【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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3章#10 経験豊富みたいな言い方ね

「今朝から凄かったわね、助っ人くん?」

「……書記ちゃんって言うのやめたんだし、もうやめようぜ?」

「そうねぇ。私は何度も言ってようやくだったわけだけど」

「細かいことを言うのはよそう。俺と如月は友達だろ?」

「都合がいいことを言うわね……ま、嫌いじゃないわ」

 

 放課後、俺は如月と共に生徒会室に向かっていた。

 一応断っておくが、八雲から如月と盗ろうとかそういうつもりはない。単にタイミングが合っただけだし、そもそも如月はなんか怖いし。

 

 会話に困るかと思っていたがそんなことはなく、如月は今朝のことを口にした。

 ぶっちゃけ、今日は朝からずっとその話題が俺に降り注いでいたから慣れっこだ。

 

「そこまでラブラブだとは知らなかったわ。ちょっと妬けちゃうかも」

「そりゃどうも」

「あら、意外とドライ」

「この会話には慣れたからな。それに、こういうのは照れた方がやたらと根掘り葉掘り聞かれるって分かってる」

「へぇ、経験豊富みたいな言い方ね」

 

 別に、と俺は心中で呟く。

 経験豊富なわけじゃない。むしろ分からないことだらけだ。ただ色んな奴を見ていたから、勝手に経験が蓄積されているにすぎない。ラノベとかでも、こういう展開って多いし。

 

 いつか、初恋の人とこんな風にからかわれてみたかった。そして、からかわれることに慣れて、上手く躱せるようになりたかった。

 ただそれだけだ。

 

 くすりとそよ風みたいに笑った如月は、トコトコと数歩先を進む。

 すぐそこにまで近づいてきていた生徒会室の扉まで行くと、彼女はこちらを振り返った。

 

「こほん……それじゃあ百瀬くん。ここからはいつも通りでお願いね?」

 

 綾辻ほどじゃないだろうが、如月も随分と切り替えが早い。

 テンションが一段階落ちた声は、どこにでもいる文学少女然としている。

 

「分かったよ。妹子に如月の本性を曝すわけにもいかないしな」

「ふふふっ、そうね。ま、本性ってほどじゃないけれど……真面目モードってあるから」

 

 不敵な笑みを眼鏡の奥にしまって。

 如月は、んんっ、と調子を整えるように喉を鳴らす。

 

「あ、先輩方……お疲れ様です」

「おー、お二人とも。今日は一緒に来たんだね」

 

 扉を開けて二人で入ると、既に生徒会室には先客がいた。

 俺たちを先輩と呼ぶのが、生徒会内唯一の一年生、入江妹。

 はんなりと麦畑みたいに穏やかな声で迎えれくれたのが生徒会長の時雨さんだ。

 

「さっきたまたま会ったんですよ」

「今日は体育祭の事後処理をするってことだったから、HRが終わったらすぐに来たしね」

 

 まずはそう時雨さんの問いに答えて、いつもの定位置に座る。

 入江妹は俺の隣だ。

 律儀なのかクソ真面目なのかは分からんが、わざわざ椅子を引いてくれる。

 

「妹子……そんな紳士なことばっかりやってると、本格的に妹子になるぞ?」

「私のことを妹子って呼んでいるのはそもそもモモ先輩だけです。モモ先輩はこういうときにお礼を言えないほど傲慢な方なんですか?」

 

 かはっ、と喉の奥から笑いが込み上げる。

 あぁそうだよな、入江妹。なんだか日常が戻ってきた感じがあって、そこはかとなく楽しい。

 

「はいはい、悪かったよ。妹子は俺の補佐なんだし、よく考えたら椅子を引くのも仕事のうちか。さんきゅー」

「そういうことです。ご自分で任命した仕事を忘れないでください」

「ぷっ……キミたちはなんだかんだいいペアだよね」

 

 いつも通りの会話をしていると、横から時雨さんが入ってきた。

 仲良くしている兄妹を遠目から見るような口ぶりに、入江妹は俺を睨む。俺は何も口にしてないのに……。

 

「時雨さん? 俺のライフが持たないからそういうことを言うのはやめてほしいんだけども?」

「ふふっ、ごめんごめん。やっぱり生徒会長たる者、意味ありげで見る目がありそうなことを言っておかなきゃって思ってさ」

「…………」

「完全に未来の生徒会長が渋い顔してるから! もうちょっと頼りになるところを見せてってば!」

 

 入江妹が補佐になってから気付き始めたけど、時雨さんってマジでフリーダムな人だよな。ちょっとだけ自由っていうレベルじゃないし。

 無論、自由さすらも時雨さんの武器だ。自由だからこそ先日の応援団長・副団長のコスプレを実施にまで持っていくことができる。

 

 ちなみに、あのコスプレはめちゃくちゃ好評だった。例年より早くミスコンの火ぶたが切って落とされたぜ、と八雲が語っていた。

 

「はぁ……先輩方。後輩の私が言うのもなんですが、そろそろ作業を始めないと帰る時間が遅くなってしまいますよ」

 

 と、くだらない俺たちの会話を入江妹がぴしゃりと止めた。

 時雨さんと目を合わせ、ごもっとも、と頷き合う。

 

「はぁ。まだ来てない奴らがいるのは甚だ不服だけど、仕事しますか」

「他の子たちは今日体育祭の打ち上げがあるみたいだし、流石に、ね。そんなわけだから皆、頑張ろう」

「「はい」」

 

 え、じゃあ今日はこのメンツで活動なの……?

 事後処理の大変さを思うと文句を言いたかったが、入江妹の目が怖いので渋々作業に取り掛かることにした。

 

 

 ◇

 

 

「ふぅ……」

「お疲れ様です。コーヒー、いかがですか?」

「ん、あぁ悪いな」

 

 体育祭の事後処理は、基本的に紙かパソコンのどちらかで行う。パソコンに統一してくれば楽なのだが、なかなかそうもいかないのだ。

 パソコンで処理すべき仕事を担当していた俺が一休みとばかりに溜息をつくと、入江妹がコーヒーを入れてくれた。

 

 インスタントコーヒーの濃い匂いが、疲れた頭によく届く。

 紙コップの端を持って、恐る恐る口を付けた。

 匂いから察していたが、味はめちゃくちゃ苦い。顔をしかめると、入江妹は目ざとく反応する。

 

「すみません、少し濃すぎましたか?」

「いんや。作業中だし、こんぐらいでいいわ。マジでサンキューな」

「これも補佐の仕事なので。それに、さっきから色々と聞いてばかりですし」

 

 後ろめたそうな顔を見て、なるほどな、と思う。

 作業中、入江妹はちょくちょく俺に分からないところを聞いてきた。一年生なんだから分からないところがあるのは当然なのだが、彼女の中では歯痒さを感じているらしい。

 

「気にすんなよ? 俺の仕事は、妹子の教育係でもあるわけだしな」

「もちろん分かってます。だから遠慮なく聞いてるんじゃないですか。なんだかんだモモ先輩は分かりやすく教えてくれますし」

「ならいい。その調子で学びたまえ」

「そんなに上から目線で言われるのは少し不服ですけど」

 

 ツンとした入江妹の言葉を聞き流しながら、俺はブルーライトカットの眼鏡を外す。

 長時間着けていたせいか、眼鏡を介さない生徒会室は随分と変わった風に見えた。

 

「そういえば……眼鏡、着けるようになったんですね」

「ん? ああ、これか。ブルーライトカットだけどな」

 

 机に眼鏡を置いて答える。

 なるほどと入江妹が呟くと、傍で聞いていた時雨さんが、ああ、と納得したような声をあげた。

 

「もしかしてキミのそれって、誰かからの誕生日プレゼント?」

「え? ま、まぁ……誰からのかは回答を控えておくけど」

 

 綾辻からのプレゼントだって言っちゃうのは多方面に角が立つ。

 そっか、と素直に引いた時雨さんは、何やらガサゴソとバッグを漁り始めた。

 

「忘れる前にボクからもプレゼントを渡しておくよ」

「マジで? メッセージ貰ったし、てっきりそれで終わりだと思ってたよ」

「ボクってそんなに薄情な人間だと思われてたんだ。それはそれで傷付くなぁ……これ、あげるのやめよっかなぁ」

 

 するするとボールペンを書類の上で走らせながら口を尖らせる時雨さん。その器用さに苦笑しつつ、俺は慌てて首を横に振った。

 

「ごめんって。うそうそ、実は期待してたから」

「うんうん、素直でよろしい。じゃあ……はい、どうぞ」

 

 時雨さんは、菫色の包みを渡してくれる。

 開けてもいい? と目で問うと、にこっと頷き返された。

 

「……おっ、ペンケース」

「そう。キミが使っているの、最近くたびれてきていたから。ボクのセンスだから、お気に召さなかったらごめんね」

「まさか。今度買おうって思ってたし、ちょうどいいよ。シンプルでセンスもいいし」

 

 プレゼントのセレクトも完璧だよな、と素で感心してしまう。

 日頃から持ち歩くものだからセンスを外すとかなりリスキーだが、俺のことをそれなりに知っている時雨さんであればそもそも外す心配なんてないだろう。

 

「…………」

 

 ふと視線を感じて見遣れば、入江妹が俺を見つめていた。睨んでいるのかもしれないし、見定めようとしているとも感じられる。

 兎にも角にも、俺を観察していた。

 

『私は……部外者ですから。話してもらうのを待つか、自分で調査するかのどちらかです』

 

 つまるところ、今は後者を実施している、というわけだろう。

 それでも俺のことを先輩として捉え、仕事で分からないことがあれば聞いてくる。そんな誠実な姿勢に好感を覚えると共に、彼女にきちんと話さないとな、と思った。

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