う・し・ろ!」
「あー、やっぱり兄さんってそっち系なんだ……」
「納得もするんじゃねぇよ!?」
少なくとも、この前来香とシそうになったときにはそんな片鱗を見せた覚えはないんだが? いったい何故『やっぱり』なんて思っているのだろうか。間違いではないんだけどさ。
視線をスライドさせると、雫がぶつぶつとうわ言を口にしていた。大河は知識不足ゆえか、逆に平気そうである。うぶすぎてそれはそれで心配になるな……。
こほんと咳払いをした大河は、澪の代わりに説明をしてくれた。
「選ばないとも、選べないとも思ってはいませんよ。ユウ先輩は約束してくれましたから。ただ今回はあくまで料理の味で勝負したいな、と思いまして」
「それと縛ることに何の関係が……?」
「ユウ先輩にはアイマスクをつけてもらって、私たちが食べさせることになったんです。そうすれば誰が作ったのかは分からず、あくまで味だけで判断してもらえるはずです」
一見すると妥当な案であるように思う。
だが実際には妥当でも何でもない。ただ大河が言うからそれっぽく聞こえてるだけだ。
「なぁ二つほどいいか?」
「どうぞ」
「まず一つ。手足を縛る意味なくね?」
「アーンをしようとするとユウ先輩がいちいち抵抗して話が進みませんからね。今回は遅くならないよう、強引な手段に出ることにしました」
「嘘つけ澪辺りはただ縛りたかっただけだろ!」
「ちぇっ、バレたか」
「澪先輩!?」
アホかこいつら……。
元々澪はSっ気もあったけど、セフレだった頃とは比べ物にならないレベルでサディスティックな性格になってるんだよなぁ。縛ったことはあっても縛られたことはなかったが、いずれは覚悟しないといけないかもしれん。
って、そーでなくて!
「もう一つ。そもそも誰が作ったか分からせないだけなら、誰が作ったのか言わずに目の前に出せばいいんじゃね、って思うんだけど?」
「「「あっ」」」
「……タシカニーソウダネ」
今思いつきました、って感じで声を上げる三人にだいぶ片言な声が続く。
大河たちは完全に抜けてたみたいだが、来香はそうじゃないらしい。四人分のジト目を受け、来香はひゅーひゅると誤魔化すように口笛を吹いた。
「月瀬先輩、気付いていたなら教えてください」
「い、いや、だってさ~。三人ともノリノリで兄さんを縛ってたし? そーゆうの、普通に羨ましいし? てゆーか、三人もアーンしたいでしょ? 手足縛られて視界も塞がれてる兄さんにいたずらもしたいでしょ? 気付いても黙っておくのが正解ってもんじゃないかな~」
「確かに」
「……月瀬先輩の言う通りですね」
「マジレスしないでくれてグッジョブでした」
「おい!? 明らかにおかしい理屈に納得すんなよ!?」
「念願の恋愛成就なんです! バレンタインくらい甘えたっていいでしょ!?」
そーだそーだ、と来香が続き、澪も大河も力強く頷いた。
え、えぇ……俺が悪いのん?
不服ではあるが、言ってることが可愛いだけに困ってしまう。
甘えられてるのか……アーンしたいのか……いたずらもしたいのか……やべ、鼻血出そう。この子たち可愛すぎてヤバい。急に甘すぎません?
「べ、別に、バレンタインじゃなくても好きに甘えればいいだろ。俺はお前らの彼氏なんだし……つーか、バレンタイン以外でも俺は甘えてほしいし」
「「「「…………」」」」
絞り出した言葉は、自分が思っていたよりも情けない響きを伴っていた。
四人は目をぱちぱちさせ、ぽっ、と頬を朱に染める。
「………………それ、絶対私たち以外に言っちゃダメですからね」
「言うわけねぇだろ。お前ら以外に甘えられても嬉しくねぇし」
「……トラ子、アイマスク」
「はい」
「何も言わずにそれ!? そんなにキモかった!?」
「あんまりうるさいようなら口にもはめるけど?」
「何をはめるかを言わなかったことを褒めるのと、はめられるものを持ってるのかよって言いたい気持ちと、それじゃあチョコ食えないだろってツッコみたい衝動がせめぎ合ってるんだが?」
「あんまりお口にチャックできないなら、あたしがキスして塞いじゃうよ?」
「…………黙ります」
この流れでキスされたら死ぬ。
むぐりと口を噤むと、大河がアイマスクをたどたどしい手つきで俺に着けた。一気に視界が暗くなる。
見えなくなると、一気に世界から自分が断絶されたような気分になった。
何だこれ、変な気分に――
「ふぅっ」
「ひゃうっ!?」
「ふふっ、友斗先輩ってば、かっわいい~」
「っ」
変な気分どころの騒ぎじゃない?!?!
耳に吹きかけられた生温い息がこそばゆくて、どくん、どくん、と体が疼く。
体の芯の温度が急上昇していくのを感じていると、ぺた、と誰かの手が俺の胸に触れた。
「っっ」
「ユウ先輩……ドキドキしてますね。心臓の動きが速いです」
「そう、かよ……」
「私もドキドキしてます。こんな風になれて嬉しいです」
「――っ!?」
今日だけでどれだけ幸せ過多になればいいんだろう。
甘やかな言葉のせいで頭がくらくらした。
「友斗、息、荒いね。興奮してるんだ?」
「――ッッ!!」
「声、かわいい。お腹の奥、きゅんきゅんしちゃう」
「~~っ」
澪の毒々しいほど甘美な誘惑が、とくん、と鼓動を加速させる。
とどめとばかりに、つーっと首筋を撫でられた。
「ねぇ兄さん。どーせ出しちゃったんだし、我慢なんかしなくてもいいんだよー?」
「なっ、何の話を――!?」
「え~。声の話だよ? そ・れ・と・も、もっと別のものを出したくなっちゃってる? あたしはそっちも大歓迎だけど♡」
「っ……!」
故意に勘違いするような言い方をして、悪戯な甘さがとろとろと耳から流し込まれる。
反則級の刺激だった。
こんなの、俺は――
「あっ、ちょ、鼻血!?」
「やば、アクセル踏み過ぎたか」「あちゃー。やりすぎちゃった」
「二人とも一体何を言ったんですか!? 雫ちゃん、ティッシュ!」
「う、うん! 皆はアイマスクとか全部外してあげて!」
――耐えられなかった。
そんなこんなで、俺はチョコを食べる前に四人の彼女に介抱されることと相成った。
我ながら情けねー。
◇
「……え、えぇっと。すまん、世話かけたな」
「い、いえ。私たちも少しやりすぎてしまったので」
「ですです。ごめんなさい、調子に乗りすぎました」
「ん……ごめん。はめ外しすぎた」
「同じく。すごーく反省してる」
鼻血が止まって暫く。
流石に鼻血まで出ると反省するらしく、四人はシュンとなっていた。特に来香と澪は『私たちがやりました』という紙を二人と揃って首からかけており、反省の色が……いや逆に見えねぇな。
だがまぁ、四人を気に病ませるのも、それはそれで本意じゃない。
「いや、あの、なんだ……幸せに慣れてないだけだから、四人が気にする必要はない。世界で一番俺が幸せだなーって実感したし」
「……そですか」
「私たちに気を遣わなくていいですよ? 嫌なことは嫌って言っていただきたいです」
「なら、こんな俺の情けなさのせいで甘えるのをやめられる方が嫌だね。俺は兄ちゃん体質だからな。好きな女の子には甘えられたいんだよ」
言うと、四人がパァと明るくなった。
あーくそ、めっちゃ可愛いな。
ぽんぽん、と雫と大河の頭を撫でると、『私たちがやりました』組二人がじぃとこちらを見てくる。
「友斗、私たちは?」
「あたしたちにも甘えられたいよねー?」
「……二人はちょっと自重することを覚えような。刺激的過ぎるんだよ」
「うっ……わかった」
「……はーい」
あ、結構本気で反省したな、これ。
身を縮こまらせて俯く姿は怒られてばつが悪そうにする犬を彷彿とする。
ったく、しょうがねぇな……。
雫と大河の頭に乗せていた手を、それぞれ澪と来香へ移す。
くしゃくしゃと丁寧に撫でてやると、ふんあり可愛い笑みが返ってきた。くっそぅ、愛い奴らめ……!
「んんっ。あー、そんなことより、チョコもらってもいいか? さっきから遠回りしすぎな気もするんだけどさ」
「あっ、そーですね。じゃあ……お姉ちゃん、一緒に摂りに行こ」
「ん、そうだね」
「なら私はコーヒー淹れてきます」
「あたしも手伝うよ、入江会長」
四人がめいめいに立ち上がれば、俺が入り込む隙は一切なくなってしまう。さっきからちっとも自分で動かない亭主関白になってないかと不安に思う。ま、下手に手を出して邪魔になってもしょうがないし、鋭意努力ってことで。
暫く待つと、コーヒーとお菓子が運ばれてきた。
「あーっと。目とか隠さなくていいのか?」
「さっきのでいたずらは満足したし、勝負するのも面倒になったしね」
「あっ、そう……」
どうせ目隠しされなくとも、きちんと勝ち負けは決めるつもりだしな。その約束を違える気は微塵もない。
「えっと……じゃあ食べてもいいか? それとも、順番とかある?」
「好きに食べちゃってだいじょーぶですよ♪ 私たちを美味しくいただいちゃってくださいっ」
雫の小悪魔な発言など、澪や来香と比べれば可愛いものである。可愛いから悶えはするけど、堪えることはできた。
いただきます、と告げてから、俺はまず目についたものを食べることにする。
「これって……チョコプリンか」
「ん。割と簡単ではあるんだけどね」
「とか言いつつ舌触りがよくするのは難しいし、お姉ちゃんはその辺抜かりないけどね~」
「ま、ね」
チョコプリンを作ったのは澪、と。
てっきり和風で攻めてくるのかと思ったが、バレンタインはそういうわけではないらしい。スプーンで掬ってみると、程よい甘さが口の中で蕩けて、めちゃくちゃ美味かった。
「めっちゃ美味いわ。ありがとな、澪」
「ん」
半分ほど食べて、スプーンを置く。
コーヒーを一口飲んで口をリセットし、他のお菓子に手をつけた。
「こっちはガトーショコラか」
「はい。甘さは控えめにしたので、少し苦かったらすみません……」
「んっ、んっ……いや、全然大丈夫だぞ。ちょうどよく苦甘い」
ガトーショコラを作ったのは大河のようだ。
フォークで何口か口に運べば、程よい苦さと甘さによって頬が緩む。ぶっちゃけ空気だけで甘いし、甘さ控えめでも凄い助かる。
「うん。美味い。ありがとな」
「お口に合ったならよかったです」
残るは雫と来香。とはいえ、雫が作ってくれたであろう物は見ればすぐに分かる。そうじゃない方が来香なのだろう。
来香が作ってくれたものを一瞥して苦笑しつつ、まずは雫が作ってくれたチョコ――グラノーラバーに手を伸ばす。
「んぐ……うまい。てか、前より味が俺好みだわ」
「えへへ、とーぜんです! ちゃんと友斗先輩にチューニングしましたからねっ」
「そっか。――ありがとな」
「こちらこそです。美味しく食べてくれて、ありがとうございますっ」
ふんわりと綿あめみたいに笑う雫。
手にチョコが付いていなければ撫でているところだった。頭撫で撫ですれば許されると思ってる男は痛いので気を付けなければ。
それにしても、見事に甘さ苦さがちょうどいい。前に頼まれてチョコ作りを付き合ったことはあったが、あのとき話した程度でここまでドンピシャの味が来るとは思わなかった。程よい酸味がすっげぇ美味い。
「で、最後は来香か。……これってチョコ、じゃないよな?」
「そーだよっ。チョコは三人が作るだろうし、チョコ尽くしでも飽きちゃうかなって思ったから。レモン風味のチーズケーキとチーズクッキー!」
「なるほど」
なんとも来香らしいセレクトだ。正攻法では戦わず、裏を掻いてきている感がある。甘いものは好きだし三人も個性豊かなものを作ってくれたので飽きはしないが、チョコ以外のものが食べたくなっていたのも事実。
チーズクッキーは思っていたよりもしょっぱくてチーズ感があった。一枚、二枚とさくさく手が進む味だ。これをバレンタインに渡してくるのは一周回ってあざといかもしれん。
「どうどうっ?」
「……めちゃくちゃ美味い」
「やった」
小さくガッツポーズする来香。
四人とも蕩けるような笑顔を見せてくれるものだから、こっちが貰っている側なのにな、と居た堪れない気持ちになる。ホワイトデー、頑張らないとなぁ。
「それで、誰が一番だった?」
一転、彼女たちの真剣な眼差しが俺に向けられた。
そうだよなぁ…決めるって約束したもんなぁ……。
澪のチョコプリンは濃くて滑らかで、一番チョコを食べてる感があった。
大河が作ったガトーショコラはほろ苦く、これはこれでめちゃくちゃ好みだった。
雫のグラノーラバーは甘さが程よく、酸味も相まってすごい美味かった。
来香のチーズクッキーはチョコ以外を欲していた口にちょうどよく、サクサク食えた。
実に甲乙つけがたい。
そもそも上等な舌じゃないから繊細な味の優劣もつけられないしな。
となると……。
「えーっと。一番美味かったのは――」
「「「「…………」」」」
「――雫かな。前もって試作品を食べさせてくれたことも込みで、だけど」
「やっっった! 友斗先輩、大好きですっ!」
勢い余って雫が抱き着いてくる。
本当に喜んでくれているらしく、抱擁の力もかなり強い。ぐりぐりと頬を擦りつけてくるのは子犬っぽかった。
三人が悔しそうで羨ましそうな目で見てくる。
彼女たちにも同じようにしてあげたいものだが……これは勝ったご褒美ってことにしておいた方がいいか。俺が一方的に役得だけど。
幸せだな、と心から思った。
――ずっとこのままで、なんてありえない。
誰もが口にするその言葉は、きっと間違いじゃない。ずっとこのままではいられない。俺たちは大人になって、色んなものを経験していく。
それでも、ずっとこのままでいられるだろう、と矛盾したことを思った。
赤い糸は結ばれた。
固く固く結ばれた。
在り方は変わったとしても、俺たちは傍にいられる。
傍にいるために、全力を尽くそう。
甘くてほろ苦いチョコレイトを味わいながら。
俺はそんなことを思った。
――ちなみに。
この後四人がそれぞれ作ったお菓子を食べることになり、俺に一番を選ばせようとしたことを強く反省していた。
だよね、どれもめちゃくちゃ美味しいもん。