【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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終章#69 きっとキミは

 SIDE:時雨

 

 感謝祭のステージはキラキラとしていて、青春の一番輝いてるところを宝石にしたみたいだった。

 この世界はすっかりモノクロじゃなくなっている。

 雨の終わりに導いてくれた恵海ちゃんのおかげだ。あの日の晴れ空もこんな風に輝いていたような気がする。

 

 今日のこのステージは、紛れもなく彼らが創り上げたものだ。

 彼と彼女たち、だけじゃない。

 彼が引き寄せた人と彼女たちが繋がっている人が集まって、今日に辿り着いたのだと思う。ありきたりで嘘臭い言い方になるけど、『絆の力で大団円』ってやつだ。

 

「ほんと、キミらしいなぁ」

 

 口から零れた声は、思っていたよりもずっと軽やかだった。

 こんな気分にさせられるなんて……やっぱりキミはすごいよ、と今度は心の中で呟く。

 

 ――昨日の夜。

 部屋にこもって読んだ彼の小説のタイトルはこんなタイトルだった。

 

『シスコンが前提のハーレムラブコメ』

 

 ラノベっぽいにはラノベっぽいけど……ど真ん中なタイトルだな、って思った。

 そして同時に、これがどんな作品なのかも察した。

 ページをめくって、その予想は半分当たった。

 

 主人公は高校二年生の男の子。彼を物語に合わせてややデフォルメしたようなキャラクターだった。名前が一ノ瀬(いちのせ)和斗(かずと)な辺り、隠すつもりもないんだろう。

 一ノ瀬くんは高校二年生の春、親の再婚が理由で二人の女の子と義理の兄妹になる。二人の名前は綾瀬(あやせ)(はな)と綾瀬(あおい)。一ノ瀬くんは華ちゃんや葵ちゃんと以前から付き合いがあった。

 華ちゃんとは中学校からの付き合いで、少し爛れた関係にあって。

 葵ちゃんは小学校の頃から一ノ瀬くんを慕ってくれる後輩だった。

 

 ……もしもこれが実話なら、彼と彼女は()()()()関係だった、ということになる。

 何かしら深い関係ではあると思ってたけど、まさかそこまでの関係だったとは……と戸惑いつつも読み進めた。

 

 次第に一ノ瀬くんの抱える闇も明かされていく。

 それは妹――羽菜(はな)ちゃんを事故で亡くしていることだった。

 一ノ瀬くんが羽菜ちゃんの面影を華ちゃんに見出してしまっていることが暴露され、物語は歪んだ方向へと進む。

 

 彼は自分が歩んだ青春をそのまま物語として綴ろうとしている。

 そんな予想は当たっていた――半分だけ。

 

 最初にズレが生じたのは、一ノ瀬くんが新しい教室へと足を踏み入れた後。

 周囲にバレないように華ちゃんと目配せをした彼が次に話したのは――()()()の少女だった。

 彼女、十朱(とあけ)桃乃(ももの)は一ノ瀬くんの幼稚園の頃からの幼馴染だった。物語の終盤で桃乃ちゃんは心臓移植を受けていたことが明かされる。はっきりとは描かれないものの、羽菜ちゃんの心臓を移植したと読み取れるような描写もあった。

 

 つまり、だ。

 この物語には、最初から来香ちゃんがいる。

 ――現実とは違って。

 

 もちろん、来香ちゃんは以前から彼と知り合ってはいた。彼女は一年生の頃から学級委員会に属していたから、生徒会との交流もなかったわけじゃない。

 だけど、そこまで距離は近くなかった。あくまで知人程度の関係。二人はいつの間にか仲良くなっていたけれど、明確に関係が変わったのは秋から冬にかけてだと思う。

 

 もう一つ、この物語には現実とのズレがあった。

 それは入学式が終わった後のこと。

 生徒会長(ボク)を手伝っていた一ノ瀬くんは、一年生の女の子と出会う。近江(おうみ)(かえで)という名前の後輩の女の子は生真面目な性格で、生徒会に興味を持っていた。色々あって一ノ瀬くんのことを警戒しつつも、楓ちゃんは見習いとして生徒会に入ることになる。

 

 楓ちゃん――大河ちゃんとの出会いも、現実より早かった。

 ボクが澪ちゃんに美緒ちゃんのことを吹き込んで背中を押した日よりも先。

 彼らが歪むよりも前に、楓ちゃんと一ノ瀬くんは出会っていた。

 

 十万文字、すなわち文庫本一冊分程度の原稿の中で四人のヒロインが登場している。

 それが彼のやりたかったことなんだろう、と思った。

 まるで誓いだ。

 彼女たちだけが彼の物語のヒロインだ、と。

 ここから、四人のヒロインとラブコメをしていくんだ――と。

 

「あんなもので安心する辺り、時雨って彼に甘いわよね」

「そうかもしれないね」

 

 隣でステージを眺めていた恵海ちゃんがぽつりと呟く。

 彼の物語を読んだボクは、堪らなくなって恵海ちゃんに電話をした。

 

『彼は……もう大丈夫だって思えた! きっとあの五人は幸せになる! ボクが何をしなくても大丈夫なんだ』

 

 って。

 そんなことを長々と話した覚えがある。

 それだけ安心できたんだ。これが彼の答えなんだ、って分かったから。

 

 彼らは行き着くエンディングを定めない。

 だけど代わりに、物語の始まりを決め直した。

 五人でここから始めるつもりなんだろう。だから『もしも』は一生『もしも』のまま、もうありえないIFになった。

 

「正直、詭弁でしかないとは思うけれどね」

「いいんだよ、それで。詭弁でも弁であることには変わりないでしょ?」

 

 大事なのは正しいことでも、納得させることでもなくて。

 信じたいと思うこの気持ちに応えてくれるものさえあればよかった。

 心のどこかでは、彼らなら自分の手で幸せを掴むだろう、って思っていたから。

 

「まぁ、確かにね。私も否定する気にはなれないわ」

「恵海ちゃんも大概甘いから」

 

 ボクたちは年上だから、先輩だから。

 年下で後輩の彼らにどうしても甘くなってしまう。

 それでいい。それがいい。

 彼らがボクたちにくれたものも、たくさんあるから。

 

「入江先輩。満足いただけた、ってことでいいんですよね?」

 

 ボクたちが二人で話していると、観客側にやってきた彼が恵海ちゃんに声を掛けた。

 

『あの小説で納得すると思われるのも癪だから、私は彼を試すことにするわ。あの四人も似たようなことを考えているみたいだし』 

 

 ダンスタイムが始まり、恵海ちゃんはそう言い残して四人のライブの準備へ向かった。具体的に何をしたのかまでは聞いていないけれど、恵海ちゃんは恵海ちゃんなりのやり方で、彼を認めようとした。

 後輩としても、妹のパートナーとしても。

 

「その答えはもう伝えているつもりよ、百瀬友斗くん」

「……さいですか」

 

 恵海ちゃんがフルネームで呼ぶのは、相手を認めている証……らしい。ボクも長らく『時雨』ではなく『霧崎時雨』って呼ばれていたし、澪ちゃんや来香ちゃんもフルネームで呼ばれている。

 そのことには彼も気付いていたらしかった。

 くしゃっと笑うと、

 

「不器用ですね、入江先輩は」

 

 とからかうように呟いた、

 

「失敬ね。心に持つ美学がややこしければややこしいほど、人は美しくなれるの。それだけのことだわ」

「最近ようやく分かってきたんですけど、入江先輩のそれって自分が底なしの良い人だってことを隠すための言い訳ですよね」

「~~っ! 生意気な後輩ね……!」

「それくらいの方が可愛げがあるでしょ?」

「百瀬友斗ほど可愛げがない後輩は綾辻澪と月瀬来香だけよ」

「普通にめっちゃいるじゃないですか……」

 

 二人のやり取りが可笑しくって、ぷくっ、とボクは吹き出してしまう。

 恵海ちゃんと彼もボクに釣られてケラケラと笑い出した。

 

「キミは本当に自慢の従弟だよ。いつもいっつも滅茶苦茶で、ボクを楽しませてくれる」

「それ、ほとんど俺が言いたいことなんだけどな……」

「あなたたち二人とも、似たり寄ったりよ。周りを振り回してる自覚を持ちなさい」

「時雨さんはともかく、俺は巻き込まれてる方が多いと思うんですけど?」

「自分から突っ込んだ挙句、スケールをデカくしてばかりだと思うのだけれど? 自覚がないのなら重症ね」

「ないこたぁないですけどぉ!」

 

 まさかこんな風に、絵に描いたような大団円を迎えられるなんて思いもしなかった。

 このストーリーはボクには書けないな。

 ご都合主義って誹られても文句が言えないくらいに頭の悪い筋書きだから。

 

『最後にお送りしますのは、月瀬来香さんと『スリーフェスティバルガールズ』によるスペシャルライブです』

 

 そんなアナウンスが流れ、自然と彼の視線がステージに向いた。

 分かりやすいなぁ。

 ボクはくつくつと口元で笑いながら、彼の背中を押してあげることにする。

 彼の物語にとって、ボクや恵海ちゃんはサブキャラクターでしかない。だから、始まりの瞬間は彼と彼女たちだけで迎えるべきだ。

 

「行ってきなよ。彼女たちのライブ、全力で受け止めてあげて。それが始めるってことなんでしょ?」

「……うん」

 

 その背中はもう、泣くことさえできずにいた可哀想な男の子のものではなかった。

 きっとこれから彼は彼女たちとたくさん笑って、時に怒って、涙しながら日々を過ごしていく。笑顔を取り繕い、怒りのエネルギーを見失い、泣き方を忘れていたあの頃とはまるっきり違う。

 ボクは結局、ただ見守っていただけ。何かしてあげられたわけじゃない。

 色んな人に支えられて、彼は大きく成長した。

 

「寂しい?」

「ちょっとだけね。でも、隣に恵海ちゃんがいるから」

「…………急にそういうこと言うの、ズルいと思わない?」

「寂しいのが分かり切っているときに『寂しい?』って聞く恵海ちゃんとどっちがズルいだろうね」

「そうね」

 

 だったらボクも負けてられない。

 今度は小説家(ライバル)として――。

 キミの物語のラスボスで在れるように、がむしゃらに生きていく。

 

 彼の背中に、そんな宣戦布告をした。

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