よう実 √松下   作:レイトントン

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第12話

 無人島試験はDクラスの勝利に終わった。

 クラスポイントは来月から461ポイント。0ポイントだった頃と打って変わって、もうCクラスを射程に捉えたといっても過言じゃない。

 その立役者が、私の彼氏、綾小路くんだ。

 

 なんだけれども、今回彼は自らが行ったリーダー当てを、堀北さんの成果としてクラスメイトたちには報告した。

 自分はスポットの占有、堀北さんはリーダー当て。功績を分配することで、自らが他クラスから狙われづらくすることが狙いだと、彼は語った。

 

 でも、他にも理由があるだろうことは、私にも察しがついた。

 

 無人島試験での働きぶりに、堀北さんとクラスメイトたちの溝がなくなりつつある。この状況で、クラスポイントを大量に獲得したという成果をあげれば、堀北さんが平田くんに並ぶクラスのリーダーとして受け入れられることに繋がってくる。

 

 堀北さんをリーダーとして矢面に立たせ、育成すること。それが綾小路くんの考えじゃないだろうか。

 

「ああ、その通りだ。さすがだな」

 

 私の語った推測を、綾小路くんはいつもの無表情で肯定する。

 

「今のDクラスの実質的なリーダーは平田だ。あいつも高い能力、カリスマ性を持っているが、少し甘過ぎるところがある。が、堀北が潜在能力を発揮し、リーダーとなれば問題は解決だ。堀北自身も他クラスと競い合うことで、成長が見込める」

「綾小路くんが陰からサポートしてあげればいいんじゃない?」

「オレがいつでも手を貸せるとは限らないからな」

 

 特別試験の内容次第では、綾小路くんの指示を受けられない場合がある、ということかな。

 

「分かった。その時は私も頑張るよ」

「ああ。クラスの皆を助けてやってくれ」

「あ、いたいた。おーい、松下さん、綾小路くん!」

 

 話の途中で、軽井沢さんから声をかけられる。平田くんを伴いながら、私たちの座るテラステーブルまでやってくる。

 

「これからあたしたちご飯なんだけどさ、一緒に食べない?」

「いいね。綾小路くんは大丈夫?」

「ああ。よければご一緒させてもらう」

 

 先日のダブルデート以来、私、綾小路くんペアと軽井沢さん、平田くんペアで食事する機会が増えた。もちろん、無人島試験中はそんな余裕はなかったけど、豪華客船内ではよく行動を共にしている。

 私と軽井沢さんは元々同じグループだし、平田くんはどこか綾小路くんを買っているところがある。クラスについての話し合いもできるし、この4人で集まることが増えるのは、自然といえばそうなのかもしれない。

 

「綾小路くん、無人島試験ではありがとう。クラスが一致団結して終われたのは、君と堀北さんのおかげだよ」

「クラスの一員として働いただけだ。平田こそ、オレが勝手にリーダーになるのを承諾してくれたよな。本当は皆で話し合いたかったはずなのに。ありがとう」

 

 互いに礼を述べる、綾小路くんと平田くん。Dクラスのリーダーと、彼に最も信頼されている生徒。いいコンビだね。2人ともイケメンだし、目の保養になる。

 

 軽井沢さんが見つけたという鉄板焼きのレストランに入店し、それぞれ注文する。来月から40000以上のポイントが入ることになっているとはいえ、現在Dクラス生徒の懐は寂しい。無料で利用できるのはありがたいよね。

 

「無人島試験を通して、クラスが一丸になってきている気がするよ」

「少なくとも、試験の前よりはチームワークができているのは事実だな」

「男女仲ほんとに悪かったもんね。今は普通ってところかな?」

「あたしはまだ、山内くんとかはキライだけどね」

 

 それは多分みんなそう。

 平田くんは苦笑いしていた。フォローの鬼の彼でもフォローし切れないみたいだ。

 

 昼食を終えて少し雑談していると、私たち4人の端末に同時にメールが届いた。

 いや、私たちだけじゃない。店内にいる生徒全員が端末を取り出している。

 それだけじゃない。恐らくは船全体に、アナウンスが響き渡る。

 

『生徒の皆さんにご連絡いたします。間もなく特別試験を開始いたします。各自、メールで指定された部屋に、指定された時間にお集まりください』

 

 特別試験。無人島試験が終わってまだ3日だというのに、もう次が来た。

 周囲がざわついているのも無理もない。

 けど、私たち4人は比較的冷静だった。ここにはクラスリーダーの平田くん、無人島試験で大活躍した綾小路くんがいる。軽井沢さんは女子グループのまとめ役だし、私はこの3人のサポートを十分にこなすだけの能力と関係性がある。

 

「もう次の試験か。とりあえず全員でメールの内容を確認し合おう」

 

 綾小路くんの提案で、私たちは学校から届いたメールを見せ合う。テンプレートを作ってあったようで、そのほとんどが同じ文章。違うのは、集合場所と時間だけだ。

 ただ、綾小路くんと軽井沢さんだけは、全く同じ文章だった。つまり。

 

「幾つかのグループに分けられていて行う試験。綾小路くんと軽井沢さんは同じグループってこと、かな」

「綾小路くん、軽井沢さんをよろしくね」

「よろしく、綾小路くん」

「ああ、よろしく」

 

 軽井沢さんは少し安心した様子だった。細かくグループが分けられるのであれば、軽井沢さんの本領、女子グループをまとめ上げる力は発揮しづらい。平田くんという彼氏と別グループなのも不安要素だったけど、綾小路くんと一緒だったのは幸いだった。

 この試験に退学がかかっているかどうかはまだ分からないけど、綾小路くんなら上手く軽井沢さんのカバーに入れる。

 

 まずは18時。綾小路くんと軽井沢さんのグループの集合時間を、そわそわしながら待った。

 

 

「綾小路くん、試験ってどんな内容なんだろうね?」

「そうだな……現段階では予想もつかないが、夏休みにペーパーテストってことはないんじゃないか?」

「そっか、ならちょっとだけ安心かも。あたし勉強苦手なんだよねー」

 

 それは普段の成績から分かっていることだ。隣で話す女友達の顔を見ながら、記憶の中の情報を呼び起こす。

 

 軽井沢恵。平田の彼女で、松下と同じグループの女子。クラスの中でもカーストは最上位であり、グループの取りまとめ役でもある。

 学力や運動能力は松下には及ばないが、彼女にはない求心力のようなものを持っている。

 

 松下と付き合ってから、平田・軽井沢とのダブルデートをきっかけに付き合いの増えた相手だ。入学当初と違い、それなりに話す仲になった。しかし、まだ謎の多い存在でもある。

 今も、なぜか微妙に距離が近くて困惑しているところだ。さすがに腕を組むようなことはされていないが、くっ付いていると言われても否定できない近さ。友人同士とはいえ、彼氏彼女でもない男女間の距離でこれは正しいのだろうか?

 

 彼女も、オレが松下の彼氏だということは分かっているはず。一体どのような意図があるのか。

 

「あ、あの部屋じゃない?」

「そうだな」

 

 思考をひとまず中断して、メールで指定された部屋に入る。

 集合の5分前。中にはすでに3人の人影があった。

 一番奥には、学年主任の真嶋先生。その右手には、幸村と外村、Dクラスの生徒が座っている。

 

「残りのメンバーは、綾小路と……軽井沢か」

「あの2人が残りのメンバー?」

 

 幸村、軽井沢は互いに少し顔を顰めている。オレや先生の手前騒いだりはしないが、軽井沢と、勉強熱心で堅物な幸村とは相性が悪い。

 

「なぜ綾小路殿と軽井沢嬢が共に? しかもやけに距離が近いですな……これはまさか修羅場というやつでは!?」

「オレと松下、平田と軽井沢の4人で飯を食っていた。その時メールが来て、同じグループだと分かったから一緒にきた」

「ダブルデートってやつでござるな? くぅっ、爆ぜろリア充!」

 

 爆ぜろ、のところをやたらカッコいい声で叫ぶ外村。軽井沢や幸村は目を白黒させ、真嶋先生は眉間を押さえている。

 

「失礼します」

 

 待たせるのも悪いので、軽井沢に促し席に座る。

 

「……揃ったな。よし、それではこれより、特別試験の説明を行う」

 

 軽井沢が不安そうにこちらを見ているが、おとなしく説明を聞いておくように、事前にある程度の打ち合わせはしてある。ここはおとなしく先生の説明を聞いてもらおう。

 

 真嶋先生に説明された試験内容はこうだ。

 

・1年生全員を干支に見立てた12のグループに振り分ける

・各グループにはA〜D全クラスの生徒が、それぞれ3〜5人ずつ集められる

・試験は『優待者』という存在を軸に進む。試験開始当日の午前8時に一斉にメールし、優待者に選ばれた生徒には同時にその事実を伝える

・試験期間は明日から4日後の午後9時まで。1日の完全自由日を挟むため、実質2日間

・1日2度、指定された部屋・時間にグループ内での話し合いを行う

・試験の解答は試験終了後の午後9時30分から午後10時までの間のみ、メールで受け付ける。解答は1人1回のみ

・試験結果は以下の4通りである

 

結果1 グループ内で優待者及び優待者の所属するクラス以外の全員の解答が正解していた場合、グループの全員に50万プライベートポイント、優待者に100万プライベートポイントが支給される

結果2 優待者及び優待者の所属するクラス以外の全員の解答で、誰か1人でも未解答や不正解があった場合、優待者に50万プライベートポイントを支給する

結果3 優待者以外の生徒が試験終了前に解答し正解した場合。正解した生徒に50万プライベートポイント、所属クラスに50クラスポイントを支給する。また優待者の所属クラスは50クラスポイントを失い、その時点で試験終了とする。優待者の所属クラスの生徒が解答した場合は無効

結果4 優待者以外の生徒が試験終了前に解答し不正解だった場合。解答した生徒の所属クラスは50クラスポイントを失い、優待者は50万プライベートポイント、優待者の所属クラスは50クラスポイントを支給され、その時点で試験終了とする。優待者の所属クラスの生徒が解答した場合は無効

 

 結果1と2が発生する可能性は、3と4に比べて低い。

 クラス間競争の肝はクラスポイントの獲得にある。優待者が分かったら、まず間違いなく結果3を狙って告発が起きることになるはず。

 目指すべきは、自分たちは優待者の的中。他のクラスには優待者指名を外させる。

 あくまで理想ではあるが。

 

「うわあ、ルール難しくない?」

 

 まとめた内容以外にも、禁止事項等がこと細かに資料に記載されている。軽井沢だけでなく外村も慌て気味だ。幸村は問題なく理解しているようで、その優秀さが窺い知れる。

 

「人狼ゲームは知っているか? あれを思い浮かべるといい」

「人狼ゲームかあ、一時期流行ったよね! 綾小路くんはやったことある?」

「いや、ないな」

「そっか。じゃあ今度、みんなでやろうよ!」

 

 なんだか軽井沢がいつもよりやけにフレンドリーというか、心理的にも距離感が近いような気がする。幸村、外村からも懐疑的な視線が飛んでくるのを感じる。

 

「良かったー、綾小路くんと同じグループで。退屈そうな試験だもんね」

「退屈している暇なんてないだろ。無人島試験で大量にポイントを獲得した今、上手く優待者を当てられれば、俺たちは上のクラスに上がれるかもしれないんだぞ」

 

 幸村が軽井沢の何気ない言葉に注意する。おいおい、と思ったが、軽井沢の反撃は予想以上に苛烈だった。

 

「はあ? そんなのあんたに言われなくても分かってるっての。大体、他のクラスに迫れたのだってあんたじゃなくて綾小路くんや堀北さんのお陰じゃん。ね、綾小路くんなら優待者も当てられるでしょ? 無人島試験では凄かったし!」

 

 幸村に心底冷たい態度を取る軽井沢。幸村はブチ切れ寸前の表情だ。真嶋先生の手前耐えているようだ。突っかかったのは幸村とはいえ、ちょっと可哀想ではある。真嶋先生、外村も同情するような顔付きだ。

 せっかくクラス内の空気が良くなってきているんだ、お互いにその態度はやめてほしい。

 

「いや、オレだけの力でなんとかなるとは限らない。皆の協力が必要だ。幸村も外村も、もちろん軽井沢もだ。全員で力を合わせて勝とう」

「え〜。まあ、綾小路くんが言うなら……」

 

 口ではそう言っているが、全然だめだ。軽井沢と幸村からオレへの印象は悪くないようだが、それ以外の関係性が壊滅的だ。

 コミュニケーションに難のあるオレが言えたことじゃないが、なんてチームワークのないクラスなんだ、Dクラスは。

 

「はあ……この後4人で話し合うぞ。少しでも試験への対策を立てたい」

「あ、ごめんあたしたちパス。行こ、綾小路くん」

 

 特別試験にパスなんてシステムがあったとはしらなかった。

 なんて冗談も口にできないまま、軽井沢に腕を引っ張られて退室を迫られる。幸村の血管が切れないか心配だったが、ここで軽井沢との関係を悪化させれば、幸村より関係修復に手間がかかりそうだ。

 オレは視線で幸村への謝罪を残して、腕を引っ張られるまま退室した。

 

 このグループで2日、完全自由日も含めれば3日も試験をしていたら、胃に穴が空きそうだ。さっさと終わらせるか。

 

 

 軽井沢と別れ、平田、松下、堀北に試験内容の説明があったことをメールする。試験内容についてはこれから説明を受けることになるから、ざっくりとした説明しかしない。

 

 さて、松下については心配いらないだろうが、堀北と平田が一緒のグループだというのは少し気になるところだ。様子を見に行ってみるか。

 20時30分頃になると、平田から聞いていた20時40分集合のグループが集まる客室の前には、既に何人かの生徒が集まっていた。

 やはり、各クラスリーダー格の生徒で固められている。

 Aクラスの葛城、Bクラスの神崎、Cクラスの龍園。Bクラスのリーダーは一之瀬のはずだが、オレと同じ兎グループだった。とはいえ神崎は一之瀬の側近、右腕ともいえる人物で、この面子に交じっていても違和感はない。

 Dクラスからは堀北、平田、櫛田。Dクラスでも指折りのメンバーだ。

 

「このメンバーであなたが選ばれなかったのは意外ね」

「お前と平田、櫛田なら妥当な人選だろ。オレは初めのひと月はだらだらやってたからな。その影響じゃないか」

 

 いつの間にやら隣にきていた堀北の言葉に、オレなりの推論を述べる。一之瀬がオレと同じグループなあたり、何かしらの作為を感じるところもあるが、根拠はなにもない。

 

「よう綾小路。このグループから外された気分はどうだよ」

 

 オレの姿を認めた龍園も、挑発を織り交ぜながら近づいてきた。

 

「ここはまさに死のグループってやつだな。選ばれなくてほっとしているところだ」

「はっ。そんなタマじゃねえだろ、食えねえヤロウだ。まあ、今回は鈴音と遊ばせてもらうとするが、いずれはてめえを潰してやるから覚悟しておけ」

「あなたと遊ぶつもりはないわ。悪いけど今回の試験も勝つのは私たちよ」

「お前が俺に勝つって? 無理だな。無人島試験じゃ綾小路におんぶに抱っこだったんだろ?」

 

 一応、敵クラスのリーダー当ては堀北の成果ということにしてあったのだが、この程度の偽装工作は龍園には無駄だったようだ。あっさり看破されてしまっている。

 

「彼が優秀なのはその通りね。でも、私があなたより下になった覚えはないのだけど?」

「なら今回で格付けを終えてやるさ。今から楽しみだぜ、お前の屈辱に濡れた瞳が」

 

 龍園と堀北。互いに視線で牽制し合う2人の睨み合いが数秒続いた。

 それを横目で見ていると、見覚えのあるスキンヘッドの男もこちらに寄り、オレに声をかけてきた。

 

「……綾小路」

「お前は、たしかAクラスの葛城か」

「はじめましてだな。だがお前の噂はかねてから聞いていた。隠していた高い身体能力、学力。能ある鷹は爪を隠すというが、無人島試験でようやく爪を見せたか」

「隠すほど立派な爪じゃない。たまたまだ」

「ふっ、俺の目は誤魔化せん。俺は目下、お前と堀北、龍園を最も警戒している。悪いがAクラスは容赦なくお前たちを潰すぞ」

「Aクラスのまとめ役の1人に、そこまで評価されているとは光栄だな。お手柔らかに頼む」

 

 ふ、と葛城は口角をあげる。

 優秀で実直な男だ。龍園とは正反対のタイプだな。今回はともかく、今後の試験内容次第では龍園よりも厄介な存在になるかもしれない。

 

「時間だな、失礼する。今回お前と直接競えないのが残念だ、綾小路」

「今後いくらでも機会はあるだろう。オレたちもAを狙っている」

「無人島試験の前なら笑い飛ばしているところだが……もはや誰も、お前たちを不良品とは思わん。全力で迎え撃たせてもらおう」

 

 そうして、葛城や他クラスの生徒たちは扉の向こうに消えていく。その先は、各グループの中で最も激しい戦場が広がっている。

 

「堀北、気張れよ」

「言われるまでもないわ」

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