よう実 √松下   作:レイトントン

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第16話

 私は、綾小路くんからのメッセージに目を通す。

 

『龍園と交渉する上でのアドバイスだ。無人島試験で龍園はAクラスと繋がっていた、そのことを思い出すといい』

 

 ……どこかから交渉の場を見てるのかな?

 あまりにタイミングが良すぎる。

 でも、おかげで頭が冷えた。ヒントももらったことだし、もっと考えてみよう。

 

 龍園くんの狙い。それは一体なんなのか。

 綾小路くんのヒントは、無人島試験で、AとCクラスが取引をしたこと。

 内容は、Cクラスからは物資の提供。Aクラスからはプライベートポイントの支払い。そう予想して、龍園くんはそれを肯定した。

 

 ……なるほど。

 よく考えてみれば、この時点で龍園くんの目的が私たちとは根底から異なっていたことが分かる。

 

 私は無人島試験の時、龍園くんの0ポイント作戦を見てこう思った。

『得られたはずの大量のクラスポイントを手放すにも等しい』

 その大量のクラスポイントを手放して得た物はなにか?

 大量のプライベートポイントだ。恐らくは、失ったクラスポイントに相当するような巨額の。

 

 ここから考えられるのは、龍園くんはクラスポイントを、他の生徒ほど重要視していない。それよりもプライベートポイントを求めているということ。

 思えば、最初の条件。告発した報酬である50万プライベートポイントを全て渡せ、なんて無茶な条件にも、龍園くんの考えが見え隠れしていた。

 

 龍園くんの根底の思考。

 そこから、彼のこの試験でのスタンスが見えてくる。

 

「龍園くん」

「なんだ? 随分と考え込んでいたみたいだが、おとなしく条件を飲む気になったか?」

「これは忠告なんだけど、結果1を狙うのはやっぱりリスキーじゃない? やめとこうよ」

 

 私の言葉が届いた瞬間、龍園くんは笑った。

 今までのようにこちらを嘲笑するような笑みじゃない。どちらかといえば、そう。綾小路くんと話している時のそれに近い。そう思うのは私の驕りなのかな。

 

「結果1を狙っていた……!? まさか、龍園くん!」

「バレちまったら仕方ねえな。そうさ、お前らがクラスポイントを得るために結果3に拘るのは構いやしねえ。だが、俺は金を得るため、幾つかのグループは優待者の告発をしない。結果1にコントロールし、大金を受け取らせてもらうぜ」

 

 告発の権利を得たとしても、それを使うかどうか決めるのは龍園くん自身。使わず結果1を目指すのももちろんアリだ。

 

 Dクラスが告発するグループを決めたがっているのは、グループの構成によるもの。

 結果1は、『グループ内で優待者及び優待者の所属するクラス以外の全員の解答が正解していた場合、グループの全員に50万プライベートポイント、優待者に100万プライベートポイントが支給される』というもの。

 Cクラスの生徒が多いグループであればあるほど、受け取れるポイントは増える。そこを私たちDクラスに指名されたくなかったってことだね。

 

 告発する時間を決めるのは、周囲の警戒を少しでも遅らせるため。

 あまり早い段階で、一斉に優待者の告発が起こった場合。間違いなく他クラスの生徒は混乱する。結果、やぶれかぶれに優待者を指名されたり、Aクラスが今の態勢を崩して話し合いに参加し、優待者を見つけ出されることで、結果1に導けなくなるのを危惧してのこと。

 

「あなた正気? クラスポイントよりも目先のプライベートポイントを取るというの?」

「全てじゃねえさ。割合的には半々、3グループずつを結果1と3で分ける。そうすりゃ、お前たちから告発された分のクラスポイントは補填できる。ついでに150万も手に入るしな」

「Cクラスの生徒が4人いるグループ3つを結果1に導いたとしても、得られるのは600万プライベートポイントよ。しかも同時に、他のクラスにもほぼ同額が入る。一方で指名権のある6グループ全てを結果3にすれば、プライベートポイントは300万になるけど、同時にクラスポイントが150増えるわ」

 

 クラスポイントが150増えるということは、クラスメイト40人が毎月頭に15000ポイントを獲得することになる。

 15000×40人=600000。全クラスメイトから毎月この試験で追加された分を徴収すれば、8ヶ月かければ結果1で得られたポイントは賄える。

 3年間しかない学校生活において8ヶ月は長いけど、いずれは回収できる。一方で、ここで結果3を選択しておけば、AクラスだけでなくBクラスもクラスポイントが150引かれる。そうなればBクラスのポイントは653、Cクラスのポイントは642。あと僅かなクラスポイントで逆転できるまで距離を縮めることができる。大抵の人間はクラスポイントを取る選択をするはずだ。

 でも、目の前で不敵に笑うCクラスのリーダーは、その大抵には当てはまらない。

 

「さっきの言葉を返してやるよ、鈴音。てめえは目の前のクラスポイントしか見えてねえ。俺の選択の意味が分からねえなら引っ込んでな」

「……松下さんには、理解できているというの?」

 

 堀北さんは、私に問う。

 

「……うん。龍園くんの考えは分かった」

「……っ、そう。なら、私が口を挟むことじゃないわね」

 

 堀北さんは悔しそうに顔を歪ませる。

 分かるよ。私も、自力で答えにたどり着いたわけじゃない。むしろ、綾小路くんから色々と事前に情報を聞いておいて、土壇場で彼に助けてもらうまで閃かなかった私の方が情けない。

 

「さて、松下。聞かせてもらおうじゃねえか、俺が結果1を狙う理由が分かったって?」

「うん。龍園くんが結果1を狙うのは、その方が私たち1年生全体に配られるポイントの総量が多いからでしょ?」

 

 クハッ、と龍園くんは抑えきれないような笑みを溢す。

 

「おいおいおい、どうなってやがんだDクラスは。不良品の集まりなんてほざいた奴のツラを拝みてえもんだぜ。むしろ最高の玩具じゃねえか」

「褒められた、って思っていいのかな?」

「ああ。お前らカップルはいつも俺を楽しませてくれるぜ。やり合うのが待ち遠しくて仕方ねえ」

 

 龍園くんからそんな好戦的な賛辞を受け取りながら、私は堀北さんに説明するように続ける。

 

「結果3は確かに、自分のクラスに大きなメリットがある。けど、それは他のクラスのクラスポイントを奪い取っているだけで、学校から生徒たちへ与えられるポイントは告発者への50万プライベートポイントのみ。でも、結果1なら?」

「……! 1つのグループを14人とすれば、生徒たちに出回るのは750万プライベートポイント……!」

「そう。それが3つもあれば、総額は2000万を超える。この金額が何を示しているかは……言う必要ないよね」

 

 龍園くんは、他のクラスとの取引でプライベートポイントを毟り取る。そして手に入れた2000万ポイントで、Aクラス行きの切符を手に入れるのが目的なんだと思う。

 

 もちろん、そう簡単にはいかないかもしれない。でも、これだけの巨額をクラスが手に入れた時、使い道は限られてくる。

 得たポイントで豪遊する人はいないだろう。まともなクラス運営ができているのであれば、できる限り貯金しておき、退学者が出そうになった時や試験で必要になった時に都度使用することになる。

 試験で必要になった時。そう、そこだ。学校側へのポイント使用だけじゃない。クラス間の交渉でポイントを使用することだってあるはず。それこそ、無人島試験でのAクラスのように。

 

「龍園くんはAクラスとの取引で大量のプライベートポイントを得ることに成功した。彼は思ったはずだよ。クラス間の取引では、内容次第で莫大なプライベートポイントが手に入ると」

 

 極端な話、2000万ポイントを貯めたクラスがあれば、交渉次第でそれを受け取ることができる。こんな額を学校が出してくれるはずもない。だって、それを手に入れればAクラス行きが確定してしまい、クラス間の競争が意味を成さなくなる。

 

 だからこそ、この試験のように学校側から生徒たちへ、大量のプライベートポイントが支払われる機会を逃すまいと、結果1を求めた。

 

「結果1は私たちにとっても大きな恩恵があるから、本来ならありがたくポイントを受け取ってもいいんだけどね。でも、私は反対。今回は大人しくクラスポイントを稼いだ方が良いと思うな」

「ほう。理由を聞かせてもらおうか」

「やっぱり他クラスの動向をコントロールし切れてないことかな。龍園くんは本来Bクラスも巻き込んで、3クラス合同で協力したかったんじゃない?」

「クク、もうその程度じゃ驚きもしねえよ」

 

 最初に龍園くんは、Bクラスを仲間に引き入れなくていいのか、なんて探りを入れてきていたしね。

 龍園くんは続きを促してきた。

 

「BからDまで3クラスの動向を龍園くんが握ることができれば、結果1は簡単に選べるし、告発のタイミングも自由に決められる。Aクラスは話し合いを拒否しているから、優待者の情報でもない限りは告発はしないだろうからね。けどBクラスと共闘関係にないのであれば、優待者探しの話し合いは続く。そこで有力な情報が出てくれば、AかBが先に告発を行う可能性も全然ある」

「クク。ならCとDも話し合いに参加しねえ、って手もあるんじゃねえか?」

「そんなことしたら、私たちが組んでるのがすぐにバレちゃうよ。それに対抗してAとBが組んだら最悪でしょ? 分かってて聞いてくるなんて、人が悪いなあ」

「人の悪さならお前も負けてねえと思うぜ。お前らはBクラスを引き込む気はねえんだろ?」

「報酬のクラスポイントの取り分が減るからね。同じ理由で、告発を遅らせるのも嫌だなあ。6グループずつ、優待者の法則性が分かったらその時点で告発。これで行こうよ。龍園くんにも損はないでしょ?」

「はっ……まあいいだろう。元々どちらに転んでも問題ない。俺の考えを見抜いた褒美だ、お前の条件に合わせてやるよ」

 

 いやに簡単に引き退る龍園くん。本当に彼の理解力、洞察力は高い。こっちが何を考えているのか読んでいる上、引き際も弁えている。

 私は龍園くんがごねるようなら、他クラスに龍園くんがプライベートポイントでのAクラス行きを狙っていることを暴露する、と脅すつもりでいた。

 龍園くんの狙いが分かれば、他のクラスは交渉でかなり有利になる。生徒たちに出回るプライベートポイントを回収するのに、相当苦労するハメになるはず。

 

 それを読んでいた龍園くんは、この完璧なタイミングで引きさがった。そして、視線で私に警告している。今回は譲ったのだから、今後同じ手段で脅そうというなら容赦はしない、と。

 暴力行為も辞さないCクラスだ。何度も同じネタで交渉を進められるほど甘くはないってことだね。

 

 けど……よかった、今回はなんとかなった。

 交渉のテーブルに立つのって、精神的に疲れる。特に格上が相手だとね。今日はもうぐっすり眠りたい。

 

「堀北さん、今のを踏まえて契約書の作成任せていいかな?」

「ええ……分かったわ。あなたはゆっくり休んで」

 

 その後、すぐに堀北さんは契約書をまとめ、龍園くんと相互確認。問題ないことを確認して、茶柱先生、坂上先生を通し、契約が成立した。一応、綾小路くんにも写真は送っておいたけど、特に指摘はなかった。

 こうしてCクラス、Dクラスで組んだ結果、優待者の情報が6グループ分集まり、綾小路くんがあっという間に優待者の法則性を見つけ出した。全12グループの優待者を告発し、船上試験は1日目にして終了する運びとなった。

 

 Aクラス マイナス150クラスポイント

 Bクラス マイナス150クラスポイント

 Cクラス プラス150クラスポイント プラス300万プライベートポイント

 Dクラス プラス150クラスポイント プラス300万プライベートポイント

 

 現在のクラスポイント

 Aクラス 974

 Bクラス 653

 Cクラス 642

 Dクラス 611

 

 こうして見ると、Dクラスの猛追が顕著だね。自分で言うのもなんだけど、最初が0ポイントだったとは思えない。

 

 見えてきたAクラスの背中。綾小路くんと一緒なら、きっと追い越すことができる。

 そう確信しつつ、私はその日ぐっすりと眠った。

 

 

 試験が早々に終了したため、余暇ができた。私はいつものグループや綾小路くんではなく、堀北さんと会っている。

 

「呼び出して悪かったわね」

「ううん。でも珍しいとは思ったかな。昨日の龍園くんとの交渉についてかな」

「ええ。それもあるわ。良ければ座って」

 

 私は促されるまま、堀北さんの正面に座る。

 

「昨日は見事だったわ。Cクラスとの契約があったからこその150クラスポイント。これは間違いなくあなたの功績よ」

「うーん、功績には興味ないかな。綾小路くんと堀北さんが優待者を見抜いた、ってことにしておいてもらっていい?」

「……数ヶ月前のあなたの彼氏のようなことを言うのね。綾小路くんはともかく、私にも功績を分けようと?」

「不快なら受け取らなくても構わないよ。その場合綾小路くん1人の成果ってことで。私がそこまで活躍しちゃうと、グループのバランスが崩れたりしかねないからさ」

 

 常に一人だった堀北さんには理解しづらいかもしれなかったけど、そのように説明すると彼女は渋々といった様子で受け入れた。

 

「それで? 何か聞きたいことがあったから呼んだんじゃないの?」

 

 私の方から堀北さんに、本題に入るよう促してみる。

 堀北さんは、どこか迷っている様子だ。聞きづらいことなのかな。

 けれど、彼女はやがて意を決したように切り出した。

 

「聞きたいのは、綾小路くんのこと」

「綾小路くんの?」

「ええ。あなたの彼氏は、一体何者なの?」

 

 それが耳に入った瞬間、私の鼓動が早くなった。

 思いもよらない質問……とは、言えない。

 ずっとどこかで考えていた。学力。運動能力。知力。あらゆる面で彼は飛び抜けている。

 初めて話した時、彼は言った。普通の学生のような暮らしを送りたいと。

 普通を目指す、普通ではない彼が一体何者なのか。

 

「綾小路くんは……私の彼氏だよ」

「……そう、あなたも知らないのね。本人に聞いてもはぐらかされるから、あなたならと思ったけど。ごめんなさい、時間を取らせたわ」

 

 そう言って、堀北さんは立ち去る。

 

「綾小路くん……」

 

 君が一体何者なのか。

 気にはなる。知りたい。もっと深く、綾小路くんのことを。

 でも、同時にどこか予感している。綾小路くんには何か触れてはならない部分があると。それを知ったら、多分もう後には戻れない。

 ……私は…………

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