『空崎ヒナ』は、もう居ない   作:焼け野原主任

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どうも皆様、焼け野原主任でございます。
えーなんかとてもお久しぶりなんですが、結構期間が開いちゃったのもあって今作はちょっとばかし難産です。
では、よろしくお願いします…。


続く混乱、見えた真実

「負傷者を発見! 搬送します!」

「こちらに担架を! 負傷者がまだ何名かいます!」

「この先のビルの瓦礫の奥に要救助2! 回収車持ってこい!」

 

 叫び声が飛び交い、もうもうと黒煙が立ち上るトリニティ市街、瓦礫と血の海が広がり、この世の地獄と成り果てたそこで、ゲヘナの救急医学部及び風紀委委員会は負傷者の搬送、救助に奔走していた。

 瓦礫の撤去に工兵部隊が持参していた重機や工作機械では数が足りず、風紀委員会の戦車回収車を使い、瓦礫を駆除し、救急医学部が所有する大量の救急車が負傷者を病院へ運んでいくが、それでも足らずに装甲車に担架を乗せて運んでいる。

 そして、その救急医学部の指揮官であるセナは自らが持つ緊急車両十一号では無く、指揮車両となったSd Kfz 234(プーマ)に乗りこんで陣頭に立って指揮を行っていた。

 

「部長! 湖に落ちた飛行船より万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の議員らを救出しました! また、その中にマコト議長も含まれていたとの事です!」

「……流石はマコト議長、いつも通り運がいいですね、湖に落ちた事もまた幸運……」

 

 部下の報告にセナは淡々と、少し皮肉そうな声色で答える。だが、その声には多少の感心も含まれていた。

 

「各員、各地の救助を続けてください。基本的には全員、強制的に集中治療室へ」

 

 手元の無線機を掴み、隷下の部隊へと指示を飛ばしたセナは天井のハッチを開き、横に停められた一両の重戦車に、少し冷やかに目を向ける。

 200mmに増圧された分厚い装甲板に、前側に配置された円形の砲塔から伸びる長砲身の8.8cm戦車砲、後部についた6角アンテナに電気駆動の特有のモーター音……。

 だが、その冷やかな視線はその虎になる筈だった一両の重戦車ではなく、その車長ハッチから未だに包帯が巻かれた上半身を出す一人の人影に注がれていた。

 

「アコ行政官、こんな所で宜しいですか?」

「ええ、ありがとうございます。セナ」

 

 包帯が巻かれたその人影……天雨アコはセナのその冷やかな視線に笑顔で返し、セナはそれに一つ溜息を零し、未だ包帯だらけのアコを一瞥してまた呆れた様に溜息を吐く。

 

「……私としては、完治するまで待機していて頂きたいのですが……、言っても聞きませんよね」

 

 静かに、アコの身を案じるように呟き、セナは再度プーマの車内に入り、手元のトリニティの地図に赤い印を付けていく。

 

「はぁ……本当に、こんな事になるなんて誰が予想出来たのか……」

 

 その赤い印は、セナ達が負傷者を回収した地点が記されており、勿論夥しいほどその印が地図に付けられている。いつもは怪我人を死体と言い間違えるほど死体好き……一時期、ネクロフィリアではないかと噂されていた彼女でも、この地獄を見た後だとその地図を一瞥し、堪えきれない様に深くもう一度溜息を吐いた。

 

「お疲れのようね、セナ。はいこれ、麦茶」

「……風紀委員長」

 

 同じプーマに同乗してた空埼ヒナに労いの麦茶を渡され、少し安堵したようにセナはそれを飲み干す。

 

「ありがとうございます、風紀委員長」

「いいのよ、別に」

 

 渡された麦茶入りの水筒を返し、セナはプーマの座席に少し深く腰掛ける。

 

「これから救急医学部はどうするの?」

「依然負傷者の収容と治療を行う方針です、風紀委員長は?」

「そうね……私はこれから自動車化歩兵たちと一緒にとある所へ、行ってくるわ」

 

 ヒナは少し微笑んで、プーマの車内から出て行った。

 

「……ヒナ委員長、貴女は、何が目的なんでしょう……」

 


 

 

 

《"……"》

 

 夜、トリニティ基幹病院。

 書類をめくる音が静かに木霊する一つのオフィスの中、山積みにされた書類の数々に目を通し、都度手元のペンを持って彼、シャーレの先生はその書類に書き込んでいき、そのペンの近くに置いてあるゴム印をその書類に押して、次の書類に手を伸ばす。

 

 __此れだけ見るなら、ただいつも通り、執務をこなしているだけのように見えるのだが、異常なのはその書類の内容だろう。

 その書類に書かれた単語、MIA(戦時行方不明)、死亡、欠損、PTSDの発症、膨大な数に上るそれらの言葉、すっかり見慣れてしまったそれらはいつしか数えることを放棄した。

 そして、羅列されるその単語の数々にシャーレの先生は心を締め付けられ、胸中に刻まれる心労の原因はただその書類の量ではなく、その書類に書かれた内容が、彼の大人としての責任を全うできなかったことを嘲笑うように連なっている。

 

 

 ___ベキリ

 

 

《"……あ"》

 

 ふと、鈍い音を立ててペン先がつぶれる。

 ペンを走らせていた書類の上に黒々としたインクが流れ、指先が黒く染まる。ティッシュで指先を噴き、横目で時計を見るとその短針は12の文字を指していた。

 

 ……どうやら、長い事書類仕事をしていた所為で時間を忘れてしまっていたらしい、そろそろ寝なければならない。と、そう考えて椅子から立ち上がると、ずっと座っていて居たからだろうか、ガクリと膝が固まり、崩れ落ちた。

 

「大丈夫ですか、先生」

 

 が、誰かに抱きかかえられ、そのまま床へと崩れ落ちる体が止まり、自分の横合いから声が聞こえる。

 

「クックック……どうやら、とてもお疲れのようですね」

《"……黒服"》

 

 深く、体の底まで響く様な低い声。

 私を抱きかかえる黒い腕にひび割れた頭、怪しく光る隻眼に、黒いスーツ。

 いつもは憎むべき相手である彼……、黒服の姿をシャーレの先生は疲れた目で不満げに、そして恨めしそうに見つめる。

 

《"私の事を笑いに来たのかい? "》

「……おや、随分なひねくれ様で」

 

 黒服に座らされた先生は膝元を払い、何処か不満げに顔で黒服を見つめる。

 

「クックック……、いえ、私は貴方を笑いに来たわけではありません」

《"……じゃあ、何の用? "》

 

 そう言うが本当はただ冷やかしに来ただけなのだろう……と、ため息混じりに先生がそういうと、黒服は軽く顎に手を当てる。

 

「結論から言わせて頂きましょう、先生、ゲマトリアの力が___」

《"断る"》

 

 黒服の言葉を最後まで聞くことなく、固く、そう言い切る。

 

「おやおや……最後まで聞いていてほしいものですが……」

《"言っているだろう黒服、私は君達ゲマトリアに組することも、協力することも無い"》

「……それで、自分一人で解決するおつもりで?」

 

 黒服が疑問そうにそう聞いた。

 黒服の記憶にある先生の姿、それはシッテムの箱と言うオーパーツじみた物を用い、このキヴォトスを管理するサンクトゥムタワーすらその手中に収めたのにもかかわらず、その強大な権力を全て連邦生徒会に無条件で委譲したのだ。

 もし、自分が先生の立場であったなら何も迷うことなく、躊躇うことなくその権限を用いてその王座に君臨し、『崇高』へと思うがままに手を伸ばしただろう。

 

 だが、目の前の彼は違う、彼はその立場にありながらそうせず、ましてや先生などという事に精を出している。これまでの先生の行動、スタンス、素質、その全てを勘案すれば確かに納得できる話であるが、いまだに理解はできていない。

 

「……」

 

 だが、態々それを口に出そうとも思わない。

 刻まれた深い隈に酷く濁った眼、もう数日は碌に寝てないことが分かるその顔。

 ……そこに変な負荷をかけようとは、流石に思えなかったからだ。

 

「……わかりました、では、一つ貴方に警告を」

《"警告? "》

「これは私の知り合いが貴方に伝えたいと言っていた事ですが……」

 

 

 

 

 

 


 

 

「……おや、お客さんか」

 

 夜、何処ともつかぬ空間。

 目の前には私と同じくらいの身長の狐耳に煌びやかな金髪の少女がアンティーク調の椅子に座り、此方を向いている。

 その金髪の少女の前には、テーブルクロスの掛けられた同じくアンティーク調の長テーブルが鎮座し、こちらに気付いたその少女は啜っていた紅茶を口元から離し、頬杖を付いてこちらを向く。

 

「こうして直接会うのは初めてかな、ゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナ」

「……そうね、トリニティ総合学園ティーパーティーの百合園セイア」

 

 そう、私は空崎ヒナ、エデン条約の最中飛来した巡航ミサイルにより重症を負った先生を救出し、アリウススクワッドとの戦闘で死んだ。

 それ自体には別段後悔もない、先生を守る事が出来たのだからそれは逆に満足している。

 

 ……それに、同じ志を持つ彼に、希望を託す事もできた。

 

「随分と……、満足そうだね」

「……そう?」

 

 少し面白いものを見るような声でセイアはそう云い、その紅茶を口に運ぶ。

 確かに、彼女としては面白かったのだ、此れ迄評判に聞いていた冷酷無慈悲なゲヘナの風紀委員長が、たった一人の存在に此処まで入れ込んでいるのだから。

 

「ああ、とても満足そうに見えるとも」

「そう……、で、ここは何処なのか教えてもらっても?」

「ああ、そこかい? ここは……私の世界だ」

 

 ヒナの問いかけにセイアは大仰に手を振り、ここの壮大さを誇示するように満足そうな顔で立ち上がった。

 私の世界、機嫌良くそう言うセイアを尻目に、ヒナは特に驚く素振りもなく落ち着いたまま近くの椅子に腰掛ける。

 

「……、貴方の世界?」

「そう、私の世界だ、……まぁ、厳密には少々違うのだが。あ、そこの紅茶は君のだ、君の好きなようにしてくれて構わないよ」

 

 いささか芝居掛かった仕草でそれを肯定したセイア、だがその芝居に目もくれず、空崎ヒナは促されるままそのテーブルにある紅茶を啜る。

 紅茶の香りが鼻腔を通り、仄かな苦みを感じるそれは、彼女に一時の安らぎを与え、どこか懐かしささえ齎す。

 そうして彼女の感じた不可解さが少し解れると、セイアは再び口を開く。

 

「……さて、本題に入ろうか、空崎ヒナ」

「何かしら?」

 

 セイアの問いかけにヒナは紅茶を啜りながら目を向け、静かに答える。

 

「まず、エデン条約を書き換えたアリウス分校がユスティナ聖徒会を掌握し、古聖堂への巡航ミサイルの落着……、今のトリニティ市街は大変なことになっているのはご存知の通りだろう」

「……そうね」

「その中、君は古聖堂から先生を逃げ出させ、自分の身を犠牲にして凶弾から先生を守った……そうだね?」

「そうよ……、何か、あったのかしら?」

 

 怪訝そうにヒナがそう言うと、セイアはまぁまぁと宥めるような口調で話を続ける。

 

「私の能力は未来視のような物でね、この世界が滅ぶ未来が見えてしまったんだよ」

「一番最初に崩れたのは君が死んだ事だ」

「本来であれば……、いや、今となってはこの表現が合っているかはわからないけれど、多分この世界はある意味で本来あるべきであった姿に戻りつつあるのだと思う」

 

「……本来あるべき姿?」

 

 朗々と、だが淡々と思考を巡らせるように喋るセイアの姿に少し調子を狂わされながら私は聞く。

 

「そう、本来あるべき姿」

「私の予知能力では、本来は何らかの力によって滅ぶ未来が見えたのだが……、どうにもそうはならないらしい」

「君が死んだということが、無理やり書き換えられたからだよ」

 

 セイアのその言葉にヒナはああなるほど……という顔で頷く。

 

「でも、どうやらそれでもどうにもならなかった部分があるらしい」

「……? それはなに?」

 


 

 

「生徒の青春物語と言うテクストが、剥がれたと言うことです」

 

「……は?」

 

 その後、私の口からは間の抜けた声が出た。




はい。
えー、どうだったでしょうか、何も書くことなんてあんまりないんですけど、最近ちゃんと書かないと本当にこの世界に戻れなくなりそうだったので、執念で書き上げました。
お読みいただきありがとうございます、では、また次回…。
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