よう実 √松下   作:レイトントン

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第38話

 時はクラス内投票後の特別教室まで遡る。

 坂柳を退室させた月城は、オレにあの男からの伝言があると口にした。

 正直聞く気もないが、続きを促す。

 

「『これ以上子供の遊びに付き合う気はない。すぐに帰ってこい』だそうですよ」

「あの男はオレをなんだと思ってるんでしょうね。高校1年生なんて子供でしょうに。子供が遊んで何が悪いのか、分かりかねます」

「後半については全く同意見ですが、君が普通の子供でないことは確かだと思いますよ」

 

 さっきオレが押さえつけられた時、か弱い男子高校生アピールをしていれば良かっただろうか。

 そんな訳はない。

 

「坂柳さんの杖を蹴飛ばし、君を押さえつければ、負けじと応戦してくるのが普通だと思いますが、君にはその気配すらなかった」

「反撃したらカメラで映像が残りますからね」

「私の暴力行為を見て、カメラが機能していないとは思わなかったのですか?」

「ダミー映像への差し替えは行われているでしょうね。しかし、そのタイミングの調整なんて、あなたの立場ならいくらでも可能でしょう」

「そういうところが普通じゃないのですよ」

 

 月城は、無機質な笑顔を貼り付けたまま指摘する。

 普通か。入学当初、千秋と話したことを思い出す。

 結局、オレは普通の生徒ではなかったらしい。が、きっと普通でいるよりも楽しい生活を送れたのだから、良しとしよう。

 

「普通でなければ、子供は遊んでいてはいけませんか?」

「個人的にはそうは思いませんが……私も仕事なのでね」

「大変ですね、あの男の下というのも。代わりにオレに付きませんか?」

 

 そう提案すると、一瞬きょとんとした後、月城は堪えきれないといった様子で笑った。

 貼り付けた作り笑いではなく、本当に愉快だと思っているように見える。

 

「いやあ、面白い子だ。とてもあの無機質な部屋にいたとは思えませんよ。この学校の1年には、確かに大きな価値があったらしい」

「あと2年通わせれば、さらに愉快なことになるかもしれませんよ」

 

 とは言ってみるが、やはりこの月城という男は、こんな話で懐柔できるような相手ではないか。

 冷徹な判断力に、鍛え上げられた肉体。その上、理事長という立場を得ている彼を相手にするのは、さすがに骨が折れる。

 加えて、あの男のバックアップもある。

 

「興味深くはありますが……私の方から、お父上には報告しておきますよ。仕事をこなした後でね」

「そう簡単にこなせるとお思いですか」

「ええ。君はこの学校での生活を通して、僅かながら人間味を得た。異常なほど高い能力に加えて人並みの感情。君は完璧な存在になりつつある。ですがそれは同時に、大きな弱点を抱えることにもなってしまった」

 

 やはりそう来るか。

 月城をこちらに引き入れたかったのは本当だ。

 そうしなければ、足りない。

 

「……この学校で過ごした1年もそうですが、君がこうまで人間味を持つようになったのは、松下千秋という存在があったから。違いますか?」

「否定はしません」

 

 千秋を守るには、駒が足りない。

 

「おや、誤魔化したりしないのですか?」

「事実がどうあれ、あなたは自身の考えに確信を持たれているようですからね。意味がないでしょう」

「そうですか。では、私の言いたいことが分かりますね?」

「いえ」

「やれやれ、仮にも教育者として、あまり剣呑な表現はしたくないんですがねえ」

 

 月城は頭を掻きながら、嘘か真かそんなことを言う。

 

「君が退学しないのであれば、松下千秋さんを徹底的に狙います」

 

 剣呑な表現はしたくない、とは言いながら、まだ穏当な言葉を使うものだ。

 意味を知りつつ、そのあたりを踏み込んで聞いてみる。

 

「狙う、とは退学させるという意味ですか?」

「分かっているでしょう? 君のお父上はそんな生優しい人間ではない。君の執事だった松尾という人間がどうなったか、お父上に直接聞いているはずだ」

 

 たしか、徹底的に追い詰められて焼身自殺したとか。

 あの男のことだ、やると決めたらやるに違いない。オレが松尾に対して何の感情も抱いていないと分かっていながら、やつは彼を追い詰めた。それが、弱点となると分かっている状態ならどうなるか。

 無論、この学校にいる間はオレが守ることができるだろう。

 だが卒業した後は?

 それに、松尾の息子のように千秋の家族が狙われたら?

 

 守りきることは不可能だ。

 

 オレはここにきて、初めて不自由さというものを感じている。

 こういったしがらみとは無縁と思っていたが、分からないものだ。

 

『松下千秋なんて好きにすればいい。オレは退学する気はない』

 以前のオレなら言うであろうセリフ。だが、そんなハッタリはこの男には通用するまい。

 

 選択肢はないか。

 

「分かりました、自主退学しましょう」

 

 思ったよりも、その言葉を口から出すのには時間がかかった。月城はそう感じてはいないだろうが。

 

「ただし、3つ条件があります」

「なんでしょう。卒業間近まで待て、なんて話はナシですよ」

「そこまではかかりませんよ。次の特別試験、勝てばウチのクラスはAに上がります。それまで待ってほしい」

「そのくらいなら待てなくはないですね。キリの良い話でもあることですし、構いませんよ」

 

 月城は、オレの条件に特に文句を言うことはなかった。こんな隙だらけな条件にも関わらずだ。

 オレが手を抜いて自分のクラスを勝たせなければ、条件は達成されず自主退学の約束も立ち消えとなる。

 まあ、そうなれば月城が千秋を狙わなくなる理由もない。オレが下手に約束を破らないと思ってのことか。

 

「あと2つの条件は?」

「オレが退学すれば、ウチのクラスは極めて不利な戦いを強いられます。まず、オレの自主退学におけるペナルティをなくしてください。オレの見立てでは生徒が自主退学した場合、所属クラスからは大幅にクラスポイントが引かれるはず。せっかくAに上がれても、その後に逆転してしまうのでは意味がない」

「なるほど……続けてください」

「そしてもう一つの問題が、クラス内投票で櫛田が退学してから間もないというのに、クラスで最大の戦力であるオレがいなくなる」

「それゆえにサポートを望むと?」

「他クラスからの生徒の引き抜きを認めてください。目星は付いていますし、交渉も上手くやります」

 

 目星というのは、Aクラスの葛城だ。

 あいつは今回のクラス内投票の結果……坂柳に弥彦を陥れられたことに、極めて大きい不満と怒りを抱えたはず。いつまでも坂柳の下にいるつもりもないだろう。

 龍園も戦力を求めて引き抜きを考えているだろうし、ヤツに資金力が不足している今が最大の好機だ。

 

 あとは、クラスメイトたちの納得が得られやすいだろうしな。

 クラスのリーダー格でない生徒で、葛城ほど優秀かつ引き抜きに応じるだろう生徒は他にいない。

 

「ふむ……まあ良いでしょう。理事長代理という立場でいきなり職権濫用も気が引けますが、君が自主退学するというならこの椅子に拘る理由もない」

 

 ……自主退学か。

 先に言っておかなければならないのは、平田と葛城か。平田は今回の櫛田の退学で相当参ってるだろう。そこにオレの退学となれば、相当ショックを受けるだろうが……幸い自主退学、それも親の都合でということなら、ダメージは最小限で済むだろう。

 とはいえ事前に伝えておかなければ、クラス運営に支障が出る。

 

 葛城にも、引き抜いた後でオレがいないなんて詐欺だと思われかねないからな。事前説明は必須だ。

 

 あとは千秋だが……なんとなく言いづらかったので後に回し、オレは世話になったあの男の元に挨拶に行くことにした。

 

 

 

 学は、オレが自主退学する旨を伝えると大層驚いた。この男がこれほど驚愕したのを見たことがなかったから、得をしたな。

 

「……なるほど。父親の意向、か。おまえ自身はどう思っている」

「退学したいわけじゃないが、千秋や千秋の家族が狙われるよりマシだ。もう会えないが、死ぬわけじゃない」

 

 そういつもの調子で言ってやると、学は鎮痛な面持ちで腕を組んだ。

 

「あんたにどうにかして貰おうと相談したわけじゃない。寧ろ今回、あんたは部外者だ。なにも気に病む必要はない」

「しかし、俺はお前を友人だと思っている。友人が辛い目にあったら悲しいと思うのは、誰でも同じだ」

 

 学は冷静沈着な男に見せて、その実は熱くなりやすく、仲間想いだ。堀北の兄だけある。

 

「あんたが生徒会長を務めたからかは分からないが、なかなか楽しい学校だった」

「……ふっ。こちらがどうお前を救ったものかと考えているところを、逆に救われる思いだ。世辞が上手くなったな、綾小路」

「世辞じゃない、本心だ」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、お前が学校生活を楽しめた一番の要因は俺じゃない。お前自身、分かっているはずだ」

「ああ、諭されるまでもない」

「そうか。それならいい」

 

 千秋のことを指しているのはすぐに分かった。

 しかし、そんなにいちゃいちゃしていると思われているのか……

 

「南雲の件については、そういった事情で力になれそうもない。悪いな」

「構わん。俺の杞憂の可能性もある。南雲には危うさがあるが、俺やお前といったヤツ以上の実力を持った者がいなければ、案外暴走せず良き会長として務めを果たすかもしれん」

 

 正直、南雲が良い会長になるイメージは湧かない。が、オレより遥かに南雲との付き合いが長い学が言うなら、そうなんだろう。

 しかし、さらっと南雲より自分が上だと明言したな。オレも同意見ではあるが、この自信の持ちようも妹そっくりだ。

 

「ほんと、妹そっくりだな」

「俺にとって、それはあまり好ましくない言葉なんだがな。妹は俺の模倣をしているだけだ。俺を追い抜くだけの潜在能力は持っているんだが」

 

 学は椅子に深く座り込み、オレを見た。

 

「お前なら、妹の可能性を開花させてやれると思っていた」

 

 オレも、今回の件がなければもっと堀北の育成に力を入れていたことだろう。

 もし、学の言う通り才能を開花させた堀北と戦うことができれば、なかなか面白いことになるかもしれないな。

 ……今となっては無意味な仮定か。

 

「悪いな、期待に応えてやれなくて。だが、もう堀北の可能性は芽吹き始めている。もしかすれば、おまえの期待することはすぐに起こることかもしれない」

「……ふっ。だとしたら、おまえのいないクラスでも勝ち残ることができるかもしれんな」

「あのクラスは堀北だけじゃない。平田や須藤、千秋だっている。オレがいなくとも、きっと勝てるさ」

 

 可能性は2割くらいかもしれないが。

 

「期待しておこう。この学校の外から」

 

 オレの分まで代弁するように、学は笑った。

 

 

 

 学年末特別試験から2日後。今日は3年生の卒業式となる。

 いまやAクラスとなったいつもの教室に、私はいた。

 

「……揃っているな」

 

 どこか暗い表情の茶柱先生が入室する。

 その理由は、分かりきっている。

 

「まずはAクラス昇格、見事だった。DからAに上がることは、この学校始まって以来の快挙だ。誇っていい」

 

 手放しの賛辞。にも関わらず、先生の声は、表情は、暗いまま。

 そんな中、口を挟むように池くんが挙手し、言葉を投じる。

 

「先生、揃ってないっすよ? その昇格の立役者の綾小路が来てないんす」

「腹でも壊したのかぁ? あいつの遅刻でまたBに落ちたりしてな」

 

 山内くんの言葉に、怒る気も起きない。

 茶柱先生は池くんの指摘に、目を瞑る。そして、言葉を吐き出す覚悟を決めるように、大きく息を吐いた。

 

「綾小路清隆は……家庭の都合で自主退学した」

 

「…………は……?」

 

 一瞬、教室内が静まり返ったあと、大パニックが起きる。

 

「はあああああ!? なんで、綾小路が!?」

「自主退学って……!?」

「あいつ、なんで相談してくれなかったんだよ……!」

 

 しばしの混乱のあと、恵をはじめとした何人かの視線がこっちを向く。私は頷いた。

 

「私も、知らされたのは一昨日の試験が終わったあとだった。……清隆くん、ご家庭が凄く厳しいらしいの。去年の12月にも、学校にお父さんが来て、家の仕事を手伝わせるために、今すぐ帰ってこいってずっと言われてたんだって」

「でも、それならなんでこの学校入れたんだよ。反対されるだろ?」

「前の理事長さんが、清隆くんの事情を知って特別に入学させてくれたって。……でも、今回清隆くんが自主退学に応じた理由までは分からない……」

 

 ……嘘だ。

 私は薄々、その理由に勘付いている。

 飽きたから、満足したから、なんて、清隆くんが口にした言葉も信じてはいない。

 

「私もさ、清隆くんに退学なんてしないで、って泣きついたんだけど、ダメだったよ。振られちゃった」

「松下……」

「千秋ちゃん……」

 

 私の作り笑いがから元気だと分かったのか、クラスメイトたちはそれ以上私に清隆くんのことを追及することはなかった。

 

 クラスメイトは。

 

「失礼します」

「邪魔するぜ」

 

 いつものように薄らと笑顔を浮かべることもせず、どこか厳しい表情を浮かべた坂柳さん。そして、不機嫌さを隠そうともしない龍園くんの2人。

 示し合わせたわけではないみたいで、お互いを邪魔そうに横目で見ている。

 

「坂柳、龍園。今はホームルーム中だ」

「他クラスのホームルームに参加する権利もプライベートポイントで買えるでしょう? ポイントなど幾らでもお支払いします。それより今は、松下千秋さんにどうしても一言伝えたく参上しました」

「そういう訳だ。ちょいと面貸しな、松下」

 

 茶柱先生の注意も、まるで意に介さない。どころか、プライベートポイントを支払って権利を買ってでもホームルームに介入するつもりみたいだ。

 

「松下。クソ生意気な綾小路が自主退学ってのはどういう了見だ? 勝ち逃げのつもりなら世界の果てまで追いかけてぶち殺すと伝えろ」

「ふふ。まだその程度の情報しか掴んでいなかったのですか? あなたに割く時間がもったいないので、学園の外まで退がっていていただけますか、龍園くん」

「おまえも退学してみるか? 坂柳」

 

 Aクラスの教室だというのに、バチバチと火花を散らす2人。

 このままだと話が進まないな。私は茶柱先生に視線をやると、彼女はため息を吐いて頷いた。

 

「2人とも、私に話があって来たんでしょ?」

「ええ。松下さん。1つ確認しておきたいことがありまして。綾小路くんが退学したのはあなたが原因でしょう?」

 

 クラスメイトたちが俄かにざわつく。

 それについては、私も薄々勘付いていたことだ。

 

「私が原因、ね」

「ええ。綾小路くんの父君は強い権力を持っています。彼を連れ戻すために、学校側に圧力を掛けていた……その影響で私の父、この学校の理事長は現在停職しています」

 

 坂柳さんの父親が、この学校の理事長だった。そんな話を聞いて、クラス中の視線が茶柱先生に集まる。

 彼女は頷き、坂柳さんのお父さんが理事長だったこと、クラス内投票の実施が決まった時点で理事長代理の就任が決まっていたことを話した。

 

「その理事長代理には、綾小路くんの父君の息が掛かっています。それほどの権力を持った存在、ということです」

「ははっ……さっきから権力、権力ってよ。綾小路の父ちゃんは政治家かなんかなのかよ」

「鋭いですね、山内春樹くん。まあ、元政治家、ですけどね」

 

 冗談や皮肉で言ったつもりが肯定されてしまい、山内くんはしどろもどろになる。

 

「政治家とは、裏で汚いことを平気で行う者ばかりです。まして綾小路くんの父君は、野心が強いことで有名だった存在。そんな相手の怒りの矛先が向けば、どうなるか……」

 

 坂柳さんは私をじっと見つめる。

 言いたいことは分かった。

 

「つまり、清隆くんのお父さんは、清隆くんを脅すために私を狙った。清隆くんは私を守るために、自ら退学になった。そう言いたいわけだね」

「ええ。あなたは綾小路くんと恋仲になることで、彼の弱点を作り出してしまった。彼1人なら退学になることはなかったというのに。自分の身も守れないあなたは、綾小路くんの彼女としては——」

「さっきから聞いていれば何様のつもり、坂柳さん? あんたの話が正しいなら、千秋は何も悪くないじゃん」

「今一番悲しんでいるのは松下さんよ。あなたにクラスメイトである彼女をどうこう言われる筋合いはないわね。あと、ついでに綾小路くんのことも」

 

 恵と、意外にも堀北さんが私を庇うように坂柳さんとの間に立ち塞がる。

 周りのクラスメイトたちも、そうだそうだ、と坂柳さんに反抗するように声をあげてくれた。

 ……はじめは、私はなんでDクラスになんて配属されてしまったんだろうと思った。でも今は、このクラスに入れて良かったと、心の底から思える。

 

「ふふ、まるで一之瀬さんのクラスのような仲良しクラスになったではありませんか。さすがはAクラスですね」

「真正面から負けてBに落ちたてめえが言うと説得力が違うな、坂柳」

「お褒めに預かり光栄です、ごぼう抜きにされた後、見向きもされないクラスのリーダーさん」

 

 坂柳さんと龍園くんの間でも、煽りが飛び交う。

 私は恵と堀北さん、クラスメイトたちにお礼を言いながら、坂柳さんと対面する。

 

「坂柳さんの言うこと、考えないわけじゃなかったよ。昨日一日、泣いて泣いて考えたから」

「なるほど、認めるというわけですか。あなたのせいで綾小路くんが退学してしまったと」

「そうだね。清隆くんを変えたのは、きっと私だから」

 

 坂柳さんが強い視線で睨んでくる。

 思うところがあるのかもしれない。清隆くんとは幼馴染みたいな関係だって言っていたし。

 でも、これは私と清隆くんの問題だ。

 

「坂柳さん、ありがとう。私も考えていたことだけど、確信が持てなかったんだ。あなたのおかげで、自分の考えに自信が持てたよ」

 

 最後の最後、清隆くんは言った。

 私たちの恋人契約(かんけい)が終わりだと。

 

 そして、私たちの関係を終わらせる条件は一つ。

 ……これで勘違いだったら、めちゃくちゃ恥ずかしいね。

 でも、もう止まらないって決めた。

 

 

 

 私の言葉を受けて、坂柳さんは……

 意外にも、笑った。

 ただ、悔しさとか、悲しみとか、他にも色々な感情が混じったような、そんな笑み。

 

 坂柳さんはもしかして……

 

「クク。坂柳、敵に塩を送っちまったようだな。松下のやつ、吹っ切れた顔してやがるぜ。今のこいつは、もしかすれば……お前より厄介かもな」

「冗談でしょう。綾小路くんのいないこのクラスなんて、敵ではありませんよ」

 

 コツ、と杖をついて、彼女は踵を返す。

 

「お邪魔しました、Aクラスの皆さん。来年度もぜひ、良い勝負をしましょう」

 

 坂柳さんは教室を去った。

 残ったのは、龍園くんのみ。

 

「はっ。綾小路が消えて退屈になるかと思ったが……まだ楽しみは残っていやがったか。ヤツとの決着は卒業した後につけるとするか」

「龍園くん、君は……」

「俺がお前の狙いに気付かないとでも思ったか? 精々足掻けよ。ヤツの置き土産もあることだしな」

 

 清隆くんは最後の最後に、クラスの戦力の補填のため、葛城くんを引き抜いた。その情報を既に手に入れているということだ。

 相変わらず耳がはやい。

 

「龍園くん。……私、負けないよ」

「いつでもかかってきな。おまえたちを潰すのは俺だ」

 

 私には、それが龍園くんなりのエールに思えた。

 ……坂柳さん、龍園くん。彼女らとの話で、私も覚悟を決めることができた。

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