よう実 √松下   作:レイトントン

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第10話

 無人島試験で、綾小路くんはついにその実力を本格的に発揮し始めた。

 自らリーダーを買って出た上に、12箇所ものスポットの占有に成功した。他の皆にはまだ話してないけど、Aクラスのリーダーも看破したということだった。

 バレーの時も思ったけど、綾小路くんは私の想像を遥かに越えて優秀だ。手を抜いてさえいなければ、確実にAクラスに配属されていた、どころかリーダーにすらなれていた人だ。

 私とDクラスの面々は運が良い。

 

「綾小路くん、あんなにスポットを占有してくるなんて、凄いよねホントに」

「平田くんと綾小路くん、イケメンでクラスのために頑張ってくれてるなんてカッコよすぎ。他の男子とか、勝手にリタイアしちゃった高円寺くんとは大違いだよ」

「でも2人とも彼女いるんだよね〜」

 

 他グループの女の子から、そんな声が聞こえてくる。その度、私は優越感を得る。まあ、偽装カップルなんだけど。

 綾小路くんさえ良ければ、私は普通のカップルでも構わないんだけどな。あーあ、焦ってたとはいえ、なんであの時仮の恋人契約なんて提案しちゃったんだろ。

 今更「やっぱ普通に付き合わない?」って、ちょっと言いづらいんだよね。

 綾小路くんから提案してくれないかな。……無理か。

 

 綾小路くんだったら、学年トップクラス、例えば一之瀬さんなんかも狙えるだろうしなあ。

 

「どうしたの?」

「いや、彼氏がモテすぎるのも考えものだよね」

「ああ、めっちゃ分かる……」

 

 平田くんというハイスペック彼氏を持ち、同じ悩みを共有できる軽井沢さんとは、最近かなり仲が深まってきた。最初はカースト最上位の彼女に取り入れられれば安泰だと思い、近づいていたに過ぎない。けど、二人きりで話してみると、案外話しやすいんだよね、これが。

 彼女はそれほど学力は高くないけど、馬鹿じゃない。というか、地頭はかなり良い。たまにする頭空っぽ発言は、平田くんたちが望む方向に話を持っていくための手段に過ぎない。

 

「綾小路くんって、やっぱり最初は手を抜いてたの?」

「そうみたい。本気出すのが面倒だったんだって。でも、クラスポイントの仕組みを知ってから、そうも言ってられなくなったんだ」

「そりゃあそうだよね。毎月0円で生活なんてできないもん」

 

 そんな話をしながら、私たちは薪を集めたりの簡単な仕事に就く。テントも限られているし、暖を取るためにも火は大事だ。

 皆、何かしらの仕事をしている。していないのは、多少熱があるのでテントで休んでいる堀北さんと、もう一人だけ。

 山内くんが拾ってきた、Cクラスの伊吹さん。クラスメイトと揉めて、拠点を追い出されてしまったらしい。

 はっきり言って胡散臭いけど、平田くんを始めとして皆が受け入れているのに異を唱えることはできなかった。それに、無人島で女の子1人、っていうのは罠だとしても見捨てづらい。

 

「Cクラスの生徒を紛れ込ませて大丈夫なのかな?」

「そう思うよね。でもまあ、占有用の端末には近付かないように注意してあるし、リーダーが誰かは分からないようにしてあるからね」

 

 軽井沢さんも、私と同じ気持ちのようだ。

 平田くんは善良な人だけど、だからこそこうして付け入る隙はある。けど、それは仕方ないことだ。ここで伊吹さんを見捨てる人なら、ここまでクラスの大半の人が着いてはこない。

 疑うのは他の人……私や綾小路くん、堀北さんがやればいい。

 それに言っちゃなんだけど、綾小路くんほどの人が、伊吹さんにリーダーだと気取られるようなことがあるだろうか。

 そこに関しては、正直少しも心配してはいない。

 

 一仕事を終えたところで、拠点の一角が俄かにざわついていることに気がつく。軽井沢さんと向かってみると、Cクラスの男子がなにやら池くんたちと揉めていた。

 またCクラス。須藤くんとの件といい、伊吹さんの件といい、何かと問題の多いクラスだ。

 彼らはポイントを節約する私たちを挑発し、スナック菓子やジュースを飲み食いしている。安っぽい挑発。でも、多くの生徒は反感を覚えていた。

 彼らは夏休みを満喫したかったら浜辺にこい、と言い残して帰って行った。

 

「どうする?」

「Cクラスの動向は見ておきたかった。オレは行く」

「なら、私も着いていくよ。堀北さんにも声かける?」

 

 綾小路くんは、堀北さんに目をかけている。ある種、弟子を取っているような気持ちなのかもしれない。彼女の方は体調が悪いとはいえ、試験開始直後からしばらく寝ていたこともあるし、もう大分回復しているはず。

 

「そうだな。体調に問題がなければだが」

 

 綾小路くんの言葉を受け、堀北さんを誘いにいく。彼女はまだ若干気怠そうではあったけど、Cクラスの様子を見に行くくらいならなんでもない、と同行する意思を示した。

 

 ということで、私、綾小路くん、堀北さんの3人でCクラスに指定された浜辺へ向かった。

 そこでは、Cクラスの子たちがポイントを浪費し、遊び倒している異様な光景が広がっていた。

 

 呆然とする中で、Cクラスのリーダー、龍園くんから声をかけられる。

 

「よお、不良品ども。どうだ、絶景だろ?」

「あなた、何を考えているの?」

「見て分からねえか? 我慢大会なんざ参加するだけ無駄だってことだ」

 

 龍園くんは悪びれもせずにそう言う。なるほど、真嶋先生が言ってたけど、この試験のテーマは『自由』。遊んで過ごそうがなんだろうが、問題ないってことね。

 けど、この戦略は得られたはずの大量のポイントを手放すにも等しい。大差で先行しているAクラスならともかく、下位であるCクラスが取る戦略じゃない。

 この龍園くんがリーダーらしいけど、ただ愚かなのか、それとも何か狙いがあるのか。

 

 綾小路くんは、龍園くんを興味深そうに観察している。一方、堀北さんは龍園くんの軽薄な態度にヒートアップしていた。体調不良で冷静な判断がつかないらしい。

 

「鈴音はお気に召さなかったみたいだが、お前らカップルはどうだ? お得意のビーチバレーを楽しんで行ったっていいんだぜ?」

 

 龍園くんは私と……いや、綾小路くんに話を振った。

 多分、私のことなんか眼中にない。認識くらいはしているだろうけど、綾小路くんのオマケくらいにしか思ってはいないはず。ちょっとムカつく。

 

「楽しそうだが、遠慮しておく。オレと松下に満足に対抗できそうな奴らもいないみたいだしな」

「言うじゃねえか。面白い奴だな、綾小路。特別棟のカメラはお前の差し金か?」

「なんのことだ?」

「すっとぼけやがって。まあいい、Aクラスを倒したら、その後で遊んでやるよ」

「Aクラスを倒す? この有り様では夢のまた夢ね」

 

 口を挟んだ堀北さんに対して、龍園くんは心底馬鹿にするように鼻で笑う。

 

「気が強い女は嫌いじゃねえ。屈服した時が楽しみだぜ」

 

 堀北さんは不快感を露わにして、もう聞くことはないとばかりに龍園くんに背を向けた。

 

「龍園くん。伊吹さんのことなんだけど」

「あいつがどうかしたか?」

「ここを追い出されて、今私たちのクラスの拠点にいる」

「はっ、でかい口を叩いておいて、他クラスに面倒見てもらってちゃあ世話ねえな。あいつは俺に反抗したから、ここから追い出した。まさかお前らに拾われてるなんてな」

「反抗の理由は?」

 

 遊びのない直接的な質問に、龍園くんは初めてジロリと私を睨め付けた。

 

「俺の独裁が気に食わねえんだとよ」

「そっか。伊吹さんもそんなこと言ってたかな。それはホントなんだろうね」

「クク、何が言いてえんだ? 松下」

「伊吹さんって、龍園くんが送り込んだスパイじゃないよね?」

 

 誰だって一度は考える可能性。それを直接、首謀者と思われる相手に問いかける。普通なら、こんなに愚かなことはない。

 けど、私も心理戦、洞察力にはそれなりに自信がある。もし、龍園くんが少しでも綻びを見せてくれたら。

 

 龍園くんは、私の質問に大笑いで返す。

 心底愉快そうだ。

 

「鈴音や綾小路だけじゃねえ。小粒だが、お前もまあまあ面白いな、松下。良いぜ、あいつがスパイだと思うんなら拠点から放り出しても構わねえ。どうせ最後は俺に泣きついてくるんだ」

「そっか、龍園くんがそう言うなら、野垂れ死ぬこともなさそうだね。安心してそうさせてもらうよ」

「俺が言うのもなんだが、冷てえ女だ。良いのかよ、綾小路。乗り換えたければ他の女を見繕うぜ?」

「悪いが、松下と別れることは考えてない」

「はっ、気が変わったらいつでも相談しな」

 

 そんな会話を最後に、私たちもCクラスの拠点から離れる。

 あえて核心を突いて龍園くんのリアクションを見ようと思ったけど、てんでダメだった。

 分かったのは、伊吹さんに対して特に何かを期待しているわけではなさそうだ、ということだけ。スパイと疑うのなら放り出しても構わない、という言葉に、嘘はないように思える。

 

 伊吹さんが龍園くんに憎しみを持っているのも本当。けど、このルールの試験で、自クラスに潜り込む他クラスの人間がスパイじゃない、なんて楽観的なこと、私には考えられない。

 自分の思う通りには動かない人間を、追放ついでにスパイとして放ってはみたけど、その成果に期待してはいないってことなのかな。それもなんか、しっくりこない。

 

「龍園の動揺を誘うつもりだったのかもしれないが、松下にしては性急だったな。何か思うところでもあったのか?」

「ごめん、私も何か役に立たないと、と思っちゃって。ミスったなあ」

 

 龍園くんには特に何の感情もない。けど、綾小路くんに期待されている堀北さんへの対抗心がなかった、といえば嘘になる。堀北さんの能力は素晴らしいものがあるけど、まだ結果を残せているとは言い難い。精々、勉強会で須藤くんたちの面倒を見ていること、監視カメラの偽装という戦略を取ったことくらい。

 もしここで、私がCクラスのリーダー当てに貢献できたら。堀北さんへの期待が、少しでも私に向くんじゃないか。そんな風に思ってしまった。

 

 成果を急ぎすぎた。龍園くんはクラスのリーダーだけあって、頭脳戦、心理戦にも長けている。向き合って分かったけど、正直、私では歯が立たない。無駄に相手を警戒させるだけで終わってしまった。

 

「松下にはいつも助けられてる。気に病む必要はない」

「ありがと、綾小路くん。でも、これは私自身の問題だから」

「……龍園は伊吹を戦略の鍵とはしていない。これが分かっただけでも、さっきの質問に価値はあった」

 

 励ましの言葉が続くとは思ってなかったから、ついつい綾小路くんの方を見る。

 相変わらずの無表情だけど、私を慰めようとしてくれているのが分かって、嬉しくなる。綾小路くんなりに、彼氏役として色々頑張ってくれているんだろう。

 

「いやあ、綾小路くんは良い彼氏だね」

「松下だって良い彼女だ」

「さっきの言葉も、実は嬉しかったんだ。龍園くんに、別れるつもりはないって言ってくれたでしょ?」

「まあ、実際そう思っているからな」

 

 この恋人契約の期間は、どちらかに本当に好きな人ができるまで。綾小路くんには、一向にそういった気配はない。

 

「ところで、伊吹はどうする。本当に追い出すつもりはないんだろ?」

 

 普段私は綾小路くんの指示に100%従う。けど、どうやら今回、伊吹さんの件については私に方針を決めさせるみたいだ。

 

「まあ、龍園くんの手前ああ言ったけど、さすがに無人島で1人にするのはね。綾小路くんなら伊吹さんにリーダーだと悟られるようなことはないでしょ?」

「ああ、そこは抜かりない」

 

 なら、伊吹さんを追い出す必要もない。拠点に他クラスの生徒という爆弾を抱えておくのも不安ではあるけど、伊吹さんも可哀想だし、平田くんと方針で揉めるほうが面倒だ。

 

 そんなことを思いながら拠点に戻ると、しかしそこに伊吹さんの姿は見えなかった。

 

「あれ? 伊吹さんは?」

 

 遂に仕事を手伝う気になったんだろうか。そう思っていたら、平田くんから思いがけない言葉を聞くことになった。

 

「伊吹さんはリタイアしたよ。やっぱり僕らに迷惑をかけられないって。気にすることはない、って止めたんだけど、聞き入れてもらえなくてね。でも、無人島に1人でいるよりは、リタイアして船に戻ったほうがよかったのかもしれない」

「……そっか」

 

 龍園くんの指示、だよね。タイミング的にも。

 追い出してみろって煽ったり、今度は自分でリタイアを促したり。これじゃ、伊吹さんがスパイだったって私たちに言っているようなものだ。

 龍園くんの考えが分からない。でも、ひとまずCクラスにリーダーを的中される確率はグッと減ったと思って良い、はず。

 

 私に迷いを残しながら、伊吹さんはDクラスの拠点を去った。

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