よう実 √松下   作:レイトントン

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第11話

 試験が始まった初日、最初の占有から8時間が経過し、スポット更新に赴く際のこと。

 

「須藤。ちょっといいか」

「おう! どうした綾小路。なんか手伝うか?」

 

 須藤からのオレへの好感度は、堀北ほどではないにしろまあまあ高い。

 須藤の赤点回避に協力したこと、暴力事件で肩を持ったこと。そして、松下と付き合っているということで、堀北の彼氏である線が消えたことが大きいのだろう。

 

「ああ。スポット巡りを手伝ってくれ」

「スポット巡りぃ? 何すりゃいいんだ?」

「数人の生徒と一緒に、スポットまでついてきて更新をしたフリをする。オレ1人だとリーダーがバレるかもしれないからな」

「なるほどな……よく分かんねえけど、体力使う仕事なら任せとけ!」

 

 結構噛み砕いたつもりだったんだが、よく分かんねえで済まされてしまった。まあいい。

 

「よろしく頼む。それで、須藤から見て運動能力が高そうなクラスメイトっているか?」

 

 オレの方でも目星は付けているが、他の意見も聞いてみたいところだ。特に須藤は身体能力が学年トップクラス。こいつから見て他の生徒がどうなのか、知っておいて損はない。

 

「あいつはどうだ? ほら、弓道部のよ」

「三宅か」

「そうそう。あー、あとは平田と、高円寺のヤローくらいか……」

 

 挙げるべき対象が少なすぎて、須藤が若干苦手とする平田、犬猿の仲である高円寺の名前を口にする。うちの男子の身体能力の低さが浮き彫りになったところで、須藤は女子の方を挙げ始めた。

 

「女子はもちろん堀北と、あとは小野寺じゃねえかな」

 

 小野寺は水泳部の生徒だ。短い髪が特徴的なスポーツ少女。

 なるほど。オレの考えとほぼ同じだな。しかし高円寺はリタイアしているし、平田はクラスのまとめ役として、ベースキャンプを離れるわけにはいかない。堀北は体調不良気味だ。

 須藤チョイスから3名外れてしまったが、代わりに実力を隠していた松下を入れる。

 これでメンバーは選抜できた。

 

 俺は須藤以外に三宅、小野寺、そして松下に声をかけ、5人組でスポットの占有に動いた。

 スポットは8時間で占有の効力が切れる。その後に再度カードキーを翳して、再度占有する必要がある。これを1度行うごとに1ポイントが加わる。

 たかが1ポイントとはいえない。試験期間の7日間、8時間おきにスポットを更新できれば、1箇所につき最大21ポイントのボーナスが手に入る。

 Dクラスはクラスポイントで現在ぶっちぎりの最下位。ポイントを得る機会を逃す手はない。

 

「くそ、思ったより歩きづれーな」

 

 オレが先行して枝や草を掻き分けているが、それでも後続の4人は大変そうだ。こんなに深く森に入ることなんて普通はないからな。

 

「綾小路はよく平気だな。道を作ってくれているのに疲れた様子がない」

「1度歩いた道だからな。体が覚えているんだろう」

「それだけじゃないだろ。綾小路、体力あるんだな。あまりそういう印象はなかったが、バレーも上手いし、メータージャンパーだって噂で聞いたぞ」

「マジかよ!」

 

 三宅はオレの様子をつぶさに観察し、真偽の分からなかった噂と照らし合わせることで、オレの身体能力に気付き始めているらしい。

 確かに、プールでのビーチバレーの時はそのくらい跳んでたかもしれない。

 メータージャンパーと聞いて須藤が露骨に反応している。ジャンプ力はバスケでも重要な要素だからな。

 

「そういえば、水泳の授業でも見たけど、凄い体引き締まってたよね。何かやってたの?」

 

 小野寺も、三宅の意見を補足するようにそう発言する。さすが水泳部。プールでは周りをよく見ていたようだ。

 

「綾小路くんは空手と柔道をやってたんだよ」

「そうなんだ! じゃあもしかして喧嘩とかも強かったり?」

「喧嘩なんてする気はないが、空手と柔道の試合ならそれなりにはできるつもりだ」

「クラスに武道をやってたやつがいるとはな。部活には入らないのか?」

 

 部活か。茶柱先生と一之瀬は、部活で優秀な成績を残した者にはプライベートポイントやクラスポイントが与えられることもある、なんて言っていた。

 だが、今のところ部活に入る予定はない。恐らく、クラスへの恩恵で言うなら、堀北学の下で生徒会に入るのが最も大きいはず。それも面倒だから断ってしまった。

 

「色々親にやらされていたからな。どれに入ったらいいか分からない」

「ピアノと書道、茶道もやってたって言ってたし。綾小路くんって多芸だよね」

「すごっ。でも、それなら迷っちゃうのも分かるかも」

 

 ピアノ以外は全てこの学校に部活動のある種目だ。小野寺は腕を組んで唸る。 

 

「迷っているなら、弓道部はどうだ? 先輩たちも結構緩いし、気軽に始められるぞ」

「水泳部もいいよ。割とガチだけど、だからこそ真剣になれるっていうか。泳ぐと気持ちいいし!」

「待て待て、それならバスケ部に入れよ、綾小路。そんなジャンプ力あるなら、小宮たちなんかすぐブチ抜いてレギュラー候補になれるって」

 

 急に勧誘大会が始まってしまった。部活に入るつもりはないが、せっかく誘ってもらったんだ。体験入部くらいなら楽しむのも悪くないかもな。

 

 ふと、後ろの松下がくすくすと小さく笑っているのに気付く。

 

「引っ張りだこだね。彼氏が大人気で私も鼻が高いよ」

 

 道中、そんな会話を続けながら、スポットの占有に勤しんだ。

 

 

 

 

 試験6日目。無人島試験を通して、オレたちDクラスの絆は順調に深まっている。協力して何かを為すこと。同じ釜の飯を食うこと。同じ目標に向けて努力すること。こうした体験は大いに役立った。

 あの孤独少女堀北でさえ、体調不良から回復して以降の仕事ぶりから、クラスの輪に受け入れられ始めている。

 

 堀北本人としては、体調不良でダウンしていた分の失点を取り戻したかったのだろう。そして、高円寺のように仮病でもなく、体調が優れない中でもリタイアせず決してクラスポイントを削るような真似をしない彼女に対して、辛く当たる者はいなかった。

 

 結果、堀北は遺憾無く能力を発揮し、加えて体調不良の負い目からか、あるいは特別試験での協調の重要性に気付いたからか、ともかく態度が多少は軟化した。あくまで多少だが、今まで固く閉ざされていた彼女の心の扉が僅かに開いたことに変わりはない。

 

「堀北、なんかちょっと優しくなったんじゃないか?」

「別に。私は必要なことをしているだけよ」

「そうか。前は不要と断じていたものを、必要と判断できるようになったのは大きな成長だな」

「あなた何様のつもり?」

 

 白旗のように両手を挙げて降参のポーズを取る。コンパスはさすがに持ち込めてないはずだが、目が怖いぞ。

 

「まあいいわ。それより、スポットの占有はどうなの?」

「Aクラスに奪われたスポットもあるが、このまま順調にいけば、最終日にはボーナスポイント150は得られるだろうな」

「……間違いなく、今Dクラスに最も貢献しているのはあなたね。全く、事なかれ主義が聞いて呆れるわ」

 

 堀北はオレの概算を聞いて上機嫌だ。

 もしリーダーが当てられたら、ボーナスポイントはもらえないんだが、随分と楽観的なことだな。勝ちを確信しているのか?

 だとしたら甘いことだ。多少は成長したようだが、まだまだ。いつかオレが居なくなったとしても、このクラスを引っ張れるだけの存在になってもらう。

 

「どうしたの。何か不満でもある?」

「いいや。他のクラスも順当にポイントの節約、スポットの占有を続けているみたいだな。Cクラス以外は」

「ええ。こんな試験が今後、あと何回あるかも分からないのに。数少ない機会を自ら捨てるなんて、愚かだわ」

 

 オレは中々面白いと思うがな、0ポイント作戦。

 Cクラスは初日にポイントをすべて吐き出し、2日目にはほぼ全員がリタイアした。

 

 龍園の考え方は、どことなくオレと似通った部分がある。ルールの裏をかき、穴を突く。必要とあらば手段も選ばない。

 

 そんな男が伊吹のスパイ行為を簡単にやめさせたのには理由がある。スパイの可能性のある人物を排除することで、Dクラスの油断を誘うこと。リーダー情報が漏洩する可能性が著しく減ることは、Dクラスの弛緩を生む。特に、龍園に直接スパイを指摘した松下やその場に居合わせたオレには効果的だと考えるだろう。

 

 そして、龍園は誰も信用していない。伊吹をスパイにしたのも、成功すれば良し、失敗しても並行している策があるので良し。その程度の認識だったはずだ。 

 Cクラスはほぼ全員がリタイアしたが、リーダー当てのため、まず間違いなく龍園は島に残っている。

 

「……雨、か」

 

 降り出した雨。雨足はかなり強く、周囲の音もかき消される。頃合いだな。

 

「そろそろ更新の時間だ。行ってくる」

「……ありがとう。こんな雨の中でまで島中駆け回るなんて、頭が上がらないわ。風邪を引かないようにね」

「変なものでも食べたのか?」

「素直な感謝の言葉も受け取れないの?」

 

 尻を蹴られつつ、オレはスポットの占有に向かう。

 

 始めの2、3日こそスポットの周辺にはAクラスの生徒たちが見張りに立っていたが、占有の際に三宅たち身体能力の高い生徒を伴い、誰がリーダーか分からない状態での更新を続けた。見張りも無駄だと気付いたのだろう、やがてAクラスの生徒たちは占有用端末の周辺には姿を見せなくなった。

 

 念の為ということで、4日目まではそれまでと同じ体制での更新を続けたが、やはり集団行動では移動速度が落ちる。何ヶ所かのスポットは更新前の隙を突かれ、Aクラスに奪われてしまった。

 

 そうした事情もあり、昨日、5日目からはオレ1人での占有に動いている。今日は雨だし、集団で行動していれば全てのスポットはとても回れなかっただろう。

 雨で物音を聞くことも困難だ。

 

 だからこそ、龍園はそのチャンスを逃さない。

 

 

 試験が終わった。

 オレは島から特別試験を終えて戻ってきたクラスメイトたちを、船の上で出迎える。

 

「綾小路くん、大丈夫?」

「あんな雨の中スポット占有してくれたんだもんね、体調崩すのもしょうがないよ」

 

 クラスメイトたちから、そんな心優しい言葉をかけられる。実際は体調に支障などまるでないが、せっかく心配してくれているんだ。ひとまずその言葉を受け取っておく。

 

 無人島試験の結果はこうだ。

 

 Aクラス 120ポイント獲得

 Bクラス 140ポイント獲得

 Cクラス   0ポイント獲得

 Dクラス 374ポイント獲得

 

 これが発表された瞬間のDクラスの絶叫は、船の上にいても聞こえてきた。散々苦渋を舐めてきたDクラスの大勝利。興奮するのも仕方ない。

 ここまで喜んでもらえるなら、オレも働いた甲斐があったというものだ。

 

「皆ごめんね。綾小路くん、風邪で辛いだろうから、話はまた今度にしてあげて」

 

 興奮気味のクラスメイトたちを抑えるように、松下が言葉で制する。さすが、気配り上手だな。

 病気をしている彼氏を心配する彼女。その言葉を疑う者はいない。皆を解散させた松下を、風邪を引いたという設定のオレに用意された個室に案内する。

 扉が閉まった途端、松下に抱きしめられる。冷静であろうとしつつも、喜びを抑えきれない様子だ。

 

「さすがだよ、綾小路くん。まさかたった1回の試験で、こんなに他クラスとの差を埋めるなんてさ」

「ルールが良かった。やり方次第で大量得点も夢じゃない試験だったからな」

「大量のスポット占有、そしてリタイアによるリーダーの変更……他のクラスからしたらたまらないだろうね。龍園くんなんて、1週間島に潜伏してまでリーダーを当てようと躍起になってたのに」

 

 リーダー名が『松下千秋』のキーカードを取り出しながら、松下はそんな言葉を口にする。

 各クラスの最終ポイント、オレのリタイアによるリーダー変更から、オレや他クラスがどのように動いたのかおおよその計算を弾き出したらしい。1日目には成果を出そうと焦っていたようだが、やはり優秀だ。

 

「高円寺、そしてCクラスの生徒たちが良い先例になってくれた。リーダーという立場上、単なる仮病ではリタイアが認められない可能性も僅かにないではなかったが、雨が降ったのは好都合だった」

 

 雨の中スポット占有のため島中を走り回り、体を冷やしたため体調を崩した。こんな都合の良い言い訳も立つ。

 龍園を誘き出すきっかけにもなった、恵みの雨だ。

 

「またまた。無人島に降りる前には天気予報だって確認してたじゃん」

「確かに確認はしていたが、7日後の雨予報の的中率は70%ほどとされている。あまり当てにはしていなかったがサブプランの1つとして組み込んではいた。それが使えるようになったのが好都合だった、そういう意味だ」

 

 無人島で試験をする可能性がある以上、天候は重要な要素だと考えていた。一応1週間の雨雲レーダーと2週間予報までは確認していたが、今回は1週間の試験中6日目の予報が的中したので、それを利用させてもらっただけだ。

 ちなみに島の所在地は、学生証端末に設定されている、連絡先を交換した相手の位置情報が知れるサービスを利用して特定した。

 松下が「浮気を疑う行為があったら、この機能常にオンにしてもらおうかな」なんて言ってたが、さすがに冗談だよな?

 

「龍園も雨を待っていたのは同じだっただろうな。雨の日は足場も悪くスポットを回る効率が落ちる。その日に焦点を当て、Aクラスの見張りを3日目まででやめさせた」

「なるほど……私たちが集団での占有が不要と思い始めた、そのタイミングでの雨。見張りがなくなれば、効率のためにリーダー1人で占有に動く可能性も十分にある、と考えてたってことだね」

「それに、雨音でカメラのシャッター音を消すのも目的の1つだっただろうな」

 

 CクラスとAクラスは繋がっていた。

 Cクラスはポイントを全消費し豪遊したかに見せかけ、購入した物資のほとんどをAクラスに譲渡する。

 そして、B、Dクラスにスパイを放ち、Aクラスにリーダー情報を提供する。Aクラスがどんな見返りを用意したかは知らないが、Cクラス、いや龍園も中々の働き者だ。

 

 だが、恐らくはメインの契約は物資の譲渡の方だろう。リーダー情報の受け渡しは、決定的な証拠を押さえることができた場合のみ。

 雨が降らなければAクラスへのリーダー情報の提供は諦めていたはずだ。

 

「Cクラスで最後まで島に残っていたのは龍園くんだけだった。リーダーも当然龍園くんなんだろうけど……伊吹さんがリタイアしたのに、彼がリーダー情報を持っていたのは、やっぱり」

「ああ。龍園自身がスポット周辺に、24時間張り込んでいた。単純だが、強力な一手だ」

 

 0ポイント作戦の強み。それはCクラスの生徒たちのリタイアからも分かる通り、失うポイントが存在しないということだ。

 点呼の不在によるペナルティも、当然存在しない。スポットを占有すれば島への潜伏がバレてしまうため、占有こそできないが、他クラスが拠点以外のスポットを占有する瞬間を押さえることはできる。

 むしろ、6日間を過ごす中で龍園がただサバイバル生活をしているだけだった、という方が考えづらい。

 

「単独での占有を再開した5日目には、オレがリーダーだったことを把握していただろう。もし雨が降らずとも、Cクラスはリーダーを的中できる。雨が降れば占有の現場を撮影し、リーダー情報をAクラスに提供できるようになり、追加報酬を得られる。恐らくだがそんなところだろうな」

 

 やはり似ているな、オレと龍園の思考は。

 だからこそ、この男は警戒しなくてはならない。

 

「けど、綾小路くんはリタイア。30ポイントマイナスにはなったけど、リーダー変更によって本来的中されていたはずのところを、逆に相手クラスのペナルティに持っていけた。占有でのボーナスポイントも大量にあるし、完全勝利ってわけだね。いやあ、言葉が出ないよ」

「彼女になった甲斐はあったか?」

「ありすぎて不安になるくらいにね」

 

 それはよかった。

 寝たら体調が回復した、という言い訳を伴いながら、夕方には俺と松下は再び豪華客船の施設を遊び尽くした。

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