ポストアポカリプスな世界で周りが勝手に病んでくる 作:あさあさ
僕らはまだ何も知らない
一月、神様は僕らに知恵を授けた。人類は大いに発展した。僕らはその時献身性を失った。
二月、神様は僕らに黄金のリンゴを授けた。人類は永遠の命を手に入れた。僕らはその時美しさを失った。
三月、神様は僕らに聖火を授けた。人類は色が見えるようになった。その時僕らは世界の美しさを知った。
四月、神様は僕らに嘘を授けた。人類は人を騙すことを知った。その時僕らは優しさを失った。
五月、神様は僕らに銃を授けた。人類は争いを知った。その時僕らは、他の何よりも傲慢になった。
六月、僕らは神様を撃った。銃は空砲だった
ー腐った性根は治らない。醜い性根は治らない。嗚呼、失敗した失敗した。
怒った神は、人間から永遠の命を奪い、さらに六月以降の月に人類の敵となる魔物を召喚することにした。
ー七月、人類は、自らの失敗に気付いた。
僕の人生は悪いこと続きだった。
だから、死のうと思って練炭を買った。安かったのでついでにサンマも買った。人生も悪くないと思えた。
ここに、ひとり悲しく秋を貪る男がいる。僕だ。
たまには誰もいない食卓を囲うのも乙なものだ。まぁ、人と食卓を囲んだことなどほとんどないのだが。
ノックの音がした。
必然、反射的にドアの方を向いた。音がしたのは天井だった。タップダンスでもしているのだろうか。
一人で生きていると、こう、脈絡のない独り言が増えてくる。僕の知的で情緒のあふれる語りは、世間一般には厨二病と言われるのかも知れないが、生憎僕は気に入っている。
今はこうも強気なことを考えている僕だが、いざ学校に行くとなると、その思考は反転する。
一人の男を囲う女ども、それを眺めて愚痴る男ども、そしてそれをみる僕、そしてそれを見る……
誰か、なんてね
人生は生きる理由を探す旅とは僕の持論だが、僕のような凡人はこのために多くの時間を費やす。文頭で述べたこともその一つだ。
その点、彼のような人間は楽だ。あんなにも自分のことを愛してくれる女がいるのなら、生きる理由なんてそれだけで十分だろう。
ただ、与えられた理由を怠惰に受け取るだけの人生を過ごすくらいなら、僕は自分で理由を探す人生を送りたい。
……時に人はこれを嫉妬と呼ぶ。
……
朝起きて、通勤、ないしは通学して、与えられたことを全うする。人間にとって当たり前のルーティンである。
「ルーティン」ときけば、ユーチューブ等の動画にあげられる朝のルーティンのようなものを想像する人がほとんどだと思うが、僕が考えるルーティンは、それらとは違う。
毎日のように繰り返すもののことをルーティンと呼ぶならば、僕たちの生活はすべてルーティンなのではないだろうか。朝起きて、支度をして、学校に行って、家に帰って、その後各々時間を使う。
人にもよるが、昨今では最後の各々時間を使う部分ですら、固定化している人が多いと聞く。
それではやはり、僕たちの生活は「ルーティン」と総括されてしかるべきものではないだろうか。まぁ、それが分かったところで大した意味はないのだが。
朝の通学時間は、僕にとって最も憂鬱な時間の一つだ。マスクもせずに咳ばかりしているおじさん。タバコ臭いおじさん。一人で場所を取っているおじさん。
……こうしてみると、独立した存在として考える時、周りに迷惑をかけているのはだいたいおじさんなのかもしれない。ジジイ死すべき是非もない。将来の僕はこんなことを思われないようなナイスガイになりたいものだ。
そうして、公害ジジイどもに辟易としていると学校に着いた。教室に入ると、そこには静寂があるだけで何の気配も感じられなかった。僕が一番乗りなようだ。特に意味もないが、テンションが上がった。
本読んでたらかっこいいし、とりあえず人が来るまでは本でも読んでおくことにしよう
キーンコーンカーンコーン
はっ
チャイムの音と同時に目が覚める。
どうやら寝てしまったようだ。
何か夢を見ていた気がするのだが、覚えていない。覚えていないということは大して重要でもないのだろう。
そんな事を考えていると、後ろから声をかけられた。
「今日の現国って小テストあったっけ?」
「んー。なかった気がする。でもあったとしたら117pの【葉】がテスト範囲だよ」
「おっけ。ありがとね」
なにやら今日のテスト範囲を知りたかったようだ。学校では優しくて頭の良いパーフェクトヒューマンとして振る舞っている僕は、よくこうした質問を受ける。体よく利用されているのは分かっているのだが、別にそれでこちらが困っているというわけでもないので、毎回素直に教えている。
一度断って相手がどんなリアクションを示すか確認してみたいという気持ちもあるが、今の立場を捨ててまで試すようなことではないので、やるつもりはない。
そういえば、チャイムが鳴ったのに先生が来ない。今日は朝のホームルームがないのだろうか。
ドタドタドタ
教室の外から、忙しない足音が聞こえてきた。
おそらく先生だろう。
「すまんっ! 遅れた。各々授業の準備があると思うから今日のホームルームはカットだ。提出物があるやつは今先生に出してくれ。それでは解散!」
そうしてしばらくすると、(おそらく誰かが提出物を出さないか待っていたのだろう)先生は去っていった。
―あいつ必死すぎない?
―頑張ってんだからそんな事言うのやめなさいよ
―でもさー
周りは今の先生に対して色々話しているようだ。あんま興味ない。
それより僕は、これから始まるであろう恒例の寸劇に頭を悩ましている
「ユウト君。今日はあなたのためにお弁当を作ってきたんだけど、昼休みどうかしら?」
「ありがとう。でも、いっつもみんなで食べてるんだから、わざわざ確認しないでもみんなで食べようよ!」
「いえ、そういうことではなくて、私は二人で食べようと……」
「ちょっと雪! 抜け駆けは禁止って言ったでしょう?!」
「あら、私は純粋に友達として2人でご飯を食べる時間を取りたいだけなのだけれど、何か問題があるのかしら?」
こんな具合だ。よくこうもいろんな人の視線に晒されてる中でこんな事ができるなと、僕が思うのはそれだけだ。
ただ、周りの奴らはそうは思わないようで……
―なんであんな奴があの二人に言い寄られるんだろうな
ーあいつでいけるなら俺たちにもいけるんじゃないか?
―それな。てかこんなとこでやるなよな。見てるだけで恥ずかしいわ
3人目の意見に関してはめちゃくちゃ同意したい。
「よっ」
後ろからのしかかられた。
僕にこんなことをするヤツなんて2人くらいしかいない。しかもそのうちの1人は別のクラスだ。つまりこいつは
「……どうしたハルト」
「用がないと話しかけたらだめなのか?」
「別にそういうわけではないよ」
こいつの名前は山本晴人。当然ながら僕の同級生で、且つ気を使わずに喋れる数少ないうちの一人だ。正直あのハーレム野郎の百倍イケメンだと思うし、実際モデルもしてるので合っていると思うが、クラスでは何故かあまりモテない。ワイルド系のルックスなので、もしかしたらこわがられてるのかもしれない。
「というより、俺の席の周りがちょっとな。さすがにあのなかで居座れるほどメンタル強くないわ」
そう言われて彼の席の周りを見てみると、そこにはユウト達がいた。
「ってことだから、授業始まるまではこっちいていいか?」
「うん、そういうことなら全然いいよ」
調子に乗るので絶対に言わないが、こいつと話すのは嫌いじゃないしな。
「やっぱ神様仏様
ほら調子に乗った。
「てかお前、朝川口さんと話してなかった?」
そう言われ記憶を遡る。そういえば、国語の小テストの内容について聞かれたような気がしなくもない。
別に隠すようなことでもないのでそのまま伝える。
「で、それがどうしたの?」
「いや、あの人が男としゃべってんの珍しいなーって思って。ギャルっぽいと思いきやめっちゃガード硬いし。実際水島がガン拒否されてんの見ただろ?」
水島というのはユウトの苗字だ。
「僕が偶然前の席だっただけで他意はないでしょ」
「いや、お前俺とは系統違うけど顔整ってるからわんちゃんないかなーって」
何かと思えばそんなくだらないことだった
「僕のこと好きかもって言いたいわけ?」
「いや、まあストレートに言うなら」
やはりこいつは馬鹿だ。
「そんな関わりが無い人のことなんか好きになるわけないじゃん」
「まぁそうか、じゃあなんでもないわ」
そんなこんなでくだらないことを話していたら、そろそろ授業が始まりそうになった。
「あいつらまだあそこいんのかよ……」
ハルトの席の周りにはあいも変わらずユウト達が居座っている。
「うし! さすがに邪魔だから言ってくるわ」
そう言ってハルトが離れたため、僕はまた一人になった。
授業もそろそろ始まるし、準備でもするか。
そう思い、使い古された教科書を片手に、机の盤面を整えた。
✩✩✩
授業を受けていると、後ろからツンツンされた。
川口さんだ。授業中に何をしているのだろうか。
(次のところわかんないから教えてくんない?)
(いいけど、川口さんがわかんないなんて珍しいね)
(昨日バイトで予習の時間なかったの)
(なるほど)
そういうことなら教えるのもやぶさかではない。
(そこは追尾弾と操縦弾の2択になるんだけど、問題文でエキスパート隊員って言われてるから自由性の高い操縦弾で良いと思う)
(あー、なるほどね。ありがと)
どうやら納得してくれたみたいだ。我ながら素晴らしい説明。これは首席間違いなしだな。
✩✩✩
「それでは授業は終わりだ。昼食を挟んで戦闘訓練があるから、隊を組んでる者たちはその隊で、ソロは自由に移動してくれ。いつも通りだが、ソロはソロ同士で組んでも構わない。それでは解散」
先生の合図で授業が終わり、生徒達は仲のよいもので固まり始める。
かく言う僕もそのうちの一人で、ハルトのところへ移動した。
「ご飯食べよ」
「いいぜ。でも購買買いに行くから付いてきてくんね?」
「りょーかい」
購買で買い物を済ました僕たちは、いつも通り教室の隅で昼食を食べ始めた。
「にしても、そろそろランク戦もあるからチーム組まねーとな」
「わかってるんだけど、僕たちは確定として後2人がね」
「俺等どっちも戦闘員だから、1人はコーチにしなきゃいけないしな」
隊は戦闘員3人、コーチ1人の4人で構成される。これ以上でもこれ以下でもランク戦には出れない。
また、戦闘員のなかにも役割があり、近距離
基本的な隊はこれらが満遍なく一人ずついる隊なのだが、オール近距離の真島隊や、オール中距離の長嶋隊、果てにはオール遠距離の柊隊なんてものまでいたりする。
この役割というもの、基本凡人は一つしかこなせないのだが、僕は遠中距離どちらでも対応できる。
狙撃者
追尾弾
拳銃
相方とも言えるハルトも近距離戦ではトップクラスの実力を誇り、刀牙
こうしてみると、僕たちはなぜチームメイト探しに苦戦しているのか分からない。
バランス含め、上位も狙えるチームだと自負しているのだが。
「んじゃまあ、今日も俺等は二人で組むか」
「だね。ここで焦って中途半端な人入れても後々困るだけだし」
「てか、冬馬なら一人くらい目処ついてると思ってたんだけどな」
「僕だって仲良い人そんな多いわけじゃないんだから、見つかるわけないじゃん」
ちなみにうちのクラスでランク戦参加できるランカーレベルなのは、僕たちと川口さん、ついでにユウトと雪さん、春美さんくらい。川口さんはなんかのランクで上位にいるみたいだけど、あのちゃらんぽらんたちの実力は知らない。
「まじめに考えて俺たちに足りないピースってなんなんだ? セオリー通り行くなら遠距離中距離近距離で組むべきだけど、うちにはお前がいる。これと言ってほしいポジションは今のところない気がすんだよな」
「それは僕を買いかぶりすぎだよ。一人の遠距離と組んだ一人の中距離と僕が戦ったら、手数の問題で僕が負ける。思い切って近距離に全振りして僕がいろいろカバーするってカタチにしても良いけど、理想を言うならやっぱ中距離か遠距離が欲しいよね」
いくら僕とはいっても、それなりの実力者に二人で狙われたら防戦で精一杯だ。
「あー、どっかにめっちゃ強くてうちのチーム入ってくれるランカーいねぇかなー」
「それを僕らは探してるんでしょ」
高望みしていても仕方がない。とりあえず今は戦闘訓練のことだけ考えておこう。
✩✩✩
ここで一つ、この学校についての説明をしておこう。名前は防衛基地アトラス。中学から大学、果てにはアラサーまで所属している。
六月から始まる
等級としては、
ビギナー
ランカー
トップランカー
エキスパート
エンペラー
の4つがあり、チームランク戦に参加できるようになるのはランカーからだ。何かのランキングでトップ100に入ればトップランカー。10位を取ればエキスパートといった感じで等級は上がっていく。まぁ、名前見たら分かる通りエンペラーは1位だけが貰える称号だ。なんでこんな厨二臭い名前にしたのかは甚だ疑問だが。
ちなみに、トップランカーなどと言ってはいるものの、ランク戦に参加するチームには、必ず1人はトップランカーがいる。名前から想像するほどたいそれた立場ではないのだ。
「まぁ、それを込みにしてもかなり上澄の僕らがチームすら組めてないってのは異常なんだけどね?」
「いきなりどうした冬馬」
「んーん。まぁ、強いていうなら神様に返事してたみたいな?」
「余計意味わかんねぇよ……」
申し訳ない。一人暮らしの弊害がここにも出てしまった。
「で、今日は何やるんだ? また俺らでタイマンでもすんのか?」
「まぁそれでもいいんだけどさ、今日はちょっと意趣を変えて戦舞
「いや、それはこの前チーム組めてる友達いないから無理だって諦めたじゃねえか」
「実は、僕の友達が最近チームを組んだんだ。頼んだら試合してくれるらしいから、今日はそこと試合をしようかなって思って」
リーダー以外知り合いじゃないし、そもそもそのリーダーとも色々あって気まずいことは言わないでおこう
「まじか?! いや、そりゃ戦舞ができるならやりたい。てかやらせてくれ」
「そんな喜んでくれるならこっちも試合組んできた甲斐があったよ。来るのは30分後とからしいから、僕たちはそれまでアップでもしてようか」
そんなこんなでアップを開始して30分後、時間ぴったりに約束の相手が現れた。
***
「久しぶり。大体三ヶ月くらいかな?」
銀の髪と真っ白な肌、引き締まったプロポーションと、美しさを体現したような少女がこちらに声をかけてくる。
「久しぶり。なんかまた背高くなった?」
「あんだけ私のことを避けといてよくそのテンションで会話できるね。こっちは散々待たされてるのにさ」
あ、やっぱ怒ってた?
(おいトーマ。お前この子になんかしたのか?全然友好的じゃないんだが)
(いや、アトラスに来る前から6年くらいはずっと一緒にいたんだけど、こいつこの見た目だから目立つじゃん?それで三ヶ月くらいLIMEされても話しかけられても無視してたんだよね)
(お前よくそんな相手に頼めたな?!これ不慮の事故を装って殺されたりしないか?)
「さっきから何小声で喋ってるの?こっちにも聞こえる声で喋ってよ」
「ごめんごめん。会えなかったのは個人ランク戦で色々忙しかったからなんだ。でも、実際それのおかげで追尾弾ランクで3位まで行けてるでしょ?」
実際ランク戦で忙しかったのは事実だ。
「忙しかった割には隣の子とはよく遊んでたよね。しかも私が話しかけようとしたら露骨に目逸らしてたし。忙しかったからといってそこまでする必要あった?」
ゾッとするほど低い声に、周囲の空気が冷たくなっていく。
(おい!これ本当に戦舞できるのか?全然そんな雰囲気じゃないんだが?!)
(いや、僕もなんか無理な気がしてきた)
(やっと戦舞できるかもっていう俺の期待を返してくれよ?!)
そんなこんなで小声で喋ってると、急に彼女がクスクスと笑い出した。
「ぷっ、あはは。ごめんごめん。別に私もそんなに怒ってないよ」
なんだこいつ。え、てかよく考えたらなんで僕がハルトと遊んでるの知ってるの?
考えれば考える程謎は深まるが、考えたら負けな気がするので、僕は考えるのをやめた。
「とりあえず自己紹介していいか?俺もあんたのことは冬馬からの話でしか知らないんだ」
「そうだね。二人で盛り上がっちゃってごめんなさい。私は柳アリス。一応拳銃ランク6位だよ」
この前会った時は7位だったのだが、気付かぬ間に一つ上がっていたようだ。
「俺は山本晴人だ。刃牙ランクは4位」
二人の間に微妙な緊張感が流れる。
「ところで、柳の仲間はどこにいるの?てっきりメンバー全員で来ると思ってたんだけど」
「この中で友達なの私とトーマだけだからね。一応私たちで打ち合わせしといた方がいいかなーって思って」
「もしかして俺いない方が良かったか?2人で話したかったら1人で刃牙でもいじっとくけど」
え、こいつと2人になるの久しぶりすぎて気まずいからいてほしいんだけど
「そうしてくれるとありがたいかも。私はいいんだけど、もしかしたらメンバーから、じゃあ私たちも呼んでよって言われちゃうかもしれないし」
「いや、ぼくはいてほしいんだk」
「やっぱそうだよな。じゃ、俺はあっちで刃牙いじってるから、あとは頑張れよ」
そういったハルトは、どこか申し訳なさそうにこちらをみてきた。
くっそ、そんな顔されたら流石に責めれないじゃんか
てかそれより、なんかアリスさんの顔が怖いんですけど
「じゃ、なんで私のこと避けてたのか、じっくり聞かせてもらうね」
再び、周囲の空気が冷たくなり始めた。
・・・
「つまり私と一緒にいると目立つから、あんまり一緒に行動したくないってこと?」
「いや、はい、そうです」
可愛らしく首をコテンと傾けながら言ってくるが、やってることは全く可愛くない。
結局、あの後僕は一時間くらい尋問されてた。最初の方はそれっぽい理由を並べていたのだが、途中で
「あ、これ言い逃れできないやつだ」
って気付いて、正直な理由を話すに至った
「理由はわかったけどさ、避けられると私も悲しいから、これからは普通に喋ってよ」
「それはもちろん。というより、もう目立っちゃいけない期間は終わったから、元々また話しかけようとは思ってたんだ」
「本当かなー?」
嘘に決まってる。
でも、段々と普段のアリスに戻ってきたようで安心する
「てか、こんだけメンバー待たせてて大丈夫なのか?もう一時間くらい経ってるけど」
ハルトは刃牙いじってるらしいから大丈夫だと思うけど、せっかく呼んだ柳のメンバーに申し訳ない。
「え、メンバーなんかいないよ?」
は?
「え、いや、どういうこと?チーム組めたから試合どう?って送ってきたよね」
「そのくらいしないとトーマ来てくれないかなって思って、アハハ」
申し訳なさそうにしているが、それなら最初からやらないでほしかった。
「まあでも、今回ここに来たのはチームと全く関係ないってわけではないんだよ?」
「その用事ってのはなんなの?ハルト待たせてるから早く行きたいんだけど」
少し棘のある返答になってしまったのはご愛嬌だ
「まどろっこしいの嫌いだから単刀直入にいうね、私とチーム組む気ない?」
・・・
「てことで、チームに入った柳アリスちゃんでーす。いえい」
「はぁぁぁ?!試合する相手じゃないのかそいつ。まさか強奪したのか?」
「それには複雑な事情がありまして」
別にそんな複雑ではないんだけど
「メンバーは探してたから別にいいんだけどよ。流石にびっくりしたぜ」
「山本くんも騙しちゃってごめんね。ずっと待たせちゃったし」
アリスも巻き込んでしまったことを反省はしているのだろう。申し訳なさそうにハルトに謝った。
「別に、それは刃牙いじってると一瞬だったからいいんだ」
お前は本当にそれでいいのか山本晴人。
「でも、実際に戦ったことがある冬馬と違って、俺は柳の実力を知らないし、柳も俺の実力は知らない。本当にチーム組むってんなら、一旦お互いやり合ってみないか?」
もっともな意見だ
「つまりは今から私と山本くんでランク戦をしようってこと?」
「いや、別に実力を知れればいいからプライベートマッチでもいいんだ。とにかく、この目で実力を確かめるまで、俺は柳とチームは組めない」
こいつはこうなると割と頑固だ。実際、口頭でしか実力を伝えられていない今、実際に確かめるまで信用できないと言うのはこの学校においては正しい価値観だ。初対面で騙されたせいで、柳への印象は良くないはずだし。
「そこまで言われたら私も引き下がれないかなぁ。やるのはいいけど、負けても言い訳しないでね?」
「こっちのセリフ」
気づいたらなんかバチバチになってるし。でも、この二人の相性が悪そうって言うのは二人と関わりのある僕ならある程度予測できたことではあるんだよね。ここは暫定リーダーとして厳しく言ってやらねばならない
「なんか勝手に進めてるみたいだけど、今後組む予定なんだからそこまで激しいルールではやらせないからね?やるとしても、ハーフ*2を一試合。これが聞けないようなら試合は許さないから」
珍しく強い口調で喋る僕に、柳もハルトも少し面食らってる。いやまぁ、僕がこんなに言うのにも一応理由はあるんだ。説明する気はないけど
「お前がそんだけ言うなら従うよ。ただ、ハーフだからって手を抜くのはなしだからな」
「そっちこそ。とりあえず試合は40分後からでいい?」
「あぁ。審判は冬馬に頼む。流石にこんなことに先生は巻き込めねぇからな」
「りょーかい。贔屓はしないから安心してね」
こうして、とんとん拍子で試合の予定は決まった。
どちらもランキング上位のランカーなのだから、レベルの高い試合になるのは予測できる。ただ、根本的に銃手が近距離武器に強い関係上、もしかしたら案外あっさり試合は決まってしまうかもしれない。まぁ、ハルトがそんな簡単にやられる訳ないから、注目するべきはそこかな。
・・・
「チッ」
脳裏によぎるのはあの女、柳アリス。冬馬のことを呼び捨てするだけに飽き足らず、6年間も一緒に行動してるときた。その時点で俺からしたら大罪だ。結局、俺があいつと決闘をしたかったのは。冬馬の前で、あんな女より俺が優れてることを証明したかっただけなのかもしれない。
勘違いされるかもしれないから弁明しとくが、別に俺は同性愛者ではないし、恋愛対象は女だ。だから、別に冬馬のことはそう言う目では見てない。ただ、こんな俺と3年間も付き合いを続けてくれてる冬馬のことは大切にしているし、不利益を被るようなら何があっても守るつもりだ。
柳アリスがただの女だったら、俺だってこんな決闘なんてするつもりなかった。軽く模擬戦闘の映像見て強そうだったら採用するし、弱かったら採用しない。それだけでよかった。なんなら、どこか不安定な冬馬に仲の良さそうな女子がいることを喜んだかもしれない。
ただ、ことあいつに限ってはそれは適用されない。柳アリスは確かに強い。俺はその実力を確かに知っているし、チームに必要なピースであることも理解している。人間的にも基本は良いやつであることはわかってるし、周りからの評価も高い。これだけ聞くと、むしろチームに入れるべき存在に見えてくるだろ?
でも違うんだ。さっき離れた時に観察して、疑問は確信に変わった。あいつは、柳アリスは、どうしようもないほどに、
神
・・・
トーマと最初に会ったのは、ここ、アトラスに連れてこられるよりずっと前のことだった。今思い返しても、酷い出会い方だったと思う。
当時小学生だった私は、その髪色から異物として扱われていた。物を隠されるなんて日常茶飯事、酷い時は授業中に髪を後ろから切られることもあった。
親身になってくれる先生だけが唯一の味方だった。当時の私はそう思い込まされていた
そんな時だった、クラスに転校生が現れたのは。私と違って黒い髪に、整った顔。なんだかんだ面倒見が良いことも合わさって、クラスで人気者になるのにそんなに時間はかからなかった。その転校生の存在は、私にとっても暗雲に光る月のような物だった。誰にでも分け隔てなく接する彼は、私にも優しく接してくれた。困っていたら助けてくれたし、先生と一緒に話も聞いてくれた。当時同級生から優しくされる経験のなかった私にとって、それはあまりにも甘美なものだった。だからだろうか、わたしが、騙されてることに気づけなかったのは。
***
「アリスちゃん、放課後、君に伝えたいことがあるんだ。他の人に聞かれるのは恥ずかしいから、体育館裏の倉庫に来て欲しい」
今思えば、告白するのが倉庫って時点でおかしかったんだ。でも、当時の私は浮かれていて、そんな簡単なことにも気づかなかった。
彼の言葉通りに体育館倉庫を訪れると、そこには二つの人影があった。そう、一人ではない、二人だ。
「せ、先生?なんでこんなところにいるんですか?」
「なぜって?フフフ、なぜか?それはねぇ!」
そうして憧れの人、湯田
「君を、犯すためさ!」
「え?」
ブチッ
言うと同時に、先生は私の服を破いた。
「じ、冗談ですよね?」
「冗談な訳があるか。君を見てからずっと、僕はこうなることを待ち望んでいたんだ」
そう言いながら、自分のチャックに手を伸ばす先生を前にして、恐怖心が限界に達した私は、
そうだ、すぐるくん
どう考えてもこの状況で絶対に頼ってはいけない人に、頼ってしまった。
「すぐるくん?すぐるくんは私の味方だよね?!見てるだけじゃなくて助けてよ!!!!」
そう叫ぶ私に、彼は今まで向けたこともないような冷たい視線をぶつけてきた。
「なんで僕が君なんかの味方をしなきゃなんないのさ。あぁ、ちょっと優しくしたから勘違いしちゃった?ごめんね、僕、君の体以外に興味ないから」
近づいてくるすぐるくんに、今度こそもうどうしようもないことを悟った。
「いや、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その後のことはあんまり覚えてない。ただ確かなことは、私の憧れと純潔は、あの日に散らされたと言うことだ。
***
その日、夜中に解放された私は、帰路に着く最中、自分がなんなのかわからなくなっていた。
ブランコを漕ぎながら自問自答する。
(私って何?柳アリス?先生の肉便器?すぐるくんの性奴隷?ちがう。ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう
「もう、しのうかな」
憧れの相手も、頼れる相手も敵だった。じゃあこの世界に、私の味方なんているわけがないんだ。
「さよなら、まま、ぱぱ」
そうして、ブランコの1番高いところから身を投げ出した私は、
ポスッ
怪我することも、死ぬこともなく、同い年くらいの男の子に受け止められた。
なんで、
「しなせてよ、わたしもうつかれたよ、なんでみんなわたしのじゃまするの?すきにいきることがゆるされなければ、しぬことすらゆるしてくれないの?」
私の言葉を聞いた男の子は何も言わずに黙っている
「なんで、なんでわたしばっかひどいめにあわなきゃなんないの?!」
男の子は黙っている
「きらわれないようにみんなにあわせて!いやなことされてもなにもやりかえさないで!それでもわたしはいじめられなきゃいけないの?!」
男の子は、それでも黙っていた
「だまってないで、なんかいってよ!」
夜の静かな公園に、私の声が響く。
そこで、男の子はようやく口を開いた。
「僕がここで軽々しく言えることはないと思う」
やっぱり、私に味方なんて、
「逃げたきゃ逃げればいい。逆らいたかったら逆らえばいい。望みがあるなら、僕に言えばいい。僕のこの両手でも、人一人くらいなら助けられる。逆に言えば僕にできるのはそれくらい。でも、その少しが助けになるっていってくれるなら、僕に、君を助けさせてほしい」
「わたしを、たすけてくれるの?」
「僕で良いなら」
「私、髪の色変だよ?」
「僕は好きだ」
「もしかしたら、きみもいじめられるかもしれないよ?」
「喧嘩上等。目の前の女の子一人助けられないことの方が僕は嫌だ」
「そもそも、わたしたちはじましてじゃん」
「どんな関係も、最初はゼロから始まってるんだよ」
言葉一つ一つが、傷ついた私の心に沁みていくのを感じる。いや、言葉なんてどうでも良かったのかもしれない。
初対面の私をここまで慮ってくれる人がいることが、ただただ嬉しかった。
「だけど、僕が助ける上で一個だけ約束してほしいことがある」
「なに?」
男の子が、顔を近づけてくる
「絶対に自殺なんかしないこと。遺族が悲しむんだから、自殺だって立派な殺人だ。それをした時点で、君は君をいじめてきた人たちより遥かに劣った存在に成り下がっちゃう。どんなに苦しくても、死にたくなっても、僕が絶対に助けるから」
「っ、うん!」
どうせ一人しかいない家に帰るのが嫌で、その日は男の子の家に泊めてもらった。久々に人肌を感じながら寝れたその夜のことは、今でも鮮明に覚えている
自覚するのに時間はかかったんだけど、私がトーマを好きになったタイミングは、結局ここだったんだと思う。興味のない有象無象に愛想良くしてるのも、命の危険があるアトラスに来たのも、全てはトーマのため、
だからさぁ、困るんだよね。私以外の人間がトーマの隣にいるのは。
彼と話をすると、高確率で出てくる名前がある。山本晴人。自称、彼の親友だ。そんなわけがない、だってトーマの親友も、彼女も、お嫁さんも、全部全部ぜーんぶ私のものなんだから
今はまだ遠い夢。でも、いつか絶対に叶える夢。
そのためには、あの程度の男倒せなくてなんだってんだ。
愛銃のアイビーを磨きながら、銀のヒョウは静かに牙を磨いていた。
***
アトラス公式データベースより
山本晴人
メインウェポン:刃牙
サブウェポン無し
STR 9/10
AGI8/10
先天スキル:超加速
サブウェポンで中距離への牽制手段を持つのがセオリーである刃牙使いとしては異色の刃牙単。ただ、アトラス平均の5を大幅に上回る基礎能力や、扱いの難しいスキルを上手く利用することから、ボーダーでも屈指の実力を持つ。親が魔獣災害で殺されている
評価A➕
柳アリス
メインウェポン:拳銃
サブウェポン:小刀。煙幕
スキル:可視化
STR6/10
AGI9.5/10
基本にスタンダードな生徒。愛銃のアイビーの精度もさることながら、サブウェポンで入れてる小刀による近接戦闘もかなりのもの。基本は成績優秀、素行優秀で周りからも愛される生徒なのだが、過去に起きた事件から神冬馬に執着している節がある。親が魔獣災害で殺されており、父型の祖父に養われていたが、件の事件以来、アトラスに行くまでは神冬馬の家に滞在する事がほとんどだった。
評価A
神冬馬
メインウェポン:スナイパー。追尾弾。拳銃
サブウェポン:煙幕。仕込み刀。撒菱
スキル:アイテムボックス。超動体視力
STR4/10
AGI10/10
アトラス史上初のメインウェポン三つ持ち。誰かを疎かにするどころか、どれもトップレベルのランカーなのがすごいところだ。スキルを二つ持っているのも、あとらす内ではかなり珍しい。両親を魔獣災害で亡くしている。また、引き取ってもらった母方の祖父母も魔獣災害で亡くしたことから、アトラスに行くまでの3年間、多くの時間を柳アリスと二人で過ごした。アトラスに来てからは、山本晴人といることが多いようだ
アリスがトーマに花を贈るなら、アイビーか黒百合。
ハルトがトーマに花を贈るなら、フリージアかガーベラ
トーマが二人に花を贈るならふじのはな
人は見た目と口調によらないよねって言う話。
相互好感度
トーマ→アリス ?/10
アリス→トーマ 15/10
トーマ→ハルト ?/10
ハルト→トーマ 11/10
???→トーマ ?/10
トーマ→??? ?/10
一旦1日で二話上げます