よう実 √松下   作:レイトントン

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第20話

 二人三脚が終わり、騎馬戦が始まる。

 女子の騎馬戦は辛くも勝利を収めた。が、途中堀北騎が包囲されハチマキを取られるなど、ほとんど互角の勝負だったと言える。

 次は男子の番だ。オレは騎手を任されることになった。須藤、平田、三宅とクラス内でも特に運動能力の高い面子で作った大将騎だ。責任重大だな。

 

 開始の合図とともに騎馬が動き出す。

 各地で乱戦が起きる中、やはりオレたちの騎馬は数で囲んで叩くつもりらしい。数騎がこちらへ向かってくる。

 が、女子の部でその戦略は見ている。複数騎を従え、塊となってオレたち大将騎を守らせる。そうして敵騎を抑えている間に、指示を出す龍園騎を狙う。

 

「よう、綾小路。ようやくてめえと戦えるな」

「ああ。オレも楽しみにしていたが、種目が騎馬戦とは運がなかった」

「おいおい、戦う前から泣き言か?」

「いや。これだと一瞬で終わってしまう」

「なに……ッ!」

 

 須藤が山田に突っ込む。激しい衝突。

 龍園のハチマキに素早く手を伸ばす。が、当然これは掴まれる。

 掴まれた腕を強引に振るい、龍園の体勢を崩させるのが狙いだ。騎馬戦の騎手は基本的に高い位置にいる奴が勝つからな。が、龍園はオレの動きを察知して、素早く手を放した。

 

「クク、危ねえ危ねえ」

「おお、やるな龍園。一発で仕留めるつもりだったんだが」

「お褒めに預かり光栄だぜ。礼と言っちゃあなんだが、そのスカした顔を屈辱で歪ませてやるよ」

 

 今度は龍園から掴みかかってくる。オレもそれに対抗し、手を掴み合う、プロレスで言う手四つのような形になる。時間稼ぎのつもりだろうが、こうなればオレの俄然有利だ。

 

「ぐ……てめえ、なんつー馬鹿力だ……!」

 

 苦悶の声をあげる龍園だが、こいつの狙いは最初から自分がオレに勝つことじゃない。

 背後からBクラスの大将、神崎騎が迫ってきている。ゆっくりしてはいられないか。

 

 オレは龍園の両手を力強く握る。握力の差は顕著だ。激痛で龍園の手から力は失われ、拘束が緩む。

 その隙を逃さず龍園のハチマキを取った。何やらぬるっとした感触がしたが、問題ない。

 

 そのままオレは騎馬上で身体を素早く180度回転させ後ろを向く。須藤には負担がかかるが、一瞬で終わらせるから我慢してくれ。

 突然、正面を向いたオレに神崎も動揺し、伸ばした手をあっさり掴まれる。

 

 そのまま力強く引っ張りバランスを崩させ、ハチマキを奪い取った。

 

「くそっ!」

「綾小路……バケモンかよてめえは。クク、ますます面白くなってきたじゃねえか」

 

 大将騎2騎を失った白組にこちらに敵う戦力は残っておらず、赤組は順当に勝利を収めた。

 

 そのまま200メートル走も快勝。このまま行けば、オレと須藤のどちらかは学年最優秀賞を狙えるだろう。

 残すは推薦競技のみ、か。

 

 休憩を挟み、借り物競走に参加する。

 Bクラスの柴田もいるようで、中々激戦区になりそうだな。

 スタートの合図とともに、オレは先頭に躍り出る。柴田を突き放しお題箱に手を突っ込む。

 さて、お題は……

 

『好きな人』

 

 オレは迷わず松下のところへ走る。

 

「松下、頼む」

「うん、分かったよ」

 

 お題の用紙を見せると、松下はすぐに動いてくれた。松下の手を取り走る。

 ……このまま2人で走った方が速いかもしれないが、ふと悪戯心が芽生える。

 

「松下、ちょっと我慢してくれ」

「え? わわっ」

 

 オレは隣で走る松下を抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこの状態だ。

 

「あ、綾小路くん!?」

「喋るな、舌を噛むぞ」

 

 松下はおとなしくオレの腕の中で丸まり、安定感を出すためにオレの首に手を回す。

 会場からは口笛を鳴らす音と歓声が響く。

 そのまま全速力で走り、余裕を持って1位を獲ることができた。

 

「よし」

「び、びっくりした。綾小路くん、いきなりこれは心臓に悪いよ」

 

 松下はそれほど走ってないのに顔が真っ赤だ。言葉とは裏腹に、まんざらでもなさそうだ。可愛いやつだな。

 

「悪い。ちょっと松下との仲を見せつけたくなった」

 

 最近は女子の視線を受けることが多くて大変だったしな。周囲への牽制も込めての行動だ。

 

「そ、そういうことなら仕方ないよね」

「ああ。次の次、二人三脚も頑張ろう」

「ひゃー、心臓もつかなあ」

 

 大袈裟だな。

 こうは言いつつ、松下は二人三脚でそのポテンシャルを遺憾無く発揮した。練習通りのスピードで走れば、オレたちカップルに敵うペアは存在しなかった。あっさりと1位を取る。

 

「あとは最後のリレーか」

「リレーは他より配点が大きいんだっけ。頑張ろうね」

 

 リレーの走者は須藤→平田→松下→小野寺→堀北→オレの順だ。堀北はオレに兄との勝負を託した。兄に勝つため、堀北が見出したクラス最強の組み合わせ。なら、その采配に1つの駒として応える必要がある。

 

「松下、頼みがある」

「うん。なんでも言ってよ」

 

 松下に仕込みを依頼して、オレはアンカーの準備をする。

 

 最終種目、リレーが始まった。

 須藤は圧倒的なスピードで駆け抜け、なんと上級生も差し置いて単独1位でバトンを渡す。受け取った平田も、さすがサッカー部と言っていい快足を見せる。欠点のない男だ。

 平田からバトンを受け取った松下も、バトンの受け取りや位置取り、綺麗なフォームといった技術面が盤石だ。が、さすがに上級生、特に男子には身体能力では敵わない。リードが徐々に詰められてくる。

 

「面白い展開になってきたな。綾小路、お前をアンカーにしたのは鈴音の戦略か?」

「ああ。おまえの妹も成長しているということだ」

「ふっ……たしかに、今までのあいつなら俺の隣で走ることにこだわりそうなものだ。本気で俺を倒すつもりになった、ということか」

 

 堀北学は、ある意味で妹に反抗されたというのに、どこか嬉しそうに口角を上げている。

 やはり、堀北のポテンシャルに期待していたのは兄貴も一緒だったということだ。

 

「堀北先輩、今度こそ勝負できそうっスね。ここで勝った方がクラスの総合点でも上回りますし、楽しみっスよ」

「南雲。勝負するのは構わないが、俺もお前も油断していると足下を掬われるぞ」

「へぇ……1年の綾小路っスか。確かにコイツはかなりの俊足みたいだし、あの外国人を止めたパワーもある。中々期待できそうだ。オイ1年。先輩が卒業したら遊んでやるよ」

「いえ、結構です」

 

 2年の南雲という先輩に声をかけられるが、正直この男には興味が湧かない。それよりも堀北学だ。この男と競えることを、オレは楽しみにしていた。

 

 なんて話をしている間に小野寺、堀北とバトンが渡り、上級生の2年Aクラス、3年Aクラスとはほぼ横並び。それを4位で1年Bクラスが追う形だ。

 

「……あんたに言っておく。全力で走れよ」

「ふっ……いいだろう」

 

 バトンを持った三者が近づいてくる。堀北と学の視線が一瞬交錯した。

 僅かに3年Aクラスがバトンを渡すのが早い。

 

「綾小路くん!」

 

 助走に入り、バトンを受け取った瞬間、オレは開幕フルスロットルで地面を蹴る。

 

 最短最速でゴールするため、走る。吹き抜けていく風が心地良い。歓声がやたら遠くに聞こえる。オレと、隣を走る堀北学だけが世界から切り離されたかのように意識がそちらだけを向く。

 

 速度はほぼ互角。こうなってくると、前までで付けられていたほんの僅かなリードが手痛い。

 一瞬の差での敗北。それが脳裏に過った瞬間、頭の中の霧を払うような声援が、オレの耳に入り込んだ。

 

 

「————頑張って、清隆くん!!!!!」

 

 

 その瞬間、オレのギアがさらに一段階上がる。

 僅かだった堀北学との差をひっくり返し、そして……ほんの鼻先程度のリードで、オレがゴールテープを切った。

 

 凄まじい接戦に、大歓声が轟く。

 

「ふぅ……完敗だな。見事だった、綾小路」

 

 堀北学は、そう言って手を差し出してくる。オレはその手を握り、互いの健闘を称えた。

 

「あの声援がなければ、負けていたのはオレだっただろうな」

「……ふっ、お前もこの学校で成長している、ということか。喜ばしいことだ。生徒会長を退任する前に良いものを見れた」

 

 彼はオレと、そしてオレたちの開始位置で、信じられないというように目を開く堀北に視線をやる。

 妹の成長が嬉しいのは、やはりこの男も兄だということなんだろう。

 

「清隆くん!!」

 

 どん、と衝撃。

 松下がオレに抱きついてきた。感極まっているのか、走ったあとだからか、どこか興奮しているようだ。

 

「やったね、すごいよ! おめでとう!」

「オレの力だけじゃない。須藤や小野寺、堀北、平田。それに松下の力があってのことだ」

「それはそうなんだけど……でも!」

 

 どこかもどかしそうな松下。

 そうだな、せっかくだ。今は謙遜はよそう。

 

「ああ。オレは速かっただろ?」

「うん、さすが清隆くん!」

「……そういえば、それ。さっきのリレー中もだが、清隆って」

「え? ……あ」

 

 確かに、リレー前にオレは松下に、堀北学と競っているタイミングで声援をかけるように指示しておいた。彼女の応援で普段以上の力が出た、とすれば生徒会長に勝ったのにも言い訳が効きやすいと思ったからだ。が、下の名前で呼ばれるのは想定外だったな。

 松下はしまった、みたいな表情をしている。だが、別にそんな必要はない。オレたちは偽装とはいえ恋人関係だ。関係を次に進めるのも悪くない。

 

「なら、オレも千秋って呼んでいいか」

「う……うん! もちろんだよ!」

 

 今日一番の笑顔を見せる千秋。

 この眩しい笑顔が見れたのだから、体育祭に参加した甲斐があったというものだ。

 

 ……しかし、1位でゴールした上に彼女に抱きつかれるなんて目立ちすぎたな。

 

 Dクラスの面々も駆け寄ってきて、様々な賞賛の言葉を浴びせられる。

 やがて皆はオレと千秋が抱き合っているのを見て、とんでもないことを言い出した。

 

「ほら松下さん、1位を取った彼氏にご褒美あげなよ」

「えっ?」

「キスしちゃいなよ、キス!」

 

 そんな女子の言葉を皮切りに、周囲からキスをするように囃し立てられる。

 

「ちょっともう皆、小中学生じゃないんだから」

 

 千秋はどうやって場を収めようか考えているようだが、話は簡単だ。

 

「千秋」

「えっ、清隆く、んっ!?」

 

 名前を呼んで振り向かせた瞬間、千秋の唇を奪う。周囲からは口笛の音や、女子の歓声が聞こえるが、そんなものは気にならない。オレの目は、耳は、すべての意識は今は千秋にだけ向いている。

 千秋の唇の感触を楽しんでから、長い口付けを終える。

 

「オレが1位を獲ったご褒美だ。いいだろ、千秋」

「き、清隆くん……もう!!」

 

 耳まで真っ赤にした千秋は、それでもにやけ顔が収まらないようで、グループの友達に弄られまくっていた。

 しかし、初めてキスをしたが、良いものだな。千秋の唇の柔らかい感触がまだ残っている。

 

 イチャつきを見せられて腹が立ったのか、体育祭での活躍に対する大雑把な賞賛なのか。クラスの男子連中にバシバシと背中を叩かれたり蹴られたりしまくる。平田や三宅までも控えめに背中を叩いていたので、多分賞賛の方なんだろうな。

 でもちょっと痛い。

 

 体育祭の最終結果は、赤組の勝利。

 そして1年生の結果はこうだ。

 

 1位 1年Dクラス

 2位 1年Bクラス

 3位 1年Cクラス

 4位 1年Aクラス

 

 その結果、クラスポイントが変動する。オレたちDクラスは50ポイント増加。それ以外のクラスはA、Bクラスが100ポイント減、Cクラスは150ポイント減だ。

 ここでなんと、オレたちのクラスが一気にBに躍り出ることになる。

 ちなみに、全体、学年での最優秀賞はオレが獲った。11万ポイントはなかなかウマい。

 

 体育祭後の各クラスのクラスポイントは以下の通りだ。

 

 坂柳Aクラス  874

 堀北Bクラス  661

 一之瀬Cクラス 603

 龍園Dクラス  492

 

 一時期とは違い、全クラスでかなり差が縮まってきた。まだAクラスが2位と200近い差を付けて1位であることに変わりはないが、この勢いのままいけば年内には分からない。

 無人島試験での獲得ポイントを考えると、大きな特別試験一回でひっくり返る数値だ。

 

 このクラスをAクラスに上げる日も近いのかもしれない。思えば、オレが千秋と恋人契約を結んでから、このクラスの躍進は始まった。

 オレから堀北への言葉を思い出す。

 

「他人の実力を引き出すのもそいつの実力、か」

「清隆くん?」

「いや、もしかしたら1番の実力者は千秋なのかもしれないと思ってな」

「え? そんなわけないでしょ。清隆くんの方が凄いに決まってるよ」

 

 それは本心からの言葉だろうが……オレを動かしたのはおまえの言葉だ。オレは千秋の頼みがなければ、動く気はなかった。もしかすれば、目立たないまま3年間を過ごしていたかもしれない。

 

 松下千秋という存在は、これからオレの中でどのくらい大きなものになってくれるんだろうか。

 そんなことを考えさせてくれる体育祭。中々楽しいイベントだった。

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