よう実 √松下   作:レイトントン

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第25話

 年が明け、高度育成高等学校の全生徒は、新たな特別試験に挑むことになった。

 混合合宿。林間学校というなかなか楽しそうなイベント中に行われる試験だ。この学校はどうやらイベントで素直に生徒を楽しませてくれる気がないらしい。悲しいことだ。

 

 ルールは以下の通り。

 

・男女ごとに学年全体で6つのグループに分かれる。これを小グループとする。

 グループの人数は、1年生は10〜15人。最低でもメンバーに2クラス以上の生徒がいる必要がある。途中でのメンバーの入れ替えは認められない。

・小グループで7泊8日の共同生活を行う。最終日の総合テスト(現段階では内容不明)を行う。

・1〜3年の小グループ同士で組み、男女ごとに6つの大グループを作成する。大グループの総合テスト結果の平均点で順位を決める。

・試験結果の報酬は、大グループ1人当たりで

1位:3クラスポイント、1万プライベートポイント

2位:1クラスポイント、5000プライベートポイント

3位:3000プライベートポイント

 4位以下はペナルティとなり、1人あたりで以下のポイントが没収される。

4位:5000プライベートポイント

5位:3クラスポイント、1万プライベートポイント

6位:5クラスポイント、2万プライベートポイント

・小グループでは責任者を1人決める。責任者のいるクラスの生徒は、試験結果の報酬が倍になる。ペナルティは増えない。

・小グループのクラスの数、メンバーの数が多ければ報酬の倍率が増える。3クラスなら2倍、4クラスなら3倍。10人なら1倍、15人なら1.5倍。

・最下位になった大グループを構成する小グループで、学校が定めたボーダーを平均点が下回った小グループの責任者は退学となる。その際、責任者はグループ内で1名、連帯責任として道連れに指名した生徒を退学にできる。

 

「面倒な試験だ……」

 

 思わず呟く。ただでさえ他クラスや他学年と合同での試験だと言うのに、試験内容や平均点のボーダーも通達がない。これでは対策の打ちようがないな。

 とりあえず、千秋には絶対に堀北と同じグループになり、責任者を堀北に押し付けるよう言っておくか。堀北と千秋がいればどんな試験でも最下位になり平均点がボーダーを下回ることはまずないだろうし、堀北が千秋を道連れにすることもない。

 あとは、櫛田か……

 

 試験中の1週間は学生証端末が没収されるとのことなので、今のうちに連絡しておこう。

 

 オレが端末を弄っている間に、平田がクラスを纏め上げる。

 

「何かあれば、男子は僕と綾小路くんに。女子は堀北さんと松下さんに相談してほしい。もちろん強制はできないけど、どうかな?」

 

 平田の意見を退ける者は、クラスに1人もいない。

 

 

 体育館に全学年の男子が集められ、小グループを決めるよう先生から指示される。

 

 まず動いたのはAグループ。失権した葛城ではなく、坂柳派閥らしい的場という生徒が前に出る。

 自分たちが12人、残りの各クラスから1人ずつ出してほしいと主張する。葛城を責任者にすることで、受け取れる報酬が最大化する組み合わせだな。

 道連れは行わないし、残りのAクラスのメンバーはオレたち残り3クラスの指示に従い、残りの小グループに配置されるとのこと。

 クラス別の真っ向勝負を所望していると、そういうわけか。

 

「納得がいかねえなあ」

 

 しかし、この男が素直にホイホイと出された条件を飲むはずもない。

 

「……龍園くんですか」

「報酬の最大化だの、こっちもできるんだから平等なはずだの。てめえらの勝手な都合を俺たちに押し付けるんじゃねえよ。条件を飲んで欲しけりゃ、こっちの条件も飲みな」

「一体どんな条件だと言うんです?」

「待て、的場。龍園の話に乗っては……」

「葛城くんは黙っていてください」

「的場お前、葛城さんに向かって……!」

「弥彦、よせ」

 

 口を出した葛城を一蹴する的場。口調とは裏腹に、やけに感情的だ。あまりリーダーとして音頭を取るには向いていないタイプに見えるが。

 退けられた葛城は弥彦を諌めると、神妙な面持ちで口を閉じる。無人島試験、船上試験での失態が響いているのだろう。求心力を大きく失っている。主にオレと千秋や龍園の仕業だから、ちょっと申し訳なく思う。

 

「クク、随分仲の良いクラスになったもんだな。まあ良い、条件ってのは簡単だ。大グループ作成の際、お前らAクラスは俺の……おっと、俺たち3クラスの方針に従ってもらう」

「それは……!」

「文句は言わせねえぜ。小グループ作成で我儘を言うんだ、大グループ作成ではこっちの意見を通してこそ平等ってもんだ。違うか?」

「しかし、それではこちらがあまりに不利ではないですか。その条件は飲めませんね」

「なら俺たちもお前たちの条件は飲まない。当然だよな? こっちの提案を蹴ったんだ、俺たちがお前たちの要求を聞く必要はどこにもない」

「くっ……」

 

 上手いやり方だ。

 的場は恐らく、こう思っただろう。

『試験の順位は大グループの平均点で決まる。上位に入賞するには、1年だけの小グループの作成権より、構成メンバーの3分の2となる上級生のどこと組むかを決められる大グループに関する優先権の方が重要だ』

 だからこれを通されるわけにはいかないと、龍園の提案を断った。が、同時に龍園、オレたちにも提案を断る大義名分を与えてしまった。

 

 しかも、恐らく龍園の交渉はここでは終わらない。

 

「だが俺も鬼じゃねえ。俺が出す別の条件を飲むなら、お前らの意見を考えてやってもいい」

「おい、何を勝手な……」

「神崎」

 

 龍園に突っかかろうとする神崎の肩に手を置き止める。今は龍園に任せた方が得策だ。

 

「お前らAが12人いる小グループの責任者は、A以外のクラスの生徒が請け負う。加えて、残りの3人は全て同じクラスから出す」

「……!」

 

 責任者がいるクラスの生徒への報酬は2倍。逆に言えば、それが他のクラスの生徒となるのであれば得られる報酬は想定の半分となる。さらに構成クラス数が4から2になれば、報酬はそこから3分の1。1位で通過した場合、得られたはずの324クラスポイントは54まで減る。もちろんそれでも大量の得点ではあるが、Aクラスを再び安全圏まで持っていくほどのものではない。

 

「さあどうする? 選んでいいぜ。俺はどれでも構わねえがな」

 

 とはいいつつ、龍園が求めているのは大グループ作成時の優先権だろう。

 龍園はリスクを平然と取るタイプだ。Aクラスが1位を取った場合のダメージが大きくとも、それ以前の段階で潰せばいいと考える。

 それが無理なら、責任者の指名権を得てリスクヘッジに走るか、そもそも小グループの構成に口を出すかすれば良い。相変わらずどう転んでも良いように、周到に準備された交渉だ。

 

「くっ」

「的場、ここは……」

「黙っていてくださいと言いましたよね、葛城くん」

「おとなしく葛城の意見に従った方がいいんじゃねえのか? てめえごとき器じゃねえんだよ。あー……悪ぃ、名前なんつったか」

 

 おお、煽るな龍園。的場のことは眼中にないと言わんばかりの口ぶりだ。

 ここまで言われては的場もより頑なになるだろう。葛城の意見は絶対に聞き入れないだろうな。

 的場よりは葛城の方が交渉に向いている。葛城なら適切な判断を下せる可能性もあったが、それも龍園の話術が封殺した。

 やはり龍園の実力は抜けているな。現状で対抗できるのは、学年では坂柳くらいのものだろう。

 

「……分かりました、最初の条件を飲みましょう。大グループ作成の際は、君たちの方針に従います」

「お、おい。大丈夫なのか的場」

「心配は要りませんよ、町田くん。龍園くんの狙いは僕たちの獲得点数を抑えること。だから最後の最後に、責任者を他クラス生にしろ、なんて条件を付けたんです。ならばそれを回避すべきだ。それに大グループ決定の方針を3クラスに任せるとは言いましたが、上級生からしたら関係のない話です。仮に2、3年生が好きに1年生小グループを取っていくなら、後輩である僕らは従うしかない」

 

 的場はそう口にする。確かに基本的には上級生の指示に下級生が従うのが一般的らしいが、そんなものは回避する方法なんていくらでもある。

 それに、2、3年生のトップである現生徒会長、南雲や堀北学の性格から考えると、そのように上の立場から押さえつけるような大グループ作成が行われるとは考えづらい。

 葛城もそれは分かっているのだろう、渋面を作り、口を出せないのがもどかしそうだ。

 

「お前ら聞いたな? 1年男子全員が証人だ。契約書なんざない口約束でも、破ればどうなるか分かってるよなあ?」

「そっちこそ同じですよ。後悔しないことです」

「クク、忠告感謝するぜ、波止場くんだったか?」

 

 龍園の煽りに、ギリと歯を噛み締める波止……的場。

 

「おい金田、平田、綾小路、神崎。とっとと集まれ。小グループを決めるぞ」

 

 オレもか……

 龍園に呼ばれ、各クラスの主要メンバーが集まる。オレも渋々付いていく。Aクラス連中に聞こえないよう龍園クラスの連中がブロックする中で、BCD連合トップの話し合いは行われた。

 

「さて、小グループの構成だが……」

「勝手をしたAには痛い目を見てもらおう。BCD連合で強グループを2つ作り、大グループ作成時の優先権を使えばAはクラスポイントを得られない」

 

 龍園に先んじて提案する。放っておくと常にペースを握られるからな。油断ならない相手だ。龍園は軽く舌打ちをした。

 

「連合で強グループを作る案には賛成してやる。が、お前らのクラスのメンバーの配置は俺たちに決めさせな」

「理不尽な話だ。ここは同盟を組むべきじゃないのか?」

「お前のクラスにもあまり得はさせたくねえんだよ、ウチと一之瀬クラスはな」

「綾小路と平田には悪いが、それについては龍園と同意見だ。ここでお前たちに突き放されれば、さらに追いつくことは難しくなる」

 

 さらに、とは意味深な言葉だ。一之瀬クラスは、特別試験が始まって以降、あまり好成績を残せていない。表面上は見せていないが、内部でいざこざでも起きているのだろうか。

 いや、皆仲が良いらしい一之瀬クラスで内部分裂は考えづらいか。一之瀬クラスの事情には詳しくないため、なんとも言えない。

 

「おまえたちの言い分は理解できる。だからオレから提案したい。龍園クラス6人、一之瀬クラス6人、坂柳クラス1人、堀北クラス2人のグループを1位にするつもりで組もう。そうしてくれるなら、堀北クラスからはオレが参加する」

 

 龍園、金田と神崎の目が見開く。

 オレの能力は全員がよく知っているはず。橋本の言葉を借りれば、堀北クラスの最大戦力。それが龍園クラス、一之瀬クラスに有利な小グループに入るとなれば、抱き合わせで成績下位の生徒が入ったとしても、少なくとも1年の小グループ内では1位を貰ったようなものだ。

 

「もちろん、道連れにしないという前提条件を守ってくれるならの話だ。まあ、そのグループの平均点がボーダーを割るようじゃAに勝ちようもないがな」

「何を企んでやがる?」

「Aクラスとクラスポイントを離されたくないんでな。話し合いを纏めるならこれが最善だと判断した。心配せずとも、オレは手を抜いたりしない」

「龍園氏、受けましょう。この話はメリットが非常に大きい」

 

 金田の言葉に、龍園は答えない。顎に手を当てている神崎の方を向き、口角を上げる。

 

「クク、神崎。てめえはダンマリか?」

「……今まで散々、俺たちのクラスは裏をかかれてきた。この提案に何か裏があるんじゃないかと考えている」

「疑う必要はない、と言いたいところだが、言葉一つじゃ信じられないだろうな。だから、ウチに有利な条件も付けさせてもらう。もし受けてくれるなら、そのグループ以外の小グループの構成はうちの平田に任せてもらいたい」

 

 平田は一瞬、僕に? と言いたそうな顔を見せたが、すぐに引き締める。他クラスにそれがバレては、また疑いの目を向けられるかもしれない。アドリブだというのに、よく取り繕ってくれた。やはりコイツは優秀だ。

 

「平田なら、オレたちが誰も退学しないで済むような組み合わせが考えられるだろう。もちろん、堀北クラスだけじゃない。全クラス誰も退学者が出ないような組み合わせを考えてもらう」

「綾小路……」

「はっ。いつからお前は聖人君子になった、綾小路?」

「別に良い人ぶっているわけじゃない。今回の試験で、もっとも重要なことは2つ。Aを2位以内に入れないこと、そして退学者を出さないことだ。だが、ウチからだけ退学者が出ない組み合わせをしても納得がいかないだろう。全員が納得できる組み合わせを作るための策だ」

 

 これで乗ってくれれば、女子の方の結果にもよるがAクラスにポイント差を付けられずに済むだろう。

 龍園と神崎の返答は——

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