【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#58 入江家大騒動(3)

「凄ぇ、これで四勝じゃん」

「ん……ま、そりゃそうでしょ。雫この間、百人一首のマンガ読んでたし。ほら、完結近いから、って」

「ああそんな話してたな――って、じゃあ、なんだ。そのマンガに感化されて覚えたのか?」

「そ。好きなものには全力投球できるタイプだから、雫って」

「なるほどなぁ」

 

 第二の試練・百人一首で、雫は無双していた。

 時間の関係で一戦の時間を短縮していることもあり、女子高生が大人たちを勢いよくなぎ倒していくエグい光景が完成しつつある。

 澪はようやく起き上がると、ぐいーっと伸びをした。猫かお前は。

 

「あたしだって勝てるもん。百人一首くらい、一度見れば覚えられるだろうし」

「来香の場合、体が追い付かないでしょ。体が弱いってことに甘えて、ろくに体を動かしてこなかった罰だよ」

「むぅ~。いいもんいいもんっ、あたし向きの試練が来ることを祈ってるから!」

「祈るなよ? もうこれで終わりにしてほしいんだから」

 

 いい加減、茶番は終わりにして話をさせてほしい。

 不服そうにむくれる来香をよそに、大河はしみじみと呟いた。

 

「雫ちゃんのああいうところ、本当に尊敬してます。好きなものにいつも全力で」

「まぁそうだな」

「私、雫ちゃんと友達になれてよかったです」

「そっか――っていうか、この圧倒的なコメディ展開でよくいい感じのことを言う気になれたな?」

「挨拶に来たのにコメディ展開を繰り広げているのは誰ですか」

 

 大河がジト目を向けてくる。

 うん? まるで俺のせいみたいな口ぶりはやめてほしいんですけど?

 

「どう考えても大河の爺さんのせいだよな? 俺のせいじゃないよな?」

「んー。友斗のせいでもあるんじゃない?」

「どんなに自責的スタンスで反省してもそれはありえないだろ……」

「そうでしょうか?」

 

 大河ははてと首を傾げ、当主の方を見遣ってから続けた。

 

「私の知っている祖父は、もっと厳格で口数の少ない人でした。私や姉の髪を怪訝な目で見て、染めないのか、とよく口にしていて」

「そんな人がこうなってるのは、少なからず友斗のせいじゃない? 友斗って人の懐に入るのが上手いんだよ」

「何だそれ、始めて言われたぞ」

「ん……懐に入るのが上手いって言うのは違うか。懐に入れたところで別に害してこないだろう、みたいに思えるというか……害されたところで問題なさそう、って思えるんだよ」

「凄い言われようだな」

 

 褒められている気がしないし、事実、褒めてはいない気がする。

 澪はくすくすとからかうように笑うと、知らないけどね、と責任を放棄するように言い捨てた。その大阪人みたいな投げ方はやめろ。大阪人知らんけど。

 

「まぁ、綾辻澪の言っていることは一理あると思うわよ。もっとも、私たちのときも時雨がいつもの調子だったから似たような空気にはなったけれどね」

「あー、なるほど」

 

 その光景がありありと浮かんでしまって、思わず苦笑した。

 俺たちが話していると、当主がこちらを一瞥する。……いや、違う。この人が見てるのは入江先輩だ。

 

「最後は恵海だ。いいな?」

「えっ」

「……えぇ、もちろんです、お爺様」

「入江先輩?」

 

 部屋の中にいる大人は、当主を除いて五人。一人はずっと札を読む係をしているから、てっきり最後は当主本人がやるものだと思っていた。

 

「あなたたちに味方をしてと頼まれたつもりはないの。雫ちゃんも、私でいいわよね?」

「望むところですっ! ――友斗先輩。私のかっこいいところ、そこでよぉーく見ててくださいね♪」

「……おう、頑張れ」

 

 雫が承諾しているなら、俺が異論を述べても仕方ない。そもそも異議を唱えたところで聞いてはくれないだろうしな。

 ぶいっ、と可愛らしくブイサインを作る雫。

 その笑顔が堪らなく眩しい。

 

 かくして。

 雫と入江先輩の百人一首対決が始まった。

 

 

 ◇

 

 

 最後の一戦は、熾烈な争いになった。

 四人相手に無双していた雫だが、澪と違って無尽蔵に体力があるわけではない。頭にも体にも疲労がたまりつつある状態で、しかも入江先輩は四人よりも数段強い。流石に圧勝というわけにはいかなかった。

 しかしそれでも――

 

「……私の負け、ね」

「ふぅ。えへへ、勝てましたよ、四人とも!」

 

 ――勝負は決した。

 勝者たる雫は、ほどけるような笑顔をこちらに向けてくる。

 

「お疲れさん」「お疲れ、雫」「雫ちゃん、かっこよかったよ」「雫ちゃん、ナイス~」

「んふ~! えっへん」

 

 雫は勝ち誇るように胸を張り、ぐーっと伸びをした。

 首筋にはほんのりと汗が滲んでいて、どれだけ激しい戦いだったかを物語っていると言えるだろう。

 まるでスポコンじゃねぇか、というツッコミはしないでおく。雫は本当に頑張ってたし、俺も途中から二人の勝負に魅入ってたからな。

 

「ふふ、楽しかったわ。なかなかやるわね」

「ありがとうございますっ!」

 

 そう口にする入江先輩は、さほど悔しそうではない。むしろ清々しく笑っていた。

 まぁ、百人一首に人生を賭けてるわけじゃないしな。

 無論、入江先輩も手を抜いたわけではないだろう。二人の勝負は確かに熱戦で、互いに一歩も譲らない勝負だった。雫は百人一首にはまりすぎじゃね?と思わないでもないが。

 

「ふむ、いいものを見せてもらった。第二の試練も突破、ということにしておこう」

 

 当主は腕を組みながら深く首肯した。

 これでいいのかと思う部分がないでもないが、この人が納得しているならそれでいい。

 

「じゃあ、今度こそ話を――」

「まだだ。最後の試練が残っている」

 

 チッ、まだあるのかよ……。

 二つの試練を経て、抵抗したところで無駄だとは悟った。しかし、これまでの試練はどちらもピンポイントすぎる。さっきから首の皮一枚ギリギリ繋がっている状況だ。俺が対処できる試練が来てくれるといいんだが……。

 果たして、当主は最後の試練の内容を口にした。

 

「最後は将棋だ。私と一局指してもらおう。私に勝つことができた暁には、大人しく話を聞こうじゃないか」

「……将棋、ですか」

 

 さっきから微妙に将棋を出してきてた伏線回収のつもりか?

 将棋の経験自体はある。駒の動きは頭に入っているし、暇つぶしにスマホのアプリで遊んだりもしていた。食事や百人一首と比べれば、俺でも何とかできそう……か?

 

「――それ、あたしがやってもいいですよね?」

 

 大人しく俺が対局を引き受けようとしたところで、来香が割り込んで言った。

 その顔は、めちゃくちゃ満足そうだ。

 

「二人に見せ場があるのに、あたしにはないとかすっごーく不服だったんですよね~。あたしの得意分野で挑んでくれてありがとうございます」

「……ほう。君は将棋が得意なのか?」

「将棋っていうか、世の中の大抵のことは得意ですよ? あたしは天才なので」

 

 飄々と、いつものペースで言ってのける来香。

 気持ちは分かるんだけど、ちょっとフラグっぽくなってね……?

 そんな俺の不安には気付かず、来香は挑発的な言葉を続ける。

 

「雫ちゃんと同じく、あたしが代わりにやる分のハンデは必要ですよねー。うーん……じゃあ二枚落ちであたしが勝ったら話を聞いてくれる、ってことでどうですか?」

「……二枚? その意味、分かっているのか?」

「もちろんです」

 

 二枚落ちとは、将棋の中でも強い駒とされる飛車と角を落とした状態から始めることを言う。プロに二枚落ちで勝つことができればかなりの実力があるとされるらしい。当主が言う『意味』とはそのことだろう。

 

「ちょっと待ちなさい、月瀬来香。流石にハンデが大きすぎるわ。……お爺様は本当に強い。あの時雨でさえ、ハンデなしで苦戦していたのよ?」

「なっ!? 時雨さんが……?」

 

 頭の回転が速い時雨さんにとって、将棋やチェスなどのボードゲームは得意分野だと言えるだろう。昔、祖父ちゃんの家で将棋やチェスを挑んで、毎回のようにぼろ負けしていた覚えがある。

 その時雨さんが苦戦したという事実は、当主の棋力を裏付けるのに十分すぎる。

 しかし、

 

「入江先輩、ちょっと勘違いしてません? 時雨さんとあたしを比べたら――あたしの方が遥かに強いですよ?」

「は?」

 

 来香は涼しい顔で答えた。

 確かに……そうだ。俺と美緒、時雨さんの三人で遊んでいた頃――頭を使うゲームで美緒が負けたことはほとんどなかった。特に将棋やチェスのようなイカサマが介在する余地のないゲームでは全勝を誇り、よくハンデをつけて遊んでいた。

 だから俺は、二枚落ちで勝つことの意味を知っている。

 

「そういうわけで、二枚落ちでお願いします。あ、ご不満なら四枚にしましょうか?」

「――っ、二枚落ちでいい。負けた後で言い訳をしても聞かぬぞ?」

「そのセリフ、そのまんま返しますね」

 

 来香は嘲るような笑みを浮かべると、何かを思い出したようにこちらを振り返った。

 

「あたしが勝ったら、ちゃんとご褒美ちょーだいねっ? 姉さんだけ膝枕されてるの、ズルいし!」

「あっ、そういえば私もご褒美もらってないです! 友斗先輩、来香先輩の対局中は私に甘えさせてくださいっ!」

「お前らほんっっとに緊張感ねぇな!?」

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