【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#63 Shall we dance?

「……こんなところか」

 

 大河が綿密に準備をしていたおかげもあり、感謝祭は想像以上に順調だった。

 有志発表は盛り上がるし、合間合間のダンスタイムも割とノってくれてる奴が多い。こういう言い方はあれだが、アニメの最終回っぽい空気でちょっとアがる。

 

「そうね。百瀬くん、ひとまずお疲れ」

「おう。まだ前半が終わっただけだけどな」

 

 前半の有志発表が終わり、やっと一時間弱のダンスタイムに突入する。

 この時間は基本的に音楽流しっぱなしで軽食にだけ気を配ればいいため、実質的な休憩時間だ。

 パイプ椅子に座って、ふぅ、と一息つく。

 

「まさかこんな無茶苦茶な行事が本当に成功するとは思わなかったわ」

「それな。俺もここまで上手くいくとは思ってなかった」

「なのに新聞部と先生を巻き込んで情報出す辺り悪徳よね……大河ちゃんもノリノリだから止められなかったし」

「うっせ、自覚はしてるっつーの」

 

 それでも上手くいったのだから結果オーライだろう。

 ぼんやりと外を見遣れば、ぽつぽつと雨粒が窓を叩いていた。案の定降ってきたらしい。予報では晴れって言ってたし、天気雨だと楽なんだが……。

 

「折角の感謝祭だし、私も晴彦と踊ってこようかしら」

「そうだな。お前らって人のことばっかり気遣って全然自分たちが進展する気配ないんだし」

「気遣いたくなるほど危ういことばっかりやった人がなんか言ってる」

 

 如月が恨みのこもったジト目を向けてくる。

 べっ、と舌を出して誤魔化すと、呆れたような溜息が返ってきた。

 

「というか、私たちだって進展はしてるのよ? 最近はデートの後にキスできるようになったんだから」

「……それ、凄いのか?」

「凄いに決まってるわ。百瀬くんは恋人とキスしたことがないから分からないだけ」

 

 キスはしたことあるし、その先だって経験はある。

 でも――恋人と、って但し書きをつけると話は変わってくるだろう。

 

「そうだな」

 

 素直に首肯すると、如月はくすりと笑った。

 パイプ椅子を立ち、如月はダンスに興じる『みんな』に混じっていく。

 ノリのいいポップソングが名に恥じぬように跳ね、かと思えばメロウなジャズが色っぽく流れる。

 安売りのミラーボールは豪華に幾つも会場に飾られ、万華鏡のように世界を彩っていた。

 

 ――ぶるるるっ

 

 ダンスタイムが半分ほど過ぎた頃、ポケットの中のスマホが振動した。

 取り出して確認すると、〈水の家〉にメッセージが投下されている。

 

【MIO:第一会議室に来るように】

 

 それは唐突な呼び出しだった。

 が、予想外かと言えばそうでもない。あの四人はこのダンスタイムに、第一会議室を使って化粧や着替えを済ませる予定だった。何らかのタイミングで声をかけてくれるだろう、とは思っていたのだ。

 

「んじゃ、行きますかね」

 

 自分でも思っていたより腰が軽くて、それだけ四人の対バンライブを楽しみにしているんだ、と自覚する。

 楽しみに決まってる。

 俺にとって最高の詞に、伊藤が最高の曲をつけてくれた。それを大好きな子たちが、これでもかと着飾って歌ってくれる。

 

 逸る気持ちを抑えて、廊下を歩く。第一会議室は第二会議室と違い、一階にある。普段は教師やPTAが使うらしいが、今回は体育館に近いため、使わせてもらっている。

 

 窓を叩く雨を見て、あの日も雨が降ってたな、と思い出した。

 

 どうか、この雨が哀ではなく愛に満ちたものでありますように、と。

 苦しくて流れる涙ではなく、嬉しすぎて零れる涙でありますように、と。

 あえかな祈りを抱きながら第一会議室の戸を開くと、

 

「あれ……?」

 

 部屋には誰もいなかった。

 ただ衣装の準備はされているようだ。埃を被らないようにカバーされているのでよくは見えないが、ちゃんと四人分の用意がある。化粧とかの道具も机に置かれていた。足りないのは、着飾る側の美少女四人だけだった。

 

「――って、そういうことかよ」

 

 キョロキョロと辺りを見渡すまでもなく、俺は四人が仕掛けたトラップに気付く。

 テーブルに置かれていた一枚の紙。

 そこには赤いルージュで、

 

【Shall we dance?】

 

 と伝言が残されていた。

 

「ったく、古典的なことを!」

 

 類は友を呼ぶ、という言葉が正しいのか、それともただ一緒にいる時間が長いから思考回路が似通っただけなのか。

 手に取るように、どういう意味なのか理解できた。

 

 わざわざここに呼び出し、もう一度会場に戻らせるような真似をする意味がない。いやまぁ、それを言い始めたらこれ自体に意味があるかも不明なんだけど。今はそんなことは置いておく。

 

 彼女たちは俺にメッセージを残した。

 踊りましょう、と。

 ならば――

 

「――花嫁に逃げられちゃったみたいね、新郎様?」

 

 思考を遮るように、後ろから声が聞こえた。

 振り向けば、入江先輩が不敵な笑みを浮かべている。

 ま、そうだよな。衣装の準備には入江先輩も協力してくれていた。この件に入江先輩が無関係なはずがない。

 

「みたいですね。……唆したのは入江先輩ですか?」

「残念。言い出しっぺは雫ちゃんよ。『逃げた花嫁を捕まえるまでが新郎の仕事ですよね』って言ってたわ」

「入江先輩が雫の真似をするのはちょっと変ですね」

「……うるさいわね。本気で演じればもっと上手くできるわ」

 

 そんなところで燃えられてもな。

 肩を竦めて返しつつ、俺は雫の言葉に苦笑してしまう。普通の新郎は花嫁に逃げられないし、逃げられてる時点で捕まえに行っても関係は最悪のままだと思うんだよなぁ……。

 

「もっとも、乗り気だった四人の背中を押したのは私だけれどね」

 

 入江先輩は、出会った頃の大河を髣髴とさせるようなポニーテールだった。それも感謝祭用のドレスに合わせたのだろう。卒業式の最中はいつもと同じ髪型だった。

 深紅のドレスが鮮やかに入江恵海を彩る。

 

「昨日送ってくれた小説、読ませてもらったわ。あなたの伝えたいこと、私なりに汲み取ることができたと思う」

「……ありがとうございます」

 

 昨日、時雨さんに紙で渡したものと同じデータを入江先輩に送り付けた。

 感謝祭の前に借りを返して、胸を張って送り出したかったから。

 

「時雨も読んだみたいよ。読み終わった後、すぐに私に電話をかけてきたもの」

「そうだったんですか……?」

「ええ。朝の2時過ぎとかにね。卒業式があるって言うのに信じられないでしょう?」

「確かに、非常識ですね。時雨さんらしい」

 

 可笑しくて嬉しくて、笑みが零れる。

 ……ちゃんと読んでくれたんだな。

 

「正直に言うと、私は悔しいのよ。……時雨からあんな嬉しそうな声を引き出したのがあなただってことがね」

「入江先輩のことを話すときも、時雨さんは本当に嬉しそうにしてますよ」

「知ってるわよ。けれど、いついかなるときも恋人の一番で在りたいって思うのは普通のことでしょう?」

「……ですね」

 

 傲慢で強欲なことだと分かってはいても、願ってしまうのが恋の一つの在り方だ。

 頷くと、だからね、と入江先輩は言葉を続ける。

 

「四人の背中を押したのはちょっとした嫌がらせよ」

「嫌がらせって……」

「大人げないって思うかしら?」

「まさか」

 

 首を横に振ってみせれば、入江先輩は虚を衝かれたような顔をする。

 俺は小さく笑って続けた。

 

「嫌がらせになってないですよ。入江先輩って根がいい人すぎません?」

「う、うるさいわね。いい人のつもりはないわ」

「最も美しい入江恵海でいるだけ、ですよね? ってことはその『最も美しい入江恵海』が呆れるくらいにいい人なんですよ」

「……っ」

 

 ぐっと唇を噛む入江先輩。

 照れ臭いのか、耳の先が赤く染まっていた。

 こほんと咳払うと、入江先輩がプリントの束を渡してくる。裏返せば、そこには『推薦希望調査』と書かれている。三年生用の、推薦してほしい学部を第一希望~第三希望まで書くプリントだ。

 

「校舎を走り回って見つけたところで、面白みに欠けるでしょう? だから探しに行ける場所の候補は一人につき三か所まで。時間までに見つけることができたら、あなたを認めてあげるわ。小説(あれ)で認めるのは癪だから」

 

 残り時間は20分ちょっと。

 確かに、校舎を走り回れば四人を見つけることは難しくないだろう。だが入江先輩は、そしておそらくあの四人も、そんな見つけ方は望んでいない。

 だったら、

 

「三か所も行く必要ないですよ。一人につき一か所で十分ですから」

「へぇ?」

 

 一発で正解を出してこそ、だろ。

 答えが分かってる――わけじゃない。

 だけど、こういうときくらいはかっこつけたい。

 

「別にいいけれど、間違えても見逃してはあげないわよ?」

「間違えませんよ、絶対に」

 

 根拠もないのに言い切って、胸ポケットに入れっぱなしだったシャーペンを『推薦希望調査』の上で走らせる。

 彼女たちがいる場所は――。

 

「書けました。答え合わせは……実際に行って確かめます」

「えぇ。行ってきなさい、百瀬友斗くん」

 

 四枚の解答用紙を入江先輩に手渡して、俺は第一会議室を後にする。

 最後……じゃない。

 ここから始めるために、彼女たちがいる場所へ駆け出した。

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