【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#65 I want to know

 推薦希望調査 氏名:百瀬大河

 第一希望:プール

 第二希望:

 第三希望:

 

 SIDE:友斗

 

 大河はどこにいるんだろう。

 考えて、ちっとも迷っていない自分に驚いた。

 扉の前に立ち、ドアノブに触れ、胸に満ち溢れる確信に苦笑する。扉の向こうで鳴る雨音は思いのほか強く、大河のことを知っていればありえないと一笑に付すはずなのに、どうしてここだと確信しているのだろう。

 

 意を決してドアノブを捻る。

 ほとんど抵抗なく開く扉が、何より雄弁に正解を報せる花丸をくれた。

 

 プールに足を踏み入れれば、小雨よりやや強い雨粒たちが頬を濡らす。

 構うものかと歩を進めると、空っぽなプールのど真ん中に少女が立っていた。

 

 ――ああ、奇麗だ

 

 冬、雨、プール、ショートカットの女の子。

 ミスマッチに見える後ろ姿は、息を呑むほど美しい。

 退廃した世界でそれでも立つジャンヌダルクのようにさえ見える……なんていうのは、彼女に幻想を抱きすぎかもしれないけれど。

 

「何やってんだよ、生徒会長。ちょっとばかし、おいたが過ぎるんじゃねぇの?」

 

 その奇麗な景色をあえて踏み荒らすように言えば、俺の大好きな女の子(百瀬大河)は振り向いた。

 彼女はばつが悪そうな顔をして、毛先を指で弄りながら返してくる。

 

「しょうがないじゃないですか。悪い先輩に囲まれているんです。教育係だった先輩なんて詐欺師やペテン師みたいな人ですから」

「俺は詐欺師でもペテン師でもねぇよ。大河のこと、騙したことないだろ?」

「なるほど、自覚なかったんですね」

「酷いなっ!?」

 

 俺がツッコむと、大河はぷっと無邪気に破顔した。

 大河の笑い声と雨音が綯い交ぜになって、ポップで楽しい音楽みたいになる。

 

「本当に……ユウ先輩と出会ってから、悪いことばかり知っているような気がします」

「まるで俺が悪の伝道師のような言い方だな」

「いや、そこまでは言ってないです」

「あっ、そう……」

 

 そうね、俺はそこまで凄くないよね。

 俺が苦笑していると、大河はそっと大切なアルバムを眺めるように続けて言った。

 

「皮肉を知って、邪道なやり方を知って、人を好きになることを知って……挙句の果てに、五人で一緒になる、なんて。不埒な在り方を望むようになってしまいました」

「そうだな」

「このかくれんぼだって、私は反対だったんですよ? ユウ先輩に迷惑をかけるのは気が引けたので。でも、三人ともすごく乗り気で」

「あー、なるほどなぁ」

 

 その光景がありありと目に浮かぶ。

 けどそれだけならわざわざこんなところに来るはずがない。プールの鍵を借りるのに理屈をこねくり回し、雨の中でも待ち続ける。そんなの、ただのノリで済む話じゃないだろう。

 

「何だかんだ、大河もノリノリなんだあ」

「それは、はい。一度、ユウ先輩ときちんと話しておきたかったんです」

「話って……別に、それならいつでも幾らでも聞くぞ。これからずっと一緒なんだしな」

 

 と、言いつつも。

 大河の気持ちは俺にも分かった。

 ここで話したかったから、俺は大河がここにいると信じてやってきたんだ。

 

「まさか雨が降るなんて思いませんでしたけど。ここで話したいって決めてたんです」

「そっ…か。じゃあ――これ、羽織っとけ」

 

 大河の隣まで行き、俺は上着を大河に羽織らせる。

 ほんの少しびくっと肩が跳ねたかと思うと、大河はこちらを上目遣いで見つめてきた。

 

「いいんですか……? ユウ先輩が、冷えてしまいますよ」

「問題ない。こう見えて筋肉はある方だからな。代謝がよくて、熱を帯びやすいんだよ」

「……筋肉があるのは、知ってます」

「その言い方は色々と誤解を生みそうだな」

 

 実際、もうだいぶ温かくなってはきているのだ。

 まだ春というよりは冬だと思うし、冷えはする。でも凍えてどうしようもないほどの寒さではないし、何より跳ね続ける鼓動のおかげで血の巡りがバカみたいによくなってるから、上着を貸すくらいなんてことはない。

 

 ぽたぽた、ぽたぽた、雨が降る。

 濡れて頬に貼りつく大河の髪に触れると、くすぐったそうに大河は身をよじった。

 

「ねぇユウ先輩、覚えてますか? 夏休み私たちがケンカしたこと」

「そうだな、よく覚えてる。お互いに水かけまくってヤバかった」

「あれはユウ先輩がいつまでも強情だったせいですけどね」

「まぁな。……けど、おかげで割といいものも見れたし、そういう意味じゃ役得だったかもしれん。今だから言えることだけど」

「いいもの……?」

「大河のスク水姿。しかも上に体操着とか、最高に可愛かった」

「――っ!? あのときはそんなこと言ってなかったじゃないですか……!」

「今だから言えることだって言っただろ。今から考えたら、あのときから俺は大河のことが好きで、あの姿を心底可愛いって思ってた」

 

 今口にすることは、今の俺の主観でしか語れない。

 『好き』は魔法なのだ。世界を変えてしまう、どうしようもなく強力な魔法。それは呪いと言い換えてもいいし、もっと別の言い方だってできるのだと思う。

 

「もう……ユウ先輩は変態です」

「澪と比べたらマシだろ?」

「参考文献では、普段は欲がなさそうな人の方が凄いと書かれていました」

「その参考文献は偏ってるから! 間違ってないだろうけども!」

 

 俺が言うと、大河はくすくすと笑って、冗談です、と告げてきた。

 大河は懐かしむように明後日の方向を見つめ、ぽつぽつと言う。

 

「あのときからずっと、多分私の願いは変わってないんだと思います」

「…………」

「ユウ先輩のことも、澪先輩のことも、雫ちゃんのことも、月瀬先輩のことも……大切な人のことを、たくさん知っていたいんです」

 

 大河はそこまで言って、自嘲気味に笑った。

 

「全部を知っていたいなんて、気持ち悪いですよね。どんなに仲がよくても、言えないことはあるはずなのに」

「そうかもしれないな」

 

 素直に俺は肯った。

 大河の言う通りだろう。仲がいいから全てを知っていたいと思うのは傲慢だ。たとえ家族でも言えないことはあるし、秘密を持つことは悪ではない。

 俺と美緒が、父さんと母さんに隠し事をしていたように。

 それでも、

 

「俺は大河に知ろうとしてほしいよ」

「えっ……?」

「大河と出会ったとき……あ、昔じゃなくて一年前のことだぞ? あのとき、俺は大河に知ってほしかったし、踏み込んでほしいって思ったんだよ。大河なら間違ってる俺を知って、大声で『間違ってる』って言ってくれる気がしてた」

 

 俺は大河に気付いてほしい。

 ずっと隣で、俺の全てを知っていてほしい。

 そしてできることなら、大河のこともなるべくたくさん知っていたい。

 

「雫も、澪も、来香だって多分そうだ。大河に知ろうとしてほしいし、俺も知ってほしい。土足で踏み荒らしあおうぜ、お互いに」

 

 恋ってそういうものなんじゃないか、って思うんだ。

 恋の魔法が気持ち悪い思い(かぼちゃ)変えてくれる(馬車にしてくれる)

 

「それは……とても、魅力的ですね」

「だろ?」

「はい。本当に……ユウ先輩には、色んなことに土足で踏み込まれてしまいましたから。姉とのことにも、家のことにも、恋心にも。だから――私も、ユウ先輩に何度だって踏み込みますから」

 

 大河は魅力的に笑うと、数歩俺から離れた。

 俺にそっと手を伸ばし、不敵に笑う。

 

「私と踊っていただけますか?」

「もちろん、喜んで」

 

 大河の手を取り、踊りだす。

 ざーざー、ざーざー、降り注ぐ雨に濡れてぐちゃぐちゃになっているから、お上品なステップなんて踏めるはずがなかった。

 何も知らない子供みたいに、幼稚でバカっぽく踊る。

 

 大河はどこまでも真っ直ぐだけど、俺だってバカでがむしゃらに突き進むのは得意なんだ。

 

「あっ」

 

 体が温まるくらい踊ったところで大河が足を滑らせた。

 慌てて抱きとめると、自然と大河との距離が近くなる。服越しでも否応なしに伝わってくる熱が、愛おしい。

 

「あっ、ありがとうございます……すみません」

「大河ってドジなところあるよな。そういうところも可愛いけど」

「ッッ! ユウ先輩には言われたくありません! ユウ先輩だって変なところで抜けてるじゃないですか!」

 

 ムスっとした大河は、俺から数歩距離を取る。

 怒ってるところも可愛いんだよなぁ。

 頬を緩めると、大河は呆れたように溜息を吐き、言った。

 

「あの。ユウ先輩」

「ん?」

「そんなに私のことを好きでいてくれるんでしたら……忘れ物があると思いませんか?」

「忘れ物?」

 

 はてと首を傾げる。

 すると、大河はけふんこふんと大仰な咳払いをしてから言ってきた。

 

「今次はユウ先輩からしてもらいたいって、言ったはずです」

「っ、それって――」

「だからその……………………して、ください」

 

 迷って、恥じらって、それでも我慢できなくなった、とでも言うように。

 大河は涙目を真っ直ぐに俺に向けていた。

 

 ――ああ、好きだな

 

 果てしなく思った。

 

「目、瞑っとけ」

「……嫌です。ユウ先輩の顔を見ていた方が、安心できる気がします。ダメですか?」

「……大河がそれでいいなら、このままでもいいけど」

「じゃあ、目を開けてます」

 

 片目を閉じて、大河はこちらを覗く。

 唇を不器用にツンと尖らせて、恥ずかしそうに頬を朱に染めて、なのに瞳には確かな期待が見え隠れしている。

 だから、

 

 ――ちゅっ

 

 俺は不器用な彼女に口づけをした。

 

「…………ユウ先輩、好きです」

「俺も好きだよ」

「キス。おかわりしちゃ、ダメですか……?」

「おかわり、か」

「はしたないのは分かってます。でも……本当はずっとしたかったんです」

「……待たせてごめんな。けど風邪引くし、しなきゃいけないこともあるから。今はあと一回だけ」

「はい。今はそれで我慢します」

 

 恋人(大河)との()()()のキスは、淡い雨の味がした。

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