今回五千字前後のちょい長です。
では…、どうぞ。
「チェックメイトだ、アズサ」
「ハァ……! ハァ……!」
微かな金属音と共に銃口が交差する。サオリが私の眉間に銃口を突きつけ、私の拳銃がサオリの眉間に向けられる。その冷徹な銃口は確かな殺意を隠す事なく私に向けられ、私の拳銃は連戦と不眠により溜まった疲労、そして、ここまでのダメージの影響で震えている。
先ほどの三時間の間に仕掛けた爆薬や地雷、回収した榴弾で作った
「……お前にしては良くやった、だがな、その戦術、その全ては私が教えた物……子は親を超える事はできない」
「つまり、無駄な抵抗だったと云う事だ」
淡々と、冷静にサオリはアズサに突きつけた銃を微塵も動かさずに言葉を続ける。だが、アズサは反抗的な視線を崩さず、震える銃口をサオリに向け続ける。
「……いつから」
「……?」
「いつから、アリウスは巡航ミサイルなんて物を手に入れた?」
アズサは一つ、多分に疑問を孕んだ声色でそう聞く。
彼女の記憶の中にあるアリウスは、言って仕舞えばただのトリニティの分校の一つで、あんな大型の巡航ミサイルを持つ財力は無いはずである。
一体どこからあんな物を手に入れたのか、それも疑問だったが……。
「いや、それだけじゃない、いつの間にあんな不思議な力を操れる様になったんだ?」
「____
「……」
沈黙、答える通りはないと無言ながらにそう告げている。
「……アズサ、どうしてお前が私に勝てないかわかるか?」
「____弱いからだ」
「……」
冷え切った鉄の様な声で一言、そう告げた、かく云うサオリも体の数箇所に銃創や火傷跡があるが、彼女のその傷は実際にはそこまでダメージになってはいない様にも見える。
だが、反対にアズサはどうだろうか、戦闘に続く戦闘、それ故満足に眠れる事なく戦い続けた事による疲労、そして、ここでサオリ達アリウススクワッドと戦った事による戦傷。
その全てがアズサの体にダメージとして蓄積され、今では肩で息をする程の疲労として表面に出ている。
「……何が人を、人殺しにすると思う?」
「……」
「……それは殺意の有無だ」
サオリは確信をもって、そう言い切る。
「そう、そういう事なんだよ、アズサ。意志さえあれば、道具は関係ない。重要なのはそこに込められた
「ミサイルを含め、それ以外の手段やら何やらは私達の恨みを証明する道具でしかない……、それ以上でも、それ以下でもないんだ」
サオリは誰かにその事を言い聞かせるようにそう告げる。
「サオリ……」
「……?」
「______もう一度聞く、
「……!?」
その時、その場に緊張が走った。サオリは……、いや、サオリだけではなく、瓦礫から抜け出したミサキも、アツコも、その言葉に虚を突かれた様な驚きの表情をその顔に浮かべる。
「……私はあの時、ただそこで
「__虚しい」
瞬間、響き渡る銃声。
その銃弾はアズサの肩口を抉り、鎖骨にヒビを入れ、その衝撃にアズサはその手に握っていた拳銃を手放す。
「__ガハッ!?」
「__弱いな、白洲アズサ、その弱さがお前を縛り付けているんだ」
3発の銃声、銃口から放たれるマズルフラッシュが薄暗いその廊下に二人の人影を映し出し、胸部、肩、足、その三分位に5.56mm弾を的確に叩き込んでいく。だが、それでも歯を食いしばって睨みつけるアズサの体をサオリは蹴飛ばした。
「うぐぁ……がぁ……!!」
口から血を吐いて転がり、仰向けになった所でサオリは脇腹を踏みつけ、ぐりぐりと銃創を押し広げる。アズサは苦悶の表情を浮かべ、これ以上のダメージは不味いと、近くにあった先の尖った鉄筋コンクリートの金属棒を掴もうと手を伸ばすが、サオリはそれすら予想通りと言った具合で脇腹を蹴り飛ばす。
「ふんっ……!」
「ぐぅえっ……! おうっ……げぇぇぇ……」
蹴り飛ばされ、一回転して倒れたアズサは血の混じった胃液をその場に吐き出す。
そのタイミングで、背負っていた背嚢の紐が緩み、中に入っていた物品をその場に散らかす。床に転がったそれらの物品はプラスチック製のペンケースに空の弾倉、サバイバルナイフ、色取り取りのペンライト……、そして、一つの縫い包み。
「……ほう?」
サオリはふと、その縫い包みを拾い上げ、興味深そうに見つめる。柔らかく、汚れもなく、肌触りもいい……、アリウス生には不釣り合いな、ファンシーな物品。
その縫い包みを持ち上げたサオリを見たアズサは、どこか自分の血が湧き上がるような感情に狩られる。
「それに……、触る……なぁ!!!」
胃液と血に塗れた顔を見上げ、零れ落ちたサバイバルナイフを引き抜いてサオリに踊りかかった。
「……虚しいな」
「ぃぎぃ___!?」
だが、それを冷たく一瞥したサオリは、自身の銃を片手で持ち上げ、正確にその銃弾をアズサの大腿部へと叩き込んだ。
その衝撃にアズサは崩れ落ち、うつ伏せに倒れ込む。
ナイフが落ちる金属音がその廊下に木霊し、サオリは足でアズサの上体を持ち上げた。
「虚しい」
「あぐぁ……!」
銃声、衝撃、激痛。
銃弾が肉を微かに抉るたび、焼ける様な激痛が体に走る。
「虚しい」
「がぁ……!!」
銃声、激痛。
「虚しい、虚しい」
「ぅ、ぁ……!」
「虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい」
狂った様に、譫言の様に呟き続けながらサオリは一発ずつ的確に銃弾を叩き込んでいく。ただ、嬲るように続けられるその銃撃に意識を失うことも許されず、ただただ激痛が稲妻の様に体を駆け抜け、衝撃で体が持ち上がる。
ふと、アズサの視界が変化し、頭の何かが潰れたような感触がアズサを襲う。
一体何発、撃ち込まれたのだろうか、引き金のみが引かれ、空になった弾倉が落ちる音でアズサは目を覚ました。
「……逝ったか」
赤く染まった視界の先、新しい弾倉を嵌め込み、コッキングレバーを引いたサオリの姿が見える。
「……友情……、友情か……、偽りの関係、偽りの場所……そして、偽りの友情で得た物……か……、なら、懸命に守り抜いたものから、破壊するとしよう。確か、「ヒフミ」……と、言ったか?」
赤い血溜まりの海に沈むアズサの姿を見て、サオリはそう呟いてそこから立ち去ろうと、背を向けた。
……だが、その言葉が、朦朧としたアズサの意識を覚醒へと導いた。
「あぁぁぁあぁぁあぁッ___!」
発狂とも取れる絶叫、右目も、足も、腕も肩も、先ほどまでの激痛と鈍痛が全て消え去ったように思えたその体は、血の海から立ち上がって側に落ちていたナイフを取り上げ、サオリの背中へと深々と突き刺す。
「ぐぅあ……! あ……、アズサ……お前ッ……!」
「行かせないッ……! 絶対に! お前を! 皆の元に行かせない!!」
涙を浮かべ、凄まじい程の憎悪が宿った顔でアズサはサオリの脇腹にナイフを突き通す。
「なぜ……、どうして! 何で動ける!」
「お前には、絶対にわからないだろうッ……! サオリ……!」
「___ッ離せぇ!!」
そのまま腹を捌かれそうになったサオリはアズサの頭を勢い良くライフルの銃床で叩き、セレクターをフルオートに切り替えてアズサに連続して撃ち放つと同時に、衝撃信管のグレネードを投げつけた。
その全ての銃弾とグレネードはアズサのいる方向へ飛来し、大爆発を引き起こす。
「ハァ……ハァ……、やったか……?」
突き刺されたナイフを引き抜き、止血剤とマダム製の錠剤を飲み込み、刺し傷を治しながらサオリが爆炎が晴れ、アズサの身体が見えるのを待った。
一人の人影が姿を表すと、その人影を見たサオリは信じられない様に目を剥く。
その姿はアズサよりも小さいが、その矮躯に似合わない大きなマシンガンを構え、冠の様な黒いヘイローの下には無造作に伸ばされた白い髪が風にたなびく、涼しげな切長の吊り目が私を睨みつけ、その体を包む濃い紫の軍服のような服に付いた風紀の腕章。
「!! ……お前はッ……!」
「この前ぶりね、錠前サオリ」
サオリはその人影を睨み付けながら、次の手榴弾へと手をかけ、アズサは盾になった目の前の人影に目を白黒させながらその場にへたり込む。
「あ、貴方は……」
「初めましてね、白洲アズサ、ゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナよ」
「空崎ヒナ……! 貴様! どうやってここに来た……! いや! 何故生きている!!」
目の前の錠前サオリが鬼気迫る表情で私に向けて叫ぶ。その声には驚愕と畏怖の念が込められ、向けられる銃口は少し震えている。
「どうやって? それは……、こうやってだけど」
私はそう言って片手に持っていた一人のアリウス生を放り投げる。その放り投げたアリウス生は呻き声をあげてコンクリートの上を一回バウンドしてから転がり、壊れたガスマスクの残骸が床に転がる。
「た……すけ……て……」
呻き声にも似た微かな声を上げて、そのアリウス生は折れた腕や脚を使い、のろのろと芋虫の様に這い蹲りながらサオリの元へと這っていく。
そのガスマスクが外れた顔は恐怖に歪み、目の前のアリウススクワッドに縋るように這っていくが、辿り着く前に私はそのアリウス生まで歩いて行き、背中を踏みつけて動きを止める。
「ぐぁっ___!」
「……白洲アズサ、よくここまで戦ったのね」
私は振り向かずに、アズサを労う。私の目線は変わらず目の前の四人に注がれ、銃を再度構え直す。
「……それで、アリウススクワッドの錠前サオリ、何故生きてるかって、聞いたね?」
「それはたった一つの簡単な答え」
その場に走る緊張感がその一言でさらに数割増しになる。
「……
「……! 貴様……!」
「まぁいいわ、別に今、私が生きていることは問題ではない、私の目的は白洲アズサを……」
そう、
「助けに……来ただと……!」
「……実際、私がアズサを助けに来てどこか安心しているんじゃないのかしら、貴女は」
「何を言う! アズサは我々にとって掛け替えの無い、大切な一人の仲間で……!」
「_____じゃあ何であそこまで傷つけたのかしら?」
その私の一言にサオリが何かに気付いた様に目を見開いた。
補習授業部にいた頃のアズサの、アリウスに居た頃の彼女からは見た事も無い心の底から嬉しそうにしていた様子に気付かない様にしていた彼女は、私の言葉に否応なく目を向けさせられる。
「補習授業部に居た頃のアズサは嬉しそうにしていた……だけど、貴方は其れが如何にも気に食わなかった、だから如何にかしてアリウスに引き戻したい、だから……、
「……黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェ!!」
途端に、サオリが大声を上げて私に向けてライフルを放つ。だが、この肉体の並外れた耐久力にとっては蚊に刺された程の痛みでしかない。現に、私に飛来した全ての5.56mm弾は弾頭が潰れ、床に転がっている。
「……どうやら、図星の様ね」
「五月蝿い! お前に何がわかる! 全ては虚しいのだぞ!」
「虚しいからって、全てを虚しく生きるのかしら?」
「……黙れぇ!!!」
サオリは銃弾では埒が開かないと悟ったのか、腰からナイフを引き抜いて私に踊りかかる。
「……突入」
だが、私はそれに眉一つ動かさず、指を小気味良く鳴らす。
その途端、窓の外から一つの大きなバッグがサオリの目の前に投げ込まれ、1発の狙撃銃の銃弾がそのバッグを貫く。
「……!?」
瞬間、爆発。
飛んできたバッグには爆発物が詰め込まれ、窓側の外壁を吹き飛ばし、爆風でミサキ、アツコ、ヒヨリは吹き飛ばされ、私は爆発の寸前に足元のアリウス生を壁側に蹴飛ばしてアズサに覆い被さる。
まだ、私は爆弾から離れていたし肉体の特性的にダメージは少ないが……、爆心地に居たサオリはどうなっただろうか?
「……ぐぁ……ぁ……」
爆風で吹き飛ばされたサオリは天井に叩きつけられ、地面に落下した。彼女は覚束無い足で血を吐きながら立ち上がった、肋が数本折れ、内臓も一個イカれている様にも見える、口の中が焼ける様に痛く、左腕に力が入らず、だらりとぶら下がっている。
霞む視界で目の前を見ると、崩れた外壁から四人の人影が姿を現す。
「アルちゃんナイスショット〜!」
「フフフ……、これ位私には楽勝よ」
「ムツキ、一体アンタこれ何投げたのよ?」
「私のプラスチック爆弾をいっぱい詰めました……、やりすぎたでしょうか……?」
その四人の人影は意気揚々と崩れた外壁から入り、各々がいつも通りの様に会話をしながら瓦礫だらけの廊下に並ぶ。
「便利屋68、ありがとう」
「礼には及ばないわ、だって私たちは依頼を達成しただけだもの」
「じゃあ、お疲れ様って言っておくわ」
「……それで、件のアリウス生って誰?」
「この娘よ」
私はアズサを両腕に抱えて、便利屋達に見せた。よく見てみれば片目から赤黒い血が流れ出ている。
「……思ってたより大怪我だけど、まだ息はあるから直ぐに貴方達が運んで___」
「ねぇ、委員長」
アルがいつに無く真面目な表情をして、私の顔を見る。
「……? 何かしら?」
「さっきの会話、無線で聞いていたのだけれど……、あのアリウスの子と、少し話してきてもいいかしら?」
そう言ってアルは後ろにいる
「……許可する」
「ありがとね」
私は、さっき吹き飛ばしてしまった一人のアリウス生に近寄り、目の前に立つ。
「……ねぇ、貴女、少しいいかしら?」
お読みいただきありがとうございます!
さて、今回で7話目ですね、なんか自分で書いててこの続きを書きたいと言う欲求に飲まれて自然に筆が進むんですよね。
ちなみにさっきの一般アリウス生ですが道中ヒナにとっ捕まってカヨコとヒナにボッコボコにされてアリウススクワッドの居場所を吐きました。
可愛いですね(?)
さて、次回、アルちゃんとサオリの対談ですね。
では…、また次回。