『空崎ヒナ』は、もう居ない   作:焼け野原主任

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どうも、焼け野原主任です。

投稿遅れ許してクレメンス…。

では、どうぞ…。


仲間である事

「……ねぇ、貴女、少しいいかしら?」

 

 陸八魔アルが歩く度、コンクリートに踵が打ち鳴らされ、その音が崩れた廊下に反響している中、今も尚、絶えず彼女を睨み続けるアリウス生へと歩みを進め、その目の前へと立つ。対峙するアリウス生……、錠前サオリは怪我で覚束無い、今にも崩れ落ちそうに足が震えながらも、未だにアルを敵意の眼差しで見つめている。

 

「……さっきは吹き飛ばしてごめんなさい」

「……それだけか?」

「いえ、まだあるわ」

 

 怪訝そうな顔で見つめるサオリに一言告げる。

 すぐ近くで十個以上のプラスチック爆弾が一瞬にして爆発し、その爆風や爆圧をモロに喰らって吹き飛ばされ大怪我をしても尚、立っていられるその彼女の精神力にアルは密かに驚嘆しつつ、目の前の彼女に向けて少し哀憫の表情を向け、口を開く。

 

「そうね……私の様な部外者が言うのも何だけれど……、貴女の気持ち、何となく分かる気がするの」

「……? どう言うことだ?」

あの子(白洲アズサ)の事よ」

 

 アルはそう言って後ろにいるアリウス生を指差す。

 

「……貴様に何がわかる!!」

「待ちなさいな」

 

 食ってかかってきたサオリを口で諌め、殴りかかって来た右手を掌で受け止める。

 ボロボロの体でまだここまで力が有るのかと、そろそろ驚きが隠せなくなってきたが目の前のサオリは血塗れの顔に血走った双眸を浮かべて私を絶えず睨み続ける。

 肩で息をし、半壊したマスクの一部から口元が覗き、その口から滝の様に血が流れている。

 

「……そろそろ、あの子の事を信じてあげれないのかしら?」

「……一体どう言うことだ?」

 

 アルは受け止めた右手を確り掴み、サオリに向けて冷たい視線を送る。

 __これは、あの子を助けるまでの移動中に、私が風紀委員長から聞いた話なのだけれど……。

 

 


 

 

「……そう言えば、風紀委員長」

「何かしら?」

 

 移動中、私はふと対面に座った風紀委員長に言葉を投げかける。他のメンバーは別の装甲車に乗って、私と風紀委員長の二人だけがその装甲車に乗っていた。

 ガタゴトと揺られる装甲車の中でコクリコクリと眠そうに軽く頷きながら足を組んで座っていた風紀委員長は、私の言葉に少し目を覚ましたように私に顔を向ける。

 

「ふと疑問に思ったのだけれど、その……、白洲アズサ……だったかしら? そのアリウス生って何者なのかしら?」

「……何者って言うのは?」

「貴女がそこまで肩入れする程の傑物なのかしら……って、そう思ったの」

「……、そうね……」

 

 委員長は少し顎に手を当て考える様な仕草をしてから、ひっそりと口を開いた。

 

「……先生の為……かしら」

「先生の為?」

「そう、先生の為、それ以上でもそれ以下でも無いわ」

「……そうなのね」

 

 委員長の言葉に私は納得したように呟く。

 後々から知ったあの大惨事、古聖堂への巡航ミサイル着弾に始まり、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の飛行船墜落、アリウス分校による同時多発的戦闘行為、戒律の使徒、ユスティナ聖徒会の出現。

 彼処までの惨事であれば、確かに先生が動き易くする為に行動するのは確かに間違いでは無いけれど……。

 

「でも、何でアリウス分校なの?」

「……?」

「いや、これは単純な疑問なのだけれど……、私が考えるにこうしてアリウスに進軍するより、トリニティに残って非戦闘員の救助活動や、まだ活動している聖徒会の殲滅活動に力を注いだほうがいいと思うのだけれど……」

「ああ、それは確かにそうね、でも、そんな事をやった所で結局ジリ貧なのには変わりないわ、なら、さっさと大元を殲滅してしまった方が簡単じゃない?」

「……確かに、言う通りね」

 

 私はまた納得して頷くが、ふとした疑問が私の脳裏を過ぎる。

 

「……ちょっと待って頂戴、そう言う割には、貴女が白洲アズサの救出だけを目的にしている様に思えるのだけれど?」

「……どう言うことかしら?」

 

 私がそう言うと、目の前の風紀委員長は切長の目を細め、コチラを睨む様に一瞥する。

 

「ぐっ……、だから、いくら完全武装かつ歴戦の自動車化歩兵だとして、いくら何でも中隊規模で殲滅できる様な相手では無いと思うわ。それを貴女の様な人が把握していないわけないと思うのだけれど」

「……君の様な勘のいい生徒が居るとは、思っても居なかったわ」

 

 委員長は口元を緩めながらそう言って、満足そうに上を向いてから私をもう一度見る。

 

 ……その後、ヒナ委員長は事の顛末とその理由を話し始めた。

 話によると、そのアリウス生はトリニティに内通者として送られ、定期的に情報を送っていたらしく、いつぞや起きたセイア襲撃事件の犯人でもあるらしい。

 ……だが、そこで学園生活を送っていった内にトリニティで友達が出来たりして居心地が良くなったらしい、だからこそ、トリニティを裏切ることが出来なくなってしまった。

 

 そして、先ほどの古聖堂爆破を皮切りに先生は負傷、風紀委員長自身も重症を負い、両校とも死者多数の大惨事に発展。裏切ることの出来なかったそのアリウス生……つまり、白洲アズサは所属するアリウスの小隊と邂逅し、その後、先生の負傷やその全ての責任は自分にあると考えて、その因縁に蹴りをつける為にアリウス分校へと向かった___という話らしい。

 

「___それで、そのアリウスの小隊と現在戦闘中……、それを私達が助けに行くと言う算段よ」

「……そうなのね、でも、じゃあ何でその……アズサちゃんは其の儘、トリニティに居座ろうと思わなかったのかしら?」

「どう言うこと?」

「いや、その、私はその小隊の戦闘力もあまり判らないし、どう言う状況なのかも私はあまり判らないけれど……、それなら、責任から逃げても、良かったんじゃないかしら? つまり……」

「……つまり?」

「とどのつまり、確かにその責任はアズサちゃんが負うべき物ではあるけど、それでこの大惨事の原因を叩きのめしたからって、それはただの自己満足なんじゃないかしら……って、そう思ったの、なら、結局責任から逃げても、原因を叩きのめしても、なんだかんだ責任は負うことになるなら、自己満足で勝手に許さない方がいいんじゃないかしら……、って」

 

 私は先ほどの話を聞いて、そう結論付けた。

 責任からは逃げられない、それはこれまで色々と話を聞いていく中で重々承知している、だけど、責任はそう簡単に消える物でもないし、言うなれば何かを成した所で、その責任と言うのは色々と伸し掛かって来るのだ。

 なら、わざわざ蹴りを付けようと思わなくても、いいんじゃないのかしら? 

 

「……確かに、それもそうね」

「で、でしょ?」

「ありがとう、ためになったわ、陸八魔アル」

「……えっ!?」

 

 委員長の言葉に私は驚くが、それを意に介す事無く、目の前の委員長は言葉を続ける。

 

「……そうね、便利屋の役割を説明してもいい?」

「えっ、ええ……、どうぞ……」

「便利屋の任務は後詰……というか、私が指示をしたら、まず最初に大量の爆薬が詰めれらたカバンを投げ込んでもらって、それを起爆させて突入、その後、適宜私の指示に従って動いてくれればそれでいい、相手から射撃があったら直ぐに制圧を試みて」

「わかったわ」

「……あと、白洲アズサを救出する事、これを最低限完遂しないと任務は失敗。……もし失敗したら直ぐにこの仮面をつけた生徒以外のアリウススクワッドを殲滅、待機させている歩兵小隊を突入させて分校を脱出するわ」

「……殲滅? 無力化じゃなくて?」

「そう、殲滅」

 

 唐突に委員長の口から聞こえた物騒な言葉に、私は一瞬目を丸くし、もう一度聞き返すがその物騒な言葉が復唱される。

 __殲滅、つまり、生死問わず戦闘能力を失わせ行動不能にしろと言うこと。

 

「……わかったわ、依頼だもの、受けない訳には行かないわ」

「そう、一応言っておくけど、そう簡単に失敗させないから、安心して」

 

 

 

 


 

 

 

 

「そう……、そうね、貴女、アズサちゃんに対してどういう感情を抱いているのかしら?」

「……そんな物、信頼する仲間で、大切な後輩で……!」

「……大切、なのね」

 

 私、陸八魔アルは幾分か冷たい目で目の前の血塗れのアリウス生を見つめる。

 彼女のその赤く血走った双眸は、視線のみで私を射殺さんとばかりに睨み、ギリギリと歯軋りする音が聞こえる。

 

「……でもね、大切で信頼しているなら……、何でそんなに執着するのかしら?」

「どう言うことだ?」

「貴女がどう考えていたか判らないけれど……、多分、何処かでこのアリウスから遠ざけてあげたいって、思っていたんじゃないかしら?」

「……」

「それだけじゃ無いわ、貴女、自分とどこか相容れない、分校の存在意義であるその理念がアズサと共有されない事に何処か羨望にも似た、何かを抱いていたんじゃないかしら?」

「___お前が知った様な口をきくなぁ!!!」

 

 サオリはぶら下がった左腕に拳銃を掴み、私の目の前へと指向した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パァ___ン

 

 ___瞬間、一つの乾いた音が響いた。

 

 

 

 

 ガチャリとかすかな金属音を立てて拳銃が床に転がり、サオリの拳はもう掴まれておらず、左手に持った拳銃は弾き飛ばされている。

 

「……いい加減にしなさいな」

 

 アルは微かに怒りの篭った声色で告げる。

 目元は陰りになってよく見えないが、その双眸は憐憫と憤りの混ざった、呆れに呆れて我慢ならないと言う感情を孕んでいた。

 

「貴女が本当に仲間を信頼しているのなら、そして、一度自分の元から手放しているのなら! そして彼女がもう既に居場所を持っているのなら! 笑顔で送り出してあげるのが筋でしょう!」

「そんな風に一度手放してそれでも未練を持ったままダラダラと……! そんなのただの我儘じゃない!」

「一つの指揮官として、リーダーとして! 自分を信じて付いて着てくれたのでしょう!? なら、抜けるのならそれを笑顔で送り出すのもそのリーダーの役目よ!」

 

 そこから堰を切ったようにアルは語気を強めてサオリに向けて説教をする。

 サオリの胸ぐらを掴み、アルは目の前にサオリを引き寄せ、今まで彼女がした事のない、鬼気迫る表情でサオリに告げる。

 すると、サオリは何かに気付いた様に顔をあげ、アルの顔を一瞥して頭に被っていた帽子の鍔を下ろす。

 

「……そうか、そうだ……そうなんだ……、ああ、そうか」

 

 サオリは気付いたのだった、目の前の一人のリーダーを見て、自分がすべきであった事を、望んでいた事を。

 

「……そうか、アズサには……」

 

 そう、もう彼女(アズサ)には新たな居場所(補習授業部)がある事に気付いたのだった。

 

「そう、もう彼女には居場所があるんだから……、送り出してあげましょう?」

「ああ……、そうだな……!」

 

 グスグスと、サオリの胸中はどこからか突き上げてくる気持ちに、闇雲に泣き続けた。

 

 

 

「……あの、ゲヘナの人、ちょっといいかな?」

 

 アルとサオリが泣いているうちに、後ろから煤だらけのマスクをつけたアリウス生がバツが悪そうに手を上げた。

 

「……? 何かしら?」

「空崎ヒナと貴女の連れとアズサ、もう行っちゃったけど?」

 

「……へっ?」

 

 呆けた声をあげて後を見れば、先程までいた委員長とムツキとカヨコとハルカの姿は忽然と消えていた。

 

 

「ななな、なっ、何ですって────!?」




お読みいただきありがとうございます。

うんアルちゃんいいこと言うじゃない!

そして報告です、ここから投稿期間がかなり開きます。時期に直すと三週間程になります。

では…、また次回。
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