いやまじで更新遅れて本当に申し訳ありません。
では…、どうぞ…。
「連隊長! 目的地まであと30分ほどです!」
トリニティ三番街道、その舗装された道路を三十両近い重戦車ティーガー1が陣形を組んで走行していた。まるで猛獣の群れの様なその車両たちは瓦礫を乗り越え、歩兵を蹂躙し、生半可な戦車の砲弾をその重装甲で弾く、恐ろしい程に順調な進軍に、指揮車両で連隊長車である先頭車両のキューポラから体を出した連隊長らしき人物が無線手の報告に満足そうに頷く。
その連隊長らしき人物はこの地獄の様な光景に恍惚の表情を崩さず、むしろ余計に、待ち望んだかの様に愉しそうに笑っている。
「……ククッ、これはまさに僥倖、マコト議長を救出する名目で我々は戦車を動かし、トリニティを攻撃する……はっはっは! これを隠れ蓑にトリニティを潰せる……、やっと、やっとこの時を待ち望んだのだ! 私は! 戦争だ!
「戦列を組んだ砲兵の一斉発射が敵陣を吹き飛ばし、効力射を以て空中高く放り上げられた歩兵をバラバラにする!」
「ティーゲルのアハト・アハトがしょうもないガラクタの戦車を破壊し! MGが悲鳴をあげて戦車から逃げる敵歩兵を蹂躙する! 57tの大重量で機銃陣地を踏み潰し、オンボロの機関銃をぶち壊す!」
「完全武装の歴戦の歩兵師団が容赦なく市街地を破壊し! 虜囚となった敵兵が私の号令により放たれるシュマイザーにバタバタと薙ぎ倒される!」
「ああそうだ……戦争だ! 地獄だ! 希望など何もなく、ただ鉄風雷火の限りを尽くす、嵐の様な戦争だ!」
恍惚の表情で彼女は叫び、まるでミュージカルの演目の様に芝居がかった仕草で語る。彼女にとっては独り言の様なものなんだろうが、大きな声でつらつらとまるで演説の様に語るその姿は狂気の独裁者の様にも見える。
「連隊長、通信が来ています」
「……? 読み上げたまえ」
連隊長のその声に先ほどからダイヤルを回し周波数を調節していた無線手が恭しく口を開く。
「『我、ゲヘナ風紀委員会、貴連隊の行動は今回の事変の収束に著しく影響を与えている、即刻行動を停止せよ。ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナ』……です」
「ほう? ならこう答えたまえ、『我々はマコト議長の救出の為に行動している、大義名分はこちらにあり』と」
「第四装甲連隊から返答です、『我々はマコト議長の救出の為に行動している、大義名分はこちらにあり』」
「……そう、じゃあ中隊の第二小隊は対戦車兵器を装備して建物の残骸に登っていつでも戦車連隊の先頭車両群を攻撃できる位置に付いて、第一、第三小隊はパンターや使える装甲戦力を装備して敵戦車隊の正面に立ち塞がって」
「はっ!」
トリニティ市街、他に比べればまだ損傷の少ない大きな煉瓦造りのマンションの屋上、通信機器に地図が広げられたテーブル、正に前線指揮所となったそこで、第四装甲連隊の通信を聞いた私は双眼鏡の先に見える重戦車の軍団を注視し、あの先頭車両に乗っている白い軍服に金髪の指揮官らしき人物に何処か引っ掛かりを覚えつつ、隷下の部隊に指示を飛ばす。私の言葉にそれぞれの小隊長が返事をし、すぐにそれぞれが受け持つ部隊の元へと歩みを進める。
「委員長、我ら第四小隊と……」
「わ、私たちはどうなるのかしら?」
第一から第三までの小隊長の後ろ姿を見送ると、自分らの役目を心配する表情で第四小隊の小隊長と、便利屋68の陸八魔アルが佇んでいた。
「ああ、それなら第四小隊は私が指定する場所で待機、便利屋は私についてきて」
「はっ! わかりました!」
「え……、えぇ、わかったわ」
第四小隊長は威勢良く返事をし隷下の部隊の元へと駆けていくが、アルはまだ幾分か緊張した様子で佇んでいる。まぁ、確かにこれまで彼女らを追いかけている立場であった風紀委員会がこんな急に彼女らに協力を要請するとはまったく持って思ってもいなかったのだろう。
ちなみに、便利屋を連れてきた目的はただあの重戦車共にぶつける訳ではない、そもそも情報部の報告書にも彼女らの戦力は戦略的には低いが戦術的には高いのだ、なんだかんだカリスマ性もあるし、まぁ、個人的には次期風紀委員長にはアルを指名しようかとも思っている。
……話がズレた、便利屋68の任務は重戦車の足止めじゃない、本来の任務は……、まぁ、まだ語る時でもないだろう。
「……どうしたの? アル社長」
「……はっ! な、なんでしょう風紀委員長殿!!」
「私の後についてきて、それでいいから」
「わ! わかったわ! み、皆! 来て頂戴!」
アルは緊張しながら私に敬礼し、スカートのポケットからスマホを取り出して連絡をし、私は持っていた双眼鏡を中隊本部にいる中隊指揮官に渡し、テーブルに置かれた小さめの予備の地図とコルクボードを手に取る。
「……さて、中隊指揮官、後は任せるわ。それじゃあ行こう、アル社長」
「はっ! ご武運を!」
私はスマホで連絡の終わったアルの手を引っ張り、出口へと歩を進めたが、ふと出る直前で立ち止まり、思い出したように中隊指揮官の方を向く。
「……そうだ、別に無理をして撃滅を狙わなくていい、足止めさえ出来れば十分だから」
「了解しました!」
私はそう言い残し、アルの手を引っ張ってドアの先へと歩を進めた。
……そういえば、あの連隊の指揮官は何者だろうか、白い軍服に金髪、顔立ちはいいがそれを台無しにしている悪辣な笑みに光のない黄色い目……ああ、なるほど。
一つの納得と共に、私は先ほどのからの引っ掛かりの正体に気付く、ああ、アイツはかの連合王国をたった千人ですり潰した有名な悪のカリスマたる白い豚に似ているんだ。
……これは一眼会ってみたいなぁ……。
私は少し上機嫌になりながら、私は未だ戸惑いの色を隠せないアルの手を引っ張りながら歩いた。
「……ああ」
悪辣な笑みを浮かべながら、ティーガーに乗っていた第四装甲連隊連隊長、萌手マキナは双眼鏡の先に映る戦車軍団を見た。その戦車軍団を見てもその悪辣な笑みは消える事なく、それどころかまるで争いになる事を望むかの様に余計に喜悦に歪んでいた。
そろそろ目視で移るぐらいの距離になると、そのマキナの乗るティーガーの操縦手の顔は少しづつ恐怖に歪んで行くが、当の車長はとまれの指示を出さない。
「……連隊長、正体不明の梯団との距離もう100m有りません……!」
「……」
操縦手は恐怖に我慢できず、下腹部から漏れ出そうな物を抑える力が抜けそうなのを我慢しながら苦言を呈するが、車長は聞く耳を持たない。
目の前の集団との距離が20mを切り、そろそろ10mに差し掛かろうと距離になった時だろうか、ようやくマキナが咽頭マイクを押し、無選手に指示を飛ばす。
「……よし、無線手、連隊各車両に通達、停止せよ」
「了解、連帯各車に通達、停止せよ」
マキナのその声に操縦手は安心した様にシートに背中を預け、先頭車両が止まるに続き他の車両も止まった。
当の彼女はキューポラから身を乗り出し、頬杖をついて気味の悪い薄ら笑いを崩さずに言葉を続ける。
「これはこれは……、風紀委員会ではありませんか?」
「……万魔殿直轄第四装甲連隊連隊長、萌手マキナ、風紀委員会より通告します。現刻をもって即時に軍事行動を停止し、貴連隊は万魔殿キャンプにて待機しなさい」
「……」
目の前に出てきた一人の風紀委員が放つ言葉を彼女はつまらなそうに聞き、ため息を溢す。
……私にとってはこれからの人生でまたとない大戦争の機会をみすみす見過ごす事になる上、ここまで大規模な軍団を動かしている以上、はい、そうですかと認めるわけには行かない……、ふむ、どうしたものか。
「……現在万魔殿が所有し、マコト議長らが搭乗されている飛行船が落下した、なので我々は議長らの救出の為に行動している……、と云うのは、理由にはならないかね?」
「問答無用、即刻引き下がれとの通告です」
「……誰が、指示したのかね?」
「それはお答えできません」
「なら、聞く事はできんな」
「であれば、力ずくで止めさせていただきます」
……闘争の本質がわかっちゃいないな……と、頬杖をついたままマキナは溜息混じりに呆れた。
嗚呼、全く面白くない、……別に戦っても構わんが、この状況ではすでに目の前で頑強に陣地を組んでいる風紀委員の方が有利だ、それに、相手の主要な戦車はパンター、勝てない……と云う訳では無いが、面倒な相手である。
そう考えながら、目の前で銃を構えている、先ほどから話をしている気の強そうな風紀委員を一瞥する。
「……まぁいい、同胞を手に掛けるのは気が進まんが……」
そう言って私は片手を顔の横まで挙げ、口角を吊り上げる。
「交渉、決れ___」
「待ちなさい」
私が射撃号令を出そうとした時、その場に突如として響いた声に私はがばりと上を向く。
上からは、一人の人影が私の頭上に落下していた。
「……クククッ……なるほど__!」
私は満足そうな悦びをその顔に浮かべて、その落ちてくる人影を注視する。
凄まじい金属音を鳴らし、それこそ、私に息が掛かるくらい目の前に着地した人影は、その涼しげな切れ長の目と、機関銃のその物騒な銃口をこちらに向けて立ち上がった。
「……嗚呼、貴女でしたか……
「貴方こそ、何をしているのか聞きたいわね、
そう、落下してきた一人の人影はゲヘナ最強の名を欲しいままにし、風紀委員会の委員長を務める、空崎ヒナのその姿があった。
「ククッ……クックック……、嗚呼、確かに、此方から紹介せねばならないな……、そう、こちらの目的は……」
「トリニティとの大戦争、じゃ無くて?」
キッパリと、確かに確信をもって目の前の彼女は断言する。
「嗚呼、もうすでにお分かりでしたか」
「……もう隠す気も無いの?」
「もちろん、貴方にこの様な程度の低い隠し事をした所で、意味はありませんのでね」
「ふーん……、じゃあ話が早い、直ぐに回れ右をして引き下がるか……、それとも、第四装甲連隊全滅の憂き目に遭うか、選びなさない」
その涼しげな目を吊り上げ、視線だけで袈裟に切られる様な……、そう、底冷えする様な冷酷な目つきで彼女は私を見つめる。
「……我々は、戦車百両の
「……マキナ、貴方の目の前にいるのは
彼女の放ったその言葉に、私の背筋に武者震いの様な電流が走る。嗚呼、そうだ、目の前にいるのはゲヘナ最強の生徒、空崎ヒナだ。
この姿を見て、この覇気を感じて、私のようなどうしようも無い
目の前の彼女に陶酔した私は、下腹部に感じる昂る様な疼きを抑えられずにいる。
「……ふぅ、なら、今回は引き下がるとしよう……Fräulein、貴女と戦うのに、此処では少々舞台が宜しくない……」
「……そう、なら良いけど」
「では、また会いましょう……、私は貴女の事をずっと見ていますよ……」
私は車内に入り、咽頭マイクのボタンを押す。
「……さて、諸君、撤退だ、残念な事に今回の戦争は我々にとって手に余る物らしい……、呼ばれていない役者は、すぐに退散しようじゃないか」
口では残念そうに私は云うが、その実その胸中はこれまで感じた事の無い高揚感と満足感に包まれていた。
「……空崎ヒナ……、私はどうやら貴女に一目惚れしてしまった様だ……」
「お疲れ様です、委員長」
「ありがと……、でも、あの如何にも話が通じなさそうな相手なのに、なんですんなり云う事を聞いて撤退したの?」
「風紀委員長、知らないんですか?」
私にタオルを渡してくれた第一小隊の小隊長が怪訝そうにそう聞く。聞いた話だと、彼女はゲヘナの特進クラス……つまり、成績がいいクラスの中で上位に位置するらしい、ちなみに空崎ヒナは特進クラス1位だそうだ……、うーん、頭がいいんだね、つまり。
「……まぁ、余り」
「あだ名は知っていたのに?」
「……ああ、あれはなんと無く言っただけ」
「そうですか」
小隊長は興味なさそうに呟き、私を後に自身の小隊の元へと向かう。
その姿を私は一瞥し、私が飛び上がったビルの方へと目を向けると、アル、ムツキ、カヨコ、ハルカの四人の姿がそのビルの玄関先にあった。
「す……、すごいわね……ヒナ委員長」
「あのビルから飛び上がって戦車の天板にピンポイントで着地……、そう簡単にできる事じゃないよ」
「すっごーい!」
「……私も……、あんな事できる様になるのでしょうか……?」
先ほどの降下に感心している様子の便利屋の姿を横目に、私はMG42を構え直して言葉を続ける。
「……さて、便利屋の皆、仕事よ」
お読みいただきありがとうございます!
さて、今回で5話目となりますこの話、次回はアズサの元へと駆けつける風紀委員長!アリウスの運命やいかに!?
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では…、また次回。