『空崎ヒナ』は、もう居ない   作:焼け野原主任

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どうも、焼け野原主任です。

なんかね、ヒナ実装の当日に浮かんでしまったこの概念を体現すべく、これを書きました。

では…、どうぞ。


失った物、成り代わった物

 

 目を開けると暗く、純粋なほどに鈍色に澱んだ空が見える。

 

 空想的で、かつて中世の街並みの様に美麗であったであろう市街は破壊され、建物は全て残骸となった。化物の死骸の様に崩れ残ったそれらが至る所に骸を晒し、崩れた瓦礫はまるでその死骸の肉の様にも見える。あてがえば再生し、また息を吹き返し動き回りそうな程、気味の悪い躍動感を残していた。

 

 私の周りが温かい、霞む視界で見てみれば、横合いで何かの車両が燃えている。

 

 ……どうして私はこんな所に居るんだろう、いつも通り、休日の朝の6時ぐらいに起きて、眠い目をこすりながら朝ごはんを食べ、ブルーアーカイブを起動する為スマホを開いたはず……。でも、目の前の光景は私が見ていた世界の視界に全くと言っていいほど似つかない。もし、家が爆破されたのだったら、少なくとも周りの景色はこんなファンタジックな景色では無い。

 

 ふいに、私の手にぬるりとした感触が手に走る。朦朧とする意識を働かせ目の前に持ってくれば、赤黒い何かが紫の薄手の手袋にこびり付いていた。

 

 

「___ァァ」

 

 

 何だこれは……と、声を出そうとするが、その口からは声にならない呻き声としてまろび出てて、驚く事もできずにその手が力なく崩れ落ちる。

 この朦朧、力の入らない腕に足、おそらく私は出血多量なのだろう。

 その結論が出たあたりからだろうか、途端に何も考えられなくなってきた、もう何も、思考が回らない。その所為か、果てしなく時間が進んだ様に思える、もちろん、手元に時計は無いから細かい時間は分からない。

 

委員長!! 委員長!! 

 

 誰かの声が聞こえる、高校生ぐらいの女子の少し、甲高い声が。

 

 やがて、先ほどから途切れ途切れになっていた思考が遂に霞みがかっていく。徐々に暗くなっていく思考と視界の中、最後に見たのは青く、肩にかかるかかからないかぐらいの短い髪だった。

 

 

 

 


 

 

「委員長! 委員長!」

 

 ___ゲヘナ学園とトリニティ総合学園、長い事犬猿の仲であったこの両校を繋ぎE(エデン)T(条約)O(機構)として発足させ、キヴォトスの安寧、いや、両校のこの伝統的な蟠りを解きほぐすべく締結されつつあったエデン条約。

 ___その調印式の最中、突如として飛来した巡航ミサイルによって会場であった古聖堂が破壊され、私と委員長はその爆発に巻き込まれた。

 ___私が目覚めた頃、委員長の姿は私の側になく、アリウス分校の生徒の死体のみが転がっていて、委員長はとっくのとうに、先生の元に駆けつけていた。

 ___その後、ユスティナ聖徒会だったか……、青白い、幽霊の様な集団の率いたアリウス分校の厳重な包囲網を、先生を連れてたった一人で包囲網を脱し、待機させていた救急医学部のセナの元に送り届けた。

 

 その後だったか、銃弾の掠った裂傷を脇腹に付け、無事だったトリニティ基幹病院に担ぎ込まれた、恐ろしい程に憔悴した先生の姿を私が見たのは。

 痛みなど微塵も感じない程に、見た事もない程暗い表情をした先生は委員長の安否を問う私に向けて、一言こう告げた。

 

「先生! 委員長は……!」

 

《"……ヒナは"》

 

 それを聞いた後、私は近くにあったMG34(汎用機関銃)を引ったくって病院から駆け出し、セナが先生を回収したあたり迄ずっと走っていた。

 途中で挫いた足も、不意に遭遇したアリウス分校の生徒に付けられた銃創も、そこから流れ出る鮮血も、体を駆け抜ける痛みも知ったことではなかった。

 何も考えられず、ただ一目散に委員長の元へと走った。その時だろうか、やっとセナが先生を回収したポイントに辿り着いたのは。

 

 制服を血塗れにして、切羽詰まった目で周囲を見渡し、一つの呻き声が私の耳に入る。

 うめき声のした方向に進めば、凄まじい程の赤黒い血溜まりに沈み、瓦礫の上に横たわる一つの小さな人影が私の目に入る。

 見慣れたゲヘナの風紀委員の服、無造作に伸ばされた白い髪は赤く染まり、抉られた小さな脇腹からは止めどなく血が流れ出て、顔は生気を感じられない程に白くなり、目からは光が消え去っている。

 

 そして、その細い腕には赤い、風紀委員の腕章が付けられていた。

 

「委員長!! 委員長!!」

 

 私は自分の体が赤くなるのも構わず、委員長の体を抱き上げ、声をかけ続ける。開かれた生気のない目に消えかけるヘイロー、下手をすれば助からないことは明白であった。

 

 だが、その瞬間(とき)だろうか、私が抱き抱えた委員長の光の無い双眸が、私を見つめ、口を動かした。

 

 

 

 

()()()()

 

 と、その動いた口はこう見えた、その音無き声に私は持ち出した無線機を取り出し、セナに繋げる。

 

『アコ行政官! 今どこに__』

「貴方が先生を回収した所です!! 今すぐに来てください!!」

『突然何を……』

「委員長を回収してください!」

『……へ?』

 

 私の悲鳴にも似た絶叫を聞いたセナの、無線先から聞こえる珍しい素っ頓狂な声、普段余りこんな声を出さないから、今は珍しく思えたのだろう。

 

「事情は後です! 早く!」

『……わかりました、回収に向かいます』

 

 私の鬼気迫った絶叫に只事でない事を察知したセナが納得した様な声色で答えた。

 

 

 瞬間、鳴り響く軽快な銃声。

 周囲を見れば、すでに周りには大量のユスティナ聖徒会、アリウス分校の生徒がこちらに銃口を向け、制圧射撃をしながら接近しつつあった。

 ふと、手元を見る、私の手にあるのは引ったくった風紀委員会の備品である持ち込まれた一丁の機関銃、拾い上げた手榴弾(ポテトマッシャー)、……そして、行政官に着任した時に頂いた、愛用で思い出のハンドガン(ルガーP08)

 

「……いいでしょう、直接戦闘は得意ではありませんが……、やらなければいけない時と言うのは、この時の事を言うのでしょうね」

 

 私は静かに、目の前で十字を切る。

 トリニティの連中の真似事をするのは癪だけれども、こういう時は否が応でも頼ってしまう。

 

 この数、完全武装のユスティナ聖徒会にアリウス分校の兵士、戦闘慣れしていない私が守り切れるか怪しいこの数……、これは、私がこの場で斃れるのも覚悟した方が良いかもしれない。

 ああ、こうなるのだったらもっと遊んでおけばよかった、委員長に苦労をかけなければ良かった。

 

 私が思うのはヒナ委員長と初めて出会った頃の記憶、三年前のあの時期が、まるで昨日の様に思い出される。

 

 ……楽しかった、あの思い出。

 

「……さぁ来なさいゴミムシ共、私がいる限り、ヒナ委員長には近づけませんよ!」

 

 バイポッドを立て、瓦礫の上に機関銃を乗せる。

 照準の先には、近付きつつあるアリウスとユスティナの混成集団。

 

 有効射程まで近づいた時、私は機関銃の引き金を引いた。

 

 ◇◇◇

 

 機関銃が放つ銃弾の雨に倒れ伏すアリウス生に、成仏するように消えていくユスティナ聖徒会、だが倒しても止めどなくやって来るそれらを倒した数を数えるのをやめ、いつしか私の視界に人体の山を築くまでになっていた。

 奇しくも私が憧れる委員長の姿に似た姿、状況になっているのだが、当の私はそんな事に気を使うことができず、ただ正面の集団に銃弾をばら撒くだけになっていた。

 

 一発、狙撃銃の大口径弾が私の顔に飛来した、着弾の反動で頭が持ち上がり、意識が飛びかける。だが、ここで斃れては後にあるヒナ委員長の身が危ない、私は目を血走らせ、意識を無理やり引き戻して構え直す。

 

「やってくれるでは……ありませんかッ!!」

 

 お返しとばかりにその狙撃手に機関銃を撃ち放つ、毎分600発の銃弾を一身に受けたそのアリウス生は見るも無残に挽肉にされ、ヘイローが割れ(死んでいき)、その場に斃れ伏す。

 

「……っ!!」

 

 一体何度、その現象を見たのだろうか、瀕死の一人を助ける為に何人もの人をこの手に掛けた、殺した、何度、命という花を手折ったのだろう。変に理性が残っている所為か、グリップを持つ手が震える。

 ああ、狂えてしまえたらどんなに良い事か、人を殺す事に何も思わず、人に向けて引き金を引く事に何も覚えなかったらどんなに良いか。

 ……こればかりは、体験して見ないとわからないのかもしれない。

 

 そろそろだろうか、正面からではなく、後ろから声が聞こえ始めた。

 

「こっちだ! 急げ!」

「死ねぇ!!」

 

 軽快な銃声に混じり、私の耳に届く粗雑で乱暴な言葉。

 __まだ、殺さなければならないのか。

 その事実に私は歯を食い縛り、力のあまり唇を噛み切った、血で赤く染まりつつある視界を後ろに向ければ、続々とやってくるアリウス生に聖徒会。

 震える手で機関銃を構え直し、照準をその集団に合わせて引き金を引く。

 

 火を吹く機関銃、倒れ伏すアリウス生、その中には、顔より上が吹き飛んでしまった者もいる。

 

「御免なさい______ッ!!!」

 

 死んだアリウス生達へ悲痛な声で謝る、しかし、それでも私は引き金を引き続けた。

 

 

 

 ___そこから、どれくらいの時間がたっただろうか、もう既に襲い来るアリウス生も、聖徒会も居ない。

 頭部に被弾した所為で足の震えが止まらず、今にも崩れ落ちそうなほど意識が朦朧とする、だが、もう襲って来る相手はいない。

 

「……終わ、った……?」

 

 血で赤くなった視界で、目の前の光景を見つめる。アリウス生の死体に砕けた装備、そして、死体が混じる人体の山。

 鳴り響く銃声も、号哭も、怒鳴り声ももう聞こえない。

 

 終わった、終わったんだ。

 

 私は、一つだけ安堵し、気を抜いた。

 ___だが、少し気を抜いてしまったのが不味かったのだろう。

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」

 

 目の前から隠れていたアリウス生がボルトアクションのライフルを持って躍り出てきた。

 

 

 ______ドスッ

 

 

 意識の向いていなかった私は対処する暇もなく、何かが身体を貫き、冷たい感触が私の体に走る。反動で私は倒れ、銃剣のついたライフルを私の体に突き立てているアリウス生が私の上に立っていた。

 

「ぐぁ__あ"ぁ"ぁ"!!」

 

 私は痛みを我慢し直ぐにハンドガンを引き抜き、ライフルを掴んでそのアリウス生の顔面に乱射する。ルガーから放たれた9mm弾はガスマスクを貫いて目を潰し、鼻を吹き飛ばし、額を貫通し、歯を砕き、息の根を止めた。

 ワンマガジン分の9mmを全て顔面に食らったアリウス生は私の上に斃れ伏し、ビクビクと痙攣している。

 

「くッ……ぐぅッ……フゥ___!」

 

 ライフルから銃剣を外し、ライフルを投げ捨て、乗っかっているアリウス生を退かす。貫通した刃物は出血を止める為に抜かない。そして、痛みを我慢しながら、私が機関銃を杖代わりに立ち上がると、通りの向こうに救急医学部の黒塗りの救急車がサイレンをかき鳴らして接近しているのが見えた。

 

「……はは、遅いですよ、セナ」

 

 私の口から乾いた笑いがこぼれる、崩れ去った空想的な建物に、瓦礫と血の海、かつて美麗な街並みであったトリニティ市街は、一日にして血と死体と建物の骸が晒される、死の街へと変貌した。

 その地獄の様な景色を目に焼き付け、私の視界は、暗転した。

 

 


 

 

 視界の全ては暗く、まるで墨汁の海にいる様な感覚。周囲は全くと言って良いほど見えず、遠近感も失われつつある。

 足元を見るが、やはり足元は見えない、自分の姿すら見えない。

 

「おはよう」

 

 ふと、横合いから声が聞こえる。どこかで聞いた事のある様な声に、直ぐに僕は横を向いた。すると、足元も見えないはずの暗黒なのに、一人の少女の姿だけがはっきりと、確かに浮かんでいた。

 その少女の姿は、濃い紫の軍服に、頭の上に王冠の様に浮かぶ黒と紫の輪、そして、無造作に伸ばされた白い、長い髪。……そして、細い腕に巻かれた風紀の腕章。

 

 僕が前世で大好きだった、空崎ヒナのその姿があった。

 

「……な、んで?」

 

 最初に出たのは驚愕が混じった問いの言葉、呂律が上手く回らず、しどろもどろになった声。

 

「……なん、で君、が……? てか……、こ、こは……、どこ……?」

「なんで……ね……、まぁそれはね……」

 

 目の前のヒナは少し苦い表情になり、少し考える仕草をしてから口を開いた。

 

「……私は死んだの」

「____!?」

 

 驚愕、失意、その二文字でしか表しようの無い感情、流す涙もなく、その言葉を受け入れられずただ僕はその場に立ちすくんだ。……ヒナが死んだ? 本当に? 何故? 何故? 何故……? 

 僕の脳はシンプルだがその大きすぎるデータにフリーズを起こし、それを見たヒナは半ば当然という感情の混じった声で話を続ける。

 

「正確には、死んだのは私の魂、……体はまだ生きている。……で、この世界は恐らく私の魂の世界」

「ちょっ……と、待って、な、んで……おそ……、らく、なの?」

 

 途切れ途切れになる言葉、回らない頭でヒナに問いを飛ばす。

 

「……私でもわからない、こんな状況、私は初めてだもの」

「そ、う……だ、よね……」

 

 ヒナの言葉に、僕は当たり前だと返す、単純に、思考は回るが呂律は回らない、まるで、自分の体が存在しない様な感覚だ。

 

「……そろそろ、その体も不便よね」

「うぇ___!?」

 

 ヒナが一つ、小気味いい音を立てて指を鳴らす、すると、何か自分の体が組み上げられていく様になっていく、骨が生まれ、内臓が出現し、肉がくっ付いていく。

 気味の悪い、悍ましい感覚が僕の体を形作る様に完成されていく。

 

「……これでどうかしら、声を出してみて?」

「あ、う……ん!?」

 

 なんだこの声、先程までの僕の声とは違う、綺麗で、幼い……、とても可愛らしいが、それ以上に幼いながらも威厳のある声色。

 

「……私の体をあげる、もう、私の魂は人格を保てる程に存在できないし……お願い、██」

 

 目の前のヒナは、悲しそうな、悔しそうなそれでも嬉しそうな顔で、僕にそう言った。頬に一筋の涙が流れるが、夏の日に見た、あの笑顔を僕に向けた。

 

「……待って! まだ! まだ聞きたことが……!!」

 

 僕が走ってヒナの方へ走り出した瞬間、視界は暗転する。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「先生!」

 

 凄まじい音を立てて病室のドアが開かれる、何もかもを諦め、疲れ切った表情の先生はその開け放たれたドアの方の走ってきたゲヘナ風紀委員を見る。その視線に少々その風紀委員はたじろぐが、それでも彼女は意を決して口を開く。

 

「……っ、空崎ヒナ委員長が! 目を覚ましました!」

 

 その瞬間、先生の目に光が宿った。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

さて、まず生徒脆すぎという質問ですが、銃の威力は人によると作者は解釈しています。
また、サオリの殺意によって殺せるという発言から、状態によっては生徒を殺せる位のダメージを与えれると考え、まずそこまで殺意を抱く事は通常ではありませんが、先程のアコの状況下ではあり得ると考えました

ちょっとアコさんカッコ良すぎません?自分で描いてて惚れそうでしたよ。

そして先生…、生徒を失っちゃったの〜?でも、目覚めてよかったね!

では、また次回…。
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